【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

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吸血鬼と人間 編

32 これが健康診断? *R18

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 先月のミュラッカの思い出をまだ夢に見る。
 それだけ楽しかったのだろう。

 ──稲光いなびかりのごろごろ音で目が覚めた。
 今日はあいにくの天気らしい。

 森で食材を採るか、市場に買い出しに行きたかったが、雨なら今日もキッチンで料理研究をしてもいい。
 未知の食材をどう下ごしらえしたらおいしくなるのか、ひとつひとつ知っていくのが楽しかった。

 ……ん?
 なんか、身体に違和感があるな。

 目を開ける。
 すると、ベッドに横たわる自分に巨大なスライムが覆い被さっていた。

「ウワーッ!?」

「もうしばらく寝ていろ」

「ジェード!?」

 ベッドサイドにはジェードがいた。
 ということは、彼の仕業か?

 こんな状況で寝られるか。

「ただの健康診断だ。魔王城やら連れ回したからな。あれから、ちゃんと疲れが取れているのか?」

「健康診断って、これがっ!?」

 暇つぶしの動画で観るスクイーズを思い出すような質感だった。ぶよぶよと吸い付く薄膜の中に、たっぷりと水のようなものが入っている。
 もちろんおもちゃじゃない。生きた魔物だ。
 重い。

「そのスライムは瘴気や菌を浄化する。身体のつくりが未解明の生物にも使えてな。少々乱暴だが、まあ大丈夫だろう」

「ほんとにッ!? ねえ!? ほんとにだいじょォごぽっおぇ゛っごぼぼぼ」

 どうして急に、抜き打ちの健康診断なんか?
 俺が取り憑かれたようにキッチンで暴れ回っているのを、何かの不調だと思ったのかな。
 孤独から自分の尻尾を噛むハムスターもいるらしいから、遠からずかもしれないが、こんな健康診断をされるとあらかじめ言われていたらウソでも機嫌良く振る舞ったよ。

「ひぃっ……!!」

 服の中のあらゆる場所で、ひんやりした感触がうごめいている。

 このスライム、ヌルヌルした汁を分泌してる? 触れたところが軽く麻痺したみたいな感覚になる……麻酔みたいなものだろうか。
 おかげで苦しくはないけど……身体の隅々まで変に刺激されると、感覚が鈍くなっていても反応してしまう。

 ちょっと気持ち良い気もするし、そうじゃない気もする。触られる場所による。

「ちょ、待っ……そこはダメッ……!」

 他人に触らせないようなプライベートなところでもスライムはお構いなしだ。
 それどころか、あらゆる穴からぶよぶよの体を流し込もうとしてくる。

 耳!? 耳掃除してんのか、これ!?
 おおお音がやばいっ。両耳同時はやめろっ。

 口も過去のトラウマがっ。
 歯並び確かめて何になるんだよっ。
 虫歯もないって! たぶん!

 ごぼぼっ。喉奥しぬ゛っ。
 こんなのっ、内臓の直診で弱って死ぬからっ!

 ……!? 待ってくれ、ちんこムズムズするけどっ、入ってきてないよな!? これ!?

「んぐ……! ん……あぁっ……!?」

 性病の可能性なんかほとんどないって! 性器の……か、皮とかを……をいじくるの、勘弁してくれ……! 触り方、やらしい……!

「んうぅっ! うっ……ん、ぅ゛っ……!!」

 し、尻っ……! 尻ん中はっ、そこはマズいって!
 病院でも直腸指診とかあるけど! これもそういうことだって受け入れればいいのか!? 本当に!?

 後ろの穴も一回変なことになっただけだから、あんまり奥まではっ。

「ん゛っ、んっ! んぅぅっ! うぅうっ……!!」

 尻の奥の……ジェードに突かれて変な感じしたとこ、擦られてるっ……ううっ、こんなのであのときを思い出すなんて……!

 ……これまさか、生殖機能が正常かまで見てるのか? 勃たせようとしてる!?

「んうぅ゛──!!」

 性的に刺激されながら、機能を調べるように身体の外側も内側もあちこち這いずり回られている。
 このスライム、射精機能に問題ないかまで診る気だろ! 大丈夫だから! 信じてくれ! もういいから!

 ズボンをはいているおかげで、俺のそこがどうなっているのかジェードからは見えないことだけが救いだ。

 そもそもこんな、こんなのを、ジェードはどんな気持ちで見てるんだよ。
 チラと彼の顔を見る。

 気まずそうに顔を赤くしてるのかよ!
 やらしさを感じてるなら止めてくれよ!

「ぁくっ、う、ううっ……!!」

 結局、スライムの中に射精させられ、心肺機能とかもおそらく診られた。

 そうしてやっと、スライムは俺の中から出ていく。
 不要な体液部分は切り離されて蒸発し、わずかなジェルに包まれたコアがジェードが持つ瓶の中へ帰っていく。

「は──……ッ、は──……ッ!!」

 汗だくで顔を真っ赤にして、息も絶え絶えだ。
 恨めしそうな顔をする俺と、ジェードは目を合わせない。ここまでのことになるとは彼も想定していなかったのかもしれない。

 気まずそうに部屋から去ろうとする彼の裾を、俺はとっさにつかんだ。

 引き止めてから、自分がなぜそうしたのかわからずに戸惑う。
 普通なら、一人になって呼吸を落ち着かせたいところだ。
 でも。

「その……しないのか」

 振り返ったジェードの表情はいつもの仏頂面だったが、実のところびっくりしていることが伝わってきた。驚くと瞳孔が大きくなるというが、こんな感じなんだな。

 その様子から、俺の言葉の意味は伝わっているのだろうと思う。

「健康診断までしたんだ、俺は大丈夫だよ。だから……最近してないだろ、吸血」

 されないならされないに越したことはない。あんな恥ずかしい思いをさせられるのだから。
 それでも。
 このタイミングを逃したら、俺はまた《いないと同じ》になってしまう気がした。

「……殊勝しゅしょうな心がけだ」

 俺がいつまでも手を離さないからか、黙り込んでいたジェードは観念したようにベッドのふちへ腰掛けた。

 そっと頬に触れられた。あごのラインを撫でる指先が、首筋に降りていく。
 なんだか緊張してくる。

「構わないな? おまえの味を確かめても」

 なんだそれ。
 味なんか、今更だろ。
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