エリミネーター~ 月よりの感染者~

星 陽月

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チャプター【41】

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「しかし、あのふたりが、獣化してしまったのには驚いたよ。だが、ようやく、人間の姿になることができるようになりはしたが、臓物やはらわたを喰らうのは、やめられぬらしい」

 苦笑交じりに、九鬼が言った。

「獣化してしまうのは、人間の本質にあるらしいわ。凶暴性を奥底に秘めた人間が、どうやら獣化してしまうのよ。そう言えば、1000年前にも、同じことがあったわね。正確には、1000年の少し前だけれど」

 九鬼の話しに合わせて、木戸江美子が言った。

「あれは、月に停泊している我らの母船から、この星へ偵察に向かった者たちだったな。その偵察隊は規定を破り、人間の新鮮な血を求めたんだ。そのあげく、数人が獣化してしまい、その者たちは鬼と呼ばれた。あのときも、この日本という小さな島国には、あのS・M・Tに似た者たちがいたな」
「武士という人間だったわ。でも、その武士たちよりも厄介だったのは、陰陽師と呼ばれた者たちよ」

 ふたりは、過去にあった出来事を、確認するかのように語りはじめた。

「そうだったな。偵察隊が人間の肉体に宿り、他の人間の体内に自らの遺伝子を送りこんで組み替えたその遺伝子を、その陰陽師らは呪術によって打ち払ってしまった。科学も知らぬ人間がだ。そのうえ、獣化した人間を式神なるものにし、操りもした。偵察隊は危機感を感じたのか、母船に応援部隊を要請してきた。だが、我らはそれを無視した」
「当然よ。規定を破った彼らが悪いんだから。それどころか、私たちが猿人(アウストラロピテクス)から遺伝子操作によってホモ・サピエンスへと進化を促した人間に対し、恐れをなして応援を呼ぶなんて、我が種族としてもっとも恥ずべきことだわ。あのころの人間は、知的生命体と呼ぶにはまだ程遠い存在だったから、侮(あなど)っていたんだわ、きっと」
「その侮りがもととなり、偵察隊10人の中の3人が斃(たお)されるというお粗末な結果を生んでしまったんだ。あとの者たちは散り散りとなって、この日本に残る者と他国へ渡る者とに分かれたらしいが、その後はどうしているのか」
「私のこの肉体の脳には、ヴァンパイアという記憶があったわ。その記憶によると、ヴァンパイアとは2本の牙が伸びていて、人間の首のつけ根を咬んで血を吸い、咬まれた人間は同じヴァンパイアになって甦るというものだった。これって、この星に残された者たちのことじゃないかしら」
「俺の肉体の脳にも、同じような記憶があったよ。この星の中世後期、ルーマニアという国にヴラドⅢ世なる者が存在し、吸血鬼ドラキュラのモデルになったということや、君が言ったヴァンパイアや狼男などというものが、120年ほど前から映画やTVドラマになっているということがな」
「その他にも、雪男やビッグフットといった未確認動物(ユーマ)や、トロールという巨人の妖精の伝説もあるわ」
「この国にも、天狗や河童などがいたという伝説がある。どれも、我らの同胞とその同胞によって、真人と化した者たちとみてまず間違いないだろう」
「いまもどこかで、7人の同胞と真人たちは生存しているのかしら」
「うむ。俺がこの肉体に宿り、この星へ来てすぐに、我らの存在を人類に知らしめるためネットを使ってメッセージを流したが、あれは同時に、この星に残された同胞たちへのメッセージでもあった」
「そうね。なのに、彼らのだれひとりとしてやって来なかったわ」
「あのメッセージが伝わっていないのか、それともすでに生存していないのか」
「または、メッセージが伝わっていながら、無視してやって来ないのか……」
「そうだとしても、無理もないことだ。同胞とは言ったが、我らも彼らの応援部隊要請を無視し、母船へもどすこともしなかった。規定を破ったとはいえ、彼らにすれば見捨てられたと思ったに違いない。それをいまさらなんだ、といったところだろうよ。しかし、考えてみれば面白いもんだな」

 九鬼は、口端をかすかにゆがめた。
 嗤(わら)ったらしかった。
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