256 / 282
第四章 6月
お姉さま、予想外です! 3
しおりを挟む
…それって、何の問題も解決していない。
根本的な発想の違いすぎて困ってしまう。
するとまるで柚鈴と同じような感じているかのように東郷先輩は大きなため息をついてみせた。
「私は、その日誰とどう過ごすかは、柚鈴さんの自由ではないかと言っているんですけど?」
…意外にも、東郷先輩がまともなことを言っている。
まさかそんなことを言うとは。
失礼かもしれないけれど、いつもは柚鈴の自由を奪おうとしている人、だと思っていた東郷先輩がだ。
思わずあっけに取られていると、『集団の先輩方』はあからさまにむっとした様子だった。
「まあ」
「それでは、私たちが小鳥遊柚鈴さんの自由を奪ってるみたいじゃない」
「実際そう見えます」
東郷先輩は容赦がなかった。
一瞬でも、東郷先輩が救いに思えた気持ちを振り切ってしまうほど、戦闘モードに入ってしまっていることに気付く。
待って、東郷先輩。
私のことで争わないで、とかなんとか言って、茶化して引き止めたい気持ちだが、間に合わない。
東郷先輩の攻撃が始まってしまった。
「柚鈴さんの助言者にどうしてもなりたいという強い気持ちもなく、ただ前年度の憧れの生徒会長の義理の妹というだけで寄ってきた方々に、自分のペアにしたいと感じている後輩が振り回されるのは不快です」
いや、確かに。東郷先輩の言ってることはその通りなのだが、明らかにまずい気がする。
ちらり、と横にいる幸に目線を寄越すと顔を引きつらせて固まっている。
…ご、ごめん。幸ちゃん。またそんな顔をさせて。
柚鈴は心の中で謝った。
そんな1年生の気持ちなど知らず、2年生の会話は進んでいく。
「酷いわ、そんな言い方」
「酷い?事実と全く異なることを私は言いましたか?それでしたら是非どの辺がどう違うか教えて頂きたい」
酷薄、ともとれる笑みを浮かべた東郷先輩は反論があればどうぞ、と促して見せた。
東組特待生の一人である東郷先輩の得意なのはこういう言い合いなのだろうか。その言葉の強さは武器にもなるのだろう、と思った。
強引なお誘いは何度か受けたが、ここまで攻撃的だったことはない、と思う。
柚鈴に対する好意はあったから。
今みたいな東郷先輩の相手はなるだけしたくない、というのが正直な所だ。泣いてしまうかもしれない。
『集団の先輩方』は既に東郷先輩の物言いにムッとしながらも困惑しているようで、少し考えてから、言葉を返した。
「…少なくとも振り回してはいないつもりです」
「それは主観的な話でしょう。柚鈴さん、あなた、この方々とお昼と放課後をご一緒にしたいという気持ちがあるの?」
「それは…」
うわ、ここで話を振りますか。
柚鈴は冷や汗を感じた。
東郷先輩の刺々しい態度には賛同しがたい気持ちがある。
しかしこの言葉に否定的な言葉を返せば、後々困るのも用意に想像できる。
どちらを選んでも無傷ではいられないんじゃないだろうか。
か、角の立たない人生を歩みたいのに…
その場にいる先輩方全員に返答を待たれて、柚鈴は泣きたい気持ちになった。
しかし、泣いてどうなるような状況でもなかった。
迷ったら、一番譲れないことは死守しよう。
そう思って、絞り出すように口を開いた。
「……すみません」
『集団の先輩方』にそう告げて頭を下げた。向こうから困惑した様子の雰囲気が伝わってくる。
柚鈴が気まずくていたたまれなくなるより先に、東郷先輩が柚鈴の手を引いた。
「お話は済んだということで、では失礼します」
そのまま、スタスタと歩きだしてしまう。
勢いのある東郷先輩に引きずられるように柚鈴はついていくことになり、幸が戸惑ってから、先輩方に頭を下げて追いかけてきた。
東郷先輩の手は、妙に力強く、痛いぐらいだった。
少し力を緩めてもらえないかお願いしようと声を掛けようとして柚鈴は気付いた。
東郷先輩の顔は妙にこわばっている。
もしかして、気を張ってる?
そんなことを柚鈴が思っていると、どうやら正解だったらしい。
校門の中に入り、置いてきた人たちが見えなくなると、東郷先輩は気が抜けたと言わんばかりにため息をついた。
根本的な発想の違いすぎて困ってしまう。
するとまるで柚鈴と同じような感じているかのように東郷先輩は大きなため息をついてみせた。
「私は、その日誰とどう過ごすかは、柚鈴さんの自由ではないかと言っているんですけど?」
…意外にも、東郷先輩がまともなことを言っている。
まさかそんなことを言うとは。
失礼かもしれないけれど、いつもは柚鈴の自由を奪おうとしている人、だと思っていた東郷先輩がだ。
思わずあっけに取られていると、『集団の先輩方』はあからさまにむっとした様子だった。
「まあ」
「それでは、私たちが小鳥遊柚鈴さんの自由を奪ってるみたいじゃない」
「実際そう見えます」
東郷先輩は容赦がなかった。
一瞬でも、東郷先輩が救いに思えた気持ちを振り切ってしまうほど、戦闘モードに入ってしまっていることに気付く。
待って、東郷先輩。
私のことで争わないで、とかなんとか言って、茶化して引き止めたい気持ちだが、間に合わない。
東郷先輩の攻撃が始まってしまった。
「柚鈴さんの助言者にどうしてもなりたいという強い気持ちもなく、ただ前年度の憧れの生徒会長の義理の妹というだけで寄ってきた方々に、自分のペアにしたいと感じている後輩が振り回されるのは不快です」
いや、確かに。東郷先輩の言ってることはその通りなのだが、明らかにまずい気がする。
ちらり、と横にいる幸に目線を寄越すと顔を引きつらせて固まっている。
…ご、ごめん。幸ちゃん。またそんな顔をさせて。
柚鈴は心の中で謝った。
そんな1年生の気持ちなど知らず、2年生の会話は進んでいく。
「酷いわ、そんな言い方」
「酷い?事実と全く異なることを私は言いましたか?それでしたら是非どの辺がどう違うか教えて頂きたい」
酷薄、ともとれる笑みを浮かべた東郷先輩は反論があればどうぞ、と促して見せた。
東組特待生の一人である東郷先輩の得意なのはこういう言い合いなのだろうか。その言葉の強さは武器にもなるのだろう、と思った。
強引なお誘いは何度か受けたが、ここまで攻撃的だったことはない、と思う。
柚鈴に対する好意はあったから。
今みたいな東郷先輩の相手はなるだけしたくない、というのが正直な所だ。泣いてしまうかもしれない。
『集団の先輩方』は既に東郷先輩の物言いにムッとしながらも困惑しているようで、少し考えてから、言葉を返した。
「…少なくとも振り回してはいないつもりです」
「それは主観的な話でしょう。柚鈴さん、あなた、この方々とお昼と放課後をご一緒にしたいという気持ちがあるの?」
「それは…」
うわ、ここで話を振りますか。
柚鈴は冷や汗を感じた。
東郷先輩の刺々しい態度には賛同しがたい気持ちがある。
しかしこの言葉に否定的な言葉を返せば、後々困るのも用意に想像できる。
どちらを選んでも無傷ではいられないんじゃないだろうか。
か、角の立たない人生を歩みたいのに…
その場にいる先輩方全員に返答を待たれて、柚鈴は泣きたい気持ちになった。
しかし、泣いてどうなるような状況でもなかった。
迷ったら、一番譲れないことは死守しよう。
そう思って、絞り出すように口を開いた。
「……すみません」
『集団の先輩方』にそう告げて頭を下げた。向こうから困惑した様子の雰囲気が伝わってくる。
柚鈴が気まずくていたたまれなくなるより先に、東郷先輩が柚鈴の手を引いた。
「お話は済んだということで、では失礼します」
そのまま、スタスタと歩きだしてしまう。
勢いのある東郷先輩に引きずられるように柚鈴はついていくことになり、幸が戸惑ってから、先輩方に頭を下げて追いかけてきた。
東郷先輩の手は、妙に力強く、痛いぐらいだった。
少し力を緩めてもらえないかお願いしようと声を掛けようとして柚鈴は気付いた。
東郷先輩の顔は妙にこわばっている。
もしかして、気を張ってる?
そんなことを柚鈴が思っていると、どうやら正解だったらしい。
校門の中に入り、置いてきた人たちが見えなくなると、東郷先輩は気が抜けたと言わんばかりにため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる