【完結】怪談収集家は探偵じゃありません! 戸羽心里はホンモノに会いたい──《ひもろきサマ》

牛丸 ちよ

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《 ひもろきの村 》

52 村のはなし【1】

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 どこに案内されるのかと思ったら、彼女の自宅らしい古い建物だった。表札には『棧』とある。読めない。
 居間に通され、いろりを挟んで座布団に座る。

「うしサマだ」

 おばあさんが神棚からお札を持ってきてくれた。呪われた家で見たのと同じ絵が描かれている。ツノの生えた牛。前のめりに二足で立ち、周囲を睨み付けている。
 お社で祀っているのはこの牛のような存在の毛皮ということらしい。

「これって、牛頭こずかなぁ?」

 牛頭とは地獄の獄卒で、罪人の監視役だ。善き存在として扱われるため守り神としてあがめるのはおかしな話ではないが……。

「仏教出身の存在が神社に祀られているのはちぐはぐしてませんか?」

 ヨシさんも同じ違和感を持ったらしい。

 補足するようにおばあさんが昔噺むかしばなしをしてくれた。害ばかりをなす牛の鬼に美しい村娘を差し出し、村の平和を得る話だった。

「うしサマは遠い昔、やまいや災いを里に運ぶ悪鬼だったが、嫁ができてからは里の悪いもんを引き受けてくれるようになった」

「ははぁ、牛鬼うしおに信仰っぽいなぁ」

 牛鬼は鳥山石燕の画図百鬼夜行にも毛むくじゃらの化け物として描かれているポピュラーな妖怪だ。

 横を見たら、ヨシさんがキョトンとしていた。いやあんたは知っとけよ。

「牛鬼っていうのはね、人を病気にする怖い妖怪だよ。人を襲う怪物や不吉なものをあえて信仰する地域っていうのはあるはあるんだよね。貧乏神や犬霊に祈ったり、みたいな。この村もそうっぽい」

 おばあさんは次に、ビデオテープを見せてくれた。おお、初めて見た。
 部屋の端にあるブラウン管テレビの電源を入れ、ビデオデッキにそれを挿し込む。

「すごい、昔のテレビなんて初めて見た。まだ動くんだ」

 リモコンの再生ボタンが押されると、レトロすぎる画質の映像が流れ始めた。音質もガビガビで聞き取りづらい。

 映像はかなり古いごがん祭りの記録のようだった。オリジナルに近いようで、資料館で見た写真と相違点が多い。
 まず、写真ではしめ縄だったポジションが人間だ。女がお社に飾られていたであろう毛皮を身体に巻き、白い衣装を着て舞い踊っていた。

「……ひもろきって、そのまんまひもろぎのことなんだ」

「ひもろぎ?」

 宙に漢字を書いて見せながら説明する。

「供物になる肉のこと」

「《うしサマ》は盛り塩に集めた穢れを引き受けてくれる。けんど腹がいっぱいになったらどうにもならん。邪悪な獣に戻ってしまう。そうしたら《ひもろきサマ》と一緒にお帰りいただくんだ」

 しめ縄ないし舞い踊る女──うしサマへのにえを《ひもろきサマ》と呼んでいることがうかがえる。

「それがごがん祭りの儀式なんだね」

 穢れを蓄えるほど邪悪な存在の側面が強くなっていくなんて、フィルターのとりかえが必要な空気清浄機みたいだな。

 映像の内容が進み、演技の範囲で女が斬り殺されていた。

「村人には荒神を鎮めるすべがないから、物理的に殺せるよう《うしサマ》を《ひもろきサマ》に降ろして一緒のものとして扱い、殺すの?」

 巫女みたいな扱いの生贄だな。

「映像よりもっと前の時代は、もしかして本当に斬り殺したりしてたんですか?」

「わしが生まれる前のことだがね」

 ヨシさんの質問に対し、否定しないということはそういうことらしい。
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