バタフライ~復讐する者~

星 陽月

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チャプター【051】

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「ずいぶんと、お熱いことだねえ」

 茶化すように犬男が言った。

「なんだか、少し腹が立ってきたよ。このぼくを斃(たお)すだってェ?」
「そのつもりさ!」

 蝶子は床を蹴った。

「うおおおおおッ!」

 犬男に向かって走る。

  バチッ!

 蝶子と犬男のオーラがぶつかった。

  バチバチバチバチッ!

 ぶつかり合ったふたつのオーラのあいだで、互いの気がスパークし、白光が散った。
 両者の肉体自体は、まだ接触してはいない。
 放出する気が膨大なために、互いの肉体に届かないのだ。

「おおおおおッ!」

 蝶子のオーラが犬男を圧していく。

「グオォォォオッ!」

 それを犬男が圧し返す。
 犬男のオーラのほうが大きいだけあって、蝶子がじわりじわりと後方へ圧されていく。
 それに負けじと、蝶子は踏み止まろうとする。

「うおおおおおッ!」

 蝶子の裡からさらなる気が放出し、オーラがみるみる膨らみを増していった。
 それが、犬男のオーラと同等ほどの大きさとなった。
 と、その瞬間、

  ドゴォンッ!

 蝶子と犬男のあいだで、凄まじい爆発音がなった。
 そのとたんに、両者は後方へと弾き飛ばされていた。
 互いの気が同等の質量となったことで、そこに生じた膨大なエネルギーが臨界点を超えて爆発を起こしたのだった。
 蝶子は、硬化ガラスに叩きつけられていた。
 その硬化ガラスに、ひびが入っている。
 並みの人間ならば、叩きつけられた衝撃で、身体はぐちゃぐちゃになっていただろう。
 それほどの威力を持った爆発だった。

「ごふッ……」

 蝶子は膝から床に崩れ落ち、血を吐いた。
 その血を手の甲で拭い取り、ゆらりと立ち上がった。
 視線を犬男へと向ける。
 犬男が弾き飛ばされた壁が粉砕していた。
 その奥で、犬男は瓦礫の中から立ち上がるところだった。
 それを眼にした蝶子の瞳が、再び蒼白い光を帯びた。
 全身をオーラが包みこむ。
 しかしそれは、先刻のような激しさをふくみながら膨れあがっていくオーラではない。
 肉体の表面を薄いベールをまとったほどのものだ。
 蝶子は、肩で息をしている。
 相当量の生体エネルギーを放出したために、著しく肉体が消耗しているようだった。
 それは犬男もおなじで、やはりそのオーラは肉体の表面を包みこんでいるだけだ。

「いやいや、さすがにいまのは効いたねえ」

 犬男がのそりとフロアに出てくる。

「ちょっと、気張りすぎたようだよ。どうだろう。ここで少し休憩を挟むっていうのは」

 それに答えず、蝶子は太刀を構えて犬男を睨んでいる。

「どうやら、その気はないようだねえ。まあ、いまのは冗談だが、いいねえ、そういうの。久しぶりに血肉が沸き立つよ。さあ、つづきをやろうじゃないか」

 犬男が頸(くび)をぐるりと回す。
 その刹那、蝶子は床を蹴った。

「やあああああッ!」

 上段の構えから太刀をふり下した。
 犬男がそれを左腕で受ける。
 太刀の刃は、犬男の剛毛で止まっていた。

「フフン、無駄だねえ」

 すぐさま、犬男の拳が蝶子の脇腹に飛んでくる。
 それを避けきれずに、蝶子は吹っ飛んだ。
 そう見えた。
 だが、蝶子の身体は、2メートルも飛ばされずに床に踏み止まっていた。
 犬男の放った拳が脇腹に当たる寸前、蝶子がその軌道に沿って身体を移動し、力を半減させたのだった。
 蝶子は体制を低くし、そのまま床を蹴って、犬男の腹部をめがけて真横から一刀した。
 一瞬の隙をつく、一刀だった。
 蒼き光芒が、真一文字に一閃する。
 手ごたえがあった。

「グアッ!」

 犬男の腹部から、血が噴き出す。
 しかし、傷は浅い。
 浅いが、傷を負わせたということは、犬男のオーラが弱まってきているということだ。
 蝶子はつぎの一刀を放つ。
 犬男がそれを腕で受ける。

「やあああああッ!」

 蝶子は矢継ぎ早に、太刀をふるっていった。
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