【完結】政略結婚は敵国の皇帝と

明太子

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初夜(*)

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夕刻になると、月桂樹の間に侍女たちがやって来た。
ヴィンセントとの初めての夜伽の準備を行うためである。

彼女たちは言葉を発することもなく、機械仕掛けのような動きで初夜の用意を淡々と進めていく。

まず浴槽に湯を満たし、薔薇の花弁と月桂樹の葉をそこに落とす。
エレオノールの麗しい黒髪としなやかに鍛え上げられた身体は湯の中で薔薇と蜂蜜でできた石鹸で丁寧に洗われ、最後には香油を塗り込まれた。
沐浴を済ませると、侍女たちはエレオノールの柔肌を真綿で包むように優しく水滴を拭き取り、光が透けるほどに薄く織られた絹の夜着を着せていく。

月桂樹の香を部屋に焚き、エレオノールを天蓋つきのベッドに腰掛けさせると彼女たちの仕事は終わり、去っていった。

エレオノールは嘆息を漏らしながら、空を仰ぐ。
視界に映った天井は緻密な金の細工で繊細に縁取られ、華麗な花々を描いたフレスコ画が広がっている。
軽やかで明るい雰囲気を醸し出していたが、それを見ても彼の憂鬱さは増していく。

「籠の鳥になった気分だ…」

エレオノールがぽつりと寂しげに呟いた瞬間、ドアが勢いよく開けられた。
ヴィンセントが入ってきたのだ。

躊躇いもなくベッドへ向かって進んできて、エレオノールを乱暴に押し倒した。
彼の髪は絹糸のようにふわりとシーツの上に広がる。
そしてヴィンセントがエレオノールの夜着の紐を解くと、裸体が顕になった。

「お前を見下ろすのは気分が良いな」
「クソっ…!悪趣味な野郎だ!」

エレオノールの身体は緊張から僅かに汗ばみ、濡れた肌の上で胸筋と腹筋が浮き出し、妖艶な曲線を描いている。
冷たい空気に触れた乳頭はピンと張り詰め、硬くなっていた。

ヴィンセントは腹筋へ手を伸ばし、滑らせるように撫でれば、エレオノールは思わず身を捩らせる。
その後ヴィンセントの無骨な指先が胸の突起を摘むと、エレオノールから細い喘ぎ声が思わず漏れた。

「ふぅ、あぁっ…!」
「ここで感じるのか?女みたいだな」

恥ずかしさからエレオノールはぎゅっと目を瞑った。

「男のくせに…、浅ましい身体だ」

エレオノールが恐る恐る目を開けると、ヴィンセントの形の良い唇は歪められ、そこには冷笑が浮かんでいた。

「顔や髪が女のようだから抱くのも一興かと思って来たが、やはり気が進まないな。お前のような卑怯者を抱くほど俺は落ちぶれてはいない」

酷薄に言い放ち、ヴィンセントは部屋を出て行く。
1人残されたエレオノールははだけた夜着を直すこともなく、ただ呆然としていた。

敵であったヴィンセントに抱かれずに安堵するべきなのに、エレオノールの胸の内には虚無感が押し寄せてくる。

「…これじゃあまるであの男に抱かれることを期待していたみたいじゃないか」

あれは王妃の務めだったのだと言い聞かせながらも、エレオノールは夜もすがら自己嫌悪に苛まれた。
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