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死にたがりオーディション
過去
しおりを挟むそれは、オレが高校一年生になったばかりの時だった。
オレには中学の頃から仲良しだった友達がいた。
クラスが一緒で、どこに行くにも一緒。
それくらいオレ達は仲が良かった。
ーそんなある日のこと、オレは彼を自分の家に招待した。
理由はなんてことない。
ただ、家でゲームして遊ぶため。
彼の家はそれなりのお金持ちで、家にはたくさんのゲームがあった。
けどオレの家にはそんな娯楽はない。
ゲームしたことないんだって話したら、彼は不憫に思ったのか、こうして技オレの家に最新のゲームとゲーム機を持ってくれた。
今思えば単なる自慢したかっただけかもしれないけど、オレはそれでもこうして家に遊びに来てくれたことが嬉しかった。
その日は夕方までゲームして遊んだ。
多分、母さんや父さん達が夕方に帰って来なかったら、永遠とゲームで遊んでいたかもしれない。
それくらい夢中になった。本当に楽しかったから。
親友とゲームして遊ぶことが出来て、心からそう思った。
だけど、母さんと父さんは違っていた。
彼の帰り際ーー玄関口でばったり会ってしまったものだから、彼はちゃんと挨拶をしたのに両親は返事を一切返そうとはしなかった。
それどころか、目を合わすことさえしなかった。
オレはそれがなんとなく気になったけど、それ以上深くは追求しなかった。
あくまでオレだけは、また明日ね。といってばいばいした。
そう、ここまでは何気ない、普通、だった。
親友と遊んで、遅くなって来たら、また明日ねと言ってばいばいする。
そんな当たり前の日常だった。
その、はずだった。
だけど、その次の日、彼は学校に来なかった。
その次の日から、彼は学校に来なくなった。
いや、来なくなったんじゃない。
ーいなくなった。
彼は、オレとばいばいしたあの日から、いなくなったんだ。
最初は行方不明ということで捜索願いが出された。
彼の家はお金持ちだった為、一時は事件性を疑われたが、すぐにそれは取り消された。
オレはその間、ただただつまらない毎日を送っていた。
この頃はイジメなんてなかった。
むしろクラスメイトみんなが優しくて、行方不明になった彼とオレが親友だってこともクラスの中では誰もが知っていたことだった。
それもあってか、みんな声をかけてくれた。
オレはそれが嬉しかった。
親友以外にもオレを心配してくれる人がいることが。
ーそして、そのみんなの中でも特に声を掛けてくれる人がいた。
彼はクラスの委員長だった。
クラスのリーダー的存在で、オレなんかとはまるでタイプが違うけど良く気にかけてくれる人だった。
そんな時、オレが体調不良で学校を休んだ日のこと、彼はお見舞いに来てくれた。
手土産にプリンまで持ってくれてた。
美味しかった。
プリンなんて初めて食べたって彼に言ったら、熱のせいで冗談でも言ってるのか?なんて言われて笑われた。
冗談なんかではなかったけど、美味しいプリンを食べれたからそれ以上は追求しなかった。
もちろんプリンは彼と一緒に食べた。
色々な話をしていたら、気付けばもう夕方だった。
そう夕方は、母さんと父さんが帰ってくる時間だ。
オレは早く帰らなくて大丈夫?と彼に聞いたけど、せっかくだし挨拶してから帰るよと言われ、案の定オレはそれ以上は何も言わなかった。
挨拶してから帰るなんて、クラス委員長らしい。
だけど、それはやっぱりというか果されることはなかった。
厳密には母さんと父さんに挨拶をして帰ろうとしたけど、彼は何にも相手にされてなかった。
この日も同じく、オレだけ彼とばいばいした。
さすがに今回は申し訳ないと思ったから、次の日学校に行った際に朝一番で謝ろうと思った。
だけど、それも同じくして、出来なかった。果されなかった。
彼は、いや、彼も次の日から学校に来なくなった。
ちがう、これもちがう。
ーーいなくなった。彼も。同じく。
こちらも最初は行方不明ということで、捜索願いが出された。
そしてその後も事件性が疑われたが、やっぱりというか取り止めになったらしい。
ここまできて、オレはようやく不信に思った。
何故だか、オレの家に来た二人が連続して行方不明になっている。
偶然なのかもしれない。
オレはあくまでも偶然で済まそうした。
けど、現実はそう甘くなかった。
クラスのリーダー的存在の人間が唐突にいなくなることー
それはクラスメイトにとっても大きな衝撃だった。
ある日、唐突にクラスメイトの男子からこんなことを聞かれた。
お前の家に行くと神隠しに会うんだろ?と。
オレは最初、意味が分からなかった。
慌てて否定した。
だけど、誰も信じてはくれなかった。
そのことがきっかけでオレのクラスの立場は一変した。
噂が噂を呼び、オレはその日からイジメのターゲットにされてしまった。
呪いの家、死神、人殺し。
訳の分からないレッテルを貼られる。
あれだけ優しかったクラスメイトなのに。
手のひら返しもいいとこだと思った。
でも、あくまで思ったのはそれだけで。
また、ただのつまらない日常が待っているだけなんだとすぐに気持ちを切り替えた。
だって、実際にオレは悪くないのだから。
警察が無能なんじゃない?なんて。
二人が失踪して、あれから何日が経ったんだろう。
まだ行方不明のまま?事件性は結局なかったの?
まぁいくら考えても、オレは家のテレビを見ることを禁止されていたから確かめようがないんだけど。
そんなことを考えながら、家に帰る。
帰る。
帰る。
帰る、だけで済むはずだったんだ。
家につくと、オレは家のカギを取り出す。
いつものようにカギを開けて、家に入るとー
玄関に妙な違和感を感じた。
…何故か、靴がある。
しかも、この靴は母さんと父さんの靴だ。
玄関には鍵が閉まっていた。
だから、二人は居ないものだとばかり思っていたのに。
しかも平日の昼下がり。
仕事から帰ってくるには早過ぎる時間帯だ。
…まさか、今日は休み?
本来ならこのまま二階に直行だが、今日はそのまま二人の確認にリビングに向かった。
そう、何気なく、ドアの隙間から覗き込むくらいの感覚で。
だけど、それは間違いだった。
この何気ない行動がきっかけで、オレの人生は全てがおかしくなってしまった。
目の前に広がる光景ー
それはまさに、信じられない光景だった。
そこにいたのは母さんと父さんだけじゃなかった。
…母さんと父さんの足元には、明らかに人の首だと思われるモノが床に転がっているのをーオレは見てしまった。
「ーーッ!!?」
ー反射的に口元を抑える。
思わず叫びそうになった。
見間違い?
見間違いなんだろうか?
いやでも、赤い。赤いものが見える。
ー血?
鮮血のようなものが、首からたらたらと滴っている。
やばい。
やばい。
やばい。
逃げ、…る?逃げなきゃ、オレも、ああなる?
ーーー生首になる?
ー思考が停止する。
ー身体も動かない。
オレは、無言のままそこに立ち尽くしていた。
すると、
「…ッ!?」
目があった。
誰と?
母さん?
父さん?
いや。ちがう。
首、生首と。
仰天し過ぎて、今の今まで気付かなかったけど。
ようやく、気付いた瞬間だった。
その首の正体はまぐれもないーー彼等、だった。
中学の頃からの友達で家がお金持ちだった彼。
クラスの委員長でリーダー的存在だった彼。
そう、現在行方不明になっている彼等が、そこにいた。
生首、となって、今、そこにいる。
「うわああああああああああっ!?」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
無理もなかった。
冷静な判断?
出来るわけがなかった。
「…あら?」
母さんの声。
「…なんだ、今帰って来たのか」
父さんの声。
二人はゆっくりと、オレに近づいてくる。
オレは何をしてる?
動かないと…動かな、きゃ。
ーそして、ドアは母さんと父さんの手によって開かれた。
「あ…」
死、
死、
死ぬ。
脳に浮かぶ。
もう無理だと、半ば諦めたその時だった。
母さんが、思わぬ言葉を口にした。
「兎馬、あなた塾に行きなさい」
「え…?」
呆気にとられた。
一気に全身の力抜け、床に尻餅をついてしまう。
母さんは何を言ってるんだ?
…じゅく?
じゅくって、…まさか、塾ってこと?
「最近、遊んでばかりいるでしょう?いい塾見つけたから行きなさいよ」
「後のことは、父さんと母さんがやっておくから。お前は何も気にせず塾に行きなさい。遊びなんかより、よっぽどお前のためになる」
「手続きはもう済んでいるから、明日からいくのよ?場所はメモにしてあなた部屋に置いてあるから後で確認しなさいよ」
「それと、警察に言っても無駄だからな。父さんの言ってること分かるよな?」
「じゃあ、そういうわけだから明日からよろしくね。兎馬」
ペラペラと言葉巧みに並べるだけ並べ終わると、そのドアはすぐに閉ざされた。
尻餅をついたまま、茫然となる。
とりあえずは…助かったのか?
でも、これは本当に助かったって言えるのだろうか?
たしか、母さんと父さんは塾に行けって言ってた。
それはどういう意味?
行かなきゃ、殺されるってこと?
生首にされる?オレも、あの二人みたいに?
「…そうだ。場所の確認、しておかなきゃ…」
フラフラとした足取りでオレは二階に向かう。
意味も理解出来ないまま、オレはただ死にたくない殺されたくない一心で、これ以上のことは、母さんと父さんに追求することは出来なかった。
そして、ただオレは流されるままーそのまま塾に通い出した。
そんな時だったんだ、終夜くんと、出会ったのは。
気持ちは楽になったけど、全ては変わらなかった。
なんたってこの真相の事実は今もなお、闇の中に閉ざされているのだから。
警察がどこまで調べてるのかは分からない。
だけど、少なくともオレは塾に行きながらもいつもの日常を過ごしていた。
とは言っても、その日常は終夜くんの何気ない質問によって跡形もなくなってしまうのだけれど。
そう全ては、死にたがりオーディションの始まりに過ぎないとは知らずにーー
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