【完結】政略結婚は敵国の皇帝と

光と陰

ヴィンセントはルイーズを見下ろして、呆れ顔をする。

「全く理解できていないのだな…。事前に分かっているのに、愛する妃の茶会に毒を持ち込んだ者を見逃すと思うか？」
「え…？」
「そもそも買収自体失敗しているんだ。お前が買収したと思い込んでいる下女によって毒はすり替えられている。今お前が飲んだのは強い苦味のあるククルビタシンの抽出液だ。ただ不味いだけで、体には影響も及ぼさない」
「嘘…」
「お前が倒れ込んだのが最大の証拠だ。エレオノールの無実は証明されたな」

その発言を聞いた貴族の1人がルイーズの扇子を調べると、確かに毒の小瓶が発見された。

「本当だ…。これはルイーズ様の自作自演ということか…」

一同に戦慄が走る。
ルイーズは立ち上がろうとするも、その足元は覚束ない。
周囲の視線は憐憫から非難へと変わった。

「この男が失脚するはずだったのに…。どうして私が…。皇妃になるのはこの私だったのに…」
「エレオノールを陥れようとする者に俺は容赦しない。それにお前は妃の器ではない」

ルシウスの声にはもう怒りも嘲笑もない。
そこにあるのは絶対的な断罪の響きだけだ。

「俺は何があっても、お前を守る」
「ヴィンセント…、ありがとう」

ヴィンセントは静かにエレオノールの手を取り、立ち上がらせる。
エレオノールはただ皇帝の手を握り返すだけだったが、彼らの絆はますます強まったのを貴族たちは実感していた。

薔薇の花弁が舞い散る中でエレオノールは妃としての栄光と揺るぎない愛を手に入れた。
その陰でルイーズの野望は音もなく崩れ去っていった。