遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

新しい力というよりもとからあった力

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  朝になり体を私の身長では少し手狭なベットから丈の短いフリフリのシュミーズを着た腹に引っ付いている物体を引き剥がしてから体を起こす。
 顔を洗おうとしてベットから降りると再度引っ付いてきた物体を引きずって移動する。

  向かいのベット二つをちらりと見るとどちらの方もベットメイクが済んでいた。ツァスタバは先に朝食を作りに出ていた。ハリスはその手伝いでもやらされているのだろう、私も早く支度をしよう。
 手早く身支度をしようとシャツに腕を通しているといきなり【鑑定】を使う時と同じ声が部屋に響いた。

 『特殊スキル【エンパス】を使いますか?』
 「なんだこれは」
 「む~……、え~なに、コンパス?」

 声に反応して同じく身支度をしていた新月が眠そうにお馬鹿発言をして反応した。

 「エンパスだそうだ。使うか?」
 「お、お~ぉ、使えるものならなんでも使っておきなよ」

 いつもの白いなんちゃって軍服のブラウスのボタンをつけながら声だけをこちらに投げ姿見を確認する新月は顔をこちらに向けず最後にいつものポレインを装備し始めた。

 「またハイヒールか? もう疲れたとか言うんじゃないぞ」
 「ノッポには一生かかってもわからない事情なんだよほっとけ、それよりどんなものなんだい? そのコンパスとやらは」
 「エンパスだ。文房具じゃない」

 また同じような踵に凶器を兼ね備えたヒールを履く背中に前回と同じようなことが無いように注意する。
 また同じお馬鹿発言をしてくれたアホの発言を訂正して久々にステータス画面を開き【世界の図書館】を【エンパス】とやらに合わせて使用する。

 『特殊スキル【世界の図書館】を使い特殊スキル【エンパス】を調べます。特殊スキル【エンパス】は人からのオーラを読み相手の行動を細部まで読み取ります。
 クロノス様の場合、魔力の量が多いためある程度のものならのものなら生物のみにならず無機質までオーラを読み取ることも可能です。特殊スキル【エンパス】を発動しますか?』

 前回と同じ声で淡々と【エンパス】の説明がされそれを聞いた新月が目を見開き両手で口元を隠す。こいつが怖がるなんて珍しいな。そう思っていると隠された口から感想が出てきた。

 「oh……っょぃというか怖ぃ!  クロぉ~君がこんなもの持っていたなんてお姉ちゃん知らなかったぞ。
 なんで……こんな面白いもの教えなかったんだ!!  これがあればもっとクロをラスボスキャラに出来るじゃないか!!!」
 「お前は私をどこのキャラに仕立て上げるつもりなんだ」
 「そりゃ時を司るクロノス言ったらやっぱラスボスだろ~? でも倒される系は嫌だから個人的には厨二病っぽいけど本当に強くてかっこいいキャラにしたいな~って、ゆくゆくはやっぱ真の勝者、ダークヒーローへと仕立て上げたいなって思っている!!(`・ω・´)」

 手で隠されれていた口元が露わになったと思うと話が明後日の方向に吹っ飛んだ。怖がっているとお思ったら……まさかの喜んで口元がニヤけるのか隠していただけなのかこの厨二病は。

 「もうお前二次元に帰れ」
 「ヤダ、クロに引っ付いていくから離れないもん!」
 「失せろ変態」
 「えー!!  お姉ちゃん悲し!
『オートモードで発動させますか?』 って何、オート?ゲームなの?」

 率直な感想だけ述べて寝直そうとベットに足を動かすと全く悲しそうな様子見えないどころかこの会話を楽しんでいるアホの言葉を切り替えるように声が会話を遮る。

 「したらどうなるんだ」

 面倒なことじゃなければいいがと眉を顰め、思わずどうなるのかと聞くと声がまた説明を始める。

 『オートモードにすると通常時でも特殊スキルを発動させているため毎秒一定の魔力を消費させる代わりに特殊スキルを発動させなければ発動しない特殊スキルを不意に何が違和感を感じるなどした場合、自動で特殊スキル【エンパス】が使われます。オートモードで発動させますか?』

 やはり面倒なことだった、眉間に皺をよせながらメリットデメリットを考える。
 メリットはいちいちスキルを使わなくても危険が勝手に音を立てて知らせてくれること。デメリットは言わずもがな、魔力が毎秒削られていくことだろう。余り使いたくないやめよう、ステータスを消そうと画面に視線を戻すと説明を始めた声に興味津々な顔でステータス画面に顔を押し付ける新月がいた。子供か、というか嫌な予感がする。

 「おぉ……チートの上にさらにチートを乗せてくるとはなんということだ。君が神か!  じゃなっかった神だった。実際に神々の王をやってたもんね、ってな訳で使ってみようじゃないかクロよ」

 肩……には手が届かなかったので腕を引っ張られて抱きつかれる。暑苦しい、何が使ってみようじゃないかだ使うのは私であってお前じゃないだろ何を偉そうに言っているんだ。

 「常に魔力が取られるんだぞ? あまりやりたくないのだ……「これ使ったら運30がまだマシになるかもよ? そうなったら前のように・・・・・・はならないかもよ~」使ってみるだけでもやってみるか」

 使わないといいかけたがマシになるなら使ってみよう。そう思った瞬間ステータス画面の上に小さなタグが出て来てYESとNOが書かれていた。迷わず人差し指でYESを押す。

 『特殊スキル【エンパス】をオートモードで使用します。スキャン中……スキャン中……察知しました。
 このパンの中にはブドウ球菌が混入しています』

 おっと、いきなり引っかかったな。それも面倒なものが。

 「え? なんて言ったん?」
 「ブドウ球菌だと、食中毒が出る細菌だな」
 「えー、新月ちゃんわからなーい。ってな訳で久々ですが気合を入れてやっていきましょう!!  第三回あたりだったような気がする『教えて! クロ先生―!!』始まりました!! ドンドンパプパプ! 
   今回の質問は『ブドウ球菌って何? 教えて!  クロ先生―!!』です!! さあクロ先生、ビシッと教えてくださーい!!」

 分かんなーいと言ってまた久々のものが登場して来た。まだやってたのかこいつ。もう掛け布団まであと数㎝ぐらいだったというのにこれでは寝れなくなってしまったではないか。

 「お前も飽きないやつだな。もうこの質問の返し方はとっくの昔に打ち切りになったと私は思ってたぞ」
 「打ち切りなんかなってませーん。終わらせませーん。終わらす気もありませーん」
 「最低だな低視聴率でも打ち切りにならないなんて、そんな暇があったら自分で調べろ。何時迄も他人に聞いてばっかりだと記憶に定着しないぞ」
 「いいんです~ぅ、俺にはクロがいるもん。だから関係ないもん。いいから早く教えてよ」
 「お前は私よりも長く現代で自由を謳歌してただろ。ニュースや新聞を見てないのか?」
 「興味の無いものにはとことん興味が無い。それがこの俺様、新月ちゃんだ!!  えっへん!」

 呆れて何も言えない。これだからアホはアホなんだ。
 頭を抑えつつ染み付いてしまった癖で答えたくなってしまう。仕方ない諦めるが吉だろ。

 「威張るなアホ。しっかり見ておけ、何かあっても知らんからな。「え~」えーじゃない……で、ブドウ球菌だったか? ブドウ球菌は英語で『staphylococcus』ともいい繋がっている姿が葡萄の房に似ている細菌の総称だ。

 通常では人や動物の体表面や粘膜に分布しているが菌で6.7から46℃の人の体温に近い温度で増殖、高濃度の食塩下でも発育できる。これが人の口に入ると潜伏期間平均はだいたい三時間程度だが吐き気、嘔吐、腹痛を起こし毒素型食中毒になるエンテロトキシンを生産するんだ。ちなみにこれは加熱しても効かないぞ。
 ブドウ球菌による食中毒は傷のある手で取り扱ったおにぎりや弁当、調理パンがだいたいの原因だな。震災した場所で配られる食事で起こりやすいんじゃないか?
 もしこれを予防したいなら10℃以下の低温管理、手洗い、怪我人が触ることを防止するのが得策だぞ」
 「へ~、じゃあ震災で被害を受けた人達に配られたものでこうなるってことはボランティアの人が怪我をしても困ってる人のために!  って思っても裏目に出るんだ。なるほどなるほど、皆さんもお怪我には気おつけて下さいね!  っと、 
 今日はこの辺で今回はお別れのようです。また次回お会いしましょう! 以上、『教えて! クロ先生でした!!』チャンチャン♪」

 毎度お馴染みの真面目なんんだか不真面目なんだかわからない口調で終わると新月は部屋と廊下を繋ぐ扉を開けて数m先を歩いている冒険者をドアの影で見えないよう指をさしてあれでしょ? と確認を取る。

 「教えてあげればいいじゃん。恩は売っておけって言うでしょ? 実は後先お世話になるって人かもしれないんだから」

 後先のことを考えてか、なら新月の言う通りにしてみよう。最悪本人達が信じなくても潜伏期間は三時間程度だ。胃が強い冒険者なら自力でどうにかするだろうしはじめに教えたのに信じなくて痛い目を見ても自分が悪いだけだから自業自得だろ。

 「そうかなら言ってくるか」
 「ちょっと待って」
 「なんだ」
 「クロが行くと話よりも先に誰だって言われそうだしこの世界の人に細菌なんて言葉通用しなそうだもん。クロだと分かり易くするために虫が……とか言うでしょ?」

なぜ分かった。

 「やっぱり。いい? まず細菌のことは言わないこと。なんか嫌な予感がするとか言っておくこと。細かく言われても嫌な予感が当たるスキルが光っとるとかで誤魔化せ、OK?」
 「無駄に拘るなお前は、今回はちゃんと本当か? 昨日はお前のせいで好感度どころじゃなかったんだぞ」
 「その件については謝るって言ってるじゃん今回はちゃんとしてるから安心してよ。ほら、行った行った!」

 案ずるより産むが易し、と言われ背中を押される。前に転びそうになるのを何とか堪えて後ろを振り返ると新月はすでにドアの開いた隙間からエールを送っていた。あー仕方がないなぁ……言われた通り冒険者のパーティに近づくとあと数mというところまできて流石に気付いたのか男がゆっくりと後ろを振り返り私の顔を見ると少し驚いた顔をして嫌そうに眉をひそめる。

 「おいそこのあんた、俺達に何か用か?」
 「ああ、これはお前が作った料理か?」
 「そうだが何かあったのか? これはついさっき俺が作ったサンドイッチだぞ。お前のものじゃない筈だ」
 「別にそんなこと言いたい訳じゃないがそれは食べる前に捨てておけ」
 「っ、はぁ?!  一応理由を聞くがなぜだ?」
 「私の手持ちのスキルに嫌な予感が当たるスキルがあるんだ。それにこれサンドイッチが引っかかったらしくってな。危険だと言っている」
 「危険って何が危険なんだよ!! 詳しく言ってくれないとわか「はいストップ」」

 話していくうちに男が段差と苛立ちを見せ始めついに怒鳴るかと身構えるがそれより早く目の前のドアが開いて魔術師らしき女が出てきた。

 「お話を立ち聞きしてしまい申し訳ございません。なにせドアの内側まで聞こえるような声を出したやつがいたもので」

 そう言って魔術師の女は男を睨みつけて黙らすとまた私の方に視線を戻す。

 「私も前に読んだ魔道書で悪い予感を察知するというスキルがあったのを見たことがあります。朝早くだというのにわざわざ私達のために忠告をして頂きありがとうございます。このバカには私がきつ~~~く言っておきますのでご安心下さい」

 きつくと言われて男の身が縮こまる。過去に何か嫌な体験でもしたのだろうと頭の中で結論付けて片付ける。これで忠告はしたからもう戻ってもいいだろうか、今借りている部屋の方に目をやると新月とばっちり目が合いOKサインが見えた。戻っていいらしい。

 「そうか、ならいい。では」
 「ありがとうございました!」
 「お、おい朝飯はどうするんだよ?!」
 「そんなの買えばいいでしょ、体調崩すよりまだマシよ!」
 「けどよ~」
 「五月蝿い、あんたいっつもそうやって言って大変な目に遭ってるでしょ?!  まだ懲りないの?」
 「いや、そ、それは……」

 目線を戻すと男女が痴話喧嘩を始め話が別の方向へ飛んで行きそうなのでここら辺で失礼しないと長くなる予感がした。とりあえず欠伸をする真似をして口元を手で覆う。

 「もういいか?」
 「あ、ああ、すみません。ご忠告ありがとうございました!」
 「あ、ありがとうございます」
 「じゃあな」

 二人が頭を下げた。頭を上げるのを見終わる前にこの場から足を動かすと二人の痴話喧嘩が口喧嘩に発展していく声が聞こえた。
 新月の言った通りに出来ただろうか? 部屋まで戻ると白い両手が上にあがっていた。私も手を同じ高さで手を出すと任務成功、と出した手を軽く叩かれてパァン!  と高めの音が鳴った。




 昨日のきのこをステーキにした朝食を済ませて宿を出るとすでに王都の店は開店しており大きな賑わいを見せていた。
 
 が、


 「見て見てクロの助よ、あそこに蚤の市がやってるよ!  カトラリーとか椅子とか鏡などなど、ちょっと寄って行こうよ!!」
 「お前は何の目的でこの国に来たんだ」
 「お買い物!  (`・ω・´)」
 「違うな」
 「間違ってますね」
    「違いますね」
 「えーー、いいじゃん少しぐらい~。では探検をするぞクロの助よ!」
 「あ!  お、おい引っ張るな。服が伸びる!」

 晴れた太陽に照らされて眩しく感じるほど目が輝きに満ちた笑顔がGO!  GO! と急ぎ立てる。
 その笑顔とは裏腹に腕を服が伸びる勢いで私が引っ張られて蚤の市にへと連れて行かれる。思わず表情を崩して声を荒げる。が、踵に力を入れつつも暴走しだした列車は止まらず私が貨物車同様に引きずられる形にへと成り果てた。

 「あぁ、マスター!! お待ちください!」
 「またですかー、遅くなっても知りませんよ」

 貨物車と成り果てた私を追いかけてツァスタバ、ハリスがバタバタと蚤の市へと足を入れる。
 あぁ、これでは芋づる式に全員参加になってしまったではないか新月はあとで責任を取って貰おう。そう思って新月に引きずられるまま蚤の市を練り歩く。

 パリのクリニャンクール蚤の市を彷彿とさせる蚤の市は晴天に見舞われたため活気付いていて人も多い。もう一度言う、多い。
 店々がこれでもかと道に向けて店を広げているため道幅が狭いにも関わらず人も多い故に歩きづらい。多分半分ぐらいは蚤の市の家具目当ての旅行者だろう。


 店に並ぶ商品は大昔の釦やらアンティークビーズ、陶器の壺などが目に付くほど多く並べられているがそれ程興味は無い。
 骨董品を見るふりをして店々のオーニングが太陽の光で若干透けているのを観察している私を片手で引っ張りつつ、もう片方の手で人混みを掻き分けながら途中途中で商品を上手くディスカウントして買い込むという器用な進み方をする器用さんがいた。私やハリス、ツァスタバはついて行くのがやっとのことだったが。



 「クロー、君だけ何も買ってないぞ~。何か欲しい物はないの? あったら俺、値段交渉してるやつを蹴り飛ばしてでも手に入れるから!」

 蚤の市を半分まで来ると流石に人混みは疎らになり四人でもゆっくりと歩けるようになって来ると何か欲しい物はあるかと聞かれる。おい、最後のは問題になるからやめろ。

 「蹴り飛ばしちゃダメですよ新月さん。クロス様に何か買ってあげたいって気持ちは俺にもわかりますが穏便に物事を片付けるようにしてくだいね」
 「そうです。ハリスの言う通りでございますよお嬢様。そこはこの私が踏み潰すとことです」
 「踏み潰すのもダメに決まってるじゃないですか! 何考えてるんですか?!」
 「そうですか? なら私自慢のこの角で頭突きをお見舞いしてあげましょう。人間程なら軽く空高くに舞い上げて……」
 「もっとダメでしょ?!!!」

 二人の割りかし本気で話される会話にハリスがツッコミを入れるのを見て私が欲しいと思う物を考える。欲しい物は………………



……………………………特にない。何かあれば神通力やら何やらで作ればいいだけだし。それに迂闊に何かを言うとどっかの無関係な人が宇宙の彼方へと吹っ飛んでいくから言い辛い。
 何も言わずにいるとふと視線を複数感じて目線を下へと下げると三人が私の顔を見つめていた。

 「「「で、クロ(マスター)  (クロス様)が欲しい物はなに?(ありますか)  (何ですか)」」」
 「……………………書斎に置くもの。例えば本でも書き物机でもソファーでもランプシェードでも何でも」

 あまりの目力が篭った視線と言葉で何かを言わないと納得してもらえない雰囲気を感じとりあえずあったらいい物を適当に言っておく。

 「「「了解 (です)  (しました)」」」

 了承の声と同時に六本の腕に巻きつかれ引きずり回さる。反対に引きずり回される時間が長ければ長い程手持ちの硬貨もガッツリではないが地道に削られていく。しかしそれと引き換えに増えていく本、ソファー、ランプシェード、なぜか標本や信仰道具のようなものやよくわからないもの。
 誰もそこまでして欲しいとは言っていないのに【無限の胃袋】に放り込まれる品々。そんなにいらんわ、

 「クロー! 見て見て、この額縁シンプルだから大抵の絵画に合うと思うんだけどどう? あとこの花瓶も!」
 「クロス様って確か前にレインバードの羽集めて額縁に入れてましたよね? ならこの瓶に入った標本とかどうですか?」
 「お嬢様、装飾品を買うのも良いですがまずはマスターの書斎の壁紙やカーテンを決めるのが先ではないでしょうか。こちらのカーテンはいかかでしょう。ボトルグリーンに色相を少しだけ変えた同色系の色の更紗柄です。長めの生地で売られておりますのであとで丈の調節も可能です」
 「もういい!  もう十分に選んで貰ったから今持っている物を買って終わりだ!  とっととこの蚤の市を抜けるぞ!」

 ゴリゴリと削られていく手持ちの金を確認して三人が今持っている商品の値段と何とか合うことを確認する。素早く会計を済ませると駄田をこねる約一名だけ担いで蚤の市を脱出した。
 もうこれ以上買い物もしたくないので王都の赤煉瓦で彩られた街並みから頭を見せて佇む宮殿に向かって足を早める。

 「あーん!  まだ買い物したい!」
 「もう十分に買っただろ。ハリスは新月が飛んでかないように手を繋いでおけ」
 「はーい、了解です」

 店々が目に入ると面白そうと言って入ろうとする新月の頬を抓って阻止し、ついでにハリスにお守りを頼む。

 「ツァスタバは新月のストッパーになってくれると思ったのになんで一緒になって買い物をしたんだ。止めて欲しかったんだが」

 片手が引き止めるに時間も体力も消費するお荷物がいなくなってほっと一息つくと私の数歩後ろに踵の無いブーツを履きながらもそれを全く苦にしていない涼しげな表情で控えて歩くツァスタバに不服を言う。
 だが本人は表情を崩さないままずいずいと顔を近づけてきたので背中を少し反らして距離を取ろうとするとそのまま歩を進め距離を詰められる。
 お互いの顔の距離がもうあと数㎝となりまつ毛が数えられそうな程近づくと淡々と、ではなく少しまくし立てるように言葉が紡がれる。

 「確かに私はお嬢様のストッパー役をするべきところでしたがマスター、貴方様は今現在の御自分の部屋を覚えておられますか?
 最近ではゲルもどきを出してはおられないのでお忘れかもしれませんがマスターの手持ちの財は本と服、それにベットのみです!!  
 しかもチェストの一つも持たずにベット以外の全てを【無限の胃袋】に入れたままなんですよ?! あなたは仮にも高貴な身の上の者より遥かに上のお方だというのに修行中の僧侶よりも慎ましい部屋でどうなさるんですか。私は心配でなりません!!!」

 事実を言われて言葉が体に槍となって突き刺さる。別に痛くは無いが刺さった。

 「べ、別にベット一つあればいいだろ。ベットカバーやクッションもあるし」
 「しかしそれはお嬢様があまりにも何もないからと無理矢理出した物だと聞いております。もしお嬢様が何も言い出さなければマスターのお部屋はベットどころか何もないままだった、違いますか?」
 「正解です」
 「なら今回の買い物は大量買をしても問題ありません。むしろ必要なことなのでしなくてはいけません」

 ズバッと言い切られて押し黙る。ツァスタバが言い切って満足した顔で今度は後ろで再度暴走し出したアホを止めていたハリスの助太刀に向かってしまった。
 しかしその暴走機関車の唯我独尊新月号の暴れが凄い目の前にある店が他国からの輸入食品店だからだろうか五月蝿い。ついでに周りもキャーキャーと足音や破壊音も五月蝿い。


 ……破壊音?

 『特殊スキル【エンパス】が発動しました。危険です回避して下さい』


 【エンパス】が発動したのであのアホ何かやらかしたのかと焦り後ろを振り返ると新月は暴走をぴったりと止めて口を開いて棒立ちするハリスの隣で慌てながら白い悪魔フォークを構える。
 ツァスタバはーーーなんか元素材になったあのデカイ山羊の面影の目と角が出てきていないか?

 「ツァスタバお前角が見えてるぞ。隠さなくていいのか」
 「マスター周りをご覧下さい。もう周りに人など一人もおりませんよ」

 言われて目を動かす。一陣の風が吹いて障害物になる物が無い為道の真ん中をスッーと通って行ったーーーーさっきまで騒がしかった周りが人っ子一人もいない。店も見える範囲ではもぬけの殻だ。さっきのキャーキャーと五月蝿かったのは悲鳴で足音は逃げる音だったのか。

 「なるほどな。納得した」
 「何が納得した。ですかいいからあれ見て下さいよ!!!」

 ハリスが顔を青くしてある方向に向かって指を指す。指の方に視線を動かしていく。

 「syaaaaーーーーー……!!!」


 蛇だ。赤い色のでっかい蛇がいたしかも羽を生やしたやつが建物をゴ●ラのように破壊しなから王都北部にある宮殿へと進んでいた。

 「ハリスこれはお前が相手するのは無理だ。自分の身だけ守れ」
 「分かってますけど俺クロス様がやってたような『アイアンガーディアン』みたいのは無理ですよ?!」
 「なら火属性で『ファイヤーオゥール』ってのがあるからそれやってみろ。炎の壁がドーム状に出てくるらしいから蛇には効くだろ」
 「は、はい『ファイヤーオゥール』!!  やったでーー」

 焦った顔で呪文無しの魔法を言うとハリスは大人一人分がすっぽり入る炎の壁に包まれていく。最後の言葉は炎の燃え上がる音でかき消されたがこれでハリスは無事だろう。安心して【鑑定】と【世界の図書館】を使える。

 『ギーヴル 【種族】幻獣     【Lv】194』

ーーーーーーーーーー
 男が女の尻ばっか追いかけているやつばっかの国で語られているドラゴン。
 蛇に蝙蝠の羽を持ち、毒を吐く特徴があり普段は沼に生息している。
 ギーヴルには体が猛毒を纏っているため寝そべると周辺の草が一瞬で枯れ果てることがあります。
 そのため恐れられていますが男性の裸が弱点という欠点がありますよ。
ーーーーーーーーーー


 「山羊よりはレベルが低いが強いだろうな量より質のタイプか。にしても国の説明が酷いな」
 「でも言い当て妙だよね。イタリアって奥さんは大切にするけどフリーはこれに当てはまるし」
 「だな。ツァスタバ、お前は今回参加するなよ」

 説明に補足をした新月に軽く同意すると今にも動き出しそうな体制のツァスタバが目に入り今回は動かないようにクギを刺すとビクッ! とツァスタバの身体が跳ねて冷え冷えとした目で睨まれる。

 「っ!  ギーヴルの毒ですか?」
 「ああ、お前は接近戦型だろう? ならやめておけ」
 「し、しかし!」

 自分が接近戦だからと付け足され目をツァスタバは揺らがせる。しかしそれでも尚と、眉間に微かな皺を寄せて食い下がる姿に正体不明の猛毒を改めで再認知させる。

 「体に猛毒が触れたらどうなるかわからないんだぞ。そんな状況でどうするというんだ?」
 「……分かりました。御武運を」

 分かったと言いつつ内心では渋々といった従い方をしたツァスタバは構えを崩し被害を被らない場所へと走っていった。
 その後ろ姿を見てこれならハリスも連れていって貰えば良かったと内心後悔をする。炎の壁は声すらも遮断してしまうらしくハリスにはこちらの話は全く聞こえない、先にそう言えば良かった。
 ま、どうにかなるかそれよりこっちが先だな。こいつの弱点は裸でいいのかーーーなら私でもいけるな。フロックコートに手をかけようと手を伸ばすと両手で頭の上に大きくバツマークを作った新月が飛んできて止められた。

 「クロやめろ―――!!!  公衆の場で全裸なんて披露してみろ! 俺が嬉……おっほん、いや筋肉ごち……んん!  魔獣倒した瞬間に公然わいせつ罪でお縄だぞ。せめてスラックスは履いたままで!!」
 「いろいろと本音が出ているぞアホ変態」
 「うっせーやい、もうこの性格は末期なんだよほっとけ!  とりあえずズボンはそのままね」
 「了解」

 本音が全く隠れていないぞこの変態。だがその点はあとでにしてまずはギーヴルが先だ。目を輝かせる変態を無視して上半身の服を全部脱ぎ【無限の胃袋】に突っ込みどこからでも来いという意味合いも兼ねて羽つき蛇のギーヴルを睨みつける。

 目が合った。同時にギーヴルの動きが三秒ぐらい止まって胴体が赤くなる。成功か?

 「―――kyaaaa!!!」
 「キャァァァァァアアアアア!!!!  失礼します!!」
 「こんな状態で引っ付くな!!」
 「あだっ!  いててぇ……あ、恥じらった!  で、逃げた!   追うぞクロ」

 説明は本当らしくギーヴルは茹で蛸になり悲鳴を上げて来た道を引き返した。が、逆にお邪魔虫が腹に飛んで来た。手刀で頭にチョップを入れて腹に引っ付いたアホを剥がす。
    巨大な体を引きずることで煉瓦で出来た建物を再度破壊させながらもスタコラと猛スピードで王都から逃げていくギーヴルをこちらも【アギト】を使い全速力で追うと一気に体に風が勢いよく体当たりをする。空気による風の抵抗を感じていると隣で走っていた新月が息苦しそうに口を開く。

 「気分は女性に向かって露出をして追いかける変質者の気分ですかクロ?」
 「これで上手く誘導していけば王都を出て住処かに帰るだろ。そうすれば無駄に殺さずともすむ」

 追跡していると走りながら新月が話しかけて来た。舌噛むぞと素直に返すと新月が目を泳がせて視線を外す。
 
 あ、ヒールが小石を踏んでこけた。キャン!  とこいつからは似合わない声が出る。
 仕方ないので私がこいつを担いで追いかけると、声が上から降ってくる。頭を両手で鷲掴みするのはやめてほしい。地味に頭皮のツボを刺激して気が抜ける。

 「で、さっきの続きなんだけどさ、王都に被害が出ないとかじゃなくって?」
 「なんでこの国の王都なんて守らないといけないんだ。面倒なだけだろ」
 「いや……まぁそうなんだけどさ~。でもあとで質問責めされるだろうから被害を少なくするため仕方なく裸になって王都からこのヘビちゃんを追い出しましたっていいなよ。OK?」
 「……了解」

 別にそんなことしなくてもいいだろうと思いつつも面倒なことが少しでも減るならと了承しスピードを上げて追いかけると王都まで歩いて来た街道とは反対方向の北へと進み住処らしき大きな沼が見えて来た。
   ギーヴルはコソコソと沼に巨大な体を仕舞い込もうとする。だがマヌケなのかパニック状態なのか頭はしっかり沼に浸かり込んでいるのに尻尾―――というか全体の約5割ぐらいが外に投げ出されたままだ。頭隠して尻隠さずだな。

 「あれが住処か?!  なら先に俺が仕掛けるからクロはどんな攻撃をするか見ておいて!」
 「あ、おい!」

 マヌケな姿を発見した新月は再度白い悪魔フォークを創り出し身体ごと尻尾目掛けて飛んでいった。
 新月が勢い良く突きにいったのは尻尾部分の内側、肉がある部分だった。骨が無い部分に刺さったことによりフォークは深々と刺さったが体の外側の猛毒で白銀の色をした部分は変色し、魔力で構成されていた筈の穂先部分はドロドロと溶け出した。
    ギーヴルは尾を傷つけられたことにより体をぐるぐるとくねらせ一瞬動きを止めると素早い動きで尾を横一文字に薙ぎ払い熔けた槍を手放して後ろに下がっていた新月の喉元を直撃した。

 「ゲッ、グッハァ!!」
 「新月っ―――!」
 「ハ、アカッォォ―――」

 言わんこっちゃない、走って地面にへと倒れて苦しむ新月を抱えて沼から離れる。
 命に関わる外傷は見当たらないが左耳から口、喉元にかけて赤く腫れ上がっている。猛毒だ、しかし解毒剤になるような物は知らないし持ってもいないーーーいやあいつを倒して皮膚や毒腺を採取出来れば直せるかもしれない。
 やれやれ、家に虫が入って来た時に窓を開けて外に出すような感覚で追い込んで王都から追い出せば済むと思っていたのに本格的に倒さなければならなくなってしまった。

 「新月、スタシスは出せるか?」

 新月の容態をを気遣うなら早めに終わらせたいが私がこのギーヴルと闘っている最中にあの巨大な体のどこかがぶつかるとも限らない。
 ならスタシスと魔法を同時に使えばあの山羊のように時間を掛けずに済むかもしれない。了承を求めると焦点が若干の狂いを見せる険しい表情をし両手で口と喉を抑えた新月は首を素早く縦に振る。いいと言いたいのだろう。

 体を強く抱きしめていた手を少し緩めるとスタシスが出て来たので素早く護拳部分に手を入れて構える。
 この時点で私が構えたことに気づかなければ早く終わると思っていたが相手も流石にそこまで馬鹿ではないらしい。
 苦痛でくねらせていた体を一旦止めて再度からだをくねらせると尾が沼へと沈む代わりに真紅に染まった鋭い目を私へと向ける。
 
 殺意以外に感情を感じない目だ。しかし私だって引かない。動物の世界では目を逸らしたものが負けだ。私は違うがやっぱりそれには当てはなりなくない。
   先に動いたのはご相手さんだった。お互いに視線を外さないとわかるとさらに睨みつけ口を大きく開けると喉の奥から何やら白色の霧が見える。

 『特殊スキル【エンパス】が発動しました。危険です回避して下さい』

 オートモードにしておいた【エンパス】が役に立った。オートのおかげて発動したことにより『アイアンガーディアン』を使って間一髪で防ぐ。刹那、辺り一面の草木が一瞬で枯れ果てた。同時に振り下ろされた尾を避ける。

 あの猛毒は厄介だ、あれを封じないこと私は動けない。今尚吐き出される猛毒で動けないのも事実だ。せめてあの毒を吐く口を塞ぐものはーーーあれだな。『アイアンガーディアン』に意識を向けつつもう一つの魔法を発動させる為に集中して魔法をどこに打つかを考えて使う。

 「『陰は内なる陽を見出し転換させ全ての世の理を歪める。【フリップシールド】』」
 「Ga?!  ッウゥ!!  ンッツッゥ!!」

 これは確か呪文を唱える中でもそれなりに高度な魔法で魔術にも近い魔法だったはずた。
 場所を意識して復唱することで結界を作り出しその範囲に魔力を注ぎ、魔法名自体を言うことで鏡のような効果を発動するというものでそれなりに魔力を持っていかれた。
 
 この結界をどこに創り出したかというとーーーこのギーヴルの喉の奥だ。あちらも私が何かをすると思って毒を吐こうとしららしいが今ではそれが跳ね返って自分の猛毒で自分の体内を傷付けるという自分自身へのダメージとなっている。
 毒が回って苦しそうに叫びながらも『フリップシールド』はどちらかというと魔術に近い魔法なので一回こっきりでは消えない。

 そろそろケリをつけようとスタシスを再度構えるとギーヴルはフー、フー、と息を吐きながら体を半分を沼から出して伸ばすと唸り声を立てて私目掛け蛇の首が舌を出して飛びかかった。
 再度【エンパス】が発動するのを聞いて体に巻きつき圧迫死を狙っていることを知りあの山羊にも使った槍雨のように振らせるという魔法を使う。

 「『無は有と烙印を押され輝きは破滅となり降り注ぐ。【クリスタルナイト】』」

 唱えると同時に空から無数の硝子で創られた槍が無造作に天から降り注ぎ慌てて動きを止め槍から逃げようと必死に蝙蝠のような翼を使い突風を起こして槍を粉々に砕く。
 あぁ、私の思い通りに動いてくれた。


 実はこの槍、硝子なのだ。しかも粉々に砕けば砕ける程細かくなり対象者を死に知らしめるという恐ろしいものだ。
 当然ギーヴルもそれに気が付いたがもう遅い。砕かれなかったその中の数十本はギーヴルに突き刺さり動きを封じ粉々になった硝子の欠片が無数に目玉へと突き刺さった。
 今がチャンスだろう。直接接触させるのは危険なのでスタシスを振り回してつむじ風を起こす、というスタシスでなければ出来ないだろうとんでも奥義で胴体をぶつ切りにする。
   蛇は住んでるところにより心臓の位置が変わるらしいのでなるべく早くブツ切りに切っていくと二回めで心臓と胴体が切り離したらしい、苦悶に満ちた顔を浮かべてギーヴルの目は光を失った。
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