世界が終わる頃に

mahina

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神の力

9.

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-------眩しい…。


 朝日がカーテンから漏れてきて、それで目が覚める。
 まだ覚醒しきっていない頭をなんとか動かし、体を起こす。
 自分がどうやって家に帰ってきたのか、いまいち思い出せない。


 電波時計に表示された日にちと時間を見て、夜道で久々に祥華と会った日から3日経っていた。
 約2日は祥華の研究所にいた事になる。
 その間、柚杷のケータイはほとんど鳴り続けていた。
 昨日、意識が弥稀から柚杷に変わった時にたまたま鳴った電話を取ると、相手は真一でやっと電話に出たことへの安堵と今まで連絡がなかったことに対しての怒りが電話からでもとても伝わり、とにかく無事であること、詳しい事は明日…つまり今日、話すという事を伝え、通話を切った。
 その時、真一から聞いた話では遠藤と葉月もとても心配していたようで電話口から柚杷の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 朝ご飯を食べようと、戸棚からドライフルーツ入りのシリアルを取り出し、皿にあける。
 そしてヨーグルトを出そうとして、冷蔵庫を開けて気付く。
 冷蔵庫に入っているのは前日に賞味期限が切れてしまったヨーグルト。
 あの日、買い足そうとして買えなかったのだ。
 小さいため息を付きながら、期限の過ぎたヨーグルトを生ゴミへ捨て、お湯を沸かす。
 そして、改めて冷蔵庫の中を確認する。
 元々あまり入れないようにしているので、なかみがほとんどない。
 今日の帰りは絶対にスーパーに寄って食材を買わないといけないと思いながら、扉を閉める。
 シリアルをポリポリと食べながら、ケータイを見る。
 祥華の研究所にいた間に来たメール…ほとんど真一たちからのであるが…をひとつひとつ確認していく。
 確認していくとピタリとシリアルを口に運ぶ手を止め、あるひとつのメールを凝視する。

 そこにはただ一言。

---逃げられると思わないで。

 差出人不明の謎のメール。
 内容から察するに祥華辺りだろうと予想はするも、恐怖しかなく、ケータイの電源を落とし、再びシリアルを食べる。

 シリアルを食べ終わる頃には恐怖からか、しっとりと嫌な汗が身体中出ていて服が張り付く。
 また昨晩、倒れ込むようにしてベットへ行ったため、汗と恐怖を流すためにガスを付けて風呂場に向かいシャワーを浴びる。
 暖まった体をタオルで拭いている時、ふと鏡を見る。
 その体は白く華奢である以外、何も特徴はない。

 そう…何も。
 
 祥華たちに負わされた傷は一切残っていないのだ。
 それは昨晩、帰っている途中で弥稀が治してくれたのは覚えていた。
 改めて弥稀の、神の力を実感した。
 そして同時に、この力は例え知人であろうと他人に知られてはいけないと危機感も覚えた。

 温め清めた体をタオルで巻き、リビングへ向かう。
 オーディオの電源を付け、静かだった部屋をゆったりとしたピアノの音が包む。
 下着、ストッキング、カットソーと黒のスカートと着込んでいく。
 そしてサイドテーブルに置いてあるブレスレットと時計を左手首につけ、ピアスを付ける。
 軽く化粧をするため化粧ポーチから数少ない化粧品を取り出し施していく。
 加減を確認しようと鏡を見て驚く。
 柚杷の後ろに柚杷と瓜二つだが銀髪の長い髪と獣耳が特徴の女が居たから。
 思わず振り返るが誰もいない。
 だけど、鏡にはしっかりと柚杷ともう一人映っているのだ。
 驚きで声も出ないでいると、頭にひとつ声が響く。


「くすくす…。
 面白い反応をするのぅ、柚杷?」

「…弥稀。」

 声をかけられて閃く。
 自分の後ろにいるのは狐神の弥稀なのでは、と。
 そしてそれに答えるように後ろの女は妖しく微笑む。
 鏡に映る女の口は頭に直接響く弥稀の声に合わさるように動き、前髪の隙間から覗くキレイな赤目は静かに柚杷を見ていた。


「現実世界では柚杷の体を借りなくては出ることは出来ないが、虚像であれば姿は現せることは出来る。
 まぁ、妾と話すことはいつでも出来る。
 何かあれば呼ぶといい。」

 それを言うと弥稀はふわりと消えた。
 柚杷はしばらくぼうっと鏡を見ていたが、ケータイの着信音で現実に引き戻された。
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