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【第17話】
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「いいさ」
宗太郎も微笑みで答え、だが、向けられた視線から、泳ぐように眼をそらすと煙草を咥(くわ)えた。
「里ちゃんのことだけど」
わずかな沈黙のあと、美都子が言った。
喫っていた煙草を消し、宗太郎は改めて美都子に眼を向けた。
「いいんじゃないの、結婚式延期したって」
「みっちゃん、何言うんだよ。そんな簡単な問題じゃないじゃないか」
宗太郎は呆れたという顔をした。
「世間体とか、相手の両親や家族に迷惑がかかるとか、そんなこといいじゃない。一番大切なのは、里ちゃんの気持ちだと思うわ」
「向こうの両親のこと考えたら、それじゃすまないよ」
「里ちゃんは、相手の両親と結婚するわけじゃないでしょ?」
「それはそうだけど、結婚自体が破談になるかも知れないじゃないか」
「それも、里ちゃんと相手の人との縁というものよ」
「みっちゃんは、里子に幸せになってほしくないのか」
宗太郎の声が心なしか大きくなった。
「そんなわけないじゃない。私だって、里ちゃんの幸せを願ってるわ。ただ、望まない結婚をしても、幸せにはなれないと思うの」
「望まないわけがないよ。ふたりは好き合ってるからこそ、婚約したんだ」
「今のコは難しいの。いくら好き合ってたって、いざ結婚を前にすると色んな不安がつきまとうのよ。この人はほんとうに生涯の相手なんだろうか、私にはまだやり残してることがあるんじゃないだろうか、とかね」
「そんな我儘が通ってたら、世の中、結婚する人がいなくなるよ」
「それでも、今はそういうものなの」
「……………」
宗太郎は黙りこみ眉根をよせ、すっかり冷えた珈琲を口にした。
「そんな顔しないでよ、義兄さん。気持ちはわかるけど……。私から、里ちゃんに話を訊いてみるから、ね」
宗太郎は何も言わず、置いたカップに眼を落としていたが、
「里子には幸せになってほしいんだ。それは父親としての望みだよ。悩みごとだって聞いてやりたいんだ。だけど……、男親は不自由だよ」
俯いたまま、ため息のように言った。
「義兄さん……」
肩を落とし、少し傾斜した顔と、口端にゆがんだ笑みを浮かべる宗太郎を見ていて、美都子は胸が熱くなった。
「義兄さん大丈夫よ。里ちゃんいいコだもの。絶対幸せになるわ」
「そうだな……」
「そうよ。義兄さんと姉さんの娘だもの」
「みっちゃん。里子の話、よく聞いてやってください」
宗太郎は頭を下げた。
「義兄さんやめて、そんなこと。私にとっても、里ちゃんは可愛い姪なんだから」
宗太郎は頭を上げると、薄い笑みを浮かべた。
「そうだ。今日は義兄さんの家で夕食つくるわ。そのほうが里ちゃんの話も聞きやすいし」
「悪いよ、そんなこと」
「私がそうしたいんだから、いいじゃない」
そう言うと美都子は席を立ち、伝票を手にさっさとキャッシャーに向かった。
そんな美都子の背を呆気にとられながら宗太郎は見つめた。
宗太郎も微笑みで答え、だが、向けられた視線から、泳ぐように眼をそらすと煙草を咥(くわ)えた。
「里ちゃんのことだけど」
わずかな沈黙のあと、美都子が言った。
喫っていた煙草を消し、宗太郎は改めて美都子に眼を向けた。
「いいんじゃないの、結婚式延期したって」
「みっちゃん、何言うんだよ。そんな簡単な問題じゃないじゃないか」
宗太郎は呆れたという顔をした。
「世間体とか、相手の両親や家族に迷惑がかかるとか、そんなこといいじゃない。一番大切なのは、里ちゃんの気持ちだと思うわ」
「向こうの両親のこと考えたら、それじゃすまないよ」
「里ちゃんは、相手の両親と結婚するわけじゃないでしょ?」
「それはそうだけど、結婚自体が破談になるかも知れないじゃないか」
「それも、里ちゃんと相手の人との縁というものよ」
「みっちゃんは、里子に幸せになってほしくないのか」
宗太郎の声が心なしか大きくなった。
「そんなわけないじゃない。私だって、里ちゃんの幸せを願ってるわ。ただ、望まない結婚をしても、幸せにはなれないと思うの」
「望まないわけがないよ。ふたりは好き合ってるからこそ、婚約したんだ」
「今のコは難しいの。いくら好き合ってたって、いざ結婚を前にすると色んな不安がつきまとうのよ。この人はほんとうに生涯の相手なんだろうか、私にはまだやり残してることがあるんじゃないだろうか、とかね」
「そんな我儘が通ってたら、世の中、結婚する人がいなくなるよ」
「それでも、今はそういうものなの」
「……………」
宗太郎は黙りこみ眉根をよせ、すっかり冷えた珈琲を口にした。
「そんな顔しないでよ、義兄さん。気持ちはわかるけど……。私から、里ちゃんに話を訊いてみるから、ね」
宗太郎は何も言わず、置いたカップに眼を落としていたが、
「里子には幸せになってほしいんだ。それは父親としての望みだよ。悩みごとだって聞いてやりたいんだ。だけど……、男親は不自由だよ」
俯いたまま、ため息のように言った。
「義兄さん……」
肩を落とし、少し傾斜した顔と、口端にゆがんだ笑みを浮かべる宗太郎を見ていて、美都子は胸が熱くなった。
「義兄さん大丈夫よ。里ちゃんいいコだもの。絶対幸せになるわ」
「そうだな……」
「そうよ。義兄さんと姉さんの娘だもの」
「みっちゃん。里子の話、よく聞いてやってください」
宗太郎は頭を下げた。
「義兄さんやめて、そんなこと。私にとっても、里ちゃんは可愛い姪なんだから」
宗太郎は頭を上げると、薄い笑みを浮かべた。
「そうだ。今日は義兄さんの家で夕食つくるわ。そのほうが里ちゃんの話も聞きやすいし」
「悪いよ、そんなこと」
「私がそうしたいんだから、いいじゃない」
そう言うと美都子は席を立ち、伝票を手にさっさとキャッシャーに向かった。
そんな美都子の背を呆気にとられながら宗太郎は見つめた。
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