【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

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勇者と魔王 編

43 たましいがみる夢【2】

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「夢枕に立つって言い回しといい、リオンって日本人?」

「キミも? 名古屋生まれだよ。好きな食べものは天むす」

「わあ」

「さっきのビルの景色、東京っぽかったね」

「そう。生まれは神奈川だけど」

「横浜?」

「鎌倉」

「クルミッ子……!!」

 みなまで言わずに俺たちは握手を交わした。信頼に足る男だ。



「……なぁ、リオン。リオンは魔王と戦ったとき、聖剣を使わなかったよな?」

 二人で記憶にあるクルミッ子を再現して食べながら、ずっと聞きたかったことを聞く。

「うん。敵意がないって、わかって欲しかった。でも伝わらなかったね」

 リオンはさみしそうに微笑んだ。
 そしてあきれたようにソファの背にもたれ、長い息を吐いた。

「私が思っていたよりも人間への嫌悪が強くて、手を差し伸べることへの拒絶がすさまじかった。それに、吸血鬼のことでもあそこまで怒るなんてさ。もう仲良くないと思ってたのに、親友の情っていうのは複雑だよ」

 思い出しながらむしゃくしゃしてきたのか、リオンは口いっぱいにお菓子を放り込み、新たに出現させたコーヒーで流し込んでいた。
 カップの中を空にして口元を拭う。

「でも、戦闘ケンカになるのは想定内だった。そもそも魔王は、始まりの時点より前から狂気に侵され始めてるから、情緒がちょっと……」

「ベクトルドは……正気じゃないのか?」

「正気と狂気のグラデーションで、狂気多めって感じ。本人も自覚ないと思うよ。魔王って、寿命はないけど精神の耐久限界があるんだ。もっと長持ちするはずだったのに、キヴァバイパの破壊が効いたね」

 大した問題じゃないみたいに語る。彼にとってそれは想定内のことらしい。

「で、私は戦闘に勝って、彼の《汚染》をチートで半分ほど吸い出して──消すことはできないけど、引き受けることはできそうだからさ──改めて、復讐から手を引くよう説得するつもりだったんだ。なのに負けちゃった。キミのせいで」

 そう言われましても……。

「ストーリーの逸脱イレギュラーは感じてた。キミが聖剣を持ってきたあたりからね」

「あ、あれは……」

「うん、魔王本人からネタバラシは聞いた。魔王も魔王だし、キミもキミだ。体を貸すなんて正気じゃない。"許可"っていうのはね、一回鍵を貸すのとは違うんだ。魔王に対してずっと玄関の鍵を開けっぱなしにするってことなんだよ。危機感ないのか?」

「言い返す言葉もございません」

「イベントをショートカットできたことは感謝するけどね」

 俺は気まずくなりながら、指についたお菓子の粉を払いながら言う。

「リオンが知ってる未来って、どうなってるんだ?」


 すると、部屋の景色が変わった。
 空間の一部がスクリーンのようになって、映像が投影されている。
 そこにはベクトルドやジェードの姿があった。

 この映像もリオンがやっているのだろう。

「魔王が憎しみを抱えたままだと、人間の国への侵攻と支配が始まる。そして、暴君と化した魔王を見かねて吸血鬼が勇者に味方するんだ」

 映像が二つの時間軸を映し出す。聖剣で討たれるベクトルドと、一度は味方になったものの魔族として処刑されるジェード。
 残酷なシーンに思わず顔を背けた。

 いまのはあくまでリオンのイメージなのか?
 それとも……見てきた未来そのもの?

「今回もそのルートになる可能性が高い。私の代わりに新たな勇者が選出されて、隠した聖剣もいずれ見つけられてしまうだろう」

「ジェードも死ぬ……」

「ああ。魔王に倒されて死ぬパターンもある。でも、吸血鬼を自らの手で殺した魔王はいよいよ狂気にとらわれて、すべて壊そうとしてしまう。そして勇者に倒される」

 ベクトルドがジェードを倒すさまも見せられて吐き気がした。
 戦いによるグロテスクな消耗ぶりもひどいが、二人の悲痛な表情が見ていられない。

 ぱっ、と映像が消える。
 ただの豪華な部屋に戻った。

「魔王を倒さない勇者になり、彼の人間への執着を薄めて悲劇を回避しつつ、危険因子の吸血鬼が存在しない世界にしたかった。……おっと、キミは吸血鬼推しだよね。失敬」

「……なんにしたって、俺の心臓がいるんだよな?」

 それがなければ、魔王どころかジェードも世界も救われない。

「うん。まぁ、死んだらまた転生するだろうし、サクッと逝って主人公ガチャしなよ。どうせモブ役なんだしさ」

 モブ。

「そ……っか」

 あはは。ぎこちなく笑う。
 リオンは屈託のない笑みで、「そろそろ目を覚ましそうだね」と手を振ってくれた。

 周囲が少しずつ眩しくなっていく。
 これが、夢から覚める予感ってこと?

 真っ白になった視界と感覚の中で、声だけが聞こえた。

「現実の私は自分の力で動けないから、どうにか頼むよ」
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