世界が終わる頃に

mahina

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事の始まり

3. 1.

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真一が藤江研究所に初めてくる半年前。



「やっと今日の分の仕事終わった…。」

 大きいため息をひとつつきながら、固まった体を伸ばす。なかなか当日分の仕事が終わらず居残っていた。研究所内は誰もいない。時計を見上げる。今の時間は夜中の10時45分。ここから駅まで10分ほど。まだ急げば終電が残っている。ゆったりとだがテキパキと帰り支度を済ませ、研究所を出る。

 季節は冬で吐く息が白い。首に巻いた赤いマフラーを少し握り、寒さで頬を赤く染めながら柚杷は駅へと急ぐ。
 駅までの道は少し入り組んでいるが大きい道で人通りのある道と、時間も距離も短縮出来るが人通りの少ない裏道の2通りある。柚杷は終電に間に合うように時間を短縮する為、裏道を選んだ。


 --ここで大きい道を選択していれば、何もなかったかもしれなかったのに…。


 夜も遅いため、人は全くいない。冷たい風が柚杷の白い肌を撫でるだけ。
「寒い…。」
 早歩きで前に進みながら、呟く。コツコツと靴の音が響く。
 研究所から出て半分ほど進んできた時だった。静かすぎる夜道に気味悪さを覚え出した頃、目の前に突然人が現れたのだ。…いや、正確には上から降り立った。突然現れ道を塞がれ、柚杷は急ぐ足を止める。頭を下げているので顔が分からないが次第にゆっくりと頭を上げ、こちらを見てくる。恐怖を覚え、思わず後ずさりしてしまう。服装はジーパンに白のシャツ、紺のカーディガン、コートを着ていて普通の人間の男性に見えた。でも、人間じゃない。
「っ、吸血鬼……。」
 赤い目に、人間より伸び鋭い犬歯が口から出ていた。それらは吸血鬼の特徴だ。何故だか分からないが吸血鬼は皆、赤目で犬歯が鋭く尖っている。
 顔を上げてしばらく黙っていたが、白い息を吐きながら低い声を出す。
「…お前、北川柚杷だな。」
 聞き間違えだと思いたかった。でも、確実に
吸血鬼は柚杷の名前を言った。無意識に少しずつ吸血鬼との距離を離していく。鞄を抱き抱え、ゆっくりと手を入れ、ある物の感触を確かめ握りしめる。
 それに気付いているのか分からないが、吸血鬼は表情も声のトーンも一切変えず、ただ柚杷を見ながら言葉を紡いでいく。
「警告をしにきた。お前のやってる研究は我らにとって脅威だ。人間は力をつけるべきではない。今すぐに止めろ。」
警告…。柚杷は警戒を緩めず、吸血鬼を見て言う。
「あなた達に対しての研究をしているのは私だけではないわ。」
 声が震えていたが今出来る精一杯の強がりで声を出す。
「…愚問。お前の成果が我らにとって一番の脅威であるからだ。故に我らは一番にお前を止めにきた。他は後回しだ。」
「…もし、もし私があなた達の今の警告を無視した場合、どうするつもり?」
 微笑みながら問う。でも実際はただの強がりなだけで嫌な汗が流れていた。吸血鬼は柚杷を見る目を鋭め、静かに言う。
「警告を無視した場合、我に任された仕事を済ますのみ。」
 柚杷は後ろに下がる。
「…すなわち、一番の脅威であるお前を殺すだけだっ!」
 そう言って吸血鬼は襲ってきた。突然上から降り立った時もそうだが、吸血鬼の身体能力は人間からすれば脅威だ。とても目では追いつけない。柚杷はカバンからナイフを出し、来た道を走って戻る。だが、やはり逃げきれずすぐに右腕を掴まれる。その反動でカバンが飛ぶ。なかみが出なかったのが幸いだ。掴まれた右腕を引っ張られ吸血鬼と対面する。柚杷はここのタイミングを見逃さなかった。すぐさま、左手に持ったナイフを吸血鬼に振るう。
「ぐぅ…っ」
 油断していた吸血鬼の腹にナイフが刺さる。このナイフは柚杷が開発したもので吸血鬼に効くであろう特殊な素材のナイフに呪術が組み込まれたものだ。柚杷の不意打ちの攻撃は確実に効いている。掴まれた腕が開放され、再び研究所に向かって走り出す。だが、逃げることに必死になって油断していた。後ろから襲ってきていることに直前になるまで気付かなかった。ぎりぎりのところで避けるが鋭く尖った爪で深々と左腕の上腕を切られる。真っ赤な鮮血が流れ、どくどくと自分の心音がよく聞こえた。血が流れ過ぎているのか意識が薄れだし、その場に倒れ込む。薄れる意識のなか、吸血鬼は自分の手についた柚杷の血を舐める。そして、倒れた柚杷に近づき髪を引っ張り立ち上がらせる。
「う…ぁ…」
 力が入らず、抵抗すら出来ない。
「…強がっていても、結局は我らには勝てない。お前ら人間は弱い。一生我らの家畜で充分だ。」
 そして、吸血鬼は柚杷の首に噛みつく。
「…っ!…ぃや…。」
 か細い声しか出ず、抵抗も出来ず、成されるがまま。噛まれたところが熱い。生気を全て吸われてしまいそうな恐怖しかなかった。



 ------ そして、柚杷は意識を完全に手放してしまった。
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