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第1章至る平安
後始末
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酒呑童子が死んでてんやわんやしている邸宅。
その中庭で、源頼光と、夜。そして、この前であった老人の中でも一番身分が高そうだった男が顔を付き合わせていた。
「⋯⋯。私の筋書きがめちゃくちゃになったんだが。」
「そうだ、君—。応神天皇でしょ。久しぶりだね。なんで神になってるの?」
「やりにくいことこの上ないわ!今は八幡さまと呼んでくれ。形式だけでも⋯⋯、な。」
「仕方ないなあ。私は優しいからね。何か事情があるんでしょ。」
「八幡さま?」
「ああ、私が八幡神だ。こいつの言うことは気にしないでほしい。」
「なんでよどう考えても応神天皇じゃん。毎年お金ありがとーね!」
「頭がいたい⋯⋯。なんで酒呑童子と正面から戦って叩き伏せてるんだこの規格外は⋯⋯。」
「褒めてるー?ありがとー!」
夜は、久々に血を浴びるほどに飲んで興奮している。
一応女言葉は戻ってきたが、性格的な緩みは隠せない。
「本来なら、寝て体が動かなくなった酒呑童子を殺してもらうつもりだったのだが⋯⋯。まあ、結果は同じだから良いか。私の役割の存在理由が問われるな⋯⋯。」
「どうしたどうしたー? 元気ないぞー応神くん!」
「だからその名前で呼ばないでくれ!」
嫌がる八幡神の頭を撫でる夜。
それでも振り払えないあたり、明確な力関係がうかがえる。
「⋯⋯、あの、夜は、妖怪なのか?」
「んー?言ってなかったけ?まあ、私は人を食べないし、無害な妖怪だから気にしないで。」
夜はひらひらと手を振った。
「八幡さまが認めているとはいえ、俺は魔に連なるものを許せない。」
だが、そのおちゃらけた雰囲気は、頼光の態度によって霧散した。
腰刀の鯉口を切って、頼光は夜に敵意に満ちた視線を送る。
「へーえ。やるの?」
「ああ。」
「夜!頼光を殺すのはダメだからな!」
「わかってますよ応神くん。私も疲れましたし、そんな余裕ないですって。」
「そうか⋯⋯。ならいい。」
老人は疲れたようで引き下がった。
「おしゃべりとは随分と余裕だな。」
抜刀した頼光の刀が夜へと襲い掛かる。
「へえ。滅魔の剣か。大層なものを持ってるね。」
「少しでも触れたら終わりだ。」
「でも、当たると思う?式神形代!」
夜の求めに従って、紙の式神が、頼光の刀にまとわりついた。
そのまま刃の部分を完全に覆ってしまう。
もうまともに切るのは難しいだろう。
「卑怯な!」
「いやいや一撃必殺を持ってる方が卑怯でしょうよ。」
「抜かせ。」
「⋯⋯うーん。相手してもいいけど、疲れてるんだよねえ。また今度でいい?」
「は?俺が見逃すとでも?」
「陰陽術はすごいよ?」
夜の周りを紙吹雪が取り巻いていく。
これは夜が晴明と対戦した時に、敗因となった技だ。
彼女は、無事にこの技を習得した。
一度その力を知ってしまったからこそ、熱心に習得に励んだのだ。
「転移。」
彼女の姿がその場所から消える。
「どこに行った!」
「じゃあね。私は、あなたのこと、結構好きだよ?」
置き土産のように夜の声が木霊する。
それは四方八方から響いてくるようで捉えどころがなく、頼光に、夜が逃げてしまったことを知らせていた。
さらわれた者たちを集めることに成功したと言う報告を聞き、頼光は一旦夜のことは後回しにすることにした。
彼女らを庇護者の元に送り、天皇に酒呑童子の首印を渡す。その仕事を終える方が大事だ。
なぜか八幡さまはいつの間にか消えいていた。
随分威厳のない八幡さまで、本当に武家の守護神として尊敬していてもいいのか少し疑問に思ってしまったが、気のせいだろう。あの神酒の効果は、うまくハマれば絶大だったはずだ。夜さえいなければ八幡さまの加護に絶大な感謝を抱いていたことだろう。
「夜、か⋯⋯。」
彼女に対する感情は、複雑だ。仲間であり、敵でもある。様々な顔があってとらえどころがない。
だが、何はともあれ妖怪なのは確かだ。
今度、京の街で見かけることがあれば絶対に切ってやる。
頼光はそう心に誓うのだった。
●
「師匠—!酒呑童子一人で倒したのに、何もなかったんですけど!なんですかあの頼光って人!」
「あー、お前、妖怪ってバレたな?あいつは兄弟を妖怪に殺されたとかで憎んでるからな。」
「いや知りませんよ。あんなに頑張ったのに何もないんですか。ひどいですよ国家権力は!」
「別に知らんよ? オメーの対応は悪かったんだろ?目立つなよ。」
「いや普通にしてただけです。目立っちゃったのはたまたまです。」
「絶対嘘だが、自分で信じ込んでるからタチが悪(わり)い。」
晴明は呆れたようにため息をついた。
「とりあえず、なんの報酬もないなんて信じられません。師匠がなんとかしてください!」
「そうは言われてもなあ。」
「そこをなんとか。」
「うーん。⋯⋯ん? そうか。そういえばそうだな! よし、しばらく待っとけ。」
晴明の表情がとても生き生きし始めた。なんらかのいたずらでも思いついた顔だ。
「ひどいことにはしないでくださいね。」
「我の経験値をなめるなよ?取り繕うくらい簡単だ。」
晴明が意気揚々と内裏に向かうのを見ながら、夜はとても不安になっていた。
師匠は、時々とんでもないことをしでかすからなあ。
まあ、待てと言われれば待とう。
その中庭で、源頼光と、夜。そして、この前であった老人の中でも一番身分が高そうだった男が顔を付き合わせていた。
「⋯⋯。私の筋書きがめちゃくちゃになったんだが。」
「そうだ、君—。応神天皇でしょ。久しぶりだね。なんで神になってるの?」
「やりにくいことこの上ないわ!今は八幡さまと呼んでくれ。形式だけでも⋯⋯、な。」
「仕方ないなあ。私は優しいからね。何か事情があるんでしょ。」
「八幡さま?」
「ああ、私が八幡神だ。こいつの言うことは気にしないでほしい。」
「なんでよどう考えても応神天皇じゃん。毎年お金ありがとーね!」
「頭がいたい⋯⋯。なんで酒呑童子と正面から戦って叩き伏せてるんだこの規格外は⋯⋯。」
「褒めてるー?ありがとー!」
夜は、久々に血を浴びるほどに飲んで興奮している。
一応女言葉は戻ってきたが、性格的な緩みは隠せない。
「本来なら、寝て体が動かなくなった酒呑童子を殺してもらうつもりだったのだが⋯⋯。まあ、結果は同じだから良いか。私の役割の存在理由が問われるな⋯⋯。」
「どうしたどうしたー? 元気ないぞー応神くん!」
「だからその名前で呼ばないでくれ!」
嫌がる八幡神の頭を撫でる夜。
それでも振り払えないあたり、明確な力関係がうかがえる。
「⋯⋯、あの、夜は、妖怪なのか?」
「んー?言ってなかったけ?まあ、私は人を食べないし、無害な妖怪だから気にしないで。」
夜はひらひらと手を振った。
「八幡さまが認めているとはいえ、俺は魔に連なるものを許せない。」
だが、そのおちゃらけた雰囲気は、頼光の態度によって霧散した。
腰刀の鯉口を切って、頼光は夜に敵意に満ちた視線を送る。
「へーえ。やるの?」
「ああ。」
「夜!頼光を殺すのはダメだからな!」
「わかってますよ応神くん。私も疲れましたし、そんな余裕ないですって。」
「そうか⋯⋯。ならいい。」
老人は疲れたようで引き下がった。
「おしゃべりとは随分と余裕だな。」
抜刀した頼光の刀が夜へと襲い掛かる。
「へえ。滅魔の剣か。大層なものを持ってるね。」
「少しでも触れたら終わりだ。」
「でも、当たると思う?式神形代!」
夜の求めに従って、紙の式神が、頼光の刀にまとわりついた。
そのまま刃の部分を完全に覆ってしまう。
もうまともに切るのは難しいだろう。
「卑怯な!」
「いやいや一撃必殺を持ってる方が卑怯でしょうよ。」
「抜かせ。」
「⋯⋯うーん。相手してもいいけど、疲れてるんだよねえ。また今度でいい?」
「は?俺が見逃すとでも?」
「陰陽術はすごいよ?」
夜の周りを紙吹雪が取り巻いていく。
これは夜が晴明と対戦した時に、敗因となった技だ。
彼女は、無事にこの技を習得した。
一度その力を知ってしまったからこそ、熱心に習得に励んだのだ。
「転移。」
彼女の姿がその場所から消える。
「どこに行った!」
「じゃあね。私は、あなたのこと、結構好きだよ?」
置き土産のように夜の声が木霊する。
それは四方八方から響いてくるようで捉えどころがなく、頼光に、夜が逃げてしまったことを知らせていた。
さらわれた者たちを集めることに成功したと言う報告を聞き、頼光は一旦夜のことは後回しにすることにした。
彼女らを庇護者の元に送り、天皇に酒呑童子の首印を渡す。その仕事を終える方が大事だ。
なぜか八幡さまはいつの間にか消えいていた。
随分威厳のない八幡さまで、本当に武家の守護神として尊敬していてもいいのか少し疑問に思ってしまったが、気のせいだろう。あの神酒の効果は、うまくハマれば絶大だったはずだ。夜さえいなければ八幡さまの加護に絶大な感謝を抱いていたことだろう。
「夜、か⋯⋯。」
彼女に対する感情は、複雑だ。仲間であり、敵でもある。様々な顔があってとらえどころがない。
だが、何はともあれ妖怪なのは確かだ。
今度、京の街で見かけることがあれば絶対に切ってやる。
頼光はそう心に誓うのだった。
●
「師匠—!酒呑童子一人で倒したのに、何もなかったんですけど!なんですかあの頼光って人!」
「あー、お前、妖怪ってバレたな?あいつは兄弟を妖怪に殺されたとかで憎んでるからな。」
「いや知りませんよ。あんなに頑張ったのに何もないんですか。ひどいですよ国家権力は!」
「別に知らんよ? オメーの対応は悪かったんだろ?目立つなよ。」
「いや普通にしてただけです。目立っちゃったのはたまたまです。」
「絶対嘘だが、自分で信じ込んでるからタチが悪(わり)い。」
晴明は呆れたようにため息をついた。
「とりあえず、なんの報酬もないなんて信じられません。師匠がなんとかしてください!」
「そうは言われてもなあ。」
「そこをなんとか。」
「うーん。⋯⋯ん? そうか。そういえばそうだな! よし、しばらく待っとけ。」
晴明の表情がとても生き生きし始めた。なんらかのいたずらでも思いついた顔だ。
「ひどいことにはしないでくださいね。」
「我の経験値をなめるなよ?取り繕うくらい簡単だ。」
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