【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

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吸血鬼と人間 編

29 俺って何? *R18

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 着物の帯を緩めてベッドへ倒れ込むと、身体の疲れを感じた。

(たくさん歩き回ったな。仕事を忘れて、こんなに自由に過ごしたことないや)

 天井の模様を眺める。考えるのは薔薇の精気を食むジェードのことだ。

「…………」

 首がむずむずする。
 前に噛まれたところはかさぶたになっていて、意識するとかゆい。

 ざらつくかさぶたを指先で撫でた。
 そこに触れると、どうしようもなく落ち着かない気持ちになる。

 腰のあたりがうずうずする。

「……」

 半ば無意識に、はだけた裾の内側へ手を入れた。
 指先がへそから下腹のほうへ滑り、下着の柔らかなふくらみに触れる。
 自分のしようとしていることを自覚して後ろめたく思うが、熱がくすぶって無視できない。
 下着に手を差し込んで直接性器に触れた。
 くったりとした感触の奥に芯があり、握り込んでゆるゆると扱けばわかりやすく硬さを増していく。

「……ぅ、……」

 久々に自覚した性欲はかすかでありながら、妙にあらがいがたいものだった。ほんの少し刺激した途端に、一気に膨らんでどうしようもない衝動となって思考を支配する。

「は、ぁ……、っ……」

 日々の激務で体力ごと失われたと思っていたのに、自分の中にこんな生々しい性欲がまだあったことに驚く。

「ふぅっ……! ぅ……っ……!」

 この広い屋敷で聞こえるはずがないとわかりながらも、唇を引き結び、息を殺す。

 手元から得る快感に喉を鳴らし、自慰にふけってしまう。
 空いているほうの手は首筋を撫で、剥がさないように気をつけながらかさぶたを爪先で掻いた。

 首元の感触から、先日の夜のことばかり思い起こす。
 腰を抱き寄せる彼の手の温度。
 首にかかる吐息。
 鋭い痛み。
 血と唾液でぬるりと湿った舌の感触。
 抱かれてるときのこと。

 彼を求めるように、脚を大きく開きながら自身を激しく扱く。
 どこか物足りなく感じながらも、しばらく縁のなかった鮮烈な快感に夢中になった。

「あ、ぁっ! ぁっ……! あぁ……!!」

 高まっていく射精欲に身を任せて手を動かせば、絶頂に至るのはすぐだった。
 何も用意していないことに気付き、精液をとっさに手で受け止める。

「……っ!」

 出すものを出せばすぐに夢心地から目が覚め、飛び起きた。部屋のシャワールームへ駆け込んで汚れた手を冷水で流す。

 よりにもよって。

 陽の明るいうちからみっともなく盛ったことよりも、知り合ったばかりの男との行為をおかずにしてしまったことが衝撃だった。

「俺……何してんだ……」

 吸血には魅了の効果があると言っていた。俺は彼の能力にまんまとハマってしまっているんじゃないか?
 それとも、単に俺が……。
 どちらにせよ、恥ずかしい。

 手だけでは気が済まず、湯の栓をひねって頭からぬるいシャワーを被った。



   ■



 洋服に着替えた。脱いだものやらの片付けをするうちに、タオルで拭いた髪も乾いてくる。

 さっきまでオレンジ色だった窓の外は、すっかり夜の表情だった。

 ──こん。
 窓ガラスに何かが当たる音がした。
 窓を開けて下方を見やると、ランプの灯りと二人分の人影が見える。
 ロコとバウが遊びに来ていた。

 手を振られ、身を乗り出して声をかける。

「すぐ行く!」
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