追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜

石化

文字の大きさ
2 / 49
第1章至る平安

プロローグ2

しおりを挟む
 頬を冷たいものがつたう。

 上を見上げると、暗い空が覆っていた。

 なら、これは雨だろうか。


 篠突く雨が、どんどん威力を増して降ってくる。髪も体もびしょびしょに濡れて体温を奪う。

 どこかで雨宿りをしなくては。


 あたりを見渡して、首をひねった。

 あまりに見覚えがない。

 田んぼらしき、里山の柔らかな稜線。田舎にしても出来過ぎだ。


 果たしてここはどこなのか。
 ようやくそのことに思い至った。

 頭がぼんやりしている。

 ここに立ちつくす前のことが思い出せない。

 どこから来て、どこへ行くのか。自分は何者か。


 体の雨の感触に打たれながら、“俺”は、まだぼんやりと、そんなことを考えていた。
 今俺は“俺”と言った。

 この一人称から考えると、とりあえず男ではあるはずだ。
 ようやく体に目線を落とす。


 緩やかに膨らんだ胸元、あまりにも滑らかに曲線を描く股間。
 意識を向けると、物事はあまりに単純だった。

 体は、女だった。しかもなかなか魅力的な体型をしているようだ。

 顔は、どうだろうか。目の前の雨粒に反射した姿を見る。

 文句なしに綺麗である。怜悧な美人と言う言葉が一番似合うだろう。
 ぬばたまの黒髪は雨に濡れても美しく、腰のあたりまで伸びている。
 服装は、貫頭衣と言うのだろうか、昔風すぎる服装だった。それでも似合ってるあたり末恐ろしいものがある。

 乏しい記憶を辿ってみたが、自分がこんな美人だったと言う記憶はどこをひっくり返しても出てこなかった。

 ただ、それよりも大事なことがある。未だ思い出せていないものが、とんでもなく大事だと、妙な切迫感が心を震わせている。
 だが、思い出せない。

 思い出せないものをなんとか思い出そうと、俺はただ雨に打たれていた。

 ● 


 どれほどそこでぼうっとしていただろうか。雨はとっくに通り過ぎ、夕刻と言っても良い時間帯になっている。カラスの寝床へ帰る鳴き声が、帰宅を誘っているように思えた。しかし、どこへ。

 自分がどこの誰とも思い出せないのに。どこへ帰ればいいと言うのか。

 未だに俺は動けなかった。

 物思いに沈む俺は、少しだけお腹が空くのを感じた。一旦それを感じればあとは早いもので、あっという間に腹が減ってたまらなくなる。まるで一千年ものあいだ飲まず食わずでいたような猛烈な飢餓感が、俺を襲った。

 食事を手に入れなければならない。


 しかし俺は誰なんだ。

 未だ苦悩している俺の前に影が立った。


「お嬢ちゃん。迷子かな? 俺たちが面倒見てやろうな。」


 影は三つ。
 顔を上げると、極めて原始的な衣服を身にまとった男たちが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。



「おおう。これは上玉だぞ。」

「おいらが手に入れるからな。」

「身ぐるみをはいで、犯してしまおうぜ?」



 ごろつきの類だ。
 下種な考えを隠そうともせず、彼らはバラバラに走りこんでくる。

 手には、黒曜石らしき刃物が握り締められていた。原始的だが、刃物は刃物だ。

 恐ろしい。



 ⋯⋯ 本当に?



 よく見てみた。男たちの近づいてくるスピードは冗談かと思うほどに遅い。これじゃあ戦闘描写の練習にもなりやしない。
 それより、彼らを見てから、空腹感が強まっている。それはご馳走を前にした気持ちにも似ていて。


 なんだかとてもオイシソウ。



 最初の男を足払いで転がして、次の男の腕と足を抑える。
 とても柔らかくて、力を込めるとあっさりポキリと折れてしまった。



 人ってこんなに脆かったっけ。
 へっぴり腰になった最後の男の首筋に牙を突き立てて、飢えを満たす。

 空になっていたエネルギーが、充填されて行くのを感じる。

「ひっ。化け物⋯⋯ !」


 最初に転ばせた男がそう言って逃げ出していく。

 あーあ。餌が逃げていく。

 残念な気分になってしまった。
 まあ、いいや。食事にしよう。

 ●

 二人の男を吸い尽くして、正気に戻った。目の前には、盗賊たちの服だけが残されている。

 俺は何をやってるんだ。

 襲ってきた盗賊を返り討ちにして血を吸って飢えを満たした。

 これは、客観的にみて吸血鬼と言うのが正確なのでは?

 女だから吸血姫と言っておこうか。

 化け物じゃん⋯⋯。

 いいのか⋯⋯?

 何も思い出せないけど、少なくとも体のスペックが高いのは悪いことじゃない。



 二人を吸って腹いっぱいになったし、燃費はいいはず。ポジティブにそう考えよう。


 それに、血を吸ったおかげで頭が随分スッキリしている。


 自分が何者だったのか、思い出せた。

 最後に握っていたメモの感触が蘇る。

 俺は小説家だった。

 必ず最高の小説を作ると決めていた。

 だが、とても理不尽なもののせいで前の俺は夢を諦めるしかなかった。

 その理不尽の詳細は思い出せない。

 ただ、思い出そうとするとあり得ないほどの怒りが自分の中に宿っているのを感じる。

 思い出そうとして、諦めた。

 だが、俺の前世の目的である、最高の小説を作ると言うこと。

 それは、吸血姫になっているこの体でも、達成可能なことだ。


 もしかしたら寿命も長くなってるかもしれない。吸血姫だしな。

 何年も書き続けることができるのならば、元の自分よりも良い物語を書くことくらい簡単だろう。


 体に関してはとやかく言わない。

 俺は、いつか最高の物語を書いてみせる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...