遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

ギルマス

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 応接室に通されたあと私達は大きな革張りのソファーに座って紅茶を飲んでいた。
 階段を登った先にあった応接室は広くカーペットか敷かれていて壁紙、絵画、ソファー、テーブルと目についたものはこれぐらいだったが全てが調和していて違和感はない。
   むしろ他に何かを足したらおかしくなるだろう。しかしどれもこれも簡素だかよく見るとカーペットはありきたりな模様だが縁に細かい唐草模様が織られているし、壁紙はカーペットに合わせてある。その他のも値段の高いものばかりだろう。

 ただ待っているだけでは暇だったので写真を撮っておく。この部屋は偉い人間が来た時用かなんかか? そう考えているとしばらくして中年の男とさっきの受付嬢が入って来た。
 呼んだのはあっちなのに待たせ過ぎだろ。もう少し早く来るべきじゃね? と新月が小声で話しかけてきた。確かに。

 「待たせてすまない。あぁ、立たなくて結構」

 男はハリスが立とうとしたのを止めて私達とは向かいの一人掛けのソファーに座る。

 「さてと、何から話せばいいのか。そうだ、まずは自己紹介だな。私はこのギルドのマスターをしてるマルクス・クローゼだ。
 あぁ、クローゼというのはギルドマスターになった時に女帝から授かったのもだ。アグレスお前も自己紹介しなさい」

 マルクスが軽く自己紹介をして側に控えている受付嬢(アグレス?)に自己紹介をさせた。

 「私は受付嬢をしておりますアグレス と申します」
 「クロ……クロス・カオス」
 「し……レモーネ・カ、カオス」
 「ハリスです」

 続いて私達も名乗っておく。危なかった、私と新月、両方が本名を言いかけた。

 「というわけだ。何か質問はあるか?」

 質問と言われた瞬間新月が口を開く。

 「ギルマスがギルド登録をして四日の冒険者(笑)のために出て来るなんていったい何があったの? あと、あの報酬額ってあいつ一体であれってなんかあった?」

 分かっていてその質問をするのか。あとギルマスって省略形かと小声で新月に聞く。

 「ギルマスって省略形か?」
 「ギルマスってのはヘパちゃんとかホイっぺみたいな愛称だよ。愛嬌あるでしょ」

 愛嬌か……、なら私もそう呼ぶか。

 「新月さん、せめて少しでも敬意を……まぁ、いいです」

 向かいにいる二人が苦笑した顔をする。

 「分かった。まず報酬の話からしよう。あのゴルトゴーは最初金貨20枚のAランクの討伐依頼として張り出されていたものだったんだ。
 これを受けたのが公爵家の次男ながら冒険者をやってるやつだったんだがな……結果は最悪なものになった。
  その結果、公爵家はうちに責任を取らせようとしたんだがギルドに入る時には全て自己責任だってことを公爵家もその次男も承知してたから無理だったんだ。しかしそれでは公爵家の気が済まなかったんだろう。
 『あのゴルトゴーを倒したの者には依頼の報酬とは別に金貨1000枚を渡す』って言い出したんだ。そのせいで結構な冒険者がやってやろうとして返り討ちにされちまって今は金貨250枚に跳ね上がってたんだよ。あぁ、残りはコアや翼の代金な。っと、これが報酬額の話だ。
 で、本題に入るがお前達は何者だ? 普通、入ったばっかのペーペがSランクの魔獣なんぞ倒せないぞ? 特にクロス、」

マルクスが私に向かって指を指す。表情は固く目は鋭い。
 あの金塊の話よりも私達の方が話の本題だったらしい。そして十中八九無く疑いを向けられている。

 「お前はどう見てもその入ったばっかのペーペには入らない。お前は一人でもぱっと見ただけでSランクどころかSS、EXランク並の強さだと私は思ったぞ。
 それに、お隣のお嬢ちゃんはガラは悪いが、あんたの場合は黙っていても仕草なんかに育ちの良さが滲み出ている。ファミリーネームもあるみたいだし一体何者なんだ、目も黒いし魔族か?」
 「悪かったな、ガラが悪くって!」

 へぇ、魔族には白目が黒いやつがいるんだな……じゃない。一般人にはファミリーネームが無かったんだったか? まずいな……ってそれでもない。
 新月も机を叩いて突っかかっているがそこじゃないだろう。私が疑われているんだぞ。もう少しフォローしてくれ。

 「どうなんだ? 」

  黙秘しててもマルクスは聞いてくる。ここで異世界からやって来た神様です。なんて言えない……秘密で通すか。
  私が口を開こうとしたその時、唇に何かが触れる。

  「しぃっ」

 新月が身を乗り出して私の唇に人差し指を当てて黙らさせた。
 任せろと言いたいのか。

 「ヘイ、ギルマス! 言ってもいいかまずこのことは誰にも言わないこと。言ったら首チョンパしちゃうゾ☆それでもいいかい?」
 「あぁ、それ程にそこの彼は大きな秘密をもってるんだな。おい、アグレスお前は受付に戻れ」
 「え、は、はい!」

  マルクスがアグレスに指示して下がらせる。人払いご苦労様です。
  アグレスが階段を降りて行く音が聞こえるとマルクスは『サイレント』と言って魔法を使った。多分、聞き耳を立てられないようにしたんだろう。今度私も使ってみよう。

  「これでこの部屋から発せられる音は外には漏れない。思う存分話してくれ」
 「おう、いいぜ。教えてやる」

  マルクスはどんな話が出て来るのか楽しみと言わんばかりに目を輝かせる。
  どうやって新月はこの場を乗り切る気だ?

  「実はな、ハリスくんは違うけど俺とクロはこの世界の住人じゃない。俗にいう異世界人だ」
 「異世界人?! そりゃ凄いな」
  「え?! クロス様、普通の人では無いなとは思ってたげどやっぱりそうなんですか?!」
  「おいチビ、お前知らなかったのか?!」
  「弟子として認められないと教えてくれないんです!」
  「そうか! なら仕方ないか」

 嘘では……ないな、

  「で、そこでは全員がファミリーネームを持っていて異形の生き物も多い。クロの場合は目がちょっと特殊だがこれは強力な力を持った高貴な者の証なんだよ」
 「なんと……!  素晴らしい世界だな。ん、ということはもしかしてあのクズ……カルットハサーズに召喚されたっていう勇者のやつらと同じ所から来たのか?! 目的は何だ?!」

  嘘では無いが本当のこともあまり言ってない。
  それよりもさっきからマルクスの好奇心メーターが上昇しっぱなしだ。どうするんだ? このままだと根掘り葉堀り聞かれるぞ。

 「そこは分からない。でも俺達の目的は観光だし、今はただの旅人だよ。っと、今話せるのはここまでだ残りは秘密にしておこう。全部知ってしまったらつまらないだろ?」
  「え?  いや、まぁ、そうだが……」

 ヒートアップしたマルクスが沈静化した。よくこんな話が口からポンポンと出てくるなと感心しそうだ。今度からこういう状況の時は新月に会話を任せるか。
 しかしここまで話して秘密で通すのか。確かにここまで話しての秘密だと最初から秘密よりは私達のことを信じて貰えやすい。流石だこのまま押し通せ。

 「余計なことはしない方がお互いのためだぞ?」
  「……そうか分かった。とりあえずそこの彼は魔族では無くあんたと一緒に異世界から来た旅人なんだな。
 ……はぁ、なんかこう、なんていえばいいいか、お前凄いな! そんな存在とこんな簡単に出会えるだなんて思ってもなかったぞ。そこで提案なんだが……」

  新月に押し通されたマルクスはあっけらかんとした表情になりながらも褒めて来る。提案って新月がよくいう『テンプレ』というやつか。と思っていると新月が耳打ちした。

  「クロ! これがテンプレだよ! この先は『君のランクをSSにする』とかだって!」
 「テンプレが何かは分かったが流石にSSとは行かないと思うぞ」
 「大丈夫だって俺の運は70だっただろ? その運メーターが光ってるんだ。『これは絶対にテンプレ通りにいくぞ』ってね」
 「そろそろ続きを話していいか?」

 私と新月がそんなこれからの予想について話し合っているとマルクスが呆れた顔でこちらの様子を伺っていた。

 「すまない、いいぞ」
 「どうぞどうぞ」
 「うむ」

 コホンと小さく咳払いをして口を開く。

 「提案というのはな、お前達……正確にはクロスだけなんだがランクを何段階か上げたいと思っている。だが上げすぎても困る。だから今のところはB辺りにしようかと考えているんだがどうだ?」
 「残念だったな。ランクは上がったがBだったぞ」
 「ちきちょう……! クロの運30がここで仇になった!」
 「B?! すげぇ!!」

 3人が3人同時に別々の感想を述べる。
 しかしマルクスは申し訳なさそうに首を振った。

 「悪い。お前の実力はもしかしたらEXかもしれない。けどいきなりそこまで上げちまうと何が起こるかわからないからな」

 Bでも充分凄いと思っていたがマルクスは本当はEXにしたかったらしい。
 Bでいいのに、そうだ私がBにランクが上がるなら新月とハリスはどうなるんだ? ランクは少しは上がるかもしれないが今後とも依頼に同行させることができるのか?

 「いや、こちらも余り目立つようなことになはなりたく無いからこれぐらいでいい。が、一つ聞きたいことがある」
 「何だ?」
 「私がBになるとしてこいつらはどうなるんだ? ランクは上がるのか?」
 「あぁ、そこの坊主はまだ12だからGのままだが13歳になるまでにお前達と一緒に行動すれば力もつくだろう。その時はEにしてやる。あとおじょ」

 お嬢ちゃんと言おうとした瞬間新月が睨みマルクスの言葉が止まる。
 お嬢ちゃんと言われるのが新月は嫌いらしい。

 「レモーネはFからDになる。ゴブリンを20体以上倒してるからな。良かったな、おめでとう」
 「そうか。あともう一つ、私がBランクになってもこいつらを同行させることは出来るのか?」
 「同行? う~ん……レモーネはともかくハリスも一緒となると大変だぞ?」

 マルクスは難しそうな顔で答える。

 「私が聞いてるのは連れて行けるかどうかだ。大変かはどうでもいい」
 「同行させることは出来る。が、いいんだな? 連れていくと言った以上、責任はお前持ちだからな」
 「あぁ、分かってる」

 話が纏まるととマルクスは手を差し出してくる。

 「ではこれからも頼むぞクロス」
 「あぁ」

    私も手袋を外して握手をする。マルクスにも思惑はありそうだがここでは友好的に接するのが徳だろうと思った。

 「では今からパーティ『ヴージェノヴ・ニュアレンバーグ』はBランクの冒険者がいるのでランクをBとする。」
 「テッテレー♪   パーティのランクが上がった!」
 「五月蝿い」
 「ひでぶ!」

  新月がお得意の雰囲気ぶち壊しをしたのでチョップをお見舞いする。

 「ははは、では今から依頼に取り掛かって貰うぞ!」
 「え?今から?!」
 「あのゴルトゴーのせいで上級冒険者が何人か怪我しちまって依頼が溜まってるんだ!  依頼は幾らでもあるから好きなだけ選べよ!」
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