世界が終わる頃に

mahina

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事の始まり

4.

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 大きいな決断をしたところで柚杷は立ち上がる。その顔は少し迷いがあるものの晴れ晴れとしていた。
「さて…。歓迎するよ、真。」
 微笑みながら言う。真一もそれに答えるように笑う。
「あぁ、よろしく。」
「うん。」
 そんな会話をしながら柚杷はドアに近付く。そしてドアノブに手をかけ、勢いよく開く。そこには研究所の面々が驚いた顔をして集まっていた。
「話がひと段落したところで、ここの人達紹介するね。」
 集まっていた面々から遠藤が声を上げる。
「普通に話を進めるなよ…。いつから気付いてたんだ。」
「私が真を叩く前くらいから?」
 真一はいまいち状況判断が出来ていなかったが、つまりはこういう事だ。怪しいと踏んだ真一の相手をする、柚杷を心配して研究所にいる人ほとんどがドアの前で立ち聞きしていたのだ。そしてそれに柚杷は気付いていた。気付いていながら真一との話を進めていったのだった。
「そちらこそ勝手に立ち聞きしていないで下さいよ。」
 柚杷は研究所の面々に怒っている。その頃忘れられたかのように真一は椅子に座ったまま唖然としていた。しばらくして柚杷に「真。」と声かけられるまで惚けてしまっていた。声をかけられ、柚杷の隣に並ぶ。
「紹介しますね。こちらが朝堀真一。私の高校の同級生で一緒に生徒会として動いてました。今はちょっとした事情で大学在学期間中に1年留年して大学4年生です。」
 スラスラと真一の紹介をしていく。
「彼に私の対吸血鬼の研究を手伝ってもらうことになりました。」
 そこまで言って、柚杷は真一を見る。後は自分で話せと無言の会話。真一は口を開く。
「朝堀真一です。大学でも科学研究を主に専攻しているので、少し知識はあるつもりです。でも、未熟で迷惑をかけてしまうと思いますがよろしくお願いします。」
 頭を下げる。すると前に人が立つのが分かる。ゆっくり頭を上げる。そこには遠藤がいた。
「朝堀って言ったな?俺は遠藤和博(えんどうかずひろ)。北川や周りからは遠藤って呼ばれてる。一応ここの所長だ。」
 遠藤は真一よりも身長が高く、上から見下ろす形で話している。それだけでもかなりの威圧だ。
「ここで、北川と一緒に吸血鬼について研究していくならしっかりした覚悟を持て。…死にに行く覚悟じゃねぇぞ?生きていく覚悟だ。」
 妙な威圧があるが真一は遠藤の目を見て答える。
「自分から命は捨てません。
俺は今いる大切な人を悲しませない為にも生きることに足掻いてみせます。」
 隣で柚杷が微笑む。周りもどうやら真一を認めたようで緊張が解れている。遠藤も笑う。
 先程までの威圧感がまるで嘘のようになくなった。そして遠藤は大きな手を真一の頭におく。まるで親が子を褒めるような感じだ。…いや、実際そのくらいの歳の差はある訳だが。遠藤にしてみれば柚杷も真一も自分の子供のようなものだ。
「まぁ色々大変なこと、辛いことはあると思うが頑張れ。お前に足りないところは教えてやるから頼ってこいよ。」
 北川もな、と付け足す。柚杷はいつの間にか自分たちより少し歳が下だと思う女性に抱きつかれていた。そして冗談のように笑いながら言う。
「私はもう頼ってますよ。」
 そして抱きついていた女性の頭撫でる。
「葉月(はづき)ちゃん、動けないんで離れて。」
 優しく微笑みながら葉月と呼んだ女性を剥がし、真一に向かい合う。
「まぁ、ここの人たちはめちゃくちゃな人たちばかりで大変だと思うけど、改めてよろしくね、真。」
 柚杷の後ろから葉月がひょこっと顔を出し、幼い笑顔で言う。
「私も私も!よろしくね、朝堀真一くん。」
 それに続くように多種多様に挨拶と歓迎の言葉が交わされる。暖かい人たちに迎え入れられ、ほっとする。




------
 こうして、北川柚杷と朝堀真一の闘いは始まったのだった。
 これはたくさんの出会いと別れ、そして吸血鬼との闘いの記録の話である。



第1章 事の始まり  - 完 -
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