バタフライ~復讐する者~

星 陽月

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チャプター【036】

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「おまえの、その眼はなんだい!」

 蝶子の眼を見て、邪蛇が言った。

「なんだっていいさ。それより、これからが本番だよ」

 蝶子は身体に巻きついた尾を解こうと、両腕に力をこめた。

「させるかよ!」

 そうはさせまいと、邪蛇が尾をさらに絞めあげた。
 しかし、絞めあげているはずの尾が、少しずつ弛んでいく。

「ぬうあああああッ!」

 変異細胞となったナノプスが活性化し、蝶子の体内でエネルギーの塊となって爆発する。
 邪蛇の尾がしだいに押し広げられていく。

「シャ、シャア。なんだとう!」

 邪蛇は蝶子の力に負けて、自ら尾を解いた。

「なんて馬鹿力なのさ。そうかい、それが執行人の持つ特質能力というやつだねえ」
「よく知っているな。どうせ、風の噂で聞いたんだろうが、そのくらいで知ったような口を利くんじゃないよ」
「風の噂だってえ? 違うねえ。私はなんだって知っているよ。アルファ・ノアのことだってねえ」
「なに!」
「シャ、シャ、シャ、可笑しいねえ。そんなに愕くなんて、おまえはなにも知らないようだねえ?」
「なにを言っている」
「知らないのなら、それでいいさ。どうせおまえは、ここで死ぬんだしねえ!」

 邪蛇が今度は、蝶子の頭上から尾をふり下した。
 蝶子は瞬時に身を躱す。その躱したところへ、尾がまた迫ってくる。
 それをまた、蝶子が躱す。
 それが、なんどとなくくり返される。

「ほらほら、どうしたんだい。逃げるしか能がないのかい?」

 口ではそう言っているが、どうやら邪蛇は、そうすることで蝶子を疲れさせようとしているらしかった。
 蝶子もそれを承知している。
 しかし、あまりにも尾の動きが速く、体勢を整えるどころか、躱すのがやっとだった。

「シャシャシャシャア! ほらほらほらァ」

 邪蛇は遊んでいるかのようだった。

(クソッ……)

 こんなことに、いつまでもつき合ってはいられない。
 どうにか、一瞬の隙でもできないものか。
 と、そのときだった。

  コカ、コカカカ……。
  クコココ、カカカ……。

 闇の奥から、何かが啼く声が聴こえてきた。
 
  コカカカ、クカカ……。
  クコココ、カカカ……。

 その啼き声が、徐々に近づいてくる。
 その啼き声に、蝶子は意識を向けた。
 そのとき、邪蛇が尾をふり下されてきた。
 啼き声に意識を向けたその一瞬の分だけ、蝶子は邪蛇の尾を躱(かわ)しきれなかった。
 邪蛇の尾は蝶子の肩をかすめた。

「ぐッ!」

 それはほんの少しかすめただけであったが、重い一撃だった。
 まともに受けていたら、肩の骨はいかれていただろう。

「ばかめ。他のことに気を取られるから、そうなるんだよ」

 そこでふいに、邪蛇は攻撃を止めた。
 視線を、蝶子の後方の闇へと向ける。

「ようやく来たかい」

 邪蛇が、にたりと嗤った。
 蝶子は、後方へと意識を向けながら、背に負った太刀を抜刀した。

「クコココ……、コカカカカ……」

 その啼き声とともに、闇の奥から姿を現したものがあった。
 全長2メートルを超えるオオトカゲ。
 そう見えた。
 だが、違う。
 その貌はトカゲに似てはいるが、そうではない。
 それは、後脚で立っていた。
 前脚は後脚よりも3分の1ほど細く、身体の前に垂らすようにしている。
 脚と言うより手に近い。
 胴体からつながる太い尾は、先端に向かって先細りしていて、その尾で、身体のバランスを取っているようだった。
 恐竜と思しき体躯をしている。
 いや、それはまさに、白亜紀前期に生息していたと言われる、獣脚類のデイノニクスだった。
 蝶子は太刀を握りしめ、身体をゆっくりとそのデイノニクスのほうへずらした。
 完全にデイノニクスと対峙する体制はとらない。
 邪蛇に背を向けるわけにはいかなかった。
 デイノニクスは蝶子を見ると、一度邪蛇に顔を向け、そしてすぐに蝶子に顔をもどした。
 爬虫類特有のその眼に、焚火の炎が揺れていた。
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