遑神 ーいとまがみー

慶光院周

文字の大きさ
1 / 82
第1章

first episode 終わって始まる物語 

しおりを挟む
 重い……―――



 初めは黒い水が泥のように纏わりついて全身に濡れた毛布を何枚も被せられたように重く、動きづらいことに気がついた。



 見えない……―――

 目を開けると何も見えない。いや、見えないのではなく辺り一面が黒いのだと間を置いて知った。闇ではなくただ純粋な黒、その黒い空間の中で爪先に当たっている僅かな感触により辛うじて自分の足が下を向いてないと知る。
 そこからは水を押し退けようと両手で掻き分けてみるが指の間から漏れた水に邪魔をされて難しい。

 動きづらい、と口を動かすと口内にどろりとした水が微かに侵入し咽せる。吐こうとするとまた水が入ってきて咽せるの繰り返しになる。
  それでもここから出なければならないと今度は足も動かしてみる。すると沈殿した泥に足が確実についただけでなく底が波打ち際のように緩やかな斜面になっていることに気づいた。水の中特有の抵抗感を我慢して上を目指し水中を歩く。
 途中、一度泥に足を取られると全身に水の重圧を感じ、歪めた口元からまたどろりとした水が大量に入り食道を通って胃に溜まる。

 もう一踏ん張りして足を動かすと頭部が軽くなった。そのまま歩くと視界に黒以外の色が見え呼吸が出来るようになった。水が水面に落ちていくと視界が徐々にクリアになり黒以外の色が分かる。




 白だ、

 と言っても白い物でもなく人でもない、光の玉だった。球体は私が完全に水から上がると同時に豪速球でこちらへと飛び込んでくる。

 「よぉす! 久しぶりだねクロぉぉぉおおおお!!!」
 「五月蝿い」
 「あべしっ!」

 変な声を上げて光が黒い土の上に落下して跳ね返る、そしてまたバウンドしてこれまた黒い鍾乳洞のような岩で出来た天井にぶつかり私の肩へとぶつかることで落ち着いた。

 「痛……くない! おいクロ感動の再会じゃないのか? お姉ちゃん寂しかったんだぞ!」
 「の、割には元気そうだが? 久しぶりではあるな」
 「酷い! 俺なんかあまりにも寂し過ぎて現代で彷徨ってたんだぞ」
 「思いっきり人生謳歌してるじゃないか」

 何が寂しいだと手で光を振り払うがただの光なので擦り抜けるだけで終わる。
先程のはただの演技だったという訳だ。

 「クロ酷い。俺は蚊じゃないのに」
 「同じようなものだろ」
 「oh……まあ当たってるんだけどね。とりあえず気を取り直しまして、……おかえりクロノス、元気だった?」
 「ああ、ただいま。元気ではないけどな」
 「あははは! だよね~そんな真っ黒な血塗れの殺人鬼みたいな格好だとね~。で、話変わるけどこれからどうする?」

 肩幅を測るようにぐるぐると動いていた光が顔に近づいてきた。いきなりだな。

 「そうだな、まずは……」






 そして全てがとある神のこの一言から始まった。
「皆に伝えることがある。落ち着いて聞いてほしい」
 ざわめく神々。そして次の瞬間、その衝撃は神々の住む天界全土に響き渡った—―――――

「私は隠居することにした。あとは次世代に任せた」

 「「「……はぁ???!!!」」」

 この事態により神々が住む天界は一変した。
 まず、なぜこうなったのか会議が開かれた。次に、その神の部下たちがどうするんだ、もしや次世代が強制的に隠居しろと言ったのではないか? という話になったり。など、
 いろんな問題が発生したが当の本人である神はどこ吹く風。もういいだろうと言って説明もせずに本当に隠居してしまった。
 以来、その神が表舞台に立つこともなく、のちの話でも出て来ることは無かった。しかしこの神は未来では人間にも神々も名前はしっかりと伝わっていた。

その神の名前がクロノス。そう、現代でもゲームなどに悪役の親玉としてよく登場するあのクロノスだ。
 しかし、彼はあとになって気づく。自分が呑気に隠居なんて出来る筈がないということを……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...