さよならのかわりに

mahina

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君が残したもの

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「ねぇ、何してるの?」

教室の入り口から声がかかる。
日が暮れ始め、夕日が名残惜しそうに教室の中を照らす。
夕日と反対の空は夜闇が迫っているのが分かる。
もう数分したら、夕日の光もなくなってこの教室も自分達をも照らす光がなくなってしまうだろう。

そんな中、誰も居ない教室でただ1人何も描かれていない真っ白な紙を見つめていた。

「…何って言われても、見たまんまだよ。」

そう言い返すと、へぇと短い返事をしながら教室に踏み入ってくる。
そして同じように真っ白な紙をしばらく見つめ、口を開く。

「…何も描いてないじゃん、これ。」

「うん、何も描いてない真っ白な紙だよ。」

意味がわからないと頭を捻る。
それが可笑しくて少し笑うと、少し機嫌を悪くして何?と言ってきた。

「何でもないよ。
…もう日が落ちて暗くなってきたから帰ろっか。」

笑いながらも荷物をまとめ、持ち上げて向き直る。
そのまま手を掴んで、教室を後にする。
…真っ白な紙はそのままに。




帰り道、2人で話している。

「…猫みたいだよね。」

突然ぽつりと言葉が零れた。
突然のことに驚いていると、そんな状況がおかしいのか可笑しそうに笑いながら、言う。

「初めてちゃんと話したのはつい最近なんだけど。
…ふと気付いたら近くにいる。
今日も何の約束もしてないのに、教室まで来てくれた。
こっちから探しても見つからないことが多いのに。
でも、必要な時には絶対近くにいてくれる。
…他にも色々あるけど、ほんと自由気ままな猫みたい。」

少し黙ってると、ふと目線を逸らし、夜闇が広がり星が瞬く空を見つめる。
その横顔は空を見ているはずなのに見てないようにも見え、何処か寂しさを隠せていなかった。





「…あの真っ白な紙、どうなるか。
楽しみにしてて。」

変な事を言ったのかな。
いや、言ったか。
怪しむように、自分を見ているけどそんなの知らない。
あの紙とは真反対の黒に星が光ってるのを見ながら、帰路をとことこと歩いて帰る。
しばらくして会話がなかった2人の間にぽつりと、「楽しみにしてるから」と小さく聴こえた。




それから1週間。

あの日と同じ教室で同じ時間、また見つけた。

「…何してるの?」

思わずあの日と同じ言葉を言う。
君は、作業する手を止め、こちらを向いて微笑みながら言う。

「…何って言われても、見たまんまだよ。」

自分と同じ、あの日と同じ言葉。
ただ、違ったのは真っ白だった紙は今教室を照らす夕日に負けないくらい、同じ色をした夕焼け空が描かれていた。
現実の夕焼け空に負けじと絵の中で輝く夕日に思わず目を奪われる。
…隣で君が自分を悲しそうに、名残惜しそうに見ているなんて知らなかった。



1週間前と同じ言葉。
少し面白くて、それでもって何処かくすぐったさを覚えた。
だからわざと自分も1週間と同じ言葉を言った。
でも、それよりも真っ白じゃなくなった絵に夢中になってた。
まだまだ完成してないから見て欲しくないのに、なんて思いながらそれでも着々と迫っているタイムミリットに焦りや悲しみを覚え始めながら、筆を置き、その代わりにカバンを持って君の手を取る。

「…日が落ちて暗くなってきたから帰ろっか。」





さらに一ヶ月。

あれから毎日のように同じ時間に君を迎えにいくのが習慣に変わっていて、今日も迎えにきた。
でも、今日は居ない。
あの日と同じ夕日が照らす教室にあるのはひとつの封筒。
近付き、手に取ると封筒に綺麗な字で自分の名前が書いてあり、その裏には君の名前だろう。
…初めて知ったよ。
その場で封筒を開け、中身を取り出し、見る。
しばらく見て、ものをカバンに入れ、急いで教室を後にした。

あの日から君と歩いて帰っていた道を今日は息を切らしながらも走っていく。
夕日はまだ完全には沈みきっていない。
自分に鞭を打ちながら、いつも別れる場所まで走る。

息を切らし、肩で息をしながら周りを見渡す。
だけど、君は見つけられない。
カバンから封筒の中身を取り出し、再び見る。
そこには昨日まで君が描いていた絵がファイリングされていて、一ヶ月前に見た時の夕焼け空はあと少しで消えてしまいそうな、それでも一生懸命輝き続ける夜闇の中の夕焼け空に変わっていて、その夕日に向かって歩いている一匹の猫が書き加えられていた。
思わずあの日、君が自分を猫みたいだと表現していた時を思い出した。
しばらく見入っていると今更ながら気付く。
ファイリングされていたその絵の後ろにもう一枚、紙が挟まっていた事に。
その紙を出すと、そこには自分の似顔絵が描かれていた。
いつの間に描いたのだろう。
鉛筆書きで描いてある為少し擦れている部分もあるがそれもまた一興だった。
しばらくして、何気無く紙を裏返す。
そこが外だと言うことも忘れ、思わず涙を零し、そして崩れ落ちた。




いつもなら制服に腕を通すが、今日は私服を来てもう二度と戻ってこないであろう家を後にした。
そして到着したところは学校ではなく、遠く離れた大きな病院。
元々、身体が弱く入退院を繰り返していたが、しばらくは落ち着いていた為、退院し、なかなか行けていなかった学校に通っていた。
だが、自分では気付かない程に病は深刻化していて、入院を迫られていたが今日この日までは我が儘をいって待ってもらっていた。
そして今日再び病院に戻ってきていた。

君に会いたい。
本当はあの絵は直接渡したかった。
直接お礼も言いたかったし、挨拶も言いたかった。
他にも言いたい言葉があったのに。

でも、会ってしまったら、それを直接言ってしまったらそこに踏み止まってしまいそうだから。
だから、置き手紙にした。
君は気づいてくれたかな。

病院を目の前に思わず足が止まる。
しばらく病院を見上げていると、足元にふわっとした感覚が当たる。
下を見ると、猫が擦り寄っていた。
君に似ていると表現した猫。
しゃがみこみ、撫でると喉を鳴らしてさらに擦り寄ってくる。
それに微笑みながら青く晴れ渡った空を見上げ思う。

…また見つけてくれるかな。

また君に会いたいから、頑張るよ。







































































君があの日、消えた代わりに残していったものには震えた文字で君の心の言葉が書かれていた。

『  何も言わずにいなくなってごめんなさい。

      重いかもしれないけど、君は私にとって
      生きるための希望の光でした。
    
    今日までの君との思い出、忘れないよ。
   
    
    あの日、見つけてくれてありがとう。
    一緒にいてくれてありがとう。

   もし、ここに戻ってこれたらまた見つけて。





                    さよなら。   』
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