追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜

石化

文字の大きさ
1 / 49
第1章至る平安

プロローグ

しおりを挟む
 
 シャンデリアのキラキラと輝くホテルのフロアだった。

 出版不況と言われながらも、年に一度の忘年パーティは開催された。

 名実ともに、出版社の最後の意地の見せ所だ。

 ようやく小説家としてデビューした俺は、憧れの空間に目を輝かせていた。

  他の作家先生への挨拶とか、作家の間で交わされる小粋こいきなやりとりとか。

 そう言う憧れていた小説家の世界が俺の目の前にはあった。


 血反吐を吐く思いで小説賞に投稿し続けていた甲斐があった。本当に良かった。

 そして、俺には挨拶をしたい人がいる。
 百式百田先生。

 俺が、小説を書きたいと思った原点である小説「螺旋の塔」を書いた作家であり、自他とも認める大御所先生だ。

 できれば一言、言葉を交わしたい。あわよくばお近づきになりたい。

 そんな思いを編集に伝えたところ、今日、紹介してもらえる手筈になった。

 緊張する。何を言おう。なんて言われるんだろうか。

 もしかして俺の書いた小説を読んでくれていたりしないだろうか。


 彼と会うまでは、舞い上がって天に昇っている気持ちだった。

 会う。までは⋯⋯ 。

 ●


 百式百田先生は、でっぷりしたお腹を突き出して、猜疑心たっぷりの目つきをしていた。
 正直に言って怖いが、格好と性格は別物だ。

 先生本人も、書かれた本と同じくらい素晴らしい方に違いない。

 編集の紹介に続いて頭を下げる。
 彼は、俺をギロリと睨むように見つめた。

「ああ、君ね。読んだよ、君の小説。」

 いきなりの言葉に、俺は驚いてしまう。
 まさか読んでもらえているなんて。

「“螺旋の塔”に似ているよね。」

「はい!その小説、とても好きです。」

「なるほどねえ。でも、これ、ほとんどパクリじゃない?」

 いきなり、百式百田先生の口調が変わった。攻撃的な調子だ。

「えっ?」

「仮にも本になった作品だよね? 中身も軽薄でスカスカだ。歴史に対する理解も感じられない。こんなにひどい内容の作品、よく出版できたねぇ?」

 畳み掛けるように批判される。
 尊敬する先生からの、自分の作品への批判。

 それは、もはや自分がいじめられるよりも辛いものだった。

「そんな⋯⋯ 。」

「つまるところ、君の小説は、まったくもって面白くないんだよ。」

 言いたいことだけ言って、百式百田先生はワインのグラスをった。

「ほら、目障りだから帰った帰った。」

 犬を追い払うように手を振られる。

 ショックで頭が鈍く痛んだ。
 俺はふらふらとその場を離れることしかできなかった。

「あっ、じゃあ僕は用事があるので、失礼しますねー。」



 編集は、俺に触れたくないようで、逃げるように俺のそばを離れていった。
 ひょっとして百式百田先生の言い分を真に受けているのか?
 俺の作品を一緒に作ってきただろ。
 なんで言われっぱなしにしておくんだ。

 不満がふつふつと湧いてくる。

 作家を信じきれない編集なんて、意味ないだろ⋯⋯。

 俺は裏切られたような気分になっていた。


 多分これは逆恨みだ。
 百式百田先生さえいなければ、彼は良い編集だった。
 あの挨拶で、全てが狂ってしまった。

 キラキラ輝くシャンデリアが、今はなんとも空虚に見えた。


 ●


 以前は頻繁にやり取りをしていたあの編集が、メールを寄越さなくなった。
 こちらがプロットを送っても、一ヶ月も帰ってこない。

 嫌な予感に苛まれながら待ってみる。

 だが、ようやく取り付けた打ち合わせの約束も直前にドタキャンされた。

 俺は完全に理解した。

 パーティで、百式百田先生に、面白くないと突きつけられた時。俺の作家生命は終わっていたのだと。

 今の文壇であの人は絶対的な影響力を持っている。

 こんなペーペーの作家は切り捨てて、ご機嫌伺いをした方がいい。

 編集はそう判断したのだろう。

 ちくしょう。
 小説を書きあげるためにしてきた努力。これから小説家として生きていくと言う俺の夢。

 二つとも、あっさりと絶たれた。

 さらに、俺は発見してしまった。



 週刊誌に「盗作疑惑? ”螺旋の塔”に酷似した作品現る」と言う記事が載っていたのだ。
インタビューされた螺旋の塔の作者、百式百田の無駄に冴え渡るこき下ろしまで掲載されていた。

 それはネットで拡散されて、俺のことも俺の小説も散々に叩かれていた。

「作者の品性を疑う」

「こんなつまらない小説、よく書く気になったな」

 誰一人として百式百田の言葉を疑うものはいなくて、ただ俺が悪者だと言う論調が広がっている。

 俺に一番影響を与えた小説の作者だからって、あそこまで全てを否定する必要はない。

 俺を槍玉に挙げて、自分がえらいんだと言う事を証明するだけのために、こんな事を⋯⋯ 。
 俺より早くに生まれて、俺より早くデビューして、俺より名声があると言うだけなのに。

 俺が、もっと早くに生まれていれば。

 俺が、誰の文句のつけようもないほどすごい小説を書いていれば。

 俺が、誰にも負けない力を持っていれば。

 絶対に、こんなことにはならなかった。

 でも、もう遅い。

 出版した本の印税も尽き、本だけ書いてきた身で就職なんてできるはずもない。俺の実生活向きの能力は全て壊滅的だ。

 コミュ障、ものぐさ、サボリ魔、運動音痴。

 ありとあらゆる罵倒が俺に当てはまるだろう。

 小説以外の全てに興味が持てずに、ただひたすら小説を書いていた人生だった。

 頼るべき両親は数年前に交通事故で死んだ。

 だから、俺には小説しかなかった。

 このペン一本で世界を切り開いていけると確信していた。


 その道が絶たれたのなら、肉体労働で食いつなぐしかない。

 だが、小説一本のために捧げられた俺の体は虚弱そのもので、入った現場では怒られてばかり。しまいには事故に遭って、働くことさえできなくなった。

 俺に待っているのは緩慢な死だけだ。

 もう何日も飯を食っていない。

 あっ面白い伏線を考えついた。メモしておこう。

 震える手で取り出した。


 そのメモ帳のタイトルは”最高の小説を作る”だ。
 人生が終わりに近づいていても、俺はあくまで小説家だった。

 それはそれとして百式百田は許さない。生まれ変わっても復讐してやる。


 美しい女の影が、枕元に立ったような気配がしたが、俺にはもうよくわからなかった。
 意識が薄れていく。

 最後まで、手に持ったメモの感触だけが、残っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...