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第四章 6月
お姉さま、心から大切にしたいものって、何ですか? 6
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『柚鈴ちゃん、父の日の前には家に帰ってくる?」
その声はいつも通りソプラノの優しい響きだった。
部屋に戻って、机に置きざりにしていた携帯電話を確認すると、志奈さんから着信が2回入っていた。
折り返すべきかどうか。
つい、そんなことを考えながら。
柚鈴が携帯を持ったままベットに横たわった瞬間、3度目の着信。
思わず一度携帯電話を手の上で跳ねさせてから、固まった。
で、出るべきかそれとも…
しかし柚鈴の性格上、出ない、ということも出来ない。
一瞬表情を情けなくゆがめてから、仕方なく、それでもありったけの勇気を持って通話ボタンを押す。
向こうから、歓喜の音色で挨拶があった後に出たのがその言葉だった。
「父の日、ですか?」
『そうよ、父の日。もう忘れちゃった?一緒に準備したこと』
少し拗ねたような声に、ようやく言われた意味を理解する。
そう父の日には、ゴールデンウィークに用意したお酒をプレゼントする予定だった。
だからそれに合わせて帰ってこれるか、と聞かれているのだ。
…忘れたわけではない。
ただ、それ以上にインパクトのあることがあって、影を薄くしていただけだ。
などとは言葉では言わない。でもオトウサン、ゴメンナサイ。
悲しげな義父の顔が脳裏をよぎり、心の中で密かに謝った。
「そうですね…多分、帰れます」
『多分、なの?』
「えっと…」
鋭いツッコミに焦ってしまう。
志奈さんに会うことを躊躇うことに、新しく生まれてしまった理由が生まれてしまったからか、無意識に多分、などと入れてしまったのだろう。
自覚がなかったとしても聞き逃されるはずもなかった。
誤魔化すために想いを巡らせて。
「生徒会の手伝いがあるかもしれない、と思って」
表情は思い切り動揺していたが、声だけはどうにか冷静を装って返すことが出来た。
志奈さんはその言葉を、割合素直に納得してくれたようだった。
『なるほど。バッチをすることを容認してもらう代償ということね』
ごまかされてくれて、ほっとしつつ、柚鈴はええ、ええ、と返事をした。
いっそ本当に手伝いがあれば助かる気もするのだが、今の段階で、絵里と違い、本当の本当に生徒会手伝いをしているわけでもない柚鈴が、お休みの日まで予定を入れられることはない気がする。
妙な気まずさを感じつつ、柚鈴は志奈さんに聞こえないようにため息をついた。
「問題なく、帰れる、とは思いますけど」
『だと嬉しいわ。お父様も楽しみにしているし。もちろん、私も楽しみにしているのよ』
柚鈴の返事がお気に召したのか、いつも通りのご機嫌の志奈さんの声に変わる。
こちらが困惑するほどのストレートな愛情を感じさせる話し方が、いつもと違った意味合いで柚鈴を揺さぶった。
「そう、ですか…。そうでしょうね」
志奈さんに何か変化があったわけではないから、いつも通りなのは当然なのだ。
問題(と言っていいのか分からないが)が起きたのは柚鈴の方なのだから。
『どうしたの?』
「…」
流石に柚鈴の様子を気にしたのか、少し心配そうな音色になった志奈さんの声に。
柚鈴は、いっそ、聞いてしまおうかと思った。
噂されている凛子先輩と関係についての真実を。
もしかしたら、柚鈴が拍子抜けするくらい、気にするのをバカらしいと思う程にあっけらかんと『そうなのよ。昔ね』なんて話してくれるかもしれない。
思い悩む様子など、今まで見せたことのない志奈さんのことだから。
少なくとも、『知ってしまったのね、柚鈴ちゃん』なんて、お互いがどんよりした空気になりそうな神妙な答えは返ってこないだろう。
その声はいつも通りソプラノの優しい響きだった。
部屋に戻って、机に置きざりにしていた携帯電話を確認すると、志奈さんから着信が2回入っていた。
折り返すべきかどうか。
つい、そんなことを考えながら。
柚鈴が携帯を持ったままベットに横たわった瞬間、3度目の着信。
思わず一度携帯電話を手の上で跳ねさせてから、固まった。
で、出るべきかそれとも…
しかし柚鈴の性格上、出ない、ということも出来ない。
一瞬表情を情けなくゆがめてから、仕方なく、それでもありったけの勇気を持って通話ボタンを押す。
向こうから、歓喜の音色で挨拶があった後に出たのがその言葉だった。
「父の日、ですか?」
『そうよ、父の日。もう忘れちゃった?一緒に準備したこと』
少し拗ねたような声に、ようやく言われた意味を理解する。
そう父の日には、ゴールデンウィークに用意したお酒をプレゼントする予定だった。
だからそれに合わせて帰ってこれるか、と聞かれているのだ。
…忘れたわけではない。
ただ、それ以上にインパクトのあることがあって、影を薄くしていただけだ。
などとは言葉では言わない。でもオトウサン、ゴメンナサイ。
悲しげな義父の顔が脳裏をよぎり、心の中で密かに謝った。
「そうですね…多分、帰れます」
『多分、なの?』
「えっと…」
鋭いツッコミに焦ってしまう。
志奈さんに会うことを躊躇うことに、新しく生まれてしまった理由が生まれてしまったからか、無意識に多分、などと入れてしまったのだろう。
自覚がなかったとしても聞き逃されるはずもなかった。
誤魔化すために想いを巡らせて。
「生徒会の手伝いがあるかもしれない、と思って」
表情は思い切り動揺していたが、声だけはどうにか冷静を装って返すことが出来た。
志奈さんはその言葉を、割合素直に納得してくれたようだった。
『なるほど。バッチをすることを容認してもらう代償ということね』
ごまかされてくれて、ほっとしつつ、柚鈴はええ、ええ、と返事をした。
いっそ本当に手伝いがあれば助かる気もするのだが、今の段階で、絵里と違い、本当の本当に生徒会手伝いをしているわけでもない柚鈴が、お休みの日まで予定を入れられることはない気がする。
妙な気まずさを感じつつ、柚鈴は志奈さんに聞こえないようにため息をついた。
「問題なく、帰れる、とは思いますけど」
『だと嬉しいわ。お父様も楽しみにしているし。もちろん、私も楽しみにしているのよ』
柚鈴の返事がお気に召したのか、いつも通りのご機嫌の志奈さんの声に変わる。
こちらが困惑するほどのストレートな愛情を感じさせる話し方が、いつもと違った意味合いで柚鈴を揺さぶった。
「そう、ですか…。そうでしょうね」
志奈さんに何か変化があったわけではないから、いつも通りなのは当然なのだ。
問題(と言っていいのか分からないが)が起きたのは柚鈴の方なのだから。
『どうしたの?』
「…」
流石に柚鈴の様子を気にしたのか、少し心配そうな音色になった志奈さんの声に。
柚鈴は、いっそ、聞いてしまおうかと思った。
噂されている凛子先輩と関係についての真実を。
もしかしたら、柚鈴が拍子抜けするくらい、気にするのをバカらしいと思う程にあっけらかんと『そうなのよ。昔ね』なんて話してくれるかもしれない。
思い悩む様子など、今まで見せたことのない志奈さんのことだから。
少なくとも、『知ってしまったのね、柚鈴ちゃん』なんて、お互いがどんよりした空気になりそうな神妙な答えは返ってこないだろう。
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