少年冒険者は蛇蜥蜴が倒したい~奴隷勇者の異世界譚外伝~

Takachiho

文字の大きさ
10 / 14

10.戦力確認

しおりを挟む
 セシル曰く、魔力操作の訓練をするのはミルだが、その対象を決めているのはロゼッタという名のミルの姉的存在なのだという。

 ロゼッタは“戦乙女の翼ヴァルキリーウイング”に所属する白虎人しろとらびと族、通称、白虎びゃっこ族の槍使いで、ラインヴェルトとメルニールを中心に“白槍はくそう”の二つ名で広く知られている。彼女は奴隷冒険者としてミルと同時期に英雄パーティに加入し、めきめきと頭角を現した。

 首に残る隷属の首輪は奴隷の身分を示しているが、そのことを気にする者はこの街にはほとんどいない。あるじであったはずの英雄の一人が既にこの地を去っていることから、一説によると既に奴隷ではないのではないかとも噂されているが、どちらにせよ、透き通るような白い髪と美しい容姿を持つロゼッタはミルの姉的存在として認知されていて、今では保護者として見られることもあった。

 そんなロゼッタが魔力操作の訓練の対象を女性に限定しているというのだから、ラウルにとっては寝耳に水だった。ラウルは視線を地面に向ける。

「あー……」

 ファムが歩み寄り、ラウルの肩に手を置いた。

「ミルミルのお兄さんの周りで強くなった人って女性ばかりだったでしょ?」
「ヴィクターさんとかガロンさんたちは」
「あー、ごめん。魔法を使えるようになったりっていう意味で」

 ラウルも知る先輩冒険者で英雄と親しくしていた人たちの中には男性もいたが、彼らは魔法を使うことはできないままだった。その逆に、女性ではミルとロゼッタを筆頭に、セシル、ミレイナの他にも現在一流の冒険者として活躍するエルフ族の少女たちや派遣騎士隊の面々など、枚挙にいとまがなかった。

「でもさ、ロゼさんが許可しないっていうことは、逆に言えば許可さえもらえれば男でも受けられるっていうことだよね?」

 物理的に、そして魔法的な理由で不可能というわけでないのであれば、ロゼッタに、いてはミルに認められさえすれば可能ということになる。

 ラウルは拳を握って気合を入れる。多頭蛇竜ヒュドラー討伐前の戦力アップという面では間に合わないが、多頭蛇竜ヒュドラーを倒すべき理由がまた一つ増えた気がした。

「セシルさん、ミレイナちゃん。たぶん無理だよね」
「え、ええ」
「ど、どうでしょう……?」

 女性陣3人が小声で話していたが、希望の未来に思いをせるラウルの耳には届いていなかった。



 その後、メルニールのダンジョンでミレイナの戦力確認を行った一行は、そのまま10階層を目指した。

 セシルが太鼓判を押していただけあって、ミレイナの火魔法はラウルの想像を超えた威力を発揮し、上層の魔物を文字通り消し炭に変えてしまったのだ。

「素材が採れないの……」

 ファムがミルの真似をして、ラウルはジト目で見つめる。

「似てなかった?」
「似てない」
「そうかなー」

 ラウルがぶっきらぼうに答えると、ファムはミレイナの方を向いて「似てるよね?」と尋ねた。ミレイナが曖昧な笑みを浮かべた。

「ミルさん、最近、口調変えようとしていませんか?」
「あー、うん。私は無理じゃないかなーって思ってるんだけど。というか、別に変えなくてもいいのにね。可愛いし。ねぇ?」

 ファムが再びラウルに顔を向ける。ラウルは反射的に頷きかけたが、ファムは元よりミレイナからも注目を浴びているのに気付き、「さぁ」ととぼけた。

「皆さん」

 剥き出しの岩肌でできたダンジョンの通路にセシルの凛とした声が響き、少々浮ついていた空気が引き締まる。

「そろそろボス部屋ですが、予定通りミレイナさんの魔法を中心に戦いましょう」

 ラウルは真剣な表情で頷きを返す。元々攻撃力不足に悩んでいたラウルとファムは、とりあえずとどめはミレイナに任せ、10階層のボスたる迷宮王牛ミノタウロスの注意を引くことに集中することになっていた。

 おそらく一人でも余裕をもって倒すことのできるセシルは積極的には手を出さず、ラウルとファム、そしてミレイナの3人で討伐する予定だ。

 少しの休息の後、ラウルらは重々しい大扉を開いてボスの待つ大部屋へと入った。





「ファム!」
「ラウル!」

 二人が同時に叫び、それぞれが迷宮王牛ミノタウロスの足元に潜り込んで左右の足に一撃を加えてから離脱する。既にミレイナが魔力を高めて集中する時間は十分に稼いでいた。角を生やした牛男の魔物が体勢を崩す。

火球ファイヤーボール……!」

 ミレイナの手にした木製の杖の先端、赤い宝石がまばゆく輝き、大人の一抱え分はあろうかという巨大な火の球が生まれた。迷宮王牛ミノタウロスに向けられた杖から火球が飛び出し、轟々と周囲の空気を熱しながら魔物へと直撃する。

 着弾した火球は迷宮王牛ミノタウロスの上半身を覆い尽くし、やがて焼き尽くした。熱気が辺りに満ちていた。

「すごい……」

 ラウルの口からボソッと感嘆の言葉を溢れ出る。ミレイナの火魔法の威力はここまでの道中である程度把握していたものの、それでも全力で放った時の火球の威力は驚嘆に値するものだった。

 弱点は魔力を高めるのに時間がかかることと、威力を一定以上に抑えることができないこと、そして魔力の総量がまだそれほどだということだが、多頭蛇竜ヒュドラーと戦う上ではこの上ない戦力だとラウルは思った。

 上半身に遅れて、火の燃え移った魔物の下半身が灰と化す。ラウルは目を見開いたまま、宙を舞う灰の残滓を見つめ続けた。

「素材が採れないの……」
「もうそれはいいから!」

 再びミルの真似をするファムを、ラウルは一刀両断で制し、肩で息をしているミレイナに歩み寄る。

「ミレイナちゃん。多頭蛇竜ヒュドラー討伐に手を貸してほしい」
「はい、こちらこそよろしくお願いします……!」

 額に汗を浮かべたミレイナが、にっこりと微笑んだ。そんな二人を、ファムは元気な、そしてセシルは優し気な笑みを浮かべて見守っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...