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チャプター【20】
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息の根を止めてやる!
その思いに、さろみは傘を握り締めて両手をふりかぶった。
力をこめてふり下ろす。
と――
「ミ、ャ……」
ほんのかすかに、仔猫の声が聴こえた
さとみはふり下ろした傘をぎりぎりのところで止めた。
「ミーちゃん?」
さとみは屈みこみ、開いた蟇の口の中を覗きこんだ。
だが、口の中までは外灯のあかりが届かず、よく見えない。
そのうえ、生肉の腐ったような悪臭が鼻をつく。
さとみは顔をしかめて鼻を手で被い、
「ミーちゃん?」
もう一度仔猫を呼んでみた。
「ミ、ャ……」
仔猫が応えた。
生きていたのは蟇ではなく、呑みこまれた仔猫のほうだった。
蟇の脇腹から喉の辺りが動く。
仔猫が、蟇の体内から必死に這い出そうとしているのがわかる。
「がんばるのよ! ミーちゃん!」
さとみが声をかける。
それに応えるように仔猫はもがく。
もがくほどに蟇の口が開いていく。
それによって口の中が覗いて、仔猫の口と鼻先が見えた。
仔猫はもがきつづける。
しかし、そこから先へ這い出てくることができない。
「もう少しよ! がんばって!」
そう声をかけるが、しだいに仔猫の動きが弱まっていく。
そしてついに、力尽きたのか仔猫の動きが止まった。
「ダメよ、ミーちゃん。ダメ!」
それはとっさのことだった。
なにを思ったか、さとみは蟇の口に両手を差しこんでいた。
いったいなにをするつもりなのか。
蟇の体内から、仔猫を引き出そうとでもいうのだろうか。
すると、
ぐちゅり……。
さとみは蟇の口を上下に引き裂き始めた。
ぐちゅ、
ぐちゅう、
ぐちゅ……。
耳を塞ぎたくなるようなおぞましい音を立てて、蟇の口が裂ける。
びちり、
びちびちびち……。
さとみには、その音が聴こえていないらしい。
聴こえていたなら、すぐにでも放り投げてしまっていただろう。
いや、それ以前に、蟇の口を引き裂くなどとてもできるものではなかった。
触れることさえできなかったはずだ。
だが、いまは一刻を争そっていた。
仔猫がまだ生きている――
その思いが、さとみを衝き動かしていた。
びちびちびちびち……。
蟇の口が裂けていく。
背の疣(いぼ)からは、卵をふくんだ体液がどろりどろりと溢れ出している。
それと同時に口の裂けた部分から、血がぴゅっぴゅっと噴き出す。
それは飛沫となってさとみの顔に飛び散った。
さとみは浴びた血を拭おうともせずに、蟇の口を裂いていく。
その行動、いや、行為は常軌を逸していた。
何かに憑かれているといってもよかった。
蟇の口は、肩から胸のあたりまで避けた。
仔猫の顔が現れる。
「ミーちゃん!」
さとみが呼ぶ。
唾液にまみれた仔猫は、眼を閉じたまま動こうとしない。
もう、息絶えてしまったのか。
「ミーちゃん!」
もう一度呼んでみるが、やはり仔猫はなんの反応も見せない。
「いま出してあげるから、しっかりして!」
さとみは裂けきった蟇の口のなかへ両手を差し入れた。
ぬめりした感触に包みこまれる。
総毛立つほどの嫌悪感に、声を上げそうになる。
それでもさとみは、さらに両手を蟇の体内へと差しこんでいった。
指先が仔猫の前脚に触れた。
その両の前脚をしっかりと掴みとり、蟇の体内からゆっくりと引き出していった。
その思いに、さろみは傘を握り締めて両手をふりかぶった。
力をこめてふり下ろす。
と――
「ミ、ャ……」
ほんのかすかに、仔猫の声が聴こえた
さとみはふり下ろした傘をぎりぎりのところで止めた。
「ミーちゃん?」
さとみは屈みこみ、開いた蟇の口の中を覗きこんだ。
だが、口の中までは外灯のあかりが届かず、よく見えない。
そのうえ、生肉の腐ったような悪臭が鼻をつく。
さとみは顔をしかめて鼻を手で被い、
「ミーちゃん?」
もう一度仔猫を呼んでみた。
「ミ、ャ……」
仔猫が応えた。
生きていたのは蟇ではなく、呑みこまれた仔猫のほうだった。
蟇の脇腹から喉の辺りが動く。
仔猫が、蟇の体内から必死に這い出そうとしているのがわかる。
「がんばるのよ! ミーちゃん!」
さとみが声をかける。
それに応えるように仔猫はもがく。
もがくほどに蟇の口が開いていく。
それによって口の中が覗いて、仔猫の口と鼻先が見えた。
仔猫はもがきつづける。
しかし、そこから先へ這い出てくることができない。
「もう少しよ! がんばって!」
そう声をかけるが、しだいに仔猫の動きが弱まっていく。
そしてついに、力尽きたのか仔猫の動きが止まった。
「ダメよ、ミーちゃん。ダメ!」
それはとっさのことだった。
なにを思ったか、さとみは蟇の口に両手を差しこんでいた。
いったいなにをするつもりなのか。
蟇の体内から、仔猫を引き出そうとでもいうのだろうか。
すると、
ぐちゅり……。
さとみは蟇の口を上下に引き裂き始めた。
ぐちゅ、
ぐちゅう、
ぐちゅ……。
耳を塞ぎたくなるようなおぞましい音を立てて、蟇の口が裂ける。
びちり、
びちびちびち……。
さとみには、その音が聴こえていないらしい。
聴こえていたなら、すぐにでも放り投げてしまっていただろう。
いや、それ以前に、蟇の口を引き裂くなどとてもできるものではなかった。
触れることさえできなかったはずだ。
だが、いまは一刻を争そっていた。
仔猫がまだ生きている――
その思いが、さとみを衝き動かしていた。
びちびちびちびち……。
蟇の口が裂けていく。
背の疣(いぼ)からは、卵をふくんだ体液がどろりどろりと溢れ出している。
それと同時に口の裂けた部分から、血がぴゅっぴゅっと噴き出す。
それは飛沫となってさとみの顔に飛び散った。
さとみは浴びた血を拭おうともせずに、蟇の口を裂いていく。
その行動、いや、行為は常軌を逸していた。
何かに憑かれているといってもよかった。
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仔猫の顔が現れる。
「ミーちゃん!」
さとみが呼ぶ。
唾液にまみれた仔猫は、眼を閉じたまま動こうとしない。
もう、息絶えてしまったのか。
「ミーちゃん!」
もう一度呼んでみるが、やはり仔猫はなんの反応も見せない。
「いま出してあげるから、しっかりして!」
さとみは裂けきった蟇の口のなかへ両手を差し入れた。
ぬめりした感触に包みこまれる。
総毛立つほどの嫌悪感に、声を上げそうになる。
それでもさとみは、さらに両手を蟇の体内へと差しこんでいった。
指先が仔猫の前脚に触れた。
その両の前脚をしっかりと掴みとり、蟇の体内からゆっくりと引き出していった。
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