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11.縁
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予定外に10階層まで潜ったラウルたちだったが、セシルの活躍でその日のうちにラインヴェルトに帰還した。かなりの強行軍で疲労困憊となったミレイナを、ファムが孤児院まで送っていく。ラウルはファムと宿屋の食事処で落ち合う約束をして、セシルと並んで派遣騎士隊の詰め所への道を歩いていた。
「でも、本当にいいんですか?」
「ええ。元々私たちも譲られたものですから」
セシルがコーデリアもおそらく否とは言わないだろうと語り、ラウルは恐縮したように背を丸める。
ラウルも詳しくは知らなかったことだが、どうやら派遣騎士隊は、英雄がこの地を去ったときにいくつかの武器を譲られたのだという。セシル曰く、派遣騎士隊の前身となった奴隷騎士隊とその主であるコーデリアを雇うという形で養っていた英雄が、その責任を放棄せざるを得ない代わりに何かと便宜を図っていたようだ。
そのため、ラウルの攻撃力不足を解消する一助として、それらの剣のうちの一本を譲りたいとセシルが申し出たのだった。
「行く行くはミルさんを守ることに繋がるかもしれないんですから、きっとあの方たちも喜んでくださるはずです」
「そ、そうだといいんですけど……」
自信なさげに答えるラウルを、セシルが温かな眼差しで見つめる。ラウルが気恥ずかしくなって視線を逸らすと、その視界の端に憧れの少女の姿が飛び込んできた。
視線の先、派遣騎士隊の詰め所の門から元気な足取りで飛び出してきた小麦色の髪の少女。それは見紛うことなくラウルの想い人たるミルその人だった。二人は思わず立ち止まる。
「あ、セシルお姉ちゃんとラウルくん。さようならなの――じゃなくて、さようなら!」
「はい。ミルさん、さようなら」
「あ……」
急なことで言葉が出て来ないラウルの横を、ミルが駆け抜けていく。犬耳をピクピクと嬉しそうに動かしている少女の小さな両手は、しっかりと魔剣の柄を握りしめていた。
ラウルが未練がましく振り返ると、上空から突風と共に舞い降りたイムが、ミルに頬ずりをしていた。それを歓迎するミルの様子を見れば、ラウルは何も言うことができず、ゆっくりと遠ざかる背中を見送るほかなかった。
「あの様子だと、ファレスとの稽古で何か良いことがあったのかもしれませんね」
「え、ファレスさんとですか?」
ファレスとは派遣騎士隊の副隊長にして、メイド隊の隊長も兼任する女剣士だ。ラウルとはそれほど面識はないが、こと剣術においては派遣騎士隊随一の使い手だという話を聞いたことがある。
「はい。随分と前からミルさんは時折ファレスから剣の指南を受けているんですよ」
「そ、そうだったんだ……」
もちろんラウルはミルが剣の鍛錬を続けていることは知っていたが、漠然と、自己流か、もしくはそれまで目にしてきた英雄たちの戦いぶりを参考にしているのだと考えていた。しかし、ミルは決して基礎を疎かにしているわけではなかった。
ラウルは自分が思っていた以上にミルの魔剣への思い入れが強いことを知った。
けれど、だからといって夢を捨てるわけにはいかない。元々はあの魔剣を譲り受けたくてスタートした挑戦だが、根本にあるのはミルに一人前の冒険者として、男として認められることなのだ。
知らず知らずのうちに、ラウルの拳が強く握られていた。
「ラウルくん、やる気が漲っているみたいですね」
「あ……」
セシルに指摘され、ラウルは慌てて拳を解く。なんだか顔が熱い気がした。
「では行きましょう」
「は、はい!」
歩みを再開したセシルに続き、ラウルも詰め所に向かって足を動かした。
「それでそんなにいい剣を貰ってきたんだね」
派遣騎士隊の詰め所を辞したラウルはファムといつもの宿屋で合流し、手早く夕食を済ませて2階の角にある自室に向かった。ファムは木製の椅子に、そしてラウル自身はベッドの縁に腰を下ろしている。
「うん。いつか恩返ししないと」
セシルが聞けば必要ないと言うだろうが、厚意に甘えてばかりではいられない。というのも、ラウルが譲られた剣は、そんじょそこらにあるようなものではなかった。いや、一時期メルニールである程度の数が出回っていたため、それなりに稼ぎのあった冒険者の中には手に入れたものも少なからずいるらしい。
実際、セシルが使っているのも同じ素材の剣だ。
「それで、ファム。これ、セシルさんから」
そう言って、ラウルが腰の後ろに括りつけていた短剣を鞘ごと取り外し、ファムに差し出す。ファムが無意識に手を伸ばして受け取ってから、まじまじと短剣を見つめる。
「こ、これってまさか……!」
ファムが目を見開く。ラウルはファムの気持ちが手に取るように理解できた。なぜなら、セシルから剣を手渡されたラウルも同じ思いだったからだ。
「うん。ミルちゃんも使ってる、火竜の素材で作られた短剣だよ」
ファムが恐る恐る鞘から短剣を引き抜く。赤くコーティングされたドラゴンの牙の刃が禍々しい輝きを放っていた。実際には部屋の灯りを反射して赤く綺麗に輝いていたのだが、ファムの、そしてラウルの心の中の畏怖の感情がそう見せたのだった。
ラウルも自身の手の内にある火竜鱗の剣を見つめる。
それは冒険者なら喉から手が出るほど欲するであろう希少で強力な武具。かつて帝都で暴れ、英雄によって討伐された火竜の素材から生み出された武器を手にできる日が来るなど、二人には思ってもみないことだった。
「これはもう、言い訳はできないねー」
真剣な眼差しのファムに、ラウルは大きな頷きを返す。
セシルとの、延いてはミルや英雄たちとの縁から転がり込んだ幸運だが、それを生かすも殺すも自分たち次第。
二人の若き冒険者は新たなる相棒を手に、多頭蛇竜討伐への思いを新たにするのだった。
「でも、本当にいいんですか?」
「ええ。元々私たちも譲られたものですから」
セシルがコーデリアもおそらく否とは言わないだろうと語り、ラウルは恐縮したように背を丸める。
ラウルも詳しくは知らなかったことだが、どうやら派遣騎士隊は、英雄がこの地を去ったときにいくつかの武器を譲られたのだという。セシル曰く、派遣騎士隊の前身となった奴隷騎士隊とその主であるコーデリアを雇うという形で養っていた英雄が、その責任を放棄せざるを得ない代わりに何かと便宜を図っていたようだ。
そのため、ラウルの攻撃力不足を解消する一助として、それらの剣のうちの一本を譲りたいとセシルが申し出たのだった。
「行く行くはミルさんを守ることに繋がるかもしれないんですから、きっとあの方たちも喜んでくださるはずです」
「そ、そうだといいんですけど……」
自信なさげに答えるラウルを、セシルが温かな眼差しで見つめる。ラウルが気恥ずかしくなって視線を逸らすと、その視界の端に憧れの少女の姿が飛び込んできた。
視線の先、派遣騎士隊の詰め所の門から元気な足取りで飛び出してきた小麦色の髪の少女。それは見紛うことなくラウルの想い人たるミルその人だった。二人は思わず立ち止まる。
「あ、セシルお姉ちゃんとラウルくん。さようならなの――じゃなくて、さようなら!」
「はい。ミルさん、さようなら」
「あ……」
急なことで言葉が出て来ないラウルの横を、ミルが駆け抜けていく。犬耳をピクピクと嬉しそうに動かしている少女の小さな両手は、しっかりと魔剣の柄を握りしめていた。
ラウルが未練がましく振り返ると、上空から突風と共に舞い降りたイムが、ミルに頬ずりをしていた。それを歓迎するミルの様子を見れば、ラウルは何も言うことができず、ゆっくりと遠ざかる背中を見送るほかなかった。
「あの様子だと、ファレスとの稽古で何か良いことがあったのかもしれませんね」
「え、ファレスさんとですか?」
ファレスとは派遣騎士隊の副隊長にして、メイド隊の隊長も兼任する女剣士だ。ラウルとはそれほど面識はないが、こと剣術においては派遣騎士隊随一の使い手だという話を聞いたことがある。
「はい。随分と前からミルさんは時折ファレスから剣の指南を受けているんですよ」
「そ、そうだったんだ……」
もちろんラウルはミルが剣の鍛錬を続けていることは知っていたが、漠然と、自己流か、もしくはそれまで目にしてきた英雄たちの戦いぶりを参考にしているのだと考えていた。しかし、ミルは決して基礎を疎かにしているわけではなかった。
ラウルは自分が思っていた以上にミルの魔剣への思い入れが強いことを知った。
けれど、だからといって夢を捨てるわけにはいかない。元々はあの魔剣を譲り受けたくてスタートした挑戦だが、根本にあるのはミルに一人前の冒険者として、男として認められることなのだ。
知らず知らずのうちに、ラウルの拳が強く握られていた。
「ラウルくん、やる気が漲っているみたいですね」
「あ……」
セシルに指摘され、ラウルは慌てて拳を解く。なんだか顔が熱い気がした。
「では行きましょう」
「は、はい!」
歩みを再開したセシルに続き、ラウルも詰め所に向かって足を動かした。
「それでそんなにいい剣を貰ってきたんだね」
派遣騎士隊の詰め所を辞したラウルはファムといつもの宿屋で合流し、手早く夕食を済ませて2階の角にある自室に向かった。ファムは木製の椅子に、そしてラウル自身はベッドの縁に腰を下ろしている。
「うん。いつか恩返ししないと」
セシルが聞けば必要ないと言うだろうが、厚意に甘えてばかりではいられない。というのも、ラウルが譲られた剣は、そんじょそこらにあるようなものではなかった。いや、一時期メルニールである程度の数が出回っていたため、それなりに稼ぎのあった冒険者の中には手に入れたものも少なからずいるらしい。
実際、セシルが使っているのも同じ素材の剣だ。
「それで、ファム。これ、セシルさんから」
そう言って、ラウルが腰の後ろに括りつけていた短剣を鞘ごと取り外し、ファムに差し出す。ファムが無意識に手を伸ばして受け取ってから、まじまじと短剣を見つめる。
「こ、これってまさか……!」
ファムが目を見開く。ラウルはファムの気持ちが手に取るように理解できた。なぜなら、セシルから剣を手渡されたラウルも同じ思いだったからだ。
「うん。ミルちゃんも使ってる、火竜の素材で作られた短剣だよ」
ファムが恐る恐る鞘から短剣を引き抜く。赤くコーティングされたドラゴンの牙の刃が禍々しい輝きを放っていた。実際には部屋の灯りを反射して赤く綺麗に輝いていたのだが、ファムの、そしてラウルの心の中の畏怖の感情がそう見せたのだった。
ラウルも自身の手の内にある火竜鱗の剣を見つめる。
それは冒険者なら喉から手が出るほど欲するであろう希少で強力な武具。かつて帝都で暴れ、英雄によって討伐された火竜の素材から生み出された武器を手にできる日が来るなど、二人には思ってもみないことだった。
「これはもう、言い訳はできないねー」
真剣な眼差しのファムに、ラウルは大きな頷きを返す。
セシルとの、延いてはミルや英雄たちとの縁から転がり込んだ幸運だが、それを生かすも殺すも自分たち次第。
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