世界が終わる頃に

mahina

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事の始まり

2.

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 真一は真剣な顔で柚杷に話す。
「ゆずさんは奴らについてどこまで知ってる?」
 奴ら…それはここ数年、人間の世界を支配している吸血鬼だとすぐにわかった。
「…奴らって吸血鬼でしょ?一応、一般的に知ってる所はちゃんと頭に入ってるつもりだよ。
数年前まで仮想のものだとされていた吸血鬼が突然人間の世界に現れ、人とはかけ離れた運動能力で力を示し、私達人間の世界を支配し始めた。
また吸血鬼と呼ばれる通り、人間の生き血を吸う。」
 柚杷はひと息ついて再び口を開く。
「最近、色んなひとが行方不明になってる。
原因は分からないけど、吸血鬼が連れ去って血を吸って家畜にしているんじゃないかって噂も聞く。それが本当かどうかは全く分からないけど。でも、吸血鬼たちが私達、人間の日常を脅かしているのはたしかでしょうね。」
 柚杷はここまで話して真一を見る。
真一はまだ何かを期待しているような顔をしていた。
「…真。まだ何か期待してるみたいだけど、直接言ってくれない?
何が聞きたくてここに来たの?」
 すると少し興奮気味に口を開き話し始める。
「そう、あいつらは俺達の生活を脅かしてる。
平和な日常を取り返さないといけない。行方不明が出てるのだってあいつらの仕業だ、絶対…!」
 目は合わせないが、かなり興奮していることが分かる。吸血鬼に対しての怒りに溢れている、話を聞いていて感じた。柚杷は黙ったまま、真一の話を聞き続けた。
「最近、吸血鬼に対抗する為に世界中で研究が始まっていろいろ成果が出始めてるって聞いた。その成果を出してる研究所のひとつにここの名前があった。
…ここに来れば、対抗策が聞けると思った。俺はそれが聞きたい。あいつらを倒して、大事な人を助け出す…!」
 怒りに身を任せたのか、全てを自ら話した。
大事な人を助け出したい。そう思ってここに駆け込んで来る人はこの時代少なくない。ただ、助け出したいとは研究している柚杷たちも思っているがどれだけ成果を上げても危険過ぎて、誰も試みない。駆け込んだ人たちには行方不明になった人を助け出すために亡くなったら意味無いだろうと言って、なだめて帰す。いつもはそうしていた。だけど、今回はそれで収まらないだろう。
「たしかに研究で成果を出してる。でも、やっぱり吸血鬼に立ち向かっていくのは危険なのよ。下手すれば死ぬ…」
「それでもいい!死んでも弟を取り返せるならそれでも…!」

パン…っ!

 小さな応接室に高い音が響く。
柚杷が真一の頬を叩いたのだ。出来るだけ冷静でいようと心に決めていたが冷静ではいれなかった。
「死んでも言い訳ないでしょ!馬鹿なんじゃないの?」
滅多に見ない柚杷の怒った表情に真一は驚く。
「今まで色んな人に言ってきたけど、死んでその人が助かったってその人は喜ばないわよ。ただ、悲しむだけ。そして結局連鎖する。自分を連れ去った吸血鬼のせいで大事な人がいなくなった。自分のせいで大事な人がいなくなった。死が無駄に連鎖するだけ。」
 柚杷は怒りながらボロボロと涙を流す。勝手に流れて来る。でも、構わず続ける。
「行方不明になったのは何も朝堀の弟だけじゃない。今までこの研究所に駆け込んだ人の大事な人、この研究所にだって身近な人が行方不明になった人が多くいる。
…私だって犬猿な仲だったけど、大事な妹が行方不明になった。」
 真一は驚く。柚杷の妹が行方不明になっていたと初めて聞いたからだ。何度か会ったことが会ったが、周りから見てもとても仲が良いと言えるような関係ではなかった。それでも、柚杷が妹を大事に思っているのはずっと前から話を聞いて感じていた。
「第一、その人達が生きてるって証拠もない。救わないといけないのは確かだけど、もし無事じゃなかったら…そこで私達が死んだら余計に悲しむのはその人達だよ。」
 柚杷は流れ続ける涙を拭い、息を吸って落ち着く。真一は静かに口を開く。
「ごめん、死んでもいいなんて言ったらダメだった。打たれて、いろいろ言われて落ち着いたよ。ごめんね、ゆずさん。」
 涙を必死に止めようと拭い続ける柚杷の頭に机越しに自分の手を置き、ぽんぽんっと優しく叩く。
「…もう死んでもいいなんて言わないで。
もう聞きたくない。」
 しっかり聞いていなかったら聞き逃していただろう。それほど小さな声で柚杷は呟く。色んな人に死んでもいい。それで助けられるなら。と言われ続けていたのだ。嫌にもなるだろう。
 真一は優しく叩くのを止め、頭を撫で始めた。
そして、答える。
「…うん。もう言わないよ。」
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