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神の力
8.
しおりを挟む冷たく冷えきった手が祥華の首に触れる。
先程から消えることのない殺気に相まって、人としては冷たすぎる手に触れられた事で祥華は完全に恐怖に陥り、強がりも虚しく腰抜かして崩れた。
顔を真っ青にして小刻みに震え、普段の祥華なら絶対見せない姿。
金田も近くにいた人間でさえ、見たことのない姿に驚きを隠せなかった。
柚杷は祥華の首に触れていた手を宙に浮かせたまま、崩れた祥華を無表情だがどこか楽しそうに見下ろしていた。
宙に浮いたままの手を下ろし、嬉しそうに微笑む。
ぺたぺたと足音を鳴らしながら、柚杷は祥華に近付き、真っ青になって俯いている顔を指でクイッと向かせる。
さらに顔を近付け、甘い声で楽しそうに、でも怒ったようにもとれる声で祥華に囁く。
「ふふっ。
恐怖を感じ、為す術もなくなった…ということで良いかの?
…良い気味じゃのぉ。
その恐怖、忘れるんじゃないぞ。
神を、ひとを冒涜した罪は重過ぎるからのぉ。」
手を離し、柚杷は再びドアに向かって歩き始める。
そしてドアのところで止まり、振り向かずに言い放つ。
「…罪の重さにあった罰はあると思え。」
柚杷はそれだけを言うとその場を立ち去ろうとする。
「…っ、あんたは一体誰なのよ。
柚杷じゃない事くらい、分かってはいるわよ。」
でなければ柚杷がこの私に刃向かう事なんて…と、何処か悔しそうに口を開いて、柚杷の足を止めたのは祥華だった。
あれだけの恐怖を味わっておいて「ひと」には反省しないのだなと心の底で哀れみながら振り返り、面倒臭そうに名乗る。
「…妾は白狐。
色んな呼び名があるが…まぁ、お主ら、外道に名乗る名は無いの。」
ではのぉ、と静かに姿を消した。
1人、暗い通路を通る。
「…ほんとにあれで良かったのか?」
誰もいないのに疑問形。
話し相手は、先程まで眠っていた愚かな人間。
殺したい程憎いと言い、力を求めた。
だが、殺す手前で殺すなと言ってきたのだ。
すぐ殺すのはダメ、と。
それだとあいつらと同じだから、とも言った。
______これでいいんです。
先程の憎悪に塗れた感情は声には一切感じられず、ただ静かに微笑む。
だが、先程までの感情は感じられないとはいっても心の底では似たような感情がふつふつと出ているのが分かった。
そしてその笑みにも、すぐに殺してしまうより、同じ苦しみを与えながらゆっくりと、時間をかけて殺していきたいという思いも出ていた。
こんな末恐ろしい人間がまだ生きておったとはのぉ、と白狐はどこか感心していると、そういえば、と柚杷が声をかけてくる。
「ん、どうしたのじゃ?」
______あなた、白狐の名前をまだ聞いていません。
教えていただけますか?と首を少し傾げながら問うてくる。
そんな様子に気が抜け、白狐自身も笑みがこぼれる。
「ふふっ。
つくづく柚杷は面白い奴よのぉ。
…悪い悪い。
妾の名だったな。
まぁ、柚杷とは長い付き合いになるからのぉ。
妾の名は…弥稀(みけ)。
弥稀…じゃ。
さて、よろしく頼むのぉ、柚杷。」
______はい、よろしくお願いします、弥稀。
未だに暗い通路には柚杷の声、1人分が響く。
優しく暖かい風が柚杷を包む。
すると打撲や切り傷が身体からふわりと消えて行く。
「妾は多少ではあるが治癒も出来るのじゃ。」
驚きを隠せない主に笑いながら言う。
研究所の外は何も無く、平地が広がっていた。
遠くをよくよく見ると大きな建物がいくつもあり、市街地があるのだとわかった。
空は夜が開け始め、陽が登り始めようとしていた。
満開だった桜が風に吹かれて勢い良く散っていく。
心の底に憎悪に似た感情を抱えながら、柚杷は何もなかったかのように市街地を目指して平地をゆっくりと歩いていく。
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狂った歯車は、ゆっくりゆっくり破滅へ向かって動き出す。
これは誰にも止められない、例え本人であれ止める事は叶わない物語。
さぁさぁ、狂喜の渦中へようこそ…。
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