遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

気が向いたらやった

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  人の波から逃げ帰って早一ヶ月、私達は大して変わらない日々を過ごしていた。いや週一、二程はギルドの依頼なども受けていたから変わってはいるが、



 できた、まだ試作品の段階だが持っておいて不都合はないだろう。最後に使ったピンセットを置いてシャーレに浮かんだ物の内一粒だけを手に取った。


 この設備だけは立派に揃えてあるのが新月の工房ともいえる部屋だった。今の今作り上げた物を手の平で転がすと、芥子の実ぐらいの透明な玉の実が転がる。
 その様子を膝に座っている新月は不思議そうに眺める。

 『クロそれなん?』
 「ああ、これは―――



 「クロス様! 外であの勇者とかってやつが、

 『出てこい! 勝負しろーー!!』

 って叫んでます! 俺が無属性魔法の『クロース・ザ・マウス』ってのを使って黙らせましたから早く行きましょう。あいつらうざいです!!」
 「ハリスお前本当に逞しくなったな」

 あとよくその魔法使えたな。それ上級魔法だった筈だぞ。
 後の言葉は口には出さずに心の成長だけ褒める。純粋に受け止めたハリスは悪戯っ子の様な顔で笑うと早く行こうと即される。
 私は新月を抱えたまま、されるがまま背中を押されて外に出される。外では最近やっと時間通りに来るようになった召喚者の内三人が無言で騒いでいた。
 さて、今日もこいつらの面倒を見てやるか。





 「畜生! また今日も負けた―――!!!」
 「拓也くん大丈夫?!」
 「ヒドイ! 拓也、All right?」
 「っ、ああなんとか生きてるぜ」
 「「拓也  (くん)ー!!」」

 なんてことを考えていたら自分から勝負を挑んで負けた召喚者達が下で三流芝居にもならない茶番劇をしていた。周りからはもう慣れたお貴族様達の野次が飛び交いそれでもやんごとない家系の出かと疑う。

 「す、すみません! いつも拓也が馬鹿なことをして……」
 「なんだよ美海! 俺が馬鹿だって言いたいのか?!」
 「だっていつも勝負して貰ってるのは拓也なんだよ? 謝りなさいって!」
 「こいつは俺の先生だぞ! 俺が勝負仕掛けたって問題は無いじゃねーか」
 「そういう問題じゃ無いでしょ……」
 「もういい。こういうのは言わせておけばいいんだ。一条美海、お前はそこの田島薫を連れて戻って今日やったことの復習でもしていろ」

 戻ってこちらは幼馴染同士で喧嘩をしている、ところだが一人だけ体育座りをしていた田島薫の腕を引っ張って立たせると、一条美海に渡して先に帰らせることにした。

 「は、はい! 今日やった水属性氷系魔法の上級ですよね? やっておきます!」
 「美海! おまっ」
 「お前は落ち着け。とりあえず回復はしてやるからそれからにしろ」

 田島薫を引きずってそそくさとこの場を離れようとした一条美海に五十嵐拓也が手を伸ばす。五月蝿いので伸ばした手を掴む、口を押さえて強制的に回復魔法をかけてやると左右からレイピアとチャクラムが飛んできた。
 仕方なく五十嵐拓也を離す。

 「「拓也くんに手をだ(すな)(さないで)!!!」」

 銀と黒の髪が揺らめき殺気が直に伝わる。その系四つの目に赤く燃えるような火を見つけてじっ、と見つめ返す。
 この二人はあと一歩で踏みと留まっているといったところか、不味いな。

 『クロ! 大丈夫?!』
 「クロス様無事ですか?!」

 二人が刃を向けたのをこの庭園の少し離れた場所にあるベンチに座って観戦したいた二人が弾けた様に飛んできた。
 目下で大慌てする二人の頭を撫でているとまた鋭い視線を感じ元を辿ると五十嵐拓也に行き当たる。
 ゆらり、と立ち上がった五十嵐拓也は磨き抜かれた刀身が放つ、光の先を私に向けて絞り出す様に言った。

 「おいクロス、もう一度……もう一度勝負しろ」

 それは殺気というよりもどちらかというと恨み、妬み、嫉妬といったどろりとした粘りと湿り気を持った気質に近い。
 これは―――もう無理があるかもしれない。どうしようもないかもしれないがせめて進行を遅くしてやろう。
 あまり私から干渉したくは無いのだがこればかりは早すぎる。

 「ああ、いいだろう」
 『クロ?!』
 「えっ!!」

 二つ返事で答えると二人を草の上に突き飛ばし懐に飛んできた剣を躱す。

 「っち!」
 「拓也!!」
 「ガンバって下サイ!」
 『あ?! 何言ってるんだこのガキ!  クロやっちまえ! こいつボコボコに叩き潰していいから!』
 「え、それはどうかって思うんですけど」

 再開した手合わせに周囲は歓声をあげ銀色と黒色は後ろ押しを、
 対してこちら白色は片側には野次を、私には指示を、灰色の頭は肩を落としている様子が動きに合わせてくるくると回る世界で見えた。
 何気に私の懐に入り込もうとして来る剣とは逆に体ごと首を傾ける。
 動きを読まれたことに苛立ちを思えた五十嵐拓也は、体を反らした態勢になった私の胴体目掛けて魔法を放たれたのでそれも避ける。

 なんだ、私が教えた魔法もしっかりと使い込んでくれているらしいな。良し良し、
 と、その隙を狙って今度は甲冑に包まれた足が横一文字に振り払われて飛んで来た、思わず腕で受け止める。

 「どうした?! なんでいつも俺に攻撃をしてこないんだ?」
 「お前との手合わせで私が魔法を使っていいといった契約は無いんでね」

 剣を振り上げながら叫ぶように問われる質問に素直に答えだだ、と付け加え白い光を放つ甲冑と距離を取る。視線が集まるのを肌で感じる。
 そのまま私に集まった視線を全て跳ね返すつもりでこの集まった見物客の中、人一番横幅を持った貴婦人に声をかける。

 「そこの夫人、後ろの人物を通して頂けないだろうか」
 「えっ、



 じ、王女様! 申し訳御座いません!」
 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 前に釘付けで後ろに気がつかなかった太った貴婦人は慌てて後ろに引き下がり頭を垂れる。後の貴婦人、伯爵、騎士などもそれに続き同様に頭を下げた。
 五十嵐拓也は手を振っただけで佳奈・シトローヌと吹雪沙羅は軽く会釈するだけに留まったが。

 「アデリーナ!! 来てくれたのか」
 「は、はい、クロス様ならびに勇者様方、御機嫌よう」
 「は? こいつにそんな畏まり入らないだろ」
 「久しいなアデリーナ、ところで五十嵐拓也が私との手合わせの時に私が手出しをしてこないことに腹を立てているようなんだ。?」
 「お前! その言い方はなんだ!! あ、でもアデリーナは許可してくれないか?こいついつも反撃してこないんだよ」
 「え、ええどうぞ。私が許可します」

 私を見ると瞬時にお辞儀したアデリーナに五十嵐拓也が口を挟む。五月蝿い、私が許可を取るとさらにキャンキャンと犬の様に吠えて耳を塞ぎたくなる、と新月から苦情が入った。

 もう今日は終わりにしようかとも考えたが一通り気が済んだのか、吠え立てながら大きく剣が薙ぎ払われた。
 これは初級光属性の『ホーリー・シールド』という光の盾を作ると周り周りから「光魔法?!」と言った驚愕の色が目立つ声が騒めき合う。
 どうやら光属性の魔法は初級でも使う人物は少ないようだ。五十嵐拓也やアデリーナが使えると聞いていたため問題ないかと考えていたのに。

 そんなに使える人間は少ないのか? 他の属性魔法ならいくらでも使っているのに。
 もしかして光属性というのは人の輝き―――魂の在り方と言った物が作用しているのではないだろうか? ツァスタバが小耳に挟んだ噂では五十嵐拓也が最近では光属性魔法を使う回数が減ったと聞いたそうだし。


 剣先を弾き身を守る。躱して足払いを決めると野次が飛ぶ。
 大量に送られてくる言葉に眉を顰める、新月が立ち上がって野次を飛ばす側を強く睨みつけ、ボソボソと何かを呟いているのが見えた。あれは―――多分呪詛だ。
 声には出てなくても腐っても鯛だ、新月の呪詛は間違いなく効く。新月の性格からしてすぐに効いてあと腐れ無しとはいかない呪詛だろうから発動には時間がかかる。


 今度は火属性の紅蓮が出たのでこちらは渦潮で消火し広がる煙に紛れて今度は権を握る腕に軽く手刀を入れる。
 簡単に剣が転がった……こいつ勢いだけだな。
 煙で目が使えないことに慌てて風魔法を吹雪沙羅が起こしていた。が、これは部外者の立ち入り禁止に入らないのだろうか? それともこの国ではこれが常識かと思ったがアデリーナを見ると目を釣り上げていた。常識ではないらしい。
 観客からは称賛の声が上がりよくやったという褒め言葉が飛ぶ。新月は、

―――あいつ髪を逆立てて堂々と呪詛を吐き出し始めた。
 これではこの国は愚か世界が滅びる。アリアスが世界の再創作で悲鳴と苦情を上げるぞこれは。少なくともこの見物客は絶対にろくな死に方をしないことが確定したな。
 再び野次を言い出した観客に内心馬鹿な、と呟きこれ以上問題が起きないように毎度恒例となりつつある鳩尾に“一発入れて気絶”で締め括ろうと態勢を変える。が、

 「学習しないと思ってたか!! 喰らえ、『風刀、扇動せんどう』!!!」

 だがそれを予想していたようで大きく腕を回し体制を整えると大きく振りかぶると剣の軌道が読めない動きをしみせる。これには思わず距離を取ろうと動かざるおえない。


















――――普通ならば、

 しかしこの『風刀   扇動せんどう)』という技は面白いな剣の動きが舞う扇のように、滑らかに弧を描きながらもすぐに切り返される動きはまさに扇動と言ったところだ。
 これは名の通り人の感情を煽り行動を起こさせるものだ。奥義なのだろうが一体誰に習ったものかと考えが過ったが剣の動きに若干のブレが見られレイピアなら上手く出来るだろうと考える。
 誰か近くにこの技を伝授した人間がいるに違いない。一体誰だろうかと今まで見てみてきた人間を全て思い出してみる。

 五十嵐拓也が習ったということはこの国の関係者で尚且つ城で教えることが出来る人間だ。
 レイピアということは男性騎士でも使うだろうが細身の男ぐらいだろう。直ぐに思いつくのは近衛隊隊長のハンス=ヨアヒム・ロレンダーシアという薄い長髪の男だ。一回だけ挨拶を交わしたがその時に腰に下げていたのが金の鞘に入ったレイピアだ。  
 もう一人は確か私のステータスを盗み見ようとした王室お抱えの魔導士、の部下である比較的若い者の一人が護身用と杖代わりに使っていた筈だ。
 他にも貴族の跡取りっぽいものが下げていたがあれは使えないだろうと除外する。

 だがこのような技は男よりも女の方が使いそうだ。よって前記の者は可能性から消すと、あのイルメラというあのじゅげむのように長ったらしい名前の女騎士を思い出した。なるほどあいつならば、と手を叩いた。
 流石にここまで来るとツァスタバ並みでなければ軌道が読めなだろう。私には動きが次の動きに移動するまでが止まって見えるが。
 そこは何と言っても私は時を司る神だ、これぐらいの速さには何も感じない。


 『せっかく被害を最小限にしようと動いてやったのに、馬鹿なやつだ』と目の前の人間に呆れる。
 私の目がゆっくりと額めがけて落ちる剣先を捉えた。あと数㎝で頭皮に突き刺さるところで『あ、忘れてた』と現在自分が置かれている状況を思い出したので現実に向き合い意識を戻す。
 そしてその直後しっかりと見ることが出来ないほど間近に迫った刀身を手袋をした手で掴む。
 普通の人間ならばできたいだろうが掴めないことはないんだ。別に握ってもいいだろう。

 立ち直って刀身を自分へと引き寄せていくと驚愕の顔であり得ないと頰に書いた顔が近づく。眉間に一発、怯んだところで鳩尾にも一発づつ拳を入れると隙が出来た。

 「             」

 無音魔法で光属性の『ナーサリーライム』という対象者を眠りに落とす回復魔法を使う。
 これが効いたやつはちょっとやそっとのことでは起きない。発動後、先ほどの芥子の実サイズの丸薬を入れて口を閉じて飲まる。
 この間僅か0.09秒程、強行突破だがこれならここいいるやつらは見えていないだろう。
 途端に重くなった身体を外野に投げ渡し、城から慌てて出てきたアデリーナに事情を説明後、騒ぐ周囲を無視してその場を去る。



 後から慌てた様子で後ろについて来る白と灰色の頭髪が袖を引き合った。

 「クロス様いくら苛立ってるって言ってもあんなことしたらマズイんじゃないんですか?」
 「さあな」
 『さあな、じゃないよ! クロはあのお馬鹿勇者に何したの?俺だってここから早く帰りたいけどあんなことしたら首チョンパにされそうじゃん?クロって馬鹿なの? 死ぬの?』
 「いや? というか勝手に殺すな」

 小声で囁き合う声には曖昧な返事を返しつつ歩く速さは緩めない。そのまま人混みで騒めき合う庭園を抜ける。
 そろそろ足の裏が痛くなってきたと感じ始めた頃、庭園の端の端、城の近くにある庭園からは遥かに離れた手入れの力があまり行き届いていないアクタイオン? とかいう場所の芝生に鎮座している我等が拠点に辿り着いた。
 ここまで来たらもういいだろう。流石に召使いすらもここは逢引の場所に選ばないのか人の気配は皆無だった。人の気配を無いのを確認して中に入ると話の続きを再開する。

 「新月、ハリス、お前今朝作った薬覚えているか?」
 『え? う、うん。あれなんなの?』
 「え、ええ」

 袖を掴んだまま離さなかった二人に続きを再開すると大きな瞳は互いの目を確認し合って頷いた。その四つの瞳の前に透明な実を取り出すと二人は釘付けなった。

 「残念ながら私には作れる技術はあっても才能は無いから新月と一緒に作ったのかこの薬という裏話があるのだがそこは置いておく。これは幻想級の解毒剤【甘露】……

 「『おぉおおお!!!」』

 ではなく、

 「『なんだ―――」』

 なんだその顔は、まだないものがあるんだから仕方ないだろ。
 で今ある素材やこの前買ったアリムタなんかを使用した代用品がこれだ。名はそうだな見た目がダイヤモンドに見えるからダイヤモンドのカット方法から【ブリリアント】とするか」
 「『ほぉ~、名前はダサいけどすげえ!」』
 「五月蝿い、さっきからずっと息ぴったりだな」
 「『いや~あまりにも凄いんで驚いてるだけです」』

 頭から花が咲いたような表情で頷く頭を二つ撫でてやると頭に咲いた花が増えた。面白い。

 「ではハリスは前に渡した本のP236の上級風魔法『ウィンドストーム』を練習しておいてくれ。私は残りの召喚者達にこれを飲ませてくる」
 「えー! 見てくださいよ」
 「ふ、後でな」

 ハリスの頭を撫でて今日の課題を出すとハリスは少し眉を下げた。一緒に見てくれないことに不満らしい。
 もう一度頭を撫でてやると渋々と言った様子で首を縦に振った。そのまま行ってくると外に出ると行ってらっしゃい、とハリスに見送られた。
 再び外へと戻り来た道を引き返す。が、

 「新月、お前はなんでついて来てるんだ?」
 『俺とクロは一心同体でしょ? それに俺の【憑依】は役立つんじゃない?』

 歩く速さはそのままに歩いているその数歩後ろをついて来る存在に声をかけると背中にどっしりと重さを感じた。

 「分かった、付いて来い」
 『ヽ(´▽`)/  ♪』

 どうせ来るなと行っても付いて来るのだからあきらめるしかない。白い長袖に包まれた腕を掴み引っ張ると何を思ったのかベタベタと抱きついて来るので歩きづらい事この上ない。

 「では先に一条美海と田島薫を探すぞ」
 『おー!』

 二人で腕を組んだまま滅多に踏み入らない城内へと入り二人を探すと城の東側にある近衛隊専用の訓練から何やら騒ぎがあったらしく人が集まっていた。
 人より大きい身長を活かして新月を抱えて何があったのかと覗く。


 いた、田島薫だ。しかしかなりぼろぼろで目は死んでおり口元から血が、ズボンは水たまり―――いや失禁したのか異臭を放っていた。
 見ると取り囲んでいる近衛はを刃の付いた真剣を持ったまま笑い合いその隣にいた別の兵隊も同じく腹を抱えて笑っている。
 私の前で人の壁を作っている召使い、貴族もクスクスと囁き合っており離れた場所で一条美海が手で顔を覆って縮こまって立っていた。

 「ハハハ! じゃあな勇者様の、召喚者くんよぉ!」

 耳障りな笑い声を上げて兵士が去っていくと野次馬も去っていき残ったのは私と新月を含め四人しか残らなかった。この場には五十嵐拓也とその取り巻きはいない。
 胃の内容物がせめぎ合う感覚を覚えるが腕の中で綺麗な顔を歪ませて兵士が去って行った方向を睨み続ける新月を見たらその感情は影を潜めた。


 苛立ちという感情が芽生えたがそれは置いておき二人に近づくとついさっき別れた二人よりも死人に近い顔つきをしてた。
 まずは生活魔法を使って二人の服を綺麗にしてやり精神安定剤だと断って【ブリリアント】を一つ、いや二つ程二人には飲ませた。
 副作用が気になったが構うものかと数個手渡すと一条美海は涙を流して笑った。田島薫も少しだけ口角が上がったのが分かる。


 話を聴くと田島薫は召喚されてから今日まで勇者五十嵐拓也のおまけとして兵士に稽古という名目の名の下先程のような仕打ちを繰り返しているらしい。完全な八つ当たりだ。
 見たところこいつらはこの世界に残っても為すべき事がなさそうなので二人だけ部下を呼んで元の世界に返してこようかとも考えたが異世界で背負った傷を持ち帰るとどうなるか分からない。
 かといって私が贔屓するような事をすれば命が危険に晒される可能性だってある。

 結局私はその後どうする事も無くただ愚痴だけを聞き取り別れた。新月は相変わらず兵士を睨んでいたので大方呪いをかけまくっていたのだろう、なんて予測が付いたため「程々にしておけよ」と釘を指す。
 ぶうぶうと頰を膨らまして怒りを露わにしたが指で押す、空気と一緒に怒りも抜けたようで笑顔を見せる新月の頭を再度撫でるともっと優しく、ゆっくりと注文が付いた。

 次に城内に戻り今度は城の門を出て城下町を目指しながらハリス宛に明日の朝帰ると送った。

 『え? なんで外出ちゃうの? あの取り巻きちゃん達はいいの?』
 『よくない。あの女二人と五十嵐拓也の三人は【ブリリアント】の量が多く必要だ。だが私が接触するのはあらぬ疑いの目を向けられる。第一そんな何個もこっそりと薬を飲ませるなんて出来ないだろ?
 あいつらには監視役が付いていそうだし、だから私とお前は後で夜に監視の目が無くなってから三人の部屋の屋根裏に忍び込み新月お前が【憑依】の能力で三人の体を操り【ブリリアント】を飲ませるんだ』
 『え、だったら尚更城内にいないといけないんじゃないの?』
 『アリバイ工作だ。後ろのやつらが“こいつら馬鹿だろ”と諦めて帰るまでな』
 『なーる』

 城から続く大通りを歩きながら新月に説明をして首を動かさず【以心伝心】のみで本命の会話をしつつ、口では今日の手合わせは疲れたので飲みに行くぞ。と言った心にも有りはしない疲労の愚痴を適当に編み出し新月に聞いてもらう。
 新月はそれにこれまた適当な相槌を打ってあたかも会話を熱心に聞いているように見せかける。
 こいつは私の腕に留まったまま歩いているため手を出すと指が絡み合う。所詮恋人繋ぎというものだった。後ろから【エンパス】で『兄弟であれか?!』という声がしたが後から、

 『仲よすぎないか? これだと勇者があの白い娘を助ける状況を作っても……』
 『いや、無理矢理だろ!』

 と言った会話があったのでついて来ているのは二人以上だと知った。




 そのまま歩くとやがて貴族街を抜けて市民向けの店が目立つようになる。
 同時にこちらも否が応でも視線を集めることとなる。中には囃し立てる声もあって新月が満面の笑みで手を振っていた。嬉しいらしい、良かったな。
 途中街に紛れ込んだというダークスライムを風魔法の『ゴスト・スワロウ』で切り刻み、売ったコアで庶民が集まるパブへと向かった。
 そこでつまみはそこそこに水割りワインや蜂蜜酒などで済ませていたが夜が深まるにつれてすぐに酔える安価な庶民の味方、ジンや度数が高い値段も高い酒ウィスキー、ブランデーを酔っ払いに勧められるがまま飲み干す。

 あ、魔法の階級? 確か神級一歩前だったな。



 「おい、そろそろ次の店行くぞ」
 『お、おういいぞクロの助けやー! もう一軒だ! 練り歩きだー!!』

 外から『あの酔っ払いいつ帰るんだよ!』と声がしたのでワインをオレンジの果汁を入れて飲んでいた新月を持って帰る……と見せかけて二権目に寄り三件目、四件目と進む、酔っ払いのフリをして他の泥酔馬鹿と同じく道端、ではないが安宿に泊まって爆睡する。
 ここでやっと監視役の集中力が途切れ途切れになったのか気配を消す能力が消え、監視の目がも少しの間逸れた。
 その瞬間を狙って時を止める。


 「よしやっとだな! 新月起きろ」
 『むぉふ、(つω-`).。oO』
 「飲みすぎだ。さっさと済ませて寝るから今はしゃんとしろ」
 『えー、クロだってジン飲んでたじゃん。ガツンときてるはずなのになんでおひとるの』
 「文字化けしてるぞ。正直私も睡魔に襲われてる。だがここまでやったんだ。とっとと済ますぞ」
 『\(^o^)/』

 愚図る新月を抱きかかえて宿の階段を下りると受付の老婆は居眠りをしたまま固まっていた。
 それもそうだ時刻は草木も眠る丑三つ中の午前二時、もう少ししたら市民は起きるだろうが今は起きているのは犯罪を犯そうとしている者のみだ。

 酒が回った体を動かし【アギト】で城に舞い戻りまずは三人の部屋を探すことから始まる。
 私はあいつらの先生をしているが何処の部屋にいるのかなんて一言も聞いていないため部屋探しからのスタートになった。
 順々に部屋を除いていると新月が探し当てた国王の部屋で布団の中に水を仕込もうとしたので回収した。
 そうして探し当てた部屋に忍び込み一番最初に佳奈・シトローヌの部屋についた。

 『じゃあ新月ちゃん頑張りまーす【憑依】!』

 寝ぼけ眼を擦りながら【憑依】を使う。途端新月は消えてスタシスが落下するのを慌てて阻止した。危なかった、痕跡を残すところだった。
 新月が操った佳奈・シトローヌに口を開かせて【ブリリアント】を何個か飲ませて元の寝相を取らせた。同様に吹雪沙羅にも飲ませ最期の五十嵐拓也の部屋に侵入しようとしたその時【エンパス】が発動した。
 調べるとこの部屋だけ私が入ると痕跡が残るらしい。
仕方なく新月を先に入れてドアの外まで五十嵐拓也を持ってくると五十嵐拓也の顔が笑いを堪えた表情をしている、何があったと聞くと寝相がベットの上で土下座の体勢だったらしい。
 八つ当たりを込めて【ブリリアント】を水なしで新月が飲ませていた。


 五十嵐拓也の体を元に戻して宿へと帰路に着く頃には私も新月もどちらとも千鳥足になっていた。
 当たり前だ。浴びる程酒を飲んだから体で能力を使った挙句動き回ると言った芸当をしたのだ普通倒れてもおかしくない。
 ふらふらと寄り道ををしながら帰りシーツの海へと身を投げる。空かさず新月がそばに倒れた。

 『うぇ、気持ち悪い』
 「私もだ、視界が……揺れる」

 ぐらぐらと揺れる視界を我慢して手袋を外す。涼しくなった手で白と青が混ざった頭を軽く撫で額に手を当てる。一呼吸置いて肩が跳ね上がる。面白い、

 『冷たい!』
 「ははっ」
 『笑わないでよ』

 むすぅ、と頰を膨らませた顔に近づいて目を合わせる。赤い瞳がぐっと近づいた。

 「楽にはなるだろ?」
 『でも体温冷た過ぎ! 気持ちいいけど』
 『そういえばなんでこんな回りくどいことしたの?』

 濃い紅色の目が近づき互いの目を覗く。顔がこれだけ近くなればお互いの目がはっきりと見える。
 赤い目に私の顔がぼんやりと映る。私の目には新月の姿が映っているのだろうかは分からないが。見つめ合ったまま動けなくなる。
 その様子に新月はクスリと笑い枕に肘を乗せた。

 『じゃあ言い方を変える。に対してこんなに手をかけるなんてどういった風の吹き回し? いつものクロじゃ時空のおっさんに任せて終わりだったじゃない?』

 横から疑い深い視線が頭を突く。
……何かあったか?

 「確かに、普段ならば会社に話を入れる。しかし今回は私自身が巻き込まれているからなるべくこれ以上登場人を増やさず穏便に終わらせたい。
 それに、この旅は案外面白いと感じている。ここで煩わしい思いをしてでもこの環境を手放したくない」
 『………』
 「新月?」

 名前を呼んでも返事がない。頰を撫でると震えている。まさか吐くか?

 「新月?」

 もう一度名前を呼ぶとバッと顔が上がりベットが軋んだ。

 『クロ―――――!! おねーちゃん嬉しくって泣いちゃう! うげぇー……』
 「やめろ! 顔に吐く気か!! 吐くのなら外にいる監視者に向けて吐け!」

 慌てて時間を動かして口元を押さえた新月の顔を窓から出す。



 バンッ!!!   ザバァ―――!!!

 星空に向かって大量の天の川が流れる。監視者にはちょっと八つ当たりかもしれないが回りくどい事をさせられたので少し痛い目にあって貰おう。




****

 モブ監視者1「おう元気か……って臭!!! お前どうしたんだよwww」
 モブ監視者2、3、4「「「俺達が監視してたやつがゲロって窓から吐いたんだよ!! おかげで下でスタンバってた俺達にモロ被りしたんだ!!!!」」」
 モブ監視者1「www」







おまけ

【ブリリアント】新月を膝に抱えてアイデアの無さを補って作ったもの。
 ダイヤモンドのように光輝く透明な玉だがその効果は【甘露】に次ぐ幻想級の秘薬となった。殆どの毒ならこれで解消されるはずなのだがクロノスの運が低いため召喚者達が患っている症状だけ完全に解毒することが出来ない代物。
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婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

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