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第2章 俺以外の転生者
第34話 モニカの父親
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氷が融けきったのと同時に、アルさんを包み込んでいた炎は徐々に鎮火した。
部屋を包み込んでいた冷気も完全に消滅したは良いものの、今度は茹だるような暑さが部屋を包み込む。
暑い……真夏のアスファルトの上にいるみたいだ。
「ジジィの要望通り、アホみたいに魔力使う魔法見せてやったんだ。そっちも見せてくれねぇと割に合わねぇぜ?」
額に汗を滲ませながらも不敵な笑みを崩さないライム。
そんなライムをアルさんは涼し気な表情をしながら静かにじっと見つめていた。
「……致し方あるまい。性根の腐った貴様には仕置きが必要のようだな」
ライムの挑発に乗ったアルさんは腰に差していた剣を鞘ごと引き抜くと、柄を掴んで柄頭をライムへ向ける。
もう一方の広げた手を剣を持っている方の手の手首へ添え、僅かに腰を下げて体勢を低く保った。
「闘争の果て、血濡れたその身に宿るのは、僅かな愁いと憤怒のみ」
アルさんがそう唱え始めた直後、ライムの周りを取り囲むように人魂のような火の玉が出現した。
同時にアルさんの周りにも、茜色の細かな粒子が立ち上る。
「噴き上がる灼熱の赤炎、荒れ狂う極寒の濁流、牝牛の遠吠え、黒の担架、鉄鎖の楔、罪知らぬ咎人、波隔てて雲開き、陽の眼は血を流す」
続けて唱えるアルさんに合わせて、ライムの周りを取り囲む火の玉はそれぞれが火柱となってライムを閉じ込めた。
そんな不利な状況になってもライムは不敵な笑みを崩さない。この状況で、何か打開策でもあるのか?
互いに本気で殺し合っていないとしても、これは正直ハラハラする。
「灰燼炎葬鉄棺尽」
アルさんがそう唱えた直後、唐突にライムの足元の四方から鉄の板が浮き上がり、展開した箱を閉じるようにライムを鉄の箱に閉じ込めた。
それはまるで、一つの棺のようにも感じる。
それと同時にライムを取り囲んでいた火柱が急激にその威力を強め、瞬く間に棺を包み込んだ。
箱の形状が分からなくなるほど炎の火力は強まっていく。
鉄製の棺に、炎って……どこかの拷問器具みたいな感じだ。これ、大丈夫なのか!?
アルさんは魔力切れを起こしそうになっているのか、少し息を切らしているように感じる。
ライムの魔法もすごかったが、アルさんの魔法もそれに劣らず威力が凄すぎる。
魔法の使い方次第でここまで違うなんて……これが魔力量の違いってところか? これじゃあさすがのライムも……
「おいおい、これがジジィの本気かよ」
燃え盛る炎の中からライムの声が聞こえる。
その直後、炎は瞬時に消滅してしまい、鉄の棺も塵となって消え失せた。
その場に涼しい顔をしながら立っているライムは傷一つも付いていない。あれほど激しい炎に包まれていたのに、火傷一つ負っていないのか!?
「ジジィ、もう年なんじゃねぇのか? さっさとくたばったほうが良いと思うぜ?」
「心配するな。貴様を殺さん限りは私は死なん」
何かもう……二人の関係性が全く見えてこない。
犬猿の仲って感じで、仲悪いイメージはあるけれどなんだかんだ言って相手の実力は認めているような感じはするし。
そのそも認めてなきゃ、互いに争う事なんてなかったでしょ。
不思議な関係だな……アルさんとライムって。
と、感心していると、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてそれはこの部屋へと近づいてくる。
部屋の扉が開かれそこには、息を切らして苦しそうな顔をした見た目50歳代前後の、高価な服に身を包んだ男性が立っていた。
ゼェゼェと息を荒げながら肩を揺らして、アルさんやライムを睨んでいる。
「全く……お前達は! いい加減にせんか! 屋敷中に音が響いておるのが分からんのか!」
「も、申し訳ありません」
「いや、済まんね。ダンナ」
慌てて深々と頭を下げるアルさんに対し、ライムは相変わらず敬意など微塵もないような口調で軽く頭を下げた。
ライムはともかく、アルさんが敬語を扱う人って事は……この人は。
「お父様!」
「モ、モニカ! 頼むから私には魔物は近付けないでおくれ」
モニカは声高らかにそう言いながら、俺を抱きかかえたまま親父さんの元へ駆け寄る。
だが、親父さんは俺を見るなり、手のひらで鼻を覆い隠しながら、片方の手をモニカへ伸ばして止めようとする。
「あっ、そ、そうでした。ごめんなさい」
親父さんに止められてモニカは少し離れた場所で立ち止まった。
争いを中断したライムやアルさんも親父さんの元へ歩み寄る。
「モニカに魔法を指導するのではなかったのか? どうして二人で争っておるのだ?」
「モニカが魔力切れを起こしそうになっていたからな。休憩がてら、見て覚えさせようと思ってジジィとやりあってたって訳さ」
「だからと言って、高位魔法をこんなところでポンポン撃ち合うものでもないだろう。大体、モニカはまだ初級魔法が使えてやっとな状態だと聞いているぞ。まずはそこからではないのか」
親父さんはやれやれといった表情を浮かべながら顔を顰めて盛大に嘆息する。
まあ、あれだけ盛大に暴れていたのなら例え屋敷が破壊されないような仕組みになっていたとしても音漏れくらいはあるよな。
「とにかく、激しい魔法は屋敷の中では使わないでくれ」
「申し訳ありません。以後、気を付けます」
「ウッス」
何かよく分からないけれど、この二人の関係に関してはモニカの親父さんも苦労しているみたいだな。
俺から見ても、この二人は誰かが止めに張らないと歯止めが効かないくらい争いそうな気がするし。
親父さんが止めに入ったのは、かなり効果があったみたいだな。
「モニカも、魔法の特訓は構わないがあまり無理はしないでおくれ」
「は、はい! 分かりました。お父様」
親父さんはモニカを優しく諭すと、開いた扉を閉めながら部屋を出ていった。
モニカの親父さんを初めて見たけれど、思っていたよりも厳つい感じというか厳しそうなイメージはなかったな。
博識と言うか頭脳派というか、アルさんみたいにゴリゴリの屈強な体とは正反対で、最悪ライム並みに痩せているともいえる。
服装も他と比べて高価な物ではあったが、あからさまに『金持ってます』感を見せつけているようないやらしい服は着ていなかった。
「……まあ、怒られちゃ仕方ないな。これくらいにしておいてやるぜジジィ、命拾いしたな」
「貴様程度の脆弱な魔法程度で、私が死ぬはずもない。身の程を知れ」
おいおい……このまま第2ラウンドに移行しないよな。止めてくれよ。
そう思ったが、ライムは振り向きざまに無邪気な笑みを浮かべると言い返す事もなく部屋を出ていった。
さすがにこれ以上、やり合うつもりは無い訳か。なんだかんだ、親父さんの命令には従うらしい。まあ、この屋敷に仕えているんだから当然の事か。
「モニカ様、申し訳ありません。本日はここまでにしておきましょう」
ライムを見届けたアルさんはモニカの方に目を向けると、モニカの前で視線を合わせるように片膝を付き、頭を下げた。
もともとモニカの魔法の特訓だったわけだからな……かといって、モニカは楽しそうに見てた訳だから結局は良い機会になったんじゃないかと思うけど。
「いえいえ、私も様々な魔法が見れて楽しかったですよ。あまり激しいのはお父様に叱られてしまうので控えて頂きたいですが……お父様に怒られないような魔法であるならどんどん見せて欲しいです!」
「承知いたしました。モニカ様が初級魔法を使いこなせたときに見せるとしましょう」
「ちぇ……それじゃいつになるか分からないじゃないですか」
「それはモニカ様次第ですよ」
俺と出会った頃はアルさんに対してあれだけ文句を垂れていたモニカなのに、随分と仲良くなったみたいだな。
まあ、今思えば元々モニカ自身がわがままなだけだったようにも感じるけどね。
「それでは、戻りましょう。モニカ様」
「はい!」
部屋を包み込んでいた冷気も完全に消滅したは良いものの、今度は茹だるような暑さが部屋を包み込む。
暑い……真夏のアスファルトの上にいるみたいだ。
「ジジィの要望通り、アホみたいに魔力使う魔法見せてやったんだ。そっちも見せてくれねぇと割に合わねぇぜ?」
額に汗を滲ませながらも不敵な笑みを崩さないライム。
そんなライムをアルさんは涼し気な表情をしながら静かにじっと見つめていた。
「……致し方あるまい。性根の腐った貴様には仕置きが必要のようだな」
ライムの挑発に乗ったアルさんは腰に差していた剣を鞘ごと引き抜くと、柄を掴んで柄頭をライムへ向ける。
もう一方の広げた手を剣を持っている方の手の手首へ添え、僅かに腰を下げて体勢を低く保った。
「闘争の果て、血濡れたその身に宿るのは、僅かな愁いと憤怒のみ」
アルさんがそう唱え始めた直後、ライムの周りを取り囲むように人魂のような火の玉が出現した。
同時にアルさんの周りにも、茜色の細かな粒子が立ち上る。
「噴き上がる灼熱の赤炎、荒れ狂う極寒の濁流、牝牛の遠吠え、黒の担架、鉄鎖の楔、罪知らぬ咎人、波隔てて雲開き、陽の眼は血を流す」
続けて唱えるアルさんに合わせて、ライムの周りを取り囲む火の玉はそれぞれが火柱となってライムを閉じ込めた。
そんな不利な状況になってもライムは不敵な笑みを崩さない。この状況で、何か打開策でもあるのか?
互いに本気で殺し合っていないとしても、これは正直ハラハラする。
「灰燼炎葬鉄棺尽」
アルさんがそう唱えた直後、唐突にライムの足元の四方から鉄の板が浮き上がり、展開した箱を閉じるようにライムを鉄の箱に閉じ込めた。
それはまるで、一つの棺のようにも感じる。
それと同時にライムを取り囲んでいた火柱が急激にその威力を強め、瞬く間に棺を包み込んだ。
箱の形状が分からなくなるほど炎の火力は強まっていく。
鉄製の棺に、炎って……どこかの拷問器具みたいな感じだ。これ、大丈夫なのか!?
アルさんは魔力切れを起こしそうになっているのか、少し息を切らしているように感じる。
ライムの魔法もすごかったが、アルさんの魔法もそれに劣らず威力が凄すぎる。
魔法の使い方次第でここまで違うなんて……これが魔力量の違いってところか? これじゃあさすがのライムも……
「おいおい、これがジジィの本気かよ」
燃え盛る炎の中からライムの声が聞こえる。
その直後、炎は瞬時に消滅してしまい、鉄の棺も塵となって消え失せた。
その場に涼しい顔をしながら立っているライムは傷一つも付いていない。あれほど激しい炎に包まれていたのに、火傷一つ負っていないのか!?
「ジジィ、もう年なんじゃねぇのか? さっさとくたばったほうが良いと思うぜ?」
「心配するな。貴様を殺さん限りは私は死なん」
何かもう……二人の関係性が全く見えてこない。
犬猿の仲って感じで、仲悪いイメージはあるけれどなんだかんだ言って相手の実力は認めているような感じはするし。
そのそも認めてなきゃ、互いに争う事なんてなかったでしょ。
不思議な関係だな……アルさんとライムって。
と、感心していると、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてそれはこの部屋へと近づいてくる。
部屋の扉が開かれそこには、息を切らして苦しそうな顔をした見た目50歳代前後の、高価な服に身を包んだ男性が立っていた。
ゼェゼェと息を荒げながら肩を揺らして、アルさんやライムを睨んでいる。
「全く……お前達は! いい加減にせんか! 屋敷中に音が響いておるのが分からんのか!」
「も、申し訳ありません」
「いや、済まんね。ダンナ」
慌てて深々と頭を下げるアルさんに対し、ライムは相変わらず敬意など微塵もないような口調で軽く頭を下げた。
ライムはともかく、アルさんが敬語を扱う人って事は……この人は。
「お父様!」
「モ、モニカ! 頼むから私には魔物は近付けないでおくれ」
モニカは声高らかにそう言いながら、俺を抱きかかえたまま親父さんの元へ駆け寄る。
だが、親父さんは俺を見るなり、手のひらで鼻を覆い隠しながら、片方の手をモニカへ伸ばして止めようとする。
「あっ、そ、そうでした。ごめんなさい」
親父さんに止められてモニカは少し離れた場所で立ち止まった。
争いを中断したライムやアルさんも親父さんの元へ歩み寄る。
「モニカに魔法を指導するのではなかったのか? どうして二人で争っておるのだ?」
「モニカが魔力切れを起こしそうになっていたからな。休憩がてら、見て覚えさせようと思ってジジィとやりあってたって訳さ」
「だからと言って、高位魔法をこんなところでポンポン撃ち合うものでもないだろう。大体、モニカはまだ初級魔法が使えてやっとな状態だと聞いているぞ。まずはそこからではないのか」
親父さんはやれやれといった表情を浮かべながら顔を顰めて盛大に嘆息する。
まあ、あれだけ盛大に暴れていたのなら例え屋敷が破壊されないような仕組みになっていたとしても音漏れくらいはあるよな。
「とにかく、激しい魔法は屋敷の中では使わないでくれ」
「申し訳ありません。以後、気を付けます」
「ウッス」
何かよく分からないけれど、この二人の関係に関してはモニカの親父さんも苦労しているみたいだな。
俺から見ても、この二人は誰かが止めに張らないと歯止めが効かないくらい争いそうな気がするし。
親父さんが止めに入ったのは、かなり効果があったみたいだな。
「モニカも、魔法の特訓は構わないがあまり無理はしないでおくれ」
「は、はい! 分かりました。お父様」
親父さんはモニカを優しく諭すと、開いた扉を閉めながら部屋を出ていった。
モニカの親父さんを初めて見たけれど、思っていたよりも厳つい感じというか厳しそうなイメージはなかったな。
博識と言うか頭脳派というか、アルさんみたいにゴリゴリの屈強な体とは正反対で、最悪ライム並みに痩せているともいえる。
服装も他と比べて高価な物ではあったが、あからさまに『金持ってます』感を見せつけているようないやらしい服は着ていなかった。
「……まあ、怒られちゃ仕方ないな。これくらいにしておいてやるぜジジィ、命拾いしたな」
「貴様程度の脆弱な魔法程度で、私が死ぬはずもない。身の程を知れ」
おいおい……このまま第2ラウンドに移行しないよな。止めてくれよ。
そう思ったが、ライムは振り向きざまに無邪気な笑みを浮かべると言い返す事もなく部屋を出ていった。
さすがにこれ以上、やり合うつもりは無い訳か。なんだかんだ、親父さんの命令には従うらしい。まあ、この屋敷に仕えているんだから当然の事か。
「モニカ様、申し訳ありません。本日はここまでにしておきましょう」
ライムを見届けたアルさんはモニカの方に目を向けると、モニカの前で視線を合わせるように片膝を付き、頭を下げた。
もともとモニカの魔法の特訓だったわけだからな……かといって、モニカは楽しそうに見てた訳だから結局は良い機会になったんじゃないかと思うけど。
「いえいえ、私も様々な魔法が見れて楽しかったですよ。あまり激しいのはお父様に叱られてしまうので控えて頂きたいですが……お父様に怒られないような魔法であるならどんどん見せて欲しいです!」
「承知いたしました。モニカ様が初級魔法を使いこなせたときに見せるとしましょう」
「ちぇ……それじゃいつになるか分からないじゃないですか」
「それはモニカ様次第ですよ」
俺と出会った頃はアルさんに対してあれだけ文句を垂れていたモニカなのに、随分と仲良くなったみたいだな。
まあ、今思えば元々モニカ自身がわがままなだけだったようにも感じるけどね。
「それでは、戻りましょう。モニカ様」
「はい!」
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