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滋賀列島(シガレット)

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第3話「再出発と新たな絆」

3-4: 「雲上の二重奏」

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 展望デッキに響く悲鳴ひめいと金属のぶつかり合う音。リバンスは息を切らしながら、周囲を素早く見渡した。空賊たちの数は15人から20人。彼と不思議な少女の二人では、明らかに多すぎる。

「くそっ...」リバンスは歯をいしばった。「ほかの場所の状況も気になるな。早めにここを制圧しないと」

 不思議な少女と背中合わせになり、リバンスは剣を構えた。向かってくる空賊たちの目は獲物えものを狙う野獣のように輝いている。

 少女の声が冷たく響く。「ファイアボール炎弾!」

 炎の玉が空中を舞い、空賊に直撃する。悲鳴と共に一人が倒れる。次の瞬間、「アイスランス氷槍!」と少女が叫び、鋭い氷の槍が別の空賊を貫く。

(すごい...様々な属性の魔法を使えるのか)

 リバンスは驚きを隠せない。通常、魔法使いは得意な属性の魔法をメインに使い、それ以外の属性の魔法は威力が落ちる。しかし、この少女はどの属性の魔法も高い威力で放っているのだ。

複写再現コピー&ペースト!」リバンスは少女の魔法をコピーし、ファイアボールを放った。炎が空賊を包み、悲鳴と共に倒れる。

「くそっ!魔法使いが二人だと!?」空賊の一人が叫ぶ。

 リバンスは素早く動き、剣で一人の空賊を倒す。その瞬間、背後から風の魔法が飛んできた。

ウィンドカッター風刃!」

 風の刃がリバンスの後ろの空賊を切り裂く。振り返ると、少女が小さくうなずいた。

 二人は息を合わせるように戦い続けた。リバンスは少女の魔法をコピーしては放ち、時に剣を振るう。少女は次々と異なる属性の魔法を繰り出し、空賊たちを翻弄ほんろうする。

サンダーボルト雷撃!」

ストーンウォール石壁!」

ウォータージェット水流!」

 魔法の嵐が展望デッキを覆い、空賊たちは次々と倒れていく。

 突然、周囲から歓声が上がった。魔法が使える乗客たちが、リバンスと少女の健闘けんとうに感化され、戦いに加わり始めたのだ。

「私たちも手伝います!」
「この船は渡さないぞ!」

 乗客たちの魔法が飛び交い、状況は徐々に乗客側の優勢に傾いていく。

(やった!このままいけば...)

 リバンスが勝利を確信しかけたその時、突如として重圧じゅうあつが全身を包み込んだ。

重力圧縮グラビティプレス

 冷たく響く声と共に、その場にいた全員――空賊を含めて――が一斉に膝をつく。

「おめぇら、こんなガキどもにいいようにやられてんじゃねぇぞ」

 低くうなるような声が響き渡る。詠唱えいしょうが聞こえた方向から、一人の男が姿を現した。その威圧的いあつてきな雰囲気から、空賊のボスであることは明らかだった。

「さっさと目的を果たして金品を奪え。そしたらこの船を落とす」

 ボスの冷酷な命令に、リバンスは歯を食いしばった。

(こんなところで...終わるわけにはいかない!)

 ボスと思われる男性は近くにいた膝をついた空賊の首をつかみ持ち上げた。その手に力が込められ、空賊の顔が苦痛でゆがむ。

「おめぇらはいつも俺をイライラさせやがる。結局は俺が手を下さなきゃなにもできねぇクソどもなんだなぁ」

 首をつかまれ持ち上げられた空賊が震える声で叫んだ。「お、お許しください...!バルザック様!」

 バルザックは冷酷な笑みを浮かべ、「プレス圧縮」と唱えた。空気が凝縮されるような音とともに、空賊の頭が何かに押しつぶされたように弾け、血飛沫ちしぶきが周囲に飛び散った。

 リバンスは目を背けたくなるような光景に、胸が締め付けられる思いだった。

「おめぇらこうなりたくなかったらしっかりと働けよ」

 バルザックの言葉とともに、乗客への蹂躙じゅうりんが始まった。次々と乗客たちが重力魔法で押しつぶされ、悲鳴が展望デッキに響き渡る。骨の砕ける音、内臓が潰れる音、そして絶望的な叫び声。その光景は、まさに地獄絵図じごくえずだった。

 リバンスは焦りを感じていた。「このままでは殺される...」

 その時、後ろから重力に逆らい、なんとか立ち上がった少女の声が聞こえた。「アンチグラビティ反重力!」

 突如、リバンスと少女にかかっていた重力が消えた。体が軽くなる感覚に、リバンスは希望を見出した。

「あいつの重力魔法が強すぎて私の近くしか解除できなかったわ...」少女は息を切らしながら言った。

「それだけでも十分だ、これで体は動かせる。なんとかあいつを倒さないと」リバンスが返事をすると、乗客の相手をしていたバルザックがこちらに気づいた。

「ん?おまえよくおれの重力魔法を相殺したな」バルザックは少女を見つめ、「あー?その顔...おめえが目的のガキだったのか」

 リバンスは驚きを隠せなかった。「あいつの目的がこの少女だって?」

 バルザックは続けた。「んだよあいつら。国から逃げた王女だっていうからてっきり弱々しいやつだと思ったのに、そこそこめんどくさそうな依頼押し付けやがって」

 そう言いながら、バルザックはこちらへ手を伸ばし重力魔法を唱えようとした。

「くるわ!!私があいつの魔法を相殺するからその隙に近づいて!」少女が叫ぶのとほぼ同時に、バルザックが重力魔法を放った。

 空気が重くなり、呼吸すら困難になる。少女の反重力魔法とバルザックの重力魔法がぶつかり合い、展望デッキ全体が歪むような錯覚を覚える。

 リバンスは剣を構え、バルザックに向かって突進した。しかし、バルザックの周囲には目に見えない重力の壁があり、近づくことすら困難だ。

「なめんじゃねえぞ、ガキ」バルザックは片手でリバンスの攻撃を払いのけ、もう片方の手で重力魔法を放つ。

 リバンスは床に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。「くっ...」

「もうだめ...」少女の声がふるえる。

 バルザックの重力魔法が少女を押しつぶそうとする。少女の体が床に押し付けられ、骨がきしむような音が聞こえる。彼女の顔は苦痛くつうで歪み、呼吸こきゅうも困難になっていく。

「ふん、所詮はこの程度か」バルザックが冷笑れいしょうを浮かべる。「お前らごときが俺に勝てると思ったのか?笑わせるな」

 彼の手が少女のくびに伸び、ゆっくりとめ付けていく。少女の目が恐怖で見開みひらかれ、酸素さんそを求めて必死にもがく。

「依頼に生死せいしは問われてなかったからなぁ。顔はわかるように残さねぇと」

 リバンスは必死に動こうとするが、重力の圧力あつりょくで指一本動かすこともできない。彼の視界しかいには、苦しむ少女の姿だけがき付いている。

(くそっ...動けない...!このままじゃ、あの子が...!)

 少女ののどからしぼり出されるような悲鳴ひめいが聞こえる。

 その瞬間、リバンスの中で何かがはじけた。

「あああああああ!!」

 突如、リバンスの体があわい光に包まれる。バルザックが驚いて振り返る。

「なっ...!?」

複写再現コピー&ペースト!」リバンスは渾身こんしんの力を込めて叫んだ。バルザックの重力魔法がコピーされ、一気に5回ペーストされる。

「バカな!!おめぇがなんで俺の魔法を...!?」

 バルザックの驚愕きょうがくの叫びとともに、彼自身が自らの魔法の餌食えじきとなる。5倍の威力いりょくを持つ重力魔法により、バルザックの体が床に押しつぶされていく。

「くそが!!くそがああああああああ!!!!」と叫びながら、バルザックは床をき破り、下へ落下していった。

 リバンスはひざをつき、激しい頭痛ずつう疲労ひろうに襲われながらも、少女にけ寄る。

「大丈夫か!?」

 少女はき込みながらも、かすかに頷いた。しかし、彼らの安堵あんどもつかの間のものだった。

 突然大きなれとともに飛空艇ひくうていが落下を始めた。

 バルザックとの戦いにより飛空艇の機関部きかんぶ損傷そんしょうし、どんどん落下速度が速くなる。

「こ、この揺れは...!」リバンスは動揺どうようを隠せない。

「飛空艇が...落ちる!」少女の声には恐怖がにじんでいた。

 満身創痍まんしんそういの体でボロボロのリバンスと少女は、この状況をなんとかしようともがく。窓の外では地上が急速に近づいてきている。

「どうしよう...このままじゃ」とあせる少女に、意識が朦朧もうろうとしながらもリバンスが言った。「俺と同時に反重力魔法を発動しよう」

 リバンスは少女の反重力魔法をコピーし、少女とともに唱えた。

アンチグラビティ反重力!!」

 少女に加えリバンスが5度ペーストしたことにより計6倍となった反重力魔法により、落下速度は急激に落ち始めた。しかし、飛空艇の重量じゅうりょうは想像以上だ。

「もう...少し...!」リバンスは歯を食いしばり、全身全霊の力を込めて魔法を維持する。

 少女も必死に魔力まりょくを注ぎ込む。「お願い...間に合って...!」

 飛空艇の周りに青白あおじろい光が渦巻うずまき、落下速度がさらに緩やかになっていく。そして、ついに...

 ドン!というにぶい音とともに、飛空艇は地面に着地した。衝撃しょうげきで体が宙に浮くが、大きな損傷はない。

「や...やった...」リバンスは安堵の声を漏らす。

 しかし、その安堵もつかの間、極度きょくどの疲労と魔力の消耗しょうもうにより、リバンスの意識が急速に遠のいていく。

「大丈夫?!しっかりして!」

 少女の心配そうな声が遠くなっていき、リバンスは完全に意識を失った。極限まで追い込まれた体と精神が、ようやく安堵の中で休息きゅうそくを求めて深いねむりに落ちていった。
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