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【EP-01】

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ーある日の朝、村の入り口にてー

「今日もいい天気だなぁ!一人で森に行けるし最高だ!」

グリュックがそう呟きながら村の出入口にある門へ歩いて向かっていると、後ろから声がした

「あっ!おはよー!」
「あっ、イラーリ!おはよう!」

挨拶をしてきたのはイラーリだった。
彼女はグリュックの幼馴染で年齢は彼より4つ上の自称16歳である。明るく元気な女性で村の人気者だ。胸も大きく、金髪のショートカットが活発な彼女に似合っている。
服装は緑色のワンピースを着ており、スカートには花をあしらった刺繍が施されているそれは村一番の裁縫上手であるターナシの妻が縫った物であり、動きやすい様にひざ上ぐらいのスカートを履いている

「グリュック、あんた一人で森に狩りに行くの?」
「うん!早く一人前になって外に出たいからね!」
「ふーん……まだ外に出たがってたんだ…無理しないでよね~あんたは私と違って力も無いし弱っちいんだから……」
「もうここら辺の森なんて問題ないよ!この前だって猪を捕まえたし!今日は一人でやってみなってターナシおじさんが言ってくれた!」
「ふーん……ターナシさんがねぇ…まぁ猪ぐらい私でも狩れちゃうしぃ~?まだまだなんじゃないの~?」

イラーリはそう言いながらグリュックに近づき体をペタペタと触っていく

「ちょっ!何するんだよ!」
「ん~?怪我とかしてないかなぁ~って?」

そう言って今度は胸を触る

「な、ないよ!まだ狩ってきてないんだから!」
「ほんとかなぁ?本当は怪我してるんじゃないのぉ~?」

グリュックは顔を赤らめながら答える

「ほ、本当だよ!もう!からかうなよ!」
「あははっ!ごめんごめん!」

そう言いながら離れるイラーリ
だがグリュックに見えないように舌なめずりをしていた……
そしてそのまま彼女は何事もなかったかのような顔をして話を切り出した

「でもさぁ~よく猪なんて狩れるよねぇ…こんな細い体でさ~武器と筋肉があっても見た目とのギャップがすごいわよねぇ……」
「ちゃんとターナシおじさんに教えてもらってるからね!それにイラーリが言っちゃだめだよね?この前は僕らよりおっきい虫を叩き潰してた!」
「やめて!その話は!虫は苦手なの…目の前に急に出てきたからつい力加減間違えただけじゃない!」
「つい間違えただけで虫が木っ端みじんだったよ……怖すぎるよね」
「私の前に出てきた虫が悪いわ」
「えぇー……怖いんで近づくの止めと……!」
「絶対に駄目よ」

ニッコリ笑顔でイラーリが近づいてきて脅していく

「えぇー……だって怖いし……今も……」
「もー、わかったわよ。次から気をつけるから、ね?」
「うん。わかってるよ!でも間違って叩かないでね?」

グリュックは満面の笑みで答えた
そして狩りに向かう

「じゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい。ターナシさん居ないんだから気を付けてねー」

そして森の中でグリュックは獲物を狩るために奥へと歩いていく

「今日はどうしよう。猪はこの前だったし兎だと量がなぁ……熊か鹿にしようかな」
「でも熊、たまーに強いんだよなぁ。怪我なんてしてきたらせっかく一人で狩れるようになったのに外に行くなって言われるか。やっぱり鹿にしようかな」

将来の夢と今日の晩御飯を考えながら鹿を探していると
耳をつんざかんばかりの咆哮が聞こえた

「グゥルガァァァ!!!」
「うわぁ…今の熊だよね?結構うるさかったから近くに居るじゃん…離れようかな」

そうしてまた鹿を探すために違う場所に行こうとした時
違和感に気付いた

(あれ?あの熊って獲物を狩る時にわざわざ叫んでたっけ?ターナシおじさんと戦ってる時は叫んでたけど…今日の狩人は僕以外居なかったし)
(気になっちゃたし見に行こうかな。ここら辺で熊より強いのが居るのかも!木の上からならバレないでしょ)

そして木から木へ飛び移りながら音が鳴った方に向かうとそこには
銀髪で満身創痍の女と怒り狂った熊が対峙していた

(あれ……?朝、他に人居たっけ?というよりあの人は大丈夫!?)

「くっ……さすが未開の森……こんなレベルの魔物がうじゃうじゃ出てくるなんて…!」
「グゥガァァァ!アァッ!!」

熊が大きく手を振り上げ銀髪女に振り下ろそうとしている
銀髪女の方は腕を上げる気力もなくなったようでもうダメかと目を瞑っていた

(あの人、やっぱり限界なんだ!助けなきゃ!)

思いっきり木を蹴り飛び出し熊の首に向かって剣を振り下ろした

キィィン!
(えぇ!?この熊の首、かったい!?)

いつものように後ろから首への一撃で終わると思っていたが
実際この熊の首に向けた剣は金属音が鳴り響き毛すらも切れなかった
だが首への衝撃で銀髪女への一撃は空振り大きく熊がよろけた

(うーん。。。今回は前じゃなく後ろからだったからいつもならこれで終われるんだけど……)
(怒ってる熊は相手にするなって言ってたのこういう事なのかな?…ならとりあえず!)
「……?…!?き、君は!?早く逃げなさい!!」

いつまでも熊の攻撃が来ない事と金属音がした事で疑問に思い目を開けるとそこには
自分の背の半分ほどの少年が剣を持ち熊を正面に見据えながら自分の前に立っていた

「いいからお姉さん!早く逃げるよ!」
「えっ!?逃げても近くには何もないぞ!」
「いいから!この熊は僕じゃまだ無理!近くに村あるから!僕の手を掴んで!」

言われたまま少年の手を握る銀髪女
そして握ったことを確認すると同時に横に走り出す
だが満身創痍という事と少年の予想外の体捌きにより
付いていけず引きずられる形になった

「あっ!ごめんねお姉さん!痛かったよね!抱っこするよ!」
「い、いや!それよりもあの熊は!」
「あれは逃げるよ!村に逃げ込めばなんとかなると思う!」
「村!?……君は何を!?」
「後で説明するから今は大人しくしててね!舌嚙んじゃうよ!!」

そんなやり取りをしながらグリュック達は物凄い速さで村の入り口に戻ってくることが出来た。

(すごい!やっぱり体が軽いなぁ~。ここまで全然疲れないや)

村でのターナシの鬼のようなスパルタのおかげか
はたまたイラーリからのイジリのおかげなのか
人一人を抱えての全力のダッシュでも少年が息を切らすことはなかった
そして村の入り口にて少年の帰りを待っていたイラーリが笑顔で声をかけてきた

「グリュック早かったじゃない!今日の獲物は……って誰?その女」

連れてきた銀髪女を見た瞬間、イラーリの顔が曇る

「なんか熊に襲われてたみたいで…早くキズ治さなきゃ!」
「ふーん……じゃあ、とりあえず私の母さんの所に行こうか」
「ラミアさんの所に行けばすぐ治るよ!よかったね!」
「え、えぇ。ありがとうございます……」

グリュックは銀髪女を抱えてラミア家に向かい歩き出す
だが銀髪女は張り詰めた糸が切れたのか気絶してしまった
その様子を見てイラーリが話しかける

「ねぇグリュック。その女…どうするつもりなの?」
「え?ケガ治ったら自分の家に帰るんじゃない?うちの村じゃ見ないから他の村があるのかな?見たこと無いけど」
「そいつ、森の外の人間よ」
「え!?……でもそっか。この服装見たこと無いし。なら森の外まで送るってことになるかな?」
「絶対に駄目よ」

今までにない冷たい口調と表情で否定される
出発前の時と同じ言葉だがグリュックは冷や汗が出た

「ど、どうしてさ。外の人間なら早く帰してあげたいし……」
「怖がらせてごめんね?でもその女は今日、この村を見てしまった。そのまま生きてこの村から出すことはできないわ」
「……え」
「この村では人を殺すのはタブーになってるから死ぬわけじゃないけどね。詳しくは母さんに聞いて」
「う、うん」
(イラーリの雰囲気が怖い……)

そのまま一言も話さずグリュック達はラミアの家に到着し中に入る そこには村のご意見番であるラミアとターナシがいた。

(あれ?ターナシおじさんまでいる。珍しいな)

そんなグリュック達の来訪に気付くと二人は挨拶をしてきた

「おぉ、グリュックにイラーリちゃんか!早かったな!無事に帰ったか!狩りはどうだった?」
「ただいまターナシおじさん。ちょっとトラブルがあって失敗しちゃった……」
「イラーリ。おかえり。坊やも。してトラブルとは……その女か?」
「そうなんだラミアさん!早く治してあげて!」
「……坊やの頼みだ。わかった。落ち着け。治療が終わったら話を聞こう」

そして治療が終わり銀髪女をベットに眠らせて
グリュックが事細かに今までの経緯を説明する
2人は村の近くの森に人が居たことに驚いていたようだが
少年が話し終わるまで口を挟まず聞いていた

「そうか。そんなことが……まずは無事でよかった。だがな坊や。イラーリの言う通りそのまま村から出すことは出来ぬ」
「ラミアさんもなのぉ…?ターナシおじさんも一緒なの?」
「すまんグリュックよ。こればかりは俺もラミアに逆らえん」
「え……」

ターナシもラミアの意見に賛成なようで意見は覆る様子はなかった。
グリュックは泣きそうな顔で二人に問う

「お、お姉さんは多分いい人だよ!……森の外に住んでるなら帰してあげてほしい!」
「坊や。駄目だ」
「うぅっ!もういい!ラミアさん何かもう嫌いだ!」
「なっ……!」

そう言って家を飛び出していった
グリュックから放たれた言葉にショックを受けているラミア
先程まで威厳ある雰囲気だったのが今では泣きそうになっている
そこでイラーリが助け舟を出す

「母さん。私が説明してくるからさ……そんなに落ち込まないで……」
「イラーリィ~……すまん。頼むぅ……うぅ……」
「グリュックの事。よろしくな。イラーリちゃん」
「まかせて!じゃ行ってきますね」

グリュックの後を追っていった

「さて、ラミアよ~。やっぱりグリュックにはもうこの村はそろそろ限界かもなぁ…」
「……言うな。泣きたくなる」
「もう泣いてんじゃん。はっはっはっ」
「やかましい!その女さえ来なければ我が嫌われることもなかったのに!!」
「まぁまぁ落ち着いて話聞いてやろうや。な?」

こうして銀髪女が目覚めるまでラミアは射殺さんばかりに睨み続け
ターナシはラミアを見ながら笑って宥めていた
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