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新たな生活
1.
しおりを挟む「…ゆずさん?」
「おはよ、支度終わってたら降りてきて?」と一言電話してきたのは真一で、声と一緒にエンジン音も少しだけ聞こえる。
柚杷はケータイを耳に当てながらベランダから公道を見る。
そこには公道の脇に車を停め、柚杷の住むマンションを心配げに見つめながら電話をしている真一の姿があった。
そんな光景に少し呆れながらもふと微笑み、分かったと電話に向かっていい、終了ボタンを押す。
途中だった支度を素早く済ませ、玄関の鏡で身なりを整え、家を出る。
…さぁ、今日もまた1日…いや、今までとは違った生活が始まる。
「…真、お待たせ。」
マンションの外に出て、声をかけると心配げだった表情はどこか安心したような表情になったが、それも一瞬ですぐに不満の表情に変わる。
…今日の真はころころと表情が変わるなぁとどこか他人事のように思ってた柚杷は真一の車に乗り込み、真一も運転席に乗り込む。
バタンとドアが閉まると静かな空間。
心配をかけてしまった上でこの静かな空間は耐えられない。
エンジンがかかり、車は走り出す。
しばらくして大通りに出る交差点で信号待ちの為に止まると、柚杷は意を決して沈黙を破った。
「…真、心配かけてごめん。
それと迎え、来てくれてありがと。」
どことなく恥ずかしくなり、そっぽを向いた柚杷を真一は横目で見て、再び前へと向き直る。
「うん、どういたしまして。
…詳しい話は着いてから聞くから。」
再び車が動き出し、車は大通りを走る。
車内は相変わらず静かだが心地よい静かさに変わっていた。
「柚杷さん…っ!」
研究所に着き、ドアを開けると葉月が勢いよく柚杷に飛び付いてきた。
思わず後ろに倒れかけたところを後から入ってきた真一が慌てて支えた。
「葉月ちゃん、びっくりした…あぶ「柚杷さん…ほんとによかった。また帰って来てくれてよかった…っ!」…っ!」
飛びついてきた葉月に注意しようと声をかけようとしたが、重なるように心の底から安堵したのがわかる言葉が降ってくる。
それを聞いて注意する気も失せ、少し困った顔をしながらぎゅっと抱きしめ返しながら、自分より少し小さい葉月の頭を優しく撫でる。
「…心配かけちゃってごめんね、葉月ちゃん。それから、真と遠藤さん、皆さんも。ご心配おかけして申し訳ございません。」
葉月から離れながら顔を見て、出来るだけ笑顔で言う。遠藤たちの方を振り向いて真剣な表情で謝罪を述べ頭を下げる。研究所内が静かになる。最初に口を開いたのは所長である遠藤で、この二日間、連絡がとれなかったことの訳を話して欲しいと落ち着いた声で問いかける。
頭は上げずに、理由をどう話すか少し悩んだ。本当の事はきっと同じ研究所の人であっても言ってはいけない。いつ外に…祥華たちに、吸血鬼たちに知られるかこのご時世、分かったもんじゃない。嘘をつくことに少し罪悪感を抱きながら、柚杷は顔をあげ言葉を選ぶ。
「…少し自宅で他の研究者の研究レポートを読み老けてしまって…気付いたら2日経ってました。」
こんな間抜けな理由を聞いて普通だったら信じてもらえない。だけど、柚杷がこの嘘を選んだのには訳がある。研究所内全員が理由を聞いた途端、唖然とした顔をしている。真一は驚きすぎて、よく分からない顔をしていた。遠藤は、唖然として頭をがしがしとかいた。
「…あー、なんだ。じゃあ、北川はいつも通り自分の世界に入り過ぎてたんだな?」
「お恥ずかしながらそうです。すみません。」
これで隠し通せると思っていた自分を恨む。他の所員は安心した様子でその場を後にする。ただ、納得してないのは三人。やっぱり。そう思う。
「柚杷さん、それはみんなを安心させるた嘘だよね…?」
最初に口を開いたのは意外にも葉月だった。
「だって、明らかにここ数日で起きてたことと違うもの。まずは朝堀くんと父さんが聞いた悲鳴の電話。これは調べたら柚杷さんのケータイからかかってきてて、柚杷さんの声と一致した。」
言い逃れはできないよ?と可愛らしくこてんと首を傾げるが柚杷からすればただの圧力。ハッキング能力が随一の葉月だからこそ問える質問。
否定も固定もせずただ黙っているだけに対して話は続く。
「勝手に位置情報を調べちゃったのは申し訳ないんだけど、柚杷さんのケータイのGPSはこの何日間か、ある研究所から動かなくてそこで電波も途絶えてた。」
さすがというか、恐るべしというか。ただの甘えたがりの女の子というわけではないのを改めて知らされる。
恐る恐る口を開く。
「葉月ちゃん、ちなみに研究所はどこのかわかってるの?」
少し困った顔をして、無言で頷く。隣にいた遠藤と真一もそれに対して驚いていたからそこまでは、知らされていなかったのかもしれない。でも、やっぱりこの3人にはこれ以上黙って突き通すことは出来ないだろう。話す覚悟を決めなければ。
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