紀ノ川さんの弟が何を考えているのか分からない

糸坂 有

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二十五

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 休日、俺たちは連れ立って例の店へとやって来た。今はランチタイムである。夜とは違い、いっそう華やかな印象を受ける店構えに見えた。
 犯罪者のように窓から中をそっと覗くと、奴はいた。佐野は、堂々として店へ入った。俺もそれに続く。
「い、らっしゃいませ」
 ご来店二回目である。弟には、一回目のような動揺は見られなかった。そつない動作で、テーブル席へ案内される。つまらない。
「さすが、キラキラしてんな」
 少なくともここから見る限りでは、誰に対しても笑顔、物腰柔らか、模範的紳士のようである。まさしく、女性客たちからは王子様のように思われているのだろう。店にいる全員の視線を集めながらも、涼し気な風でいる弟は、こんなことが日常茶飯事なのだ。ちなみに、俺がほんの少し感じている視線は、佐野のせいだった。昼食時、弟は忙しなく店内を駆け回っている。
 俺がカレー、佐野はハンバーグを注文した。佐野は、女性客たちと同様に弟を目で追っている。腕を組み、「なるほどな」と唸った。何かを理解したらしい。努力する方向を完全に間違っているとは思うのだが、咎めることもなく、俺は頬杖を付いた。
 店内を見渡してみて、明らかに浮いている男子高校生は俺たちくらいのものである。弟は、平等スマイルで料理を運び、「ごゆっくりどうぞ」とレシートを机へ置いて行った。
「隙がねえな」
 佐野は、フォークとナイフを綺麗に使いながらハンバーグを切っている。両親のしつけの賜物だとかで、こう見えて食事のマナーは心得ているらしい。俺はスプーンを持ってそれを眺めた。
「隙っていうか、お坊ちゃまって感じなんだよな、弟って」
「確かに、何考えてんだか分からない顔してる。厳しく調教された犬みたいだ」
「そうか?」
「ちょっと思ってたんだけど、泉井って強引な人が好きなの?」
 突然の質問に、俺は眉を寄せる。
「だって、昔は二人、仲良かったんだろ? 泉井も、普通に好きだから弟とつるんでたんだよな? 今からだと考えられないけど、当時はけっこう強引な奴だったらしいし」
「語弊がある言い方だな」
「良いなあ、仲良し」
「今は仲良くない」
 佐野は、首を捻って弟へ視線を送る。
「……まさか今になって、相川さんの気持ちが染みるとはな」
「相川さん? 何の話だ?」
「いや、こっちの話」
 佐野は、すました顔でハンバーグを食べた。「食べないのか?」なんて不思議そうに訊いてくるから、俺はスプーンを動かすことにした。弟は、最後まで俺の方なんて見なかった。
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