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吸血鬼と人間 編
12 魔族の街へ買い物に行こう【1】
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魔都レプニカまで空路で数十分。
歩きだと数日なのに、すごい速さだ。
飛竜と聞いて騎馬のようなものを想像し戦々恐々としていたが、実際は馬車のイメージに近かった。
荷室付きの四人掛け個室を大きな竜がひいている。
時に雲の上まで上昇するのに適温が維持されていて、揺れもない。なんて快適なんだ。
こんなに便利なら、みんなが使ってそうなものだが……。
「さっきから、ぜんぜん他の飛竜とすれ違わないですね」
向かいに座るジェードが手元の本から顔を上げ、俺を見た。
「弱い竜は野生の竜に襲われる。荷を乗せて安全を確保できる強さの竜はそう多くない。そもそも竜は我々と同じかそれ以上の知能があるし、躾けるのも難しいからな」
つまり、めちゃくちゃ強い竜より強い魔族しか飼えないし乗れないってこと?
一般に定着しようのない超プライベートジェットだった。
『聞こえているぞ。おまえがおれを飼っているんじゃない。おれがおまえの面倒を見てやっているのだ』
「うわっ」
外から声が聞こえて窓から顔を出すと、振り向いた竜がこっちに向かってウインクした。おお、フレンドリー。
「無視でいい。百年ぶりに呼び出されてはしゃいでいるんだ」
『まさかおまえが、戦いのためでなく行楽のためにおれを呼ぶとはなぁ』
「…………」
「……ジェード?」
「無視でいい」
読書に戻ってしまった。
キャリッジそのものにも飛行機能はあるらしく、竜の役割はスピード付与と護衛なのだそうだ。
だからって竜の機嫌を損ねるような態度をとって良いわけがないのに。
一周して仲良しなんだろうな。
『冷たいねぇ。そこのお友達はどなたかな? 私はワズワース。今後ともよろしく』
「俺はハヤトキです。よろしくお願いします」
乗客をもてなすように、大きなはばたきが返事をしてくれた。竜って陽気なんだなぁ。
「ハヤトキ、その堅苦しい口調はやめておけ。いまどき賎民しか使わん。街に行くならなおさらだ」
「敬語のことですか? でも……」
賎民ってなんだっけ。身分が低いヤツとかそういうののことかな。
「森のアレは変わり者だから例外だが、そんな喋り方では普通は下に見られる。粗暴な者にそう判断されたら、その場でオモチャにされるぞ。死ねたらマシだ」
「……わかった。もうしない」
タガが外れた魔族の怖さはもうよくわかった。初対面の相手にカジュアルな態度をするのは社会人として違和感があるが、ナメられてオモチャにされるほうが怖い。
常にタメ口のクセをつけよう。
窓の外の景色が、雲の海から地上の一望に変わる。
竜が降下したのだ。
海と陸が複雑な線を描いている。眺めれば眺めるほど、ここはやはり地球じゃないのだと思い知ってしまう。
地図に載っていないだけかもと考えるには広大な陸地。かつ、同じ陸の中で四季や環境が極端に違う。凍っているところ、燃えているところ、闇に覆われているところ、緑が豊かなところ、さまざまだ。
……俺、もう日本には帰れないのかもな。
オフィスで死んだのは間違いないと思うし、そんな気がする。
ぱら。
本をめくる小気味の良い音がした。
ガラスのない窓枠から陽光が差し、ジェードの手元を照らしている。
「ジェードって吸血鬼なのに、太陽が平気なんだな」
「どういう質問だ?」
「吸血鬼って、陽の光が苦手なんじゃないのか?」
「ふむ、初耳だ」
俺が知ってるフィクションの吸血鬼と、この世界の吸血鬼が違うのは当たり前か。
「やっぱりなんでもない。……あ」
地上の景色がどんどん近くなっている。
『到着だぞー』
街の外れに降ろされると、竜は空へ帰っていく。
――レプニカはまさに都会で、緑深い辺境区とは全く違った。
歩きだと数日なのに、すごい速さだ。
飛竜と聞いて騎馬のようなものを想像し戦々恐々としていたが、実際は馬車のイメージに近かった。
荷室付きの四人掛け個室を大きな竜がひいている。
時に雲の上まで上昇するのに適温が維持されていて、揺れもない。なんて快適なんだ。
こんなに便利なら、みんなが使ってそうなものだが……。
「さっきから、ぜんぜん他の飛竜とすれ違わないですね」
向かいに座るジェードが手元の本から顔を上げ、俺を見た。
「弱い竜は野生の竜に襲われる。荷を乗せて安全を確保できる強さの竜はそう多くない。そもそも竜は我々と同じかそれ以上の知能があるし、躾けるのも難しいからな」
つまり、めちゃくちゃ強い竜より強い魔族しか飼えないし乗れないってこと?
一般に定着しようのない超プライベートジェットだった。
『聞こえているぞ。おまえがおれを飼っているんじゃない。おれがおまえの面倒を見てやっているのだ』
「うわっ」
外から声が聞こえて窓から顔を出すと、振り向いた竜がこっちに向かってウインクした。おお、フレンドリー。
「無視でいい。百年ぶりに呼び出されてはしゃいでいるんだ」
『まさかおまえが、戦いのためでなく行楽のためにおれを呼ぶとはなぁ』
「…………」
「……ジェード?」
「無視でいい」
読書に戻ってしまった。
キャリッジそのものにも飛行機能はあるらしく、竜の役割はスピード付与と護衛なのだそうだ。
だからって竜の機嫌を損ねるような態度をとって良いわけがないのに。
一周して仲良しなんだろうな。
『冷たいねぇ。そこのお友達はどなたかな? 私はワズワース。今後ともよろしく』
「俺はハヤトキです。よろしくお願いします」
乗客をもてなすように、大きなはばたきが返事をしてくれた。竜って陽気なんだなぁ。
「ハヤトキ、その堅苦しい口調はやめておけ。いまどき賎民しか使わん。街に行くならなおさらだ」
「敬語のことですか? でも……」
賎民ってなんだっけ。身分が低いヤツとかそういうののことかな。
「森のアレは変わり者だから例外だが、そんな喋り方では普通は下に見られる。粗暴な者にそう判断されたら、その場でオモチャにされるぞ。死ねたらマシだ」
「……わかった。もうしない」
タガが外れた魔族の怖さはもうよくわかった。初対面の相手にカジュアルな態度をするのは社会人として違和感があるが、ナメられてオモチャにされるほうが怖い。
常にタメ口のクセをつけよう。
窓の外の景色が、雲の海から地上の一望に変わる。
竜が降下したのだ。
海と陸が複雑な線を描いている。眺めれば眺めるほど、ここはやはり地球じゃないのだと思い知ってしまう。
地図に載っていないだけかもと考えるには広大な陸地。かつ、同じ陸の中で四季や環境が極端に違う。凍っているところ、燃えているところ、闇に覆われているところ、緑が豊かなところ、さまざまだ。
……俺、もう日本には帰れないのかもな。
オフィスで死んだのは間違いないと思うし、そんな気がする。
ぱら。
本をめくる小気味の良い音がした。
ガラスのない窓枠から陽光が差し、ジェードの手元を照らしている。
「ジェードって吸血鬼なのに、太陽が平気なんだな」
「どういう質問だ?」
「吸血鬼って、陽の光が苦手なんじゃないのか?」
「ふむ、初耳だ」
俺が知ってるフィクションの吸血鬼と、この世界の吸血鬼が違うのは当たり前か。
「やっぱりなんでもない。……あ」
地上の景色がどんどん近くなっている。
『到着だぞー』
街の外れに降ろされると、竜は空へ帰っていく。
――レプニカはまさに都会で、緑深い辺境区とは全く違った。
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