遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

異世界の異世界

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 「なぁクロ……」
 「何だ新月」
 「思ったんだけどさ」
 「ああ」
 「この世界って調味料が壊滅的じゃね? 醤油欲しい! ぎぶみーしょうゆ! 究極の一品T☆K☆G☆すら出来ないなんて……なんたることだ!!」

 朝市で買った林檎を物凄い表情で齧りながら新月が悪態をつきずいずいと顔を近付けてくるかわりに周りの客は引いていく。

「お前は日本人じゃないのに醤油を欲しがるのか? まぁ、分からなくはないが……」

  日本人じゃなくてもハマっるんだよ醤油は! と新月が叫んでいるがそればっかりはどうしようもない。無い物は無いんだ。それよりも態度を直して欲しい。

 私は横に視線を向ける。
 ハリスは横でサンドイッチを食べているが隣の新月の態度に萎縮してる。私が見ているのに気がつくと、ハリスは助けてと目で合図をしてきていた。
悪いなハリス、助けたいが3人席なのでどうしようもない。我慢してくれ。



  私達は昨日の騒動の後、何も買えなかったので朝に開催される朝市に来た。昨日はコアや採集した物を金に交換したものは全部で金貨1枚だったので私達、特に新月は買う気満々だった。私もこれだけあれば朝市の売り物も大抵は買えると思っていたのだが問題があった。それはこの会話でわかるだろうが調味料がなかったのだ。
 いや、訂正しよう。あるにはあった、塩や胡椒、ハーブ。シナモンなんかの香辛料はあった。高級品だったけど。
 ちなみにソースも高級品。しかも味は風味よりも権力の象徴である高級香辛料がごちゃ混ぜに混ざったものだったので買う気にはなれなかった。

 困った私達は昨日の騒動があった広場で開催されている市場近くのカフェで少し遅い朝食を取っているところ新月が愚痴りだしたという訳だ。
 で、醤油を新月が欲しがっているがどうするかが問題だ。私だって調味料ぐらいは欲しい。
 自分で出してもいいがこの旅の目的は買い物も含まれている。なら、私が出してばっかりだと意味がない。なら……

 「ならいっそ別の所に買いに行くか? 私達がよく行っていたあれ・・の金ならまだ結構残ってるぞ」

 その瞬間、ガッタ!! と大きな音が上がる。
 私の提案を聞いた新月が林檎を放り出して立ち上がった音だった。

 「よし乗った!! ギルドには入ったんだー! クエスト……じゃなかった依頼を受けるのはゆっくりやればいい! てか依頼を受けるときか採取したコアなんかの交換する時以外は行きたくない! 俺は賑やかなものは好きだが犯罪集団の中に飛び込む勇気はないぞ」

 どれだけギルド嫌っているんだ。お前自身が行きたいと言った癖に。十人十色という四字熟語もあるんだ普通の人間もいれば特殊な人間もいるんだからこればっかりはどうしようもない。
まぁ私も好き好んで行こうとはあまり思わない。が、入ってしまったんだから仕方ないと諦めて前向きに考える努力はするつもりだ。

 「ハリス。お前はどうする。留守番するか?」

 ハリスにも一応聞いてみる。
 ギルドは何歳からでも入れるが13歳以下の子供はGランクで、大人の冒険者とペアにならないと薬草を摘んだりする非戦闘の仕事などしか出来ないとギルドを退散する時に貰ったギルドの掟の書に書かれていた。

 このギルドの掟の書だが本来は受付の人が口で説明するものだったのだがギルドにはヤバイやつらが多く、長居をしたくないという新人冒険者のためのルールブックのようなものらしい。おかげで仕事が一つ減ったと受付嬢が話していた。

 で、ギルドで分かったことだがハリスは12歳。だからハリスは簡単な仕事しかできない。私と新月がいれば問題はないが今日買い物をしに行くとなるとやれる仕事が限られてくる。

 「そうですね……俺は朝一でGランクの王都の掃除の依頼を受けようかなって考えてたんですけどちょっと思ったより時間がかかっちゃたのでやめます」

 ハリスが今日のギルドに行こうとして辞めたのには訳がある。掟の書には、

ーーーーーーーーーー
 ギルドの変態が嫌な冒険者は朝一番でギルドに来て依頼を見るといい。
昼になると変態が出て来るのでこれがオススメだ。
 ギルドは24時営業をしているのでどんなに朝早くから来てもいいように5時には新しい依頼を見れるようにしている。
ーーーーーーーーーー

と書かれていたのだ。ギルド側が冒険者を変態扱いするのを公認していたのには少し思うところがあったがまさかギルド公認の変態がそんなにいるのかと、そりゃ新人冒険者のためのルールブックを作らないといけなくなるわけだ。

 ちなみにハリスのステータスはギルドカードを作る時に初めて見たが以下のものだった。

***********************

【Name】 ハリス

【種族】人間

【性別】男

【年齢】12

【Lv】1

***【称号】***************
【捨て子】【*の弟子】
***********************

【体力】20
【魔力】100
【攻撃力】9
【魔法攻撃力】9
【命中率】15
【防御力】10
【知力】30
【素早さ】15
【精神力】15
【運】60

***【装備】***************
武器 :なし

頭  :なし

腕  :なし

上半身:見習い魔術師のマント、木綿のシャツ、ベスト、
時の神の祝福受けしルビー (攻撃+50、体力+100、素早さ+120)

下半身:木綿のズボン

靴  :靴下、革靴

***【スキル】***************
なし
***【特殊スキル】*************
なし
***********************
【職業】冒険者、弟子
***********************


 おそらく、*の弟子とは間違いなく『神』が入るのだろうが私がまだ弟子と認めていないから伏字になっていたんだろう。おかげでギルドでは少し不思議に思われた。ステータスは受付嬢によると『どこにでも居る子供と同じステータスだけど魔力だけは子供にしては多い』らしい。リボンヘアーが蛾のようにバサバサと揺れていたので話よりもそっちの方に目が行ってしまったが。

 「ではハリスも大丈夫なら行くか」
 「へーい、では行くとしましょーう! ついでに建築関係の本も見に行こう!」
 「わかりました。建築関係……? の本が必要なのは知りませんがクロス様と新月さんが行くなら俺も行きます」

 ハリスもついて行くことになったため会計を済ませた後、私達は王都を出た。


 「右よーし! 左よーし! 前よーし! 後ろよーし! オールクリア、誰もつーか何もいない! さっさと行きまひょ」
 「え?行くって王都の店じゃなかったんですか?」

 新月が楽しそうな顔をしてるのに対してハリスは不安そうな顔をしている。王都の店に行くとでも考えていたのだろう。残念ながら王都ではない。
 ハリスには悪いがいうと余計に不安にさせるだけだろうから秘密にさせて貰おう。

「それは行ってからのお楽しみだ。新月行くぞ、スタシス」
「よし来た!」

 新月に命令をしてスタシスを掴む。ハリスが驚いた顔をしてるが早く済ませたいので無視させて貰う。空を切るとハリスの手を掴んですぐに中に入った。

 数秒、王都の城壁近くにいた人影はまるで存在しなかったように跡形も無くなっていた。





 「はい到着!! おいでませ、異世界へ!!」
 「ウホウェ………」

 ハリスがまた吐いた。さあ行くかといわれて何もない所に出来た切れ込みに襟を掴まれて連れ込まれたんだ。挙げ句の果てには上下左右に揺らさせれば誰だった吐く。私と新月は慣れてるから平気だが。

 「うぅ……、死ぬかと思ったじゃないですか!!」
 「すまん」
 「めんご☆」
 「謝り方が軽い! 特に最後!」

 新月が可愛らしく手を合わせて謝っているが逆効果だった。新月よ、流石にぶりっ子は効かないぞ。

 「今度からはちゃんと説明してから行動して下さい! でないと俺や俺と同じようにクロス様と新月さんに運ばれる人が辛い思い(死を覚悟すること)をするんです! 良いですか?!」
 「「……スミマセン」」

 大きな声でハリスに怒られ私と新月が二人してシュン、っとなる。
 ハリスに怒られてしまった。楽しんでもらえると思ったんだが駄目だったらしい。次からは気をつけよう。

 「で、ここはどこなんですか? 新月さんは異世界って言っていたような気がしますけど」

 話を変えてハリスが質問をしてきた。ハリスが疑問に思うのも無理はない。

 ここは異世界とは言っても普通の異世界とは少し違う、世界と世界の貿易をする為だけの世界だ。そのために普通の世界とは違う空の色や、季節が無いのが特徴として上げられる。
 そして今私達がいる所は少し貿易をする場所から離れているが、少し行った先には購入するための百貨店のような所がある。

 「異世界……本当にそんなものあったんだ……でも異世界にこんなに簡単に来れるってクロス様達は本当に何者なんですか?! 教えて下さい」

 異世界に来たという驚きより私達の正体の興味が優ったらしい。が、まだ私は弟子とは認めていないぞハリス。だから教えるのにはまだ早い。

 「言っただろ私が認めたら教えると。ほら、行くぞ」

 このままここに居たらずっとハリスが質問してきそうなので先に進む。済まないハリス、もしかしたらもうバレているかもしてないがシラを切らせて貰うぞ。

 「あー、教えてくれも良いじゃないですか~!」
 「おーい、俺は無視か? 頼むから置いてかないで! 新月ちゃん寂しいぞ~」

 後ろからハリスの声がするが無視して進む。新月も付いてくるけどあいつは無視より放置でいいか。


 しばらく歩くと目的地の場所に着いた。
 この建物の外見は普通の百貨店に見えなくもない。しかし、百貨店とは比べものにならない程の建物の高さ、大きさ、装飾をしているので見た目は全然百貨店とはいいがたい。それがここ『monde du commerce』、日本語に翻訳するとそのまま『交易世界』と呼ばれるものだった。

 中に入った私はまず始めにこの建物のパンフレットをハリスに渡した。勿論、迷子になった時のためだ。

 「よし、まずは食品。その後いろいろ回るがはぐれないように一人行動するなよ。特に新月」
 「え、注意するの俺だけ?」
 「お前が一番勝手に動くからな」
 「ヒドス! でも合ってる!」
 「ハリスは新月が何処かに行かないように見張って置いてくれ」
 「はい!」
 「え~! 子供のハリスくんに見張られるなんで酷くね? 普通、逆でしょ?!」

 新月がグダるが聞くのも疲れるので聞かない。とっとと食品売り場に行こう、行けば新月も黙るだろうし。

 「では行くぞ」
 「はい! 新月さん、俺より先に進んで下さい」
 「うそーん!( -₃- )」

 さらにグダり始める新月をハリスが新月の背中を押して歩かせながら私達は食品売り場の方へ向かった。
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