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チャプター【058】
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「そう、そのまさかよ。ポールシフトの影響で、遺伝子変異体をつめこんだウイルスが洩れ、大気中に散布されたのだ。そして地上の生物は、そのウイルスに感染したものとそうでないものとにふり分けられた。――とはいえ、これはあくまで我の推測だがな」
獣鬼が言ったことに、
「推測? それなら、現実にそれが起きたかどうかは、わからないということじゃないかよ」
隼人が言った。
「確かにな。だが、そう考えたほうが、ごく自然というものではないか?」
「――そんな話、信じられると思うか」
「信じるも信じないも、それはおまえの自由だ」
「もし、それがほんとうなら、それは事故だ。なのになぜ、アルファ・ノアは人々に公表しない」
「そんなことは、我の知ったことではない。おまえ自身で確かめることだな。まあ、たとえそれが事故であったとしても、それを表に出さぬのが組織と言うものだ。それが忌まわしき罪であってもな。その罪が大きければなおさらのことだ。力を持った者の罪は、常にひた隠しにされる。それは歴史が物語っていることだ。力ある者の罪は、罪ではないのだ。しかし、アルファ・ノアは、それを放っておくことはせず、穴埋めをしようとした。それが、おまえたち執行人というわけよ」
「なら、なぜおまえたちを捕えて実験を施し、野に放つようなことを……」
「科学者の考えることなど及びもつかぬ。だが、力ある者が求めるものは、さらなる力。それが、新たなるものを生み出す科学者となれば、目指すは、神」
「神だと……」
「まあ、そんなところであろうよ。あのポールシフトによって遺伝子変異体が洩れたことは、アルファ・ノアの科学者にとっては好都合だったというわけだ。天地創造とまではいかぬが、生物を新たに進化させたのだからなァ。まさに創世記ではないか。そして、おまえたち執行人を創り、我らやおまえたちの言う先祖返りを捕えて実験を施し、闘わせているのだ。それさえも、アルファ・ノアの実験なのかも知れぬ。おまえたちは、人形のように、ただ踊らされているだけなのよ」
愉快そうに、獣鬼がまた嗤った。
「そんな馬鹿な――」
そう言うと、隼人は押し黙った。数瞬の間があって、
「――そんなことは、やはり信じられないな」
隼人は呟くように言った。
「そうではあるまい。おのれに嘘をつくな」
獣鬼が言った。
「おまえは、信じたくないだけなのだ。まあ、無理もあるまい。いままで信じていたものの真実を知ったとはいえ、そう簡単に受け入れられるものではない」
「なにを勝手に、的はずれなことを言ってるんだよ。おまえは、馬鹿か」
「ば、馬鹿だとォ!」
「なにが、おまえは信じたくないだけなのだ、だ。真実なんて、いったいどこにあるって言うんだよ。ただおまえが、講釈を並べたてたってだけだろうが。まったく、もっともらしいことをべらべらと熱弁しやがって。おまえ、人間だったときは、セールスマンか詐欺師だったんじゃないのか? おまえのような化け物の話なんて、200パーセント信じちゃいないよ。めでたいのはおまえのほうだろうが」
隼人は、嘲られるだけ嘲った。
「ぐぬう。そこまで我を愚弄したのはおまえが初めてだ。我が王に君臨した暁には、おまえを側近にしてやろうと考えていたが、浅はかだったわ」
獣鬼は、その貌に怒りをあらわにした。
「側近? だれが。頼まれたって、おまえの側近になどなるもんかよ。クソでもして出直してくるんだな」
「キサマ、隼人ォ。よく憶えておけ。今度会うときは、真っ先に八つ裂きにして喰ろうてやるわ」
「あっ、そ。できるものならやってみなさい。ほな、さいなら」
隼人がそう言ったときには、獣鬼を乗せた翼竜はすでに飛び去っていた。
「ほんとに行っちまったか。蝶子にどう説明すればいい」
去っていく翼竜を見つめながら、隼人はため息をこぼした。
やがて翼竜は、雷鳴の瞬く薄闇に消えていった。
獣鬼が言ったことに、
「推測? それなら、現実にそれが起きたかどうかは、わからないということじゃないかよ」
隼人が言った。
「確かにな。だが、そう考えたほうが、ごく自然というものではないか?」
「――そんな話、信じられると思うか」
「信じるも信じないも、それはおまえの自由だ」
「もし、それがほんとうなら、それは事故だ。なのになぜ、アルファ・ノアは人々に公表しない」
「そんなことは、我の知ったことではない。おまえ自身で確かめることだな。まあ、たとえそれが事故であったとしても、それを表に出さぬのが組織と言うものだ。それが忌まわしき罪であってもな。その罪が大きければなおさらのことだ。力を持った者の罪は、常にひた隠しにされる。それは歴史が物語っていることだ。力ある者の罪は、罪ではないのだ。しかし、アルファ・ノアは、それを放っておくことはせず、穴埋めをしようとした。それが、おまえたち執行人というわけよ」
「なら、なぜおまえたちを捕えて実験を施し、野に放つようなことを……」
「科学者の考えることなど及びもつかぬ。だが、力ある者が求めるものは、さらなる力。それが、新たなるものを生み出す科学者となれば、目指すは、神」
「神だと……」
「まあ、そんなところであろうよ。あのポールシフトによって遺伝子変異体が洩れたことは、アルファ・ノアの科学者にとっては好都合だったというわけだ。天地創造とまではいかぬが、生物を新たに進化させたのだからなァ。まさに創世記ではないか。そして、おまえたち執行人を創り、我らやおまえたちの言う先祖返りを捕えて実験を施し、闘わせているのだ。それさえも、アルファ・ノアの実験なのかも知れぬ。おまえたちは、人形のように、ただ踊らされているだけなのよ」
愉快そうに、獣鬼がまた嗤った。
「そんな馬鹿な――」
そう言うと、隼人は押し黙った。数瞬の間があって、
「――そんなことは、やはり信じられないな」
隼人は呟くように言った。
「そうではあるまい。おのれに嘘をつくな」
獣鬼が言った。
「おまえは、信じたくないだけなのだ。まあ、無理もあるまい。いままで信じていたものの真実を知ったとはいえ、そう簡単に受け入れられるものではない」
「なにを勝手に、的はずれなことを言ってるんだよ。おまえは、馬鹿か」
「ば、馬鹿だとォ!」
「なにが、おまえは信じたくないだけなのだ、だ。真実なんて、いったいどこにあるって言うんだよ。ただおまえが、講釈を並べたてたってだけだろうが。まったく、もっともらしいことをべらべらと熱弁しやがって。おまえ、人間だったときは、セールスマンか詐欺師だったんじゃないのか? おまえのような化け物の話なんて、200パーセント信じちゃいないよ。めでたいのはおまえのほうだろうが」
隼人は、嘲られるだけ嘲った。
「ぐぬう。そこまで我を愚弄したのはおまえが初めてだ。我が王に君臨した暁には、おまえを側近にしてやろうと考えていたが、浅はかだったわ」
獣鬼は、その貌に怒りをあらわにした。
「側近? だれが。頼まれたって、おまえの側近になどなるもんかよ。クソでもして出直してくるんだな」
「キサマ、隼人ォ。よく憶えておけ。今度会うときは、真っ先に八つ裂きにして喰ろうてやるわ」
「あっ、そ。できるものならやってみなさい。ほな、さいなら」
隼人がそう言ったときには、獣鬼を乗せた翼竜はすでに飛び去っていた。
「ほんとに行っちまったか。蝶子にどう説明すればいい」
去っていく翼竜を見つめながら、隼人はため息をこぼした。
やがて翼竜は、雷鳴の瞬く薄闇に消えていった。
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