遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

流れ着いた先で

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 腹部に大きく開いた傷口からまだ少し血が流れているのに思わない点がないわけではない。が、これも必要なことなのだから仕方なかった。
 それよりも問題は今後である。予定ではカパズティットにて集結するつもりであったものがこうも散り散りになったら収集がつくのは一体いつになることやら。
 年単位は分かってはいるが未来視では世界の流れとアホとハリスとツァスタバ、ロザリアントに力を入れた見ていたから私自身はおざなりにした。
 まあ奥底にいるタルタロスに始めて会うことは無いから問題は無いな。しかしタルタロスには前回の切り刻まれたとき戻ってきた場所ではあのアホがいていなかったな。いつか顔を出しに行くか。

 となればまずは前方……ではなく真下で群がる魔族をどうするかだな。
 下に目を向ければ声を上げて固まる群衆。さて、

 このまま海に引き返すことは未来視ではしていなかった。なら交流してみるとしよう。手が出る足が出るアホでもまずは会話をするだろう。


 「あ―――、恐れながら一つよろしいでしょうか?!」

 そんなことを考えつつ頭の中に満面の笑みでサムズアップポーズをとる新月を思い浮かべているとしたからランプブラック……いやこれはミッドナイトブルーだな、その翼を六枚ほど生やし、天に向かってくねりながら生える角を持った上流階級の貴族、いや王族に匹敵する身形の男が私の顔の高さまで飛んできた。

 「申し遅れました。我が名はセバスティアン  クリストバル  エセキエル・デェ  エリィドレィ。この国を治めている者でございます。以後お見知り置きを」

 どこか思い当たる人物がいる程では無いが長い名前を名乗ったのは国の統治者、詰まる所の魔王というやつだった。
 焦げ茶色の髪の胸部まである髪を低い位置で縛った体格の良い男だった。
 服装は江戸紫色の手の込んだ毛皮付きマントに白い装飾性が強い甲冑を着ている。新月が無理やり見せてきたライトノベルに描かれる魔王とは異なった色合いの魔王だな。

 「ほう、其方が魔王と呼ばれる者か」
 「はい、そして不躾な話ですが貴女様は御怪我をなさっておられる。違いますか?」
 「ああ、そうだ。経緯は省くがこれは外部からの衝撃で負傷した」

 伺うように質問する魔王に向けて傷口に手を当てると話は一旦保留として場所を移したあと、傷口の手当てをすることへと向かっていた。

 「では話は保留に致しましょう。しかし貴女様がお乗り出来る馬車がありませんね……」
 「それならば―――問題ない」

 私が乗れる大きさの馬車がないなら私が大きさを調整すればいいことだ。幸い一日が経過していたが為に神通力の回数は復活していた。

 「おお! これは―――ドウゾコチラを御使イ下サイ」

 通常通りの大きさに戻すと魔王も降りてきた。するとどうだろうか、羽織っていたマントを頭から被せられた。
 なんだこいつ。私が縮んだら顔から湯気を出したぞ。

 ああそういえば私は今裸体だったな。服はスーツか最初に新月のために作った簡素なワンピースのどちらがいいかと考えていればエスコートされる。
 そしてあれよあれよと言う間に王専用らしい魔獣の皮張りの馬車に乗って何処かへ向かっていた。
 それなりの広さを持つ馬車の中でお抱えの医者に治療を受けながら揺られること約二十日と少し。時折馬を変えながら騎士が四方を囲んで行進するのにはもう慣れた。
 出血は止まったからあとはしばらく安静にしていれば元どおりになるだろうと口では言っていた医者だったが人の基準で考えているその顔は狐につままれたようだった。何せ相手が私だ。常人の領域と一緒にするのが馬鹿らしいだろうよ。
 医者が馬車常在で無くなり魔王と二人のみになった馬車内は静まり返った。大した話も無いので仕方ない。寝るか。


****
魔王視点


 隣の愚国の水面下での動きがあり戦争がいつ起きるか分からないといった状況にまで発展していた。
 まあ此方が仕掛けたのだか、と言ってもあの国の自業自得だ。国力が下の癖に俺どころか他国からの怒りを買うことをするあいつらが悪い。

 今は現状を確認するべくこの国の最西端の港にまできて会議をしていたらボロ布のような翼を持つ小太りな大臣が窓を叩き割って飛び込んできた。
 本来なら刑罰を下する所だが内容が内容なだけに会議席にいた上流魔族が俺も含めて割れた窓から飛び出した。
 人気のない浜辺で女神が倒れている。

 そんな馬鹿馬鹿しい。そう思いつつも魔族を引き連れて大遠征をすると巨大な人が倒れている。飛ぶ速度を上げて周りを振り切った辺りで巨人は立ち上がった。その身体にこの国では日照時間が短い太陽がさした。
 息を飲んだと思う。

 長い黒髪を持った腹部に大きな傷口を持った裸体の女。
 それだけなら海で泳いでいたただの人間が怪我をして倒れたで片がつく。だが女の肌に広がる模様と背に広がる何かの輪。
 それと一見ただの魔眼のように見えたその眼を見た。いや見ただけで自分がいかに小さな存在なのかを一瞬で叩き込まれる。今まで味わった事がないほどの圧倒的な力の差を見せつけられた気分だった。



 これは俺が直々に拝見しないといけない。言葉を間違えば終わる、何もかもが。そう直感した。幸い巨大な女神は話を聞き魔族と同じ大きさにまで調節して頂けた。
 が、畏怖で忘れていた。女神は裸体だ。見事な黄金比―――じゃねえ、ありがとうございます……でもない!
 馬鹿なやつが反感を買ったら間違いなく消える、この大陸が。

 差し出す価値がある衣類が俺のマントしか無かったので素早く馬車を手配した。その後は兵士を呼んで護衛させたり連れてきていた王室お抱えの医師に見させたりとしながらかれこれ二十日程もうすぐ王都に着くはずだ。



 しかし会話をしていない。

 当のご本人がお休みになられているので俺も強いことは言えないし言える立場でもない。この世界で女神と言ったら創作神アリアスしかいないだろ。
 現に今も頭の上に何か分からないが金色の輪みたいなのか見える気がするが気にしたら負けだと思った。とりあえず何か対話を――― 

 そう考えていると王都が見えてきた。やっとか、そうだこれを話の話題にと考えると細心の注意払ってアリアス神と思わしき女神を起こす。

 「女神よ王都に着きました。そろそろ起きて頂けないでしょうか」
 「―――王都か、分かった」

 跪いて声をかけると女神はすぐに起き上がった。女神で自然に反応するという事はこの方は本物か?
 それにしても寝ていたにしては反応が早いな。狸寝入りか? いや神なら睡眠を必要としないかもしれない。それなら生き物と勝手が違うのかもしれないな。新たな一面を見つけた。
 興味深い事だなと考えていたらふと思い出した。

 このお方は素っ裸……

 と言っても俺の手の持ちの服に女物はない。これだと馬車から出れないんじゃないか?

 「女神よ、大変申し訳ございませんが衣類を纏って頂けないでしょうか」
 「そうか分かった」

 頭を下げて頼めば二つ返事で受け入れられた。ホッとしたのも束の間、瞬き一つの間に裸体から古代の文献で出てくるような服装に変わった。

 「いつも思うが人間というものは良いものも考えるが厄介な物も考えるな。
 生きとし生けるもの全て生まれた時から裸体だと言うのに、皆同じ構造をしているのだから何も隠すところはないのにな」

 俺はもう何も突っ込まないぞ。気にしたら負けだと考えていたが突き出た膨よかな胸部の上に輝く赤い宝石が目を引いた。

 「女神よその宝石は?」

 指を指すと何処からか呪いが飛んでくる予感がしたため言葉で分かってもらえるように宝石を強調した。
 摩訶不思議な色合いの目が下を向いてから納得したように口を開いた。

 「これは大切な物だ。運気が向上するからな」

 当然だと言わんばかりの顔で言われれば驚いた。もしかしたら女神自身は意外と運気が低いのか? 発見した時も負傷していたし。
 また以外な点が見つかった所で馬車が登城したらしく止まった。話はまた今度になりそうだ。



****

 一度本来の大きさに戻ったせいで傷口の回復やら姿がおかしくなった。直そうと思えばいつでも直せたが目の前の魔族が動き回って話を聞かないものだから説明の間が無かった。
 もしかしなくてもしばらくこのままだと言うのは頭の中で新月のドヤ顔が答えを出している気がした。

 神聖カルットハサーズとは真逆の対応を味わいながら流れ流されて何処かの部屋に通された。長ったらしく言われたが簡単に言えば『ここで治療しろ、あとでに聞きたい事が山程あるぞ』と言われた。怪我自体はもう塞がっているんだがなあ。
 まあ今はそう簡単に行動出来なくなっているし対価を払って置いてもらうか少なくても半年ぐらいは無理かもしれない。顔は見られていないから今の姿(これ)はいいだろうがいつもの姿(あれ)では出歩けない。槍や剣、さっきみたいな大砲が飛んでくる。全て解決出来るが面倒だ。
 足の甲まで埋まる程柔らかい毛皮の絨毯を踏んでバルコニーのガラス戸を開けると薄い夜空が広がっていた。確かに日が出ているのは少ないらしいな。

 もう大陸の先はどうなっているかと特殊スキルの【千里眼】が出来きたがその上の【万里眼】を使う。先ほどの神通力もそうだがアリアスはしっかりと仕事をしてくれているようだ。
 【以心伝心】では二人の面倒は見るが期待はしないで欲しいこと。自分達は獣がいっぱいの所だから動くのにはしばらく時間がいる事が書かれていた。
 私といい新月、ツァスタバ達といい見事に散り散りだな。はじめは自然豊かなカパズティットに行きしばらくは別世界にでも行く予定だったんだがな。まあ仕方ない。


 「―――失礼致します女神様」

 この呼ばれ方にも慣れた。確かに今の私の性別は女だ。否定するつもりは無い。

 「入れ」

 能力を使ったまま答えると何人かの魔族の給仕係がぞろぞろと入ってきては見舞い品だという明らかな貢物が入ってきた。食料や食べるから良しとして多少の衣類は疎い私には助かる物だった。
 だが宝石やら珍しい愛玩動物はいらない。宝石なら自分でどうにかなるし動物は言葉が分かるが世話する前に加減を間違えて殺してしまいそうだろう。

 さてどうするか、と考えて一番近くにあった衣類を取り出す。
 肩から袖に向けてふわりと広がり袖口でしっかりと閉じているマンドルスリープの七宝柄の白いズボンドレスに着る。
 ついでにその横にあったコートを持つ、コーク色の毛皮の私が肩にかけても床につきそうな程ながいコートだ。余計な装飾が多いので肩にかけるだけで重い。誰だこんなもの置いたのは。今は気温が低いのでそのまま羽織るが。

 適当に服を来て部屋の外へ出ると掃除をしていた魔族が揃って頭を下げた。おそらくこれでは国中の魔族に存在を知られていると見て間違いないようだな。一暼して歩き出すと後ろに付き従ってくる。
 要らん、ついてこなくてもいいと言ったら何人かは帰って行ったが最低限の人数は固定らしい。面倒な。

 宮廷をぐるぐると見学していると後ろから軍隊でも歩いているかのような足音が聴こえてきた。踵を返すとあの見た目がイメージ像とかけ離れの魔王がその他諸々を付き従えて走ってきていた。

 「や、やっと、見つけたぞ……出来れば一言話してくれ、探すのに手間取った」
 「そうか。では次からはそうしよう。まあ次があるかは不明だが」
 「は?」

 呑気に口を開けている魔王へ向かって手を差し出し宝石を取り出す。これは毎日余った神通力で作っていた宝石だ。こういう時に使わずしてどこで使う。

 「駄賃だ。世話になったな」

 白い手甲の中に拳程のルビーを置いて歩き出そうとすると待ったが入る。

 「待て待て待て!!!! これはなんだ!!!」
 「何って慰謝料というやつだ。まだ足りないか?」
 「違う! 世話になったってどこに行くつもりだ!!」
 「別の大陸だ。私が持っていた武器が怪我を負った時に離れ離れになったから探しに行く」
 「探しに行くって……数日後には戦争が始まるんだぞ……とりあえずなんで貴女があんな所に倒れていたのか教えてくれませんか?」
 「分かった」
 「そうですか、ではこちらへ」

 ブツブツと何やら考えている魔王だったか世話になったのにここまでの経緯を話さないというのも何だろう。
 了承すると表情を緩めた魔王が手を差し出す。私はごく普通にその手を取った。


****
ですいずA☆HO☆


 「し……白さんどうするんですか?あんた喋れます?」
 『どないせい言われてもワタシワカラナイあるヨ!』

 ハリスくんにこずかれても俺も分からない! アリアス君(ちゃん?)が伸びてるのでハリスくんのフードに死体のフリして隠れてるし!
 準獣道を歩かされるから白いトゥーシューズが汚れる! せっかくクロに出させたのに!
 しかも熱帯雨林で蒸し暑い! あ、ハリスくんに変な虫が、ぽいっとな!
 フワッフワの毛並みのけもの●レン●がいても四方を囲まれて歩かされとるのがキツイ。
 
 ボクお家帰る!  状態だよ本当。ってかクロがいないのつらいや、ばた●えんです。

 「あ、あの大丈夫ですよ? お父様達はそんなに酷いことしません! 明確な理由があれば分かって貰えますから!」
 「は、はい! そうですか!」

 顔から出る脂汗に気がついた三毛猫耳が可愛い幼女がフォローを入れて来ました。ようじょに宥められる男の子ってつらーい!

 『いや~これには深ーいわけがあるんだよ! とりあえずお嬢ちゃんお名前は?』
 「メア! 八歳!」

 ワォ! 俺ロリショタコン扱いされちゃう!

 「おいそこの白いの! 娘に手出すんじゃねぇぞ! ったくスキルでしか会話しないだなんて変なやつをなんで俺が―――」
 『いてぇ!』

 ブツブツ言うトラ男に殴られました。頭にたんこぶ!
 娘は嫁に出さん精神ですね分かります。でも俺はこの子もいいけど……

 『大丈夫だぜ虎男さんや、俺はクロの熟れてたわわに実った果実とナイスバディしか興味ないから! むしろ妹が綺麗過ぎて興味無し。
 やっぱ砂時計体系にすらりとした足、長い黒髪! やっぱ黒髪は正義! ディス・イズ・ザ・ジャスティス! 大きな実りは逆に隠しているからこそ価値が上がる! ミステリアスは世界の神秘! 妹という言葉こそ世の宝! 身長は低いのもいいが高めだからこそハイヒールが似合う。ルブ●ンっていいよな!』
 「お、おう、とりあえずお前が成人女性にしか興味が無いってのは分かったから何もするな! 娘の教育に悪い!」
 「ちょっと何言ってるか不明なんだけど」
 「お前は知らんでいい!!」
 「おい白いちんちくりん! 未成年の前で何言ってやがるんだ!!」
 「そうだぞちんちくりん!!」
 「「???」」

 目をパチクリしているロリショタを守るようにけもの●レン●からの非難轟々。パンダっぽいお姉さんに白い目で見られる。新月くん四面楚歌! ヒドス!(←自分のせい)

 なぜか俺だけ除け者でハリスくんだけ高対応のままちょっとした市場っぽいのに出た。アフリカの車がいっぱい通っている情景を馬車なんかに変えたのを思い浮かべて頂ければぱーぺきです。
 なんか一番村長とか住んでます系のカラフルな建物に入るとザ☆民族系統! 赤が基調のアボリジニテイストにこれまた赤い服を着たライオンさんがいました! あ、でも隣のメスライオンさんのが強そう! かかあ天下や!

 ハリスくんは座布団貰ったのに俺だけ外っちょ! 座布団無しで正座!ロリから遠ざけられハリスくんの太ももに手が届かない! うぇーん!

 頰を膨らませて抗議の姿勢を保っていると向こう側で勝手に話が進みまする。いや~! 置いてけぼりだ! どうせなら茶菓子ちょうだいよ。

 「おっほん! ……話は分かった。少年よ気楽にしろ。そこの白い男は女子供に近づくなよ」
 『わーお! 辛辣! だが断る! (`・ω・´)』
 「いや断んなよ!」

 虎男くんに叩かれた! 痛ーい!
 頭を抑えていると話が勝手に始まった。新月くん無視か~。

 「あー、私はバーコン・ムンダ」
 『なるほどベーコンさんか』
 「誰が食い物だ! で、この地方の貴族である。この色鮮やかな屋敷と赤い服が証拠だ!」

 プンスコしてるベーコンさんは赤い服をひらひらさせていただ。へー赤い服=貴族ね。了解。

 「で、お前達―――特にその白いの! お前は何者だ! 話を聞くに武器から人型になったと聞いたぞ。説明しろ、飲み物は出してやる」

 説明を求めらるライオンさんがギロリと睨んできます。それを習って周りも睨みます。縦社会ですね! 
そう思っていたらライオンさんの拍手の合図でなんかエロめのヒョウのお姉さんがお菓子を持ってきました!
 が! 飲み物を見るとあの忌まわしき灰色の飲み物ロンガン! 無理! 飲めにゃい。

 「白さんこれ飲みます?」
 『ハリスくん押し付けんで! お姉さんどうぞ! 俺甘すぎるの苦手で吐いちゃうの! お貴族様の所で吐くのはダメでしょ? どうぞどうぞ!』
 「あら嬉しい」

 すすすっ、っと寄せられた飲み物を隣のパンダ姉さんに渡した。喜んで飲んでたよ。びっくりだわさ。茶受けのコンフィズリを摘んでいるとベーコンさんから殺気立った姿勢が注がれる。
 ハイハイ喋ればいいんでしょ? ついでにあのお間抜け王国のタレコミしてやる! 全てはクロの汚名返上の為! 使える物は使ってやるさ! 新月くんの口車をご覧あれ!


****

 「はっ! お嬢様が何かをやらかしている気配を察知致しました!」
 「あら? 奇遇ですわね。私はご主人様が何か窮地に追い込まれたと感が囁いておりますわ」
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