【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

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吸血鬼と人間 編

16 謎のネックレス

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 仰々しい玄関を通るのにも慣れてきた。
 階段を上がっていったん自分の部屋へ行く。せっかくだから買った服に着替えたかった。

 部屋に入ると、ベッドの上に個装箱がいくつも積まれていた。
 言われていた通りだが、本当に配達が早い。

 いくつかの箱を開けてベッドに広げる。
 ファッションもこの世界の美的感覚もわからない俺にとって、上下セットで入っていることはこの上ない救いだ。
 小心者なので、ひとまず元々の服装に近い印象の服を選ぶ。
 前でボタンを留めるタイプの長袖シャツ。そしてズボン。あと下着と靴下。

 シャワーで汗を軽く流してからそれらで身を包んだ。
 仕立て屋のウサギの腕は確かなようで、サイズ感も着心地も良い。

 鏡で自分を見る。この世界には調和した気がする。よれよれのポリエステルシャツよりはずっと。

 それにしても……私服という概念に久々に触れた気がする。休日も、いつでも仕事に対応できるようスーツだったし。


   ■


 キッチンへ移動すると、見計らったようにジェードが現れた。
 この人、他人の気配うごきがイヤでもわかるなら逆に気が休まらないんじゃないか?

「物の位置はわかるか? といっても、使用人が残していったものだから私にもほとんどわからないが」

 残していったもの──今はいないが、昔は使用人を雇っていたということだろうか。

「俺が何をしでかすかわからなくて見に来てるなら何も言えないけど、心配してくれてるだけなら大丈夫だよ。必要なものは探すし……あ、火のつけ方だけ教えてほしいかな」

「知らん」

「わかった。自分でなんとかするよ」

 本当にキッチンに立ったことないタイプだな。

 部屋をぐるりと見渡す。
 壁の調理器具やガラス張りの食器棚は整頓されていてきれいだ。

 食器棚の横には謎の木箱があった。これは何が入っているのだろう?
 試しに開けると、いつから使われていないのかわからない給仕服が大量に入っていた。
 髪留めや懐中時計、救急箱などの小道具もひと通りそろっている。

 物色していると、また声をかけられた。

「待て、まだ話は終わっていない。私はこれを渡しに来たのだ」

 あ、ちゃんと用事があったのか。

 箱を閉じて振り返れば、ジェードが何かを手に持っている。――俺がこの森に来たときに握りしめていたネックレスだった。彼の宝物庫にあるものだと言われて返したもの。

「それ、ジェードのものじゃないのか?」

「宝石に《女神の加護》が溶けている。私とは無縁の魔力だ。なぜ女神の力が加わっているのか、人間が盗み出せないものをなぜおまえが持っていたのか……どれにせよ、これはもう私のものではない」

 言っている意味がよくわからなかったが、この世界では俺にわかる物事のほうが少ないので黙って受け取ることにする。

「唯一の財産なら大切に持っておけ。見せびらかすと盗まれるから気をつけろ」

「ありがとう」

 受け取る。

「…………」

「………?」

 ジェードが何かを待っている気がする。なんだ?

「着けないのか? 着けてやろう」

「あ、うん」

 着けたほうが良かったのか。部屋の机のひきだしにでも入れておこうかと考えていた。
 確かに、片付けたのを忘れて失くすよりはいいのかも。

 渡して背中を向ける。
 背中側から首にネックレスがかけられ、後ろで金具を留めてくれている気配があった。

「できたぞ」

 首元の小さな宝石を指先でいじる。
 人生でアクセサリーをつけたことがないから、変な感じだ。新鮮で楽しい。

 見せびらかすと盗まれる……か。
 念のため、服の下に入れ込んだ。

 用事を済ませて満足したらしいジェードは書斎に戻っていった。
 勇者の足取りを追うので相変わらず忙しいらしい。

「――よし、やるか」

 さっきの木箱からエプロンを一枚借り、身に付ける。
 大きなフリルを見るに女用の前掛けな気もするが、新品の服を守れるならなんでも良い。

 いざ、夕飯作りだ。
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