5 / 7
回想、4
しおりを挟む
懐かしいなあ。
家に帰ったら、松村にひどく呆れられたっけ。
あ、松村は君も見たことあったよね?よくうちを出入りしてるやつ。あんまりよく知らないんだけど、父さんの親友だったらしい。食人種ではないらしいけど。
僕は目の前のぬくもりに追い縋るように顔をうずめた。
出会った頃と変わらない、静かなサチ。穏やかな波のよう。
それでね。僕は話を続けた。
「あんた、なんてもん持って帰ってきたんだよ……」
「将来的に食糧になるからいいだろ」
あれからサチを風呂に入れ、夕飯を食べさせて寝かしつけた後、僕と松村はリビングにいた。はあー、と大きなため息をつく松村はジト目でこっちを見ている。
そう、罪を犯せば食糧になるから。自分に言い聞かせるようにした。
でも、それまでは。せめてそれまで通りの生活をさせてやろう。だってあんまりじゃないか。虐待受けて、母親殺されて、食べられて、ハイ人生しゅーりょー、だなんて。9歳の女の子があんな、何もかも諦めたような目をするなんて知らなかった。
それからは君も知っての通りだと思うけど。
誤算が生じてサチは学校に行きたがらなかった。勉強道具を買ってやって、僕がサチの先生になった。松村にはお前教えられるほど学あんのか、なんてまた呆れられた。中学生の授業までならなんとか教えられるぞ、多分、なんてちょっとむっとした。
サチは物覚えが早かった。知識を貪欲に吸収してった。とりわけ物語に興味を示したから、小説をたくさん買ってやった。
1年、2年と経つうちにサチがいるのが当たり前になった。栄養が付いてサチは健康な年相応のかわいらしい少女になってた。物静かな海のような少女は、いつのまにか僕のそばに寄り添っていた。僕も彼女のそばにいると自然と落ち着いた。
いつからだろう。自分を恐れ始めたのは。
いつかサチは死ぬ。いや、ひょっとしたら僕が食べてしまうかもしれない。そのとき僕はまた1人ぼっちになってしまう。もう、サチがいない生活なんて考えられないほどになっていた。
だから、大切に大切に育てた。悪い事をしないように。
ねえ。それでも僕に言うの。
『私を食べて』だなんて。
家に帰ったら、松村にひどく呆れられたっけ。
あ、松村は君も見たことあったよね?よくうちを出入りしてるやつ。あんまりよく知らないんだけど、父さんの親友だったらしい。食人種ではないらしいけど。
僕は目の前のぬくもりに追い縋るように顔をうずめた。
出会った頃と変わらない、静かなサチ。穏やかな波のよう。
それでね。僕は話を続けた。
「あんた、なんてもん持って帰ってきたんだよ……」
「将来的に食糧になるからいいだろ」
あれからサチを風呂に入れ、夕飯を食べさせて寝かしつけた後、僕と松村はリビングにいた。はあー、と大きなため息をつく松村はジト目でこっちを見ている。
そう、罪を犯せば食糧になるから。自分に言い聞かせるようにした。
でも、それまでは。せめてそれまで通りの生活をさせてやろう。だってあんまりじゃないか。虐待受けて、母親殺されて、食べられて、ハイ人生しゅーりょー、だなんて。9歳の女の子があんな、何もかも諦めたような目をするなんて知らなかった。
それからは君も知っての通りだと思うけど。
誤算が生じてサチは学校に行きたがらなかった。勉強道具を買ってやって、僕がサチの先生になった。松村にはお前教えられるほど学あんのか、なんてまた呆れられた。中学生の授業までならなんとか教えられるぞ、多分、なんてちょっとむっとした。
サチは物覚えが早かった。知識を貪欲に吸収してった。とりわけ物語に興味を示したから、小説をたくさん買ってやった。
1年、2年と経つうちにサチがいるのが当たり前になった。栄養が付いてサチは健康な年相応のかわいらしい少女になってた。物静かな海のような少女は、いつのまにか僕のそばに寄り添っていた。僕も彼女のそばにいると自然と落ち着いた。
いつからだろう。自分を恐れ始めたのは。
いつかサチは死ぬ。いや、ひょっとしたら僕が食べてしまうかもしれない。そのとき僕はまた1人ぼっちになってしまう。もう、サチがいない生活なんて考えられないほどになっていた。
だから、大切に大切に育てた。悪い事をしないように。
ねえ。それでも僕に言うの。
『私を食べて』だなんて。
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
愛するあなたへ最期のお願い
つぶあん
恋愛
アリシア・ベルモンド伯爵令嬢は必死で祈っていた。
婚約者のレオナルドが不治の病に冒され、生死の境を彷徨っているから。
「神様、どうかレオナルドをお救いください」
その願いは叶い、レオナルドは病を克服した。
ところが生還したレオナルドはとんでもないことを言った。
「本当に愛している人と結婚する。その為に神様は生き返らせてくれたんだ」
レオナルドはアリシアとの婚約を破棄。
ずっと片思いしていたというイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢に求婚してしまう。
「あなたが奇跡の伯爵令息ですね。勿論、喜んで」
レオナルドとイザベラは婚約した。
アリシアは一人取り残され、忘れ去られた。
本当は、アリシアが自分の命と引き換えにレオナルドを救ったというのに。
レオナルドの命を救う為の契約。
それは天使に魂を捧げるというもの。
忽ち病に冒されていきながら、アリシアは再び天使に希う。
「最期に一言だけ、愛するレオナルドに伝えさせてください」
自分を捨てた婚約者への遺言。
それは…………
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます
藤原遊
恋愛
王城の舞踏会で、公爵令息から一方的に婚約破棄を告げられた令嬢。
彼の仕事を支えるため領地運営を担ってきたが、婚約者でなくなった以上、その役目を続ける理由はない。
去った先で彼女の能力を正当に評価したのは、軍事を握る王弟辺境伯だった。
想うことをやめた先で、彼女は“対等に必要とされる場所”を手に入れる。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる