【完結】政略結婚は敵国の皇帝と

明太子

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互いの体温

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「ここ、数字間違ってるよな?」

エレオノールが差し出した報告書にヴィンセントが目を落とす。
近づいた距離にエレオノールは思わず身構えてしまう。

「確かにそうだな」
「…前のページの数字が入るべきところだよな」
「あぁ。気付いてくれて助かった」
「…お、俺が修正しておく」
「頼む」

視線が合って、ヴィンセントは軽く微笑んだ。
ただ目が合っただけなのに、エレオノールはどうしようもなく心が乱れて平然としていられなくなる。

そして報告書の受け渡しの際、2人の指先が触れた。

ほんの一瞬の出来事だった。
だが、意識させるには充分な熱を互いに感じていた。

「…悪い」

エレオノールが肩をすくめて、すぐに手を引いた。
動揺で指先は震えている。

それにヴィンセントは気付いたが、あえて何も言わなかった。
ただ、そっと手を握り締め、エレオノールの体温を密かに反芻した。

その時、執務室の扉が叩かれる。

「陛下、ルイーズ様がいらっしゃいました」
「…ルイーズが?」

侍従の声にヴィンセントが反応する。
初めて聞く女の名にエレオノールは胸騒ぎを覚えた。

「…通せ」

その一言で扉が開かれ、女が入ってくる。

深く肌をなぞるように身体に沿ったルビーのドレスが歩く度に艶やかに波を打つ。
背筋は真っ直ぐに伸び、指先の動き1つすらも計算されたように華麗だ。
彼女が現れた瞬間、空気が一変したのがエレオノールには分かった。
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