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第1章至る平安
鬼VS吸血姫
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戦闘は夜の初手から始まった。
「式神召喚。形代。」
紙に手と足がついた謎の物体が生み出される。
本好きなのがうまく作用したのか、彼女は紙に近い式神を作って操ることに才を発揮した。ただ、彼女自身はやっぱり勿体無いと考えているようだ。
ただ、その怒りは、晴明から式神練習用として大量の紙を渡された時に随分減じている。余った紙は小説に転用できるほどたっぷりもらったのだ。
何も迷わず師匠呼びができるようになった瞬間だった。
晴明も短期間でよく夜の性格を把握したものだ。
五体の式神を召喚した夜。
その号令で、式神が飛んでいく。
酒呑童子にまとわりついた。
直接的なダメージはなさそうだが、酒呑童子は鬱陶しそうに払う。
「これ、面倒くさいでしょう?」
一度晴明にやられたことがある術だ。その鬱陶しさは存分に理解している。
「正面から来てくれよぉ?」
「ひょっとして、これを破る術すら持ってないの? 今回は燃やすなんて野暮なことはしないつもりだけど?」
しばらく前の自分のことを棚に上げて、夜は煽る。
一応、女としての猫は被ったままにできているのは進歩だろうか。
「チッ。鬱陶しいが仕方ないか。」
「あら愚策。」
「僕の剛力を受け止めてから言ってくれよ?」
岩の砲弾のような右腕が夜に向かって発射される。
「結界術“封”。」
夜の周りに紙が展開され、五芒星が浮かび上がる。
晴明が使った盾紙のそれは、夜によって改良され、相当な力が込められた酒呑童子の攻撃を無傷のままに耐え切った。
夜の戦闘能力の幅の広がりがおかしい。ついこの間まで、自分の再生力に任せての力押ししかしてなかったというのに。遠距離妨害術に、防御術まで手に入れたら、もう彼女に対抗できるものはいないのではないだろうか。
「それで終わり?」
紙の間から目を覗かせて、夜はバカにしたように言う。
初めて会う自分では勝てないかもしれない相手。
それを目の前に、酒呑童子は、恐れを振り払うように叫び声をあげる。
「うおおおおおおお!!!!」
もう童子の姿を取り繕っている余裕はなかった。姿形が変化していく。
頭蓋からは角が生え、体つきも筋骨隆々。
まさしくそこにいたのは、日本の大妖怪。鬼の総大将だった。
勢いに任せて、腕をやたらめったらに振り下ろす。
夜の結界が、きしみ、たわみ、しまいには弾んだ。
「なんて力?!」
流石の夜も驚かずにはいられない。
「ぼくは大江山の首魁。酒呑童子。誰であろうと負けるわけにはいかない!!!」
強い想いのこもった拳だった。
それを確認した夜は獰猛に笑う。
「ああ。そうこなくっちゃなあ。平安京を乱したお前は俺が、きっちり殺してやるよ。」
酒呑童子の闘争心に煽られて、夜の猫かぶりが解ける。
しゅるりと爪がのび、結界を内側から破壊する。
「ちまちまするのはやめだ。殺し合おうぜ?」
ニヤリと笑う夜に、酒呑童子の拳が降り注いだ。
鬼の膂力(りょりょく)に任せた攻撃はそれ自体が脅威だ。
たとえ、単純なものだったとしてもその力は計り知れない。
だが、それを正面から浴びて、夜は倒れなかった。
「なかなかやるなあ。」
涼しい顔をして笑う。
その顔は凄惨そのもので、血だらけだ。だが、彼女にとってこの程度問題にもならないし、痛みもほとんどない。
爪が一閃走った。
「ぐ、があああああ。」
酒呑童子が思わず叫び声をあげる。
硬く握り締めた拳が、何かで切られたように真っ二つになっていた。
鮮血が吹き出す。
それを血濡れの顔で受け止めて、夜はにんまり微笑んだ。
「お前の血、うまいな。人の血じゃなくて自分の血でも飲めばよかったんじゃないか?」
潰れた顔が回復していく。
そこにあるのは、美しくも残酷な、一人の女の笑顔だ。
「バケモノ⋯⋯!」
思わず、とでも言った調子で、酒呑童子は震え声を漏らした。
「おいおい。そりゃどっちもだろ?」
夜はやれやれと首を振る。
「しかしまあ、勝負あったか。これ以上やってもつまらないから、終わらせるぞ。」
両手合わせてしめて10爪。
長く伸びた爪を構えた。
「もっと強くなってから威張れ。」
一瞬で、夜の姿が、酒呑童子の背後に移動する。
続いて、酒呑童子の首が、胴体と離れた。
自分には理解できないものを見る正気を失った表情のまま、首が地面に落ちる。
胴体は、池に落ちて、水を赤く染め始めた。
「これで師匠の依頼は完了か。あっけなかったな。」
戦闘描写的に、そこそこ得るものがあったのは救いか。
夜は、爪を元に戻して一息ついた。
せっかくあつらえた山伏装束が血で濡れて台無しだ。
陰陽装束に着替えることにした。
柱の陰に身を隠す。
よろよろと、源頼光と、四天王が庭に出てきた。
自分たちでは到底太刀打ちできないような力と力のぶつかり合いだった。
何よりも、京都からここまで一緒についてきて、気心も知れてきていたあの少女が、こんなことを涼しい顔でできるバケモノだったとは。
震えが止まらなかった。
夜が、都に、帝に牙を剥いたらどうする。
もろくも崩れ落ちる彼らの守るべきものの存在を幻視して、彼らは膝を折る。
何はともあれ、酒呑童子の討伐は完了したのだ。
大きな首を首級として納めなければならない。
彼らはすぐに運ぶ準備をするのだった。
「式神召喚。形代。」
紙に手と足がついた謎の物体が生み出される。
本好きなのがうまく作用したのか、彼女は紙に近い式神を作って操ることに才を発揮した。ただ、彼女自身はやっぱり勿体無いと考えているようだ。
ただ、その怒りは、晴明から式神練習用として大量の紙を渡された時に随分減じている。余った紙は小説に転用できるほどたっぷりもらったのだ。
何も迷わず師匠呼びができるようになった瞬間だった。
晴明も短期間でよく夜の性格を把握したものだ。
五体の式神を召喚した夜。
その号令で、式神が飛んでいく。
酒呑童子にまとわりついた。
直接的なダメージはなさそうだが、酒呑童子は鬱陶しそうに払う。
「これ、面倒くさいでしょう?」
一度晴明にやられたことがある術だ。その鬱陶しさは存分に理解している。
「正面から来てくれよぉ?」
「ひょっとして、これを破る術すら持ってないの? 今回は燃やすなんて野暮なことはしないつもりだけど?」
しばらく前の自分のことを棚に上げて、夜は煽る。
一応、女としての猫は被ったままにできているのは進歩だろうか。
「チッ。鬱陶しいが仕方ないか。」
「あら愚策。」
「僕の剛力を受け止めてから言ってくれよ?」
岩の砲弾のような右腕が夜に向かって発射される。
「結界術“封”。」
夜の周りに紙が展開され、五芒星が浮かび上がる。
晴明が使った盾紙のそれは、夜によって改良され、相当な力が込められた酒呑童子の攻撃を無傷のままに耐え切った。
夜の戦闘能力の幅の広がりがおかしい。ついこの間まで、自分の再生力に任せての力押ししかしてなかったというのに。遠距離妨害術に、防御術まで手に入れたら、もう彼女に対抗できるものはいないのではないだろうか。
「それで終わり?」
紙の間から目を覗かせて、夜はバカにしたように言う。
初めて会う自分では勝てないかもしれない相手。
それを目の前に、酒呑童子は、恐れを振り払うように叫び声をあげる。
「うおおおおおおお!!!!」
もう童子の姿を取り繕っている余裕はなかった。姿形が変化していく。
頭蓋からは角が生え、体つきも筋骨隆々。
まさしくそこにいたのは、日本の大妖怪。鬼の総大将だった。
勢いに任せて、腕をやたらめったらに振り下ろす。
夜の結界が、きしみ、たわみ、しまいには弾んだ。
「なんて力?!」
流石の夜も驚かずにはいられない。
「ぼくは大江山の首魁。酒呑童子。誰であろうと負けるわけにはいかない!!!」
強い想いのこもった拳だった。
それを確認した夜は獰猛に笑う。
「ああ。そうこなくっちゃなあ。平安京を乱したお前は俺が、きっちり殺してやるよ。」
酒呑童子の闘争心に煽られて、夜の猫かぶりが解ける。
しゅるりと爪がのび、結界を内側から破壊する。
「ちまちまするのはやめだ。殺し合おうぜ?」
ニヤリと笑う夜に、酒呑童子の拳が降り注いだ。
鬼の膂力(りょりょく)に任せた攻撃はそれ自体が脅威だ。
たとえ、単純なものだったとしてもその力は計り知れない。
だが、それを正面から浴びて、夜は倒れなかった。
「なかなかやるなあ。」
涼しい顔をして笑う。
その顔は凄惨そのもので、血だらけだ。だが、彼女にとってこの程度問題にもならないし、痛みもほとんどない。
爪が一閃走った。
「ぐ、があああああ。」
酒呑童子が思わず叫び声をあげる。
硬く握り締めた拳が、何かで切られたように真っ二つになっていた。
鮮血が吹き出す。
それを血濡れの顔で受け止めて、夜はにんまり微笑んだ。
「お前の血、うまいな。人の血じゃなくて自分の血でも飲めばよかったんじゃないか?」
潰れた顔が回復していく。
そこにあるのは、美しくも残酷な、一人の女の笑顔だ。
「バケモノ⋯⋯!」
思わず、とでも言った調子で、酒呑童子は震え声を漏らした。
「おいおい。そりゃどっちもだろ?」
夜はやれやれと首を振る。
「しかしまあ、勝負あったか。これ以上やってもつまらないから、終わらせるぞ。」
両手合わせてしめて10爪。
長く伸びた爪を構えた。
「もっと強くなってから威張れ。」
一瞬で、夜の姿が、酒呑童子の背後に移動する。
続いて、酒呑童子の首が、胴体と離れた。
自分には理解できないものを見る正気を失った表情のまま、首が地面に落ちる。
胴体は、池に落ちて、水を赤く染め始めた。
「これで師匠の依頼は完了か。あっけなかったな。」
戦闘描写的に、そこそこ得るものがあったのは救いか。
夜は、爪を元に戻して一息ついた。
せっかくあつらえた山伏装束が血で濡れて台無しだ。
陰陽装束に着替えることにした。
柱の陰に身を隠す。
よろよろと、源頼光と、四天王が庭に出てきた。
自分たちでは到底太刀打ちできないような力と力のぶつかり合いだった。
何よりも、京都からここまで一緒についてきて、気心も知れてきていたあの少女が、こんなことを涼しい顔でできるバケモノだったとは。
震えが止まらなかった。
夜が、都に、帝に牙を剥いたらどうする。
もろくも崩れ落ちる彼らの守るべきものの存在を幻視して、彼らは膝を折る。
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