遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

勇者(?)と脇役

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 「悪かったって言ってるだろ。確かに色々買い過ぎたよ? でもちゃんと貰った金の範囲で買ったんだから許してよ~」
 「勝手にふらふらと動いて許してもなにもないだろ。本の代金払ってなかったくせに」
 「サーセンした」

 あのあと、新月を引張って元の世界に戻ってゲルの中で新月に説教していた。
 私とハリスは椅子に、新月はリビングで正座をして話し合っているが、こいつからは反省の色が見えない。

 「あのー、話が終わったのならちょっといいですか?」

ハリスが口を挟んだ。

 「クロス様が呼ばれた時に新月さんのことをレモーネ様とかって言ってましたけどなんでですか?」

 そう言ってハリスは不思議そうな顔を向けた……レモーネ?
 そんなのもの……あったな。

 と思った瞬間、さっきまでシュン……としていた新月がゆらりと立ち上がった。

 「あー……クロ~? 確か君が俺の自己紹介したよな~?!」

覚えてたか、



 「あぁ、したな」
 「その時俺のことなんて言った?」
 「新月……」
 「俺のことはなんて言ってくれっていった~?」
 「……レモーネ」

 言った瞬間、新月が自分の座っていた所を指さす。ここに正座しろというジェスチャーだ。

 ……怒りの気配を察知した。
 床に座ると新月は今まで私が座っていた椅子に座り息を口いっぱいに吸い込み、口を開けた。

 「バッカヤロウーー!!」

 口調に怒気が混じる。分かってはいたが、怒られた。

 「このマヌケ! アホはどっちだよ~?! バーカ、アーホ、ドジ、マ~ヌケ~、君のかーちゃんでべそ!」

 あーでも君のかーちゃんっていないよな、いても娘wwwと言って笑っている。確かにそうなんだが、新月、お前言ってることが幼稚園児か。

 「幼稚園児じゃねーよ。でも、まぁ、過ぎたことはしゃーないか。ハリスくん」

 新月はむすっとした顔をして諦めの色を浮かべると今度はハリスの方に向き直った。
今まで話に置いて行かれて黙っていたハリスが当然自分の名前を呼ばれてビクッと跳ね上がった。

 「え、あ、はい」
 「悪いんだけどさ~、俺の名前は新月で合ってるんだけど名前とファミリーネームと一緒にするとチグハグだから出来れば人前ではレモーネって呼んでくれる? 面倒くさくなるし」

 ハリスははぁ、というような顔をした。一応納得して貰えたらしい。ならこの話はもう終わらせてもいいだろう。

 「わかって貰えたならいい。新月も悪かったな。もうこの話は終わりだ。さあ、夕飯にしようか」
 「わかりました」
 「あー! 話逸らした! 酷いぞクロ。罰として今日の晩飯は君が作れ!」

 ハリスは素直に許可してくれたが新月はそう簡単にいかなかった。
 作れと言うかただ単に作りたくないだけだろ。しかも料理なんてもの私は簡単なものしか作れないぞ。例えば、

 「野菜炒めと肉じゃが、シチュー、カレーのどれかになるがいいのか」
 「あ!! そうだった! クロは漫画の主人公みたいに『料理の腕はプロ級!』 といかないもんな、うーんじゃ、カレーで!」

 という一言で今日の夕飯はカレーになった。勿論、私一人で全部作らされた。


****

勇者(?)達

 「ようこそお出で下さいました!!」

 笑顔で両手を広げているドレス姿の美女がそう言った。



 辺りを見回すと城のようだ。ベルサイユ宮殿の鏡の間のように豪華な部屋。大理石らしき床には魔法陣のようなもの。
 ドレス姿の女性の周りには18世紀あたりの貴族が絵画の中からそのまま出てきたのかと言いたくなるような格好をした人間や甲冑を着た騎士のような人が何人もいた。
 後ろを見ると薫や美海、佳奈に吹雪さんが俺と同じようによく分からないといった顔をして立っていた。

 「皆さんまずは落ち着いて下さい、私は神聖カルットハサーズ王国の第2皇女のアデリーナ・カルットハサーズと申します。今回、我々の召喚に応じて頂きありがとうございます」

 櫛で梳いた髪が鏡のように輝くブロンド、海の底のように青い目、
 それをさらに際立たせる美貌とスタイル。
 小さい頃に読んだお伽話に出てくるお姫様がそのまま現れたようだった。

 「あのっ、召喚ってなんですか? 一体なにが目的なんですか。私達はただの高校生です! 今すぐに帰えらせてください!!」

 警戒しながら美海が叫んだ。するとアデリーナはにっこりと笑うと手を上げて貴族達を壁際に下がらせると、

 「そのことについてはご説明します。皆さんどうぞ。国王様の玉座に案内致します」

 と言って俺たちを誘導した。




 アデリーナについていくと飴色と装飾が綺麗な扉が見えてきた。騎士が扉を開ける。
 さっきの部屋よりももっと豪華な部屋が広がっていた。壁際は豪華な装いをした貴族達がいて見えたかったが先の方にあるのであろう玉座の方からここまで赤い絨毯の道が作られているのだけはわかった。
 アデリーナは国王の玉座まで来ると後ろに二歩下がってお辞儀をしたあと、斜め右側にずれて控えた。

 なんとなく自分達もお辞儀をすると国王からの説明が始まった。

 「よくぞ召喚に応じてくれた勇者達よ。余はこの神聖カルットハサーズの国王、モートル・カルットハサーズである」

 玉座に座った王はこちらを品定めするような目つきでこちらを見ながら自己紹介をすると「では早速本題に入るとするが」と言って咳払いをした。

 「お前達をこの世界に呼んだのは他でもない魔獣の凶暴化の原因を解明して欲しいのだ。
    実は近年、魔獣の数が増えていてな。増えるだけなら冒険者ギルドの方に依頼を出せばそれで済むのだがそれだけではない、魔獣達が凶暴化しているのだ。これはこの国だけの問題ではない、この世界の問題なのだ」

    真顔ですらすらと王の口から出てきたのはとんでもない話だった。普通こういうものは魔王がいてどうたらこうたらというものだろうと思っていたのに話には魔王がいなくて魔獣と言われるやつらの凶暴化だけ。これだけでは原因なんてものもまったく見当が付かない。

 「おそらく、誰かが裏で糸を引いているのは間違いなのだがそれも検討が付かない。そこでだ、お前達にこの問題を解決するのを手助けして欲しい。
   なに、お前達だけでやれとは言わない。ここにいるアデリーナを同行させよう。アデリーナ、前へ」

 アデリーナが国王に呼ばれて俺達の前に出てくる。
 普通ならこういう時嫌な顔をするだろうが、アデリーナの場合は俺達が来る時からこうなるとわかっていたんだろう。覚悟を決めた顔をしていた。

 「はい」
 「アデリーナは光魔法だけでなく剣を持っての戦闘にも優れておるからな。仲間としても申し分ないだろう。さらに剣や魔法の特訓のために宮廷随一の騎士と魔導師をつけよう」
 「すみません、話の腰を折るようで悪いのですがいいですか?」

 吹雪さんが話を遮った。
 国王の目つきが鋭くなるが吹雪さんはそれに怖気付くことなくじゃべり出す。

 「国王様は話をとんとんと進ませているけど私達はまだやるとは一言も言ってないわ。それにこの問題を解決したとして私達に何かメリットがあるの? 国王様は私達を無事に帰してくれるともまだ言ってないし」

 言われてはっとする。
 そうだ、たとえ俺達が問題を解決したとしてもこの国王は無事に帰れるとは言っていない。

 「そうだ、吹雪さんの言う通りだ。俺達全員が無事に帰れる保証はあるのか?!」
 「そうネ! チャンと帰れるのか教えてデース!」

 さっきからずっと黙って見ていた薫と佳奈が叫んだ。うん、もっともな意見だ。
 俺達は国王に疑いの眼差しを向けと国王は瞼を閉じて答えた。

 「それはもっともだ。ではこうしよう、お前達は魔獣に専念する。その間この国は総力を上げてお前達の帰る方法を見つけておこう。そしてこれはお前達のメリットだ、一人につき一回だけ余の力で叶えられる範囲のものならなんでも叶えよう。どうだ?」

   周りの貴族が騒めくのも無理はない。なにせ国王が公式な場で平然と出来る範囲のものなら一人一つづつ叶えてやると言ったんだ影響力は大きいだろう。もしそうなら全然大丈夫じゃね? 帰れるんだろ?
   ついでに困っている人達の人助けも出来るならオッケーだ。



 「わかりました。それならいいですよ」
 「え?! ちょっと拓也!」

 美海が水を差す。
 なんだ別にいいじゃないか。どうせやらなきゃ駄目なんだから。

 「無理だ美海、拓也がこう言ったら何が何でもやるってわかってるだろ」
 「そうね、私は拓也くんの意見に同意するわ。このまま帰れないのも困るし」
 「ワタシもやるデース!」
 「うん……、そうだよね。分かった」

 決まったな。

 「というわけだ俺達はこの世界を救うために戦おう。しかし国王よ、約束は果たしてくれよ」
 「ああ、余の名前に誓って叶えよう」


―――こうして俺達の冒険は始まることになった。



****

????

 ……痛い、体もだが喉も痛い。なんだ?
 まず起き上がって辺りを見回す。



 右を見る。木々が生い茂っている。左を見る同じく木々が生い茂っていて鬱蒼とした雰囲気が漂っている。
 森だ。童話の中にでも出てくるようなザ☆森だ。次に上を見る、うん夜だ。ホシガキレイダナ(現実逃避)
 少し現実逃避をしてから周りを確認する。すると、コンビニの店員服を着た店員であろう男女が倒れていた。なぜに。

 次に自分のことを改めて再確認。
 顔良し、怪我はない。服良し、破けてたりはしてない。靴良し、片っ方が行方不明とかはなってない。鞄確認良し、何も取られてない。
 動けるか。うん普通に動ける、拉致られたわけでもない。(うちにはそんな金もないが)



 では俺の名前確認。
 木戸 稔    18歳。都立高校の三年生。ちょいオタ。               
 好きなアニメはちょいグロ系。現在は大人気ゲームの『運命』のオープニングで流れてる曲のグループのファンクラブにも所属。
 現在大学受験期間にある。

 よし、なんも問題は……ある。
 なんで俺はこんなところにいるんだ?確かコンビニに……
 コンビニ? そうだ。俺は大学受験の合格発表を見に行った筈だ。
 結果はなんとか合格。凄く嬉しかった。合格したのも嬉しかったがそれ以上に大事な予定のコンサートに気持ち良く行くことが出来ると思ったからだ。

 それに、コンサートは一人で行くんじゃない。ファンクラブに入った時にクラブ公式のチャットというものに入って近くに住んでるという『シンシン』さんと『カクテル』さんという気の合う人達とコンサートに行きがてら顔合わせをしようということになっていた。(ちなみに俺のハンドルネームは『きっどん』だ)

 そのあとは、確か学校に行って授業をぼーっと聞き流したあとコンビニに寄ってジャ●プを立ち読みしてた。そのあとの記憶がない。
 もしかしてこれは異世界召喚とか異世界転生とかってやつか?!

 やったーーー!! まじか! これで俺も勇者に……じゃねーよ!! 



 巫山戯んな!! コンサート明日なんだぞ?! 行けねーじゃん、それにここどう見ても城じゃない森だ。
 姫もいなきゃ王も兵士もいない。いるのは気を失っているコンビニの店員×2!
 これ絶対に巻き込まれ召喚ってやつだろ?! なんか巻き込まれになるようなことがあった筈だ。思い出せ!!
 えーと、あぁ! 確かコンビニの前に高校生らしき集団がいた。そのせいだ!!

 なにが異世界召喚だ。巻き込まれ召喚なんて悲しいだけじゃねーか。よし決めた、そのクソ勇者達と召喚術した国呪ってやる。
 明日から毎日、コピー紙で切る呪いをかけてやるよ!(ちゃちいとか言うな)


 しかし、そうなると俺もだがこのコンビニの店員×2は……巻き込まれつーか、この人達もとばっちりじゃん! あー今日バイトだ。嫌だな~とか思いながらバイト行ったらこうなったんだろ?  うわぁ、可哀そ過ぎる。
 とりあえず起こして見るか。



 1、コンビニの店員×2の近くまで行って観察する。
 コンビニの店員雄型の方(ネームプレートが暗くて読めないから適当だ)はなんかこう、頼れる兄貴見たいな感じだ。
 雌型はなんか近くで見るとすっごくパンクな人だ。少し空いた口から舌ピアスが見えるし髪も黒髪に見えてたけどこれスプレーだ。

  2、起こしてみる。
 まずは雄型から起こそう。強そうだし、


 「あのー、すみません」

   起こさなきゃいけないので全力で揺さぶる。悪いな、痛くても我慢してくれ。

 「ぐっ、痛って! ……ここは」

 凄く痛そうな顔をして雄型が起き上がる。ごめんよおまえを起こすためだったんだ殺さないでくれ。
 続いて雌型を揺さぶる。こっちは軽く揺さぶっただけで起きてくれた。

 「ん……え?」
 「大丈夫ですか?朝比奈さん」

    雄型が雌型に声をかけた。雌型は朝比奈というらしい。続いて朝比奈さんが雄型に声をかける。

 「笹島くん、ここはどこだかわかる?」

   雄型は笹島というらしい。これで二人の名前は雄型と雌型から卒業した。おめでとう。二人がこっちをじっと見つめてくる。あ、もしかしたら俺が何か知ってると思っているのか。
 先に釘を刺して置こう。問い詰められても困るからね、

 「大丈夫ですか? 御二方、あぁ、俺に聞かないで下さいね。俺もさっき起きたばっかりなので答えられません。けど、こうなった原因は想像出来てます」
 「え? あ……君は確か店内で立ち読みしてた子だよな。原因とはなんだ?」

 笹島さんが真剣な顔で聞いてきた。二人を座らせて話をする。

 俺は自分が考えたこととお陰でコンサートに行けなくなったこと(俺の怒りを知って貰うためだ)を彼らに説明すると信じられないといった顔をした。



 「にわかに信じられない話だがコンビニが無くなっている以上、本当のことなんだろ?
 あとお前の怒りもわかる。そのコンサートってのは●●だろ? 俺も知ってる。というかファンクラブに入ってる。名前は『シンシン』というんだが知ってるか?」
 「え、まじ? 笹島君が『シンシン』? じゃああたしのも教えてあげる。あたしも会員で『カクテル』なんだ~。まじで偶然じゃね?!」
 
 ………………………………………………
 ………………………………
 ………………




 「「……えっ?!」」「え、ここカミングアウトの場面じゃねーの……?」

 笹島さんと朝比奈さんがほぼ同時のタイミングでカミングアウトした。マジか、マジか、マジだ……oh。何たる世間の狭さ。

 「あー、とりあえず今は三人で話し合いしましょう。行動は明日からです。街まで行けば情報が入ってくる筈です。俺達を巻き込んだクソ勇者達の情報とか」
 「あぁ、そうだな。木戸くんの話を聞く限りまず街までは行かないとな。俺だってコンサート楽しみにしてたんだ。勇者ってやつらはワザとじゃないのはわかる。
 が、自分達の問題を異世界の人間を呼んで押し付けるようなやつらがいるとしたら、それは許せないな」

 笹島さんの顔が少し厳つくなった。
 クソ勇者達よりも笹島さんは召喚術をやったやつらが許せないらしい。

 「うん、あたし明日のコンサート楽しみだったんだよ? あたしフリーターだからコンサートに行くのって凄く大変なの金銭的にね。だからバイト増やして何とかチケット買ったんだ。だからあたしからコンサート奪ったやつらがどんな顔してるか見るために、あたしも木戸くんについて行くよ」

 朝比奈さんは泣きそうで辛いといった感情が表情だけでは無く声からも聞き取れる。確かにコンサートのために頑張って働いたのにこんなことで全てが水の泡をいうのも悔しんだろう。

 「決まりましたね。ではお互いのことをよく知るためにさっき言った通り話し合いましょう」
 「あぁ」
 「うん」



 こうして俺達は夜明けを待ちながら親睦を深めていった。
 そして、これの恨みの力が元になり三組のパーティが出来ること、パーティがそこそこ有名になったおかげであの人達に会うことになるのをこの時の俺達は想像もしてなかった。
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