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第1章至る平安
ヤマタノオロチ
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準備万端で待っていると、山が揺れた。
ズルズルと何かを引きずるような音が響いてくる。
道の先から巨大な蛇が顔を見せた。口は人一人丸呑みできるくらいでかい。
なーんか、頭の数がバグってませんかね。八本あるように見えるんですけど。
くそ。これじゃ一つの頭を眠らせたとしても、他七つは動くぞ。
難敵すぎないか?
とりあえず、酒の瓶の後ろに隠れよう。
思ってたよりやばい相手だった。
基本的にこの体のスペックだったら圧倒できると思ったんだけどなあ。
俺、何か特殊能力持ってないかな。例えば、霧になって物理ダメージを無効化したり、血で剣を作ったり。なんなら時間停止を使えるって言う感じでもいいよ。
⋯⋯ あるかもしれないが、わからない。
今の所わかっているのは、優れた動体視力と、化け物じみたパワーの二つだ。
これでなんとか戦っていくしかない。
山神様は、俺に気づくことなく、瓶の中に争うように首を突っ込んだ。
なんなら本当に争っている。一つの体にくっついた首同士で喧嘩している。
意識は共有していないらしい。よかったと見るべきか。面倒と見るべきか。
一杯飲んでふらふらになった首を押しのけるようにして、次の首が瓶に首を突っ込んだ。
おっ。これはもしかしたらもしかするかもしれないぞ。
このまま全員毒入り酒を飲んでくれればいいんだが。
●
そううまくはいかなかった。
途中まではうまくいっていたのだが、前後不覚に陥った首が4本を数えた時点で、山神の方もおかしいと思ったらしい。瓶から離れて警戒の態勢をとる。
舌が四つの口からチロチロと出ては入る。
微塵も油断はしていないらしい。
なんなら俺が隠れている場所を4本の首が見ている。蛇にはピット器官があって、熱を感じられるんだったか。
蛇たちの最初の気分が人じゃなくて酒で良かった。
しかし、こうなっては手詰まり感が否めない。
もう酒を飲むことはないだろうし、毒から回復したら他の四つの首も起きるだろう。
そうなったらどうしようも無い。
敵の戦力が半分になっている今のうちに勝負をつけるべきだ。
俺は、瓶の後ろから体を表した。
シューシューという蛇の音が、一層激しくなる。
おそらく好みの姿をしているんだろう。蛇なのに美醜がわかるとはなかなかの審美眼だ。
だが、こちらもみすみす食われてやるつもりは毛頭ない。
「お前の血を全て吸い取ってやるよ。」
俺は笑った。鋭い犬歯が剥き出しになっているのを感じる。
蛇の化け物程度に、吸血姫たる俺が負けるものか。
なんなら日光の下でも生きていけるし真祖かもしれないまであるからな。
どう猛な戦闘欲が点火された。それとともに、手の爪が伸びて鋭く尖る。
「さあ、殺し合いと行こう。」
俺の言葉に、山神は行動で答えた。
四つの頭が全てこちらを狙って飛び込んでくる。
酒の時と同じだ。こちらのことを被捕食者としか思っていない。
気をつけろよ。この獲物はお前たちを殺すに足る牙を持っているぞ。
バラバラな飛び込みはこちらの動体視力があれば、簡単にかわすことができる。
かわしざまに、一匹の喉を爪で引き裂く。
鮮血が飛び散って、俺を満たした。
美味い。
しかも体力が回復した気がする。血さえ吸えればなんとでもなるな。
できるだけ傷を多くつけてやろう。
俺が喉をさいた首はのたうちまわっている。他の首はそれにお構いなく俺に迫ってくる。
まだ、バラバラでも食べられると思っているのだろうか。
それは甘い。
のたうつ蛇の頭がもう一頭の腹に当たる。一頭は頭をのけぞらせて、スピードダウン。ついで伸びる二つの頭とその顎門。
そのうちの一方に、俺は自分から踏み込んだ。
先ほどの喉の柔らかさなら、中からでも出てこれる。
すぐに爪で切り裂く。
大きく蛇が首を捻るが、こちらの速度の方が早い。上下が逆さまになることが、長い体感時間の中で容易に理解できる。重力が反転しようが、こちらの動きには何の制約も与えない。
なんども爪を振るえば、蛇の喉はズタボロになっていった。
「うりゃぁ!!」
思いっきり切り裂けば、外の光景が見えた。青い青い蒼穹そうきゅうが。
⋯⋯ 空だね。落ちるぞ。くそう蛇のやつのたうちまわって釜首をもたげるんじゃねえよ。
なんとか蛇の背中を足場にして地上に戻る。苔が生えていて、足場がしっかりしていたのは助かった。
喉を裂いた頭が二つ。毒でダウンした頭が四つ。
あとは二つだ。
ここにきて連携というのを覚えたらしく、二つの頭が、いやらしいタイミングで襲ってきた。
一方を躱せばもう一方からは逃げれらないそんな必中の構えだ。
蛇の牙が衣服を貫通して俺の体を貫いた。
背骨が圧砕される。
気持ち悪い感覚が腹に残る。
爪を思いっきりふりまわして足掻く。
まだまだ死なない。
血をかぶって回復するのと同時に横に回転して牙の位置から逃れる。
腹から血が吹き出しているけど、蛇の血は取り込めているからおあいこだ。
もう一度喉を引き裂いて、そして外へと飛び出した。
正面に驚いて動けない最後の蛇の顔がある。首の間で意識共有ができていないのが仇になったな。
爪を振り下ろせば、五つの爪痕がその頭を引き裂いた。
最後の蛇の頭が倒れたけれど、こちらのダメージも甚大だ。
なんとは言っても血が足りない。
吹き出している血飛沫を体内に取り込んでいく。
毒で倒れている方のとどめもさしていかないと。
血を啜っていく。
あれ、なんだか意識が遠くなっていくような⋯⋯。
そういえば、こっちの頭はあの毒が回っていたんだ。
ふりかけるだけで俺が簡単に昏倒した毒。
クシナダがどれだけ入れたか知らないけど、毒が回ったままの血を啜ったから、それはそうなるか⋯⋯。
それが俺の最後に考えていたことだった。
●
一年後、スサノオと言う人が訪ねてきて、山神様を退治すると言って山に分け入り、ヤマタノオロチの死骸を発見するのであった。彼はちゃっかりその手柄を自分のものにしたそうな。
ズルズルと何かを引きずるような音が響いてくる。
道の先から巨大な蛇が顔を見せた。口は人一人丸呑みできるくらいでかい。
なーんか、頭の数がバグってませんかね。八本あるように見えるんですけど。
くそ。これじゃ一つの頭を眠らせたとしても、他七つは動くぞ。
難敵すぎないか?
とりあえず、酒の瓶の後ろに隠れよう。
思ってたよりやばい相手だった。
基本的にこの体のスペックだったら圧倒できると思ったんだけどなあ。
俺、何か特殊能力持ってないかな。例えば、霧になって物理ダメージを無効化したり、血で剣を作ったり。なんなら時間停止を使えるって言う感じでもいいよ。
⋯⋯ あるかもしれないが、わからない。
今の所わかっているのは、優れた動体視力と、化け物じみたパワーの二つだ。
これでなんとか戦っていくしかない。
山神様は、俺に気づくことなく、瓶の中に争うように首を突っ込んだ。
なんなら本当に争っている。一つの体にくっついた首同士で喧嘩している。
意識は共有していないらしい。よかったと見るべきか。面倒と見るべきか。
一杯飲んでふらふらになった首を押しのけるようにして、次の首が瓶に首を突っ込んだ。
おっ。これはもしかしたらもしかするかもしれないぞ。
このまま全員毒入り酒を飲んでくれればいいんだが。
●
そううまくはいかなかった。
途中まではうまくいっていたのだが、前後不覚に陥った首が4本を数えた時点で、山神の方もおかしいと思ったらしい。瓶から離れて警戒の態勢をとる。
舌が四つの口からチロチロと出ては入る。
微塵も油断はしていないらしい。
なんなら俺が隠れている場所を4本の首が見ている。蛇にはピット器官があって、熱を感じられるんだったか。
蛇たちの最初の気分が人じゃなくて酒で良かった。
しかし、こうなっては手詰まり感が否めない。
もう酒を飲むことはないだろうし、毒から回復したら他の四つの首も起きるだろう。
そうなったらどうしようも無い。
敵の戦力が半分になっている今のうちに勝負をつけるべきだ。
俺は、瓶の後ろから体を表した。
シューシューという蛇の音が、一層激しくなる。
おそらく好みの姿をしているんだろう。蛇なのに美醜がわかるとはなかなかの審美眼だ。
だが、こちらもみすみす食われてやるつもりは毛頭ない。
「お前の血を全て吸い取ってやるよ。」
俺は笑った。鋭い犬歯が剥き出しになっているのを感じる。
蛇の化け物程度に、吸血姫たる俺が負けるものか。
なんなら日光の下でも生きていけるし真祖かもしれないまであるからな。
どう猛な戦闘欲が点火された。それとともに、手の爪が伸びて鋭く尖る。
「さあ、殺し合いと行こう。」
俺の言葉に、山神は行動で答えた。
四つの頭が全てこちらを狙って飛び込んでくる。
酒の時と同じだ。こちらのことを被捕食者としか思っていない。
気をつけろよ。この獲物はお前たちを殺すに足る牙を持っているぞ。
バラバラな飛び込みはこちらの動体視力があれば、簡単にかわすことができる。
かわしざまに、一匹の喉を爪で引き裂く。
鮮血が飛び散って、俺を満たした。
美味い。
しかも体力が回復した気がする。血さえ吸えればなんとでもなるな。
できるだけ傷を多くつけてやろう。
俺が喉をさいた首はのたうちまわっている。他の首はそれにお構いなく俺に迫ってくる。
まだ、バラバラでも食べられると思っているのだろうか。
それは甘い。
のたうつ蛇の頭がもう一頭の腹に当たる。一頭は頭をのけぞらせて、スピードダウン。ついで伸びる二つの頭とその顎門。
そのうちの一方に、俺は自分から踏み込んだ。
先ほどの喉の柔らかさなら、中からでも出てこれる。
すぐに爪で切り裂く。
大きく蛇が首を捻るが、こちらの速度の方が早い。上下が逆さまになることが、長い体感時間の中で容易に理解できる。重力が反転しようが、こちらの動きには何の制約も与えない。
なんども爪を振るえば、蛇の喉はズタボロになっていった。
「うりゃぁ!!」
思いっきり切り裂けば、外の光景が見えた。青い青い蒼穹そうきゅうが。
⋯⋯ 空だね。落ちるぞ。くそう蛇のやつのたうちまわって釜首をもたげるんじゃねえよ。
なんとか蛇の背中を足場にして地上に戻る。苔が生えていて、足場がしっかりしていたのは助かった。
喉を裂いた頭が二つ。毒でダウンした頭が四つ。
あとは二つだ。
ここにきて連携というのを覚えたらしく、二つの頭が、いやらしいタイミングで襲ってきた。
一方を躱せばもう一方からは逃げれらないそんな必中の構えだ。
蛇の牙が衣服を貫通して俺の体を貫いた。
背骨が圧砕される。
気持ち悪い感覚が腹に残る。
爪を思いっきりふりまわして足掻く。
まだまだ死なない。
血をかぶって回復するのと同時に横に回転して牙の位置から逃れる。
腹から血が吹き出しているけど、蛇の血は取り込めているからおあいこだ。
もう一度喉を引き裂いて、そして外へと飛び出した。
正面に驚いて動けない最後の蛇の顔がある。首の間で意識共有ができていないのが仇になったな。
爪を振り下ろせば、五つの爪痕がその頭を引き裂いた。
最後の蛇の頭が倒れたけれど、こちらのダメージも甚大だ。
なんとは言っても血が足りない。
吹き出している血飛沫を体内に取り込んでいく。
毒で倒れている方のとどめもさしていかないと。
血を啜っていく。
あれ、なんだか意識が遠くなっていくような⋯⋯。
そういえば、こっちの頭はあの毒が回っていたんだ。
ふりかけるだけで俺が簡単に昏倒した毒。
クシナダがどれだけ入れたか知らないけど、毒が回ったままの血を啜ったから、それはそうなるか⋯⋯。
それが俺の最後に考えていたことだった。
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一年後、スサノオと言う人が訪ねてきて、山神様を退治すると言って山に分け入り、ヤマタノオロチの死骸を発見するのであった。彼はちゃっかりその手柄を自分のものにしたそうな。
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