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第十九章
19-7.弱点
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仁の視界が切り替わる。リガー村の借家から、森の中へ。青白い光に包まれて転移した仁の目の前に、申し訳なさそうな顔に僅かな喜びの色を乗せた玲奈の姿があった。
「仁くん……!」
玲奈の呼びかけに仁は頷きで答え、背後を振り返る。玲奈の特殊従者召喚で呼ばれたからには非常事態が起こったに違いないと、仁は即座に状況判断に努めた。
場所はおそらく魔の森。敵は刈り取り蜥蜴と2体の恐るべき鉤爪。そして味方は玲奈の他にはミルとイム。
「仁くん。刈り取り蜥蜴は亜種。光と氷、土魔法は効果なし。対象は氷魔法を使ったよ!」
仁がアイテムリングから魂喰らいの魔剣を取り出したところで玲奈から情報が寄せられる。
「玲奈ちゃん、ありがとう」
仁は彼我の戦力差を鑑み、ロゼッタの召喚は少し待ってもらうよう玲奈に告げる。向こうは平時ではあるが、急にいなくなってしまってはリガー村と魚人族のどちらも戸惑わせてしまうため、事前の打ち合わせ通り、ロゼッタには事情の説明を行ってもらうことにしたのだ。
玲奈の了承の声を背中で聞きながら、仁はミルとイムに恐るべき鉤爪の相手を頼み、自身は一足飛びで刈り取り蜥蜴の亜種の前に躍り出ると、漆黒の魔剣を振りかぶった。
そのまま斜めに振り下ろされた大剣が亜種の脚を強かに打ち据え、亜種が嘴のない口先から怒りの咆哮を吐き出した。
仁は横やりを入れようとしていたもう1体の恐るべき鉤爪が氷の砲弾で牽制されるのを横目に、地団駄を踏む亜種と正面から相対する。先ほどの一撃では傷を付けることはできなかったが、それは想定内。亜種が元の刈り取り蜥蜴より弱いはずがないのだから、弱点を突けるかどうかが勝負だった。
「落雷!」
亜種の頭上から雷が落ちる。亜種は体表を流れる雷撃を気にも留めず、前かがみになって左右の手を振るう。毛先から雷魔法が散っていくのを確認しながら、仁は6本の死神の鎌を大剣で受け止め、受け流し、今度は黒落雷を放った。
漆黒の雷が先ほどと同じように亜種の頭に落ち、あっという間に灰色の羽毛を伝っていく。これもダメかと仁は顔を顰めるが、亜種の鎌さばきが一瞬鈍ったのを感じ取り、一転してほくそ笑む。
「闇槍!」
亜種の背後を、遠隔魔法で生まれた漆黒の魔法の槍が取り囲む。間髪入れず闇の槍が次々と灰色と白の背に突き刺さり、亜種が悲鳴を上げた。6本の鉤爪が狂ったように振り回される。
「くっ」
仁は暴風のような鉤爪の一撃を大剣の腹で受けるが、勢いに負けて弾き飛ばされた。
「仁くん!」
玲奈の悲鳴が聞こえ、仁は体勢を整えると同時に「大丈夫」と返す。仁に焦りはない。少なくとも闇属性が弱点だと判明した今、無理に接近戦を挑む必要はないのだ。
仁は迫り来る氷の礫を魔剣で防ぎつつ、亜種の周囲を覆いつくさんばかりの闇槍を並べる。魔法の槍が一斉に襲い掛かり、灰色を漆黒で埋め尽くす。
亜種が耳をつんざく叫びを上げ、空気が震えた。亜種が力強く大地を踏みしめ、所々ボロボロになった体で頭頂部を先頭に突進を開始する。
「石壁!」
踏み出した亜種の足の下の地面がせり上がる。着地のタイミングがズレてバランスを崩した亜種の側面に、仁が飛び出した。
「ハアッ!」
仁が黒雷を纏わせた大剣を思い切り横に薙ぎ、亜種の巨体を横倒しにする。
「石枷!」
地面から生じた石の柱が湾曲し、倒れた亜種の体を拘束する枷となる。首、胴、脚にぴったりと張り付いた幾重もの石の枷は、魔王妃の眷属たる魔物でも簡単には壊せない。
「闇槍!」
石枷を軋ませながらも身動ぎできない亜種に、漆黒の槍の雨が降り注ぐ。止めどなく降りしきる黒き雨が、魔物の体を楽器に変えて途切れえることのない悲鳴を奏でた。
亜種が力尽きるのも時間の問題。そう考えた仁は亜種に対する警戒はそのままに、仲間たちの様子を窺う。
「おお?」
ミルとイムのコンビに目を向けた仁が目を丸くした。恐るべき鉤爪の周囲を軽快に跳び回って両手の短剣を振るうミルを、イムが上空から援護していたのだが、その方法が炎の吐息でも足による踏みつけでも体当たりでもなく、風魔法だったのだ。
イムが背中の翼を羽ばたかせる度に翼の先から風の刃が飛び出し、ミルの短剣と同じように魔物に切り傷を作っていた。
仁はイムが森を焼き払ってしまわないか心配だったのだが、杞憂に終わりホッと胸を撫で下ろすと共に、イムも皆と一緒に成長しているのだと嬉しくなった。
毒霧を物ともせず、素早さ勝負で引けを取っていないミルとイムの様子に、仁は勝ちを確信してもう一体と戦う玲奈に視線を移すと、こちらはちょうど決着のつくところだった。
玲奈が光の矢を放つ。玲奈の足元から伸びる地を這う氷が恐るべき鉤爪の周囲でせり上がり、下半身を絡め取っていた。動きを止められた身軽な魔物に、一直線に飛来する魔法の矢を防ぐ手立てはない。
恐るべき鉤爪の首から先が吹き飛び、仁の口から感嘆の声が零れ落ちた。
仁は玲奈の左腕の小盾の中央に青い半球を見つけ、毒蛇王の毒で弱らせたのかもしれないと推測する。
仁は自分も負けていられないと刈り取り蜥蜴の亜種に視線を戻し、段々と弱々しくなっていく悲鳴が途切れる瞬間まで魔法の槍の豪雨を作り続けた。
漆黒の槍の雨が止むのと同時に、残りの一体の断末魔の叫びが聞こえた。
「玲奈ちゃん、ミル、イム。お疲れさま!」
仁が声をかけると、玲奈とミルが駆け寄ってくる。仁はイムを背後に従えたミルがいつものように抱き付いてくるのではないかと期待半分に身構え、イムの襲撃に備えて頭上を警戒するが、ミルは仁の正面で立ち止まった。
「ジンお兄ちゃん。ルーナお姉ちゃんを助けに行くの!」
「グルッ!」
「え。ルーナ?」
驚いて玲奈を見遣った仁に、玲奈が大きく頷きを返す。ルーナリアを乗せたパールとヴォルグが玲奈たちと別れて恐るべき鉤爪の包囲網からの脱出を図っていると知った仁は、玲奈にロゼッタとガーネットの召喚を依頼した。
なぜルーナリアがここにという疑問が仁の頭をぐるぐると駆け巡るが、話は合流してからでも遅くはない。
久々に揃った戦乙女の翼は再会の喜びもそこそこに、月明かりの下、ガーネットの案内で魔の森をひた走った。
「仁くん……!」
玲奈の呼びかけに仁は頷きで答え、背後を振り返る。玲奈の特殊従者召喚で呼ばれたからには非常事態が起こったに違いないと、仁は即座に状況判断に努めた。
場所はおそらく魔の森。敵は刈り取り蜥蜴と2体の恐るべき鉤爪。そして味方は玲奈の他にはミルとイム。
「仁くん。刈り取り蜥蜴は亜種。光と氷、土魔法は効果なし。対象は氷魔法を使ったよ!」
仁がアイテムリングから魂喰らいの魔剣を取り出したところで玲奈から情報が寄せられる。
「玲奈ちゃん、ありがとう」
仁は彼我の戦力差を鑑み、ロゼッタの召喚は少し待ってもらうよう玲奈に告げる。向こうは平時ではあるが、急にいなくなってしまってはリガー村と魚人族のどちらも戸惑わせてしまうため、事前の打ち合わせ通り、ロゼッタには事情の説明を行ってもらうことにしたのだ。
玲奈の了承の声を背中で聞きながら、仁はミルとイムに恐るべき鉤爪の相手を頼み、自身は一足飛びで刈り取り蜥蜴の亜種の前に躍り出ると、漆黒の魔剣を振りかぶった。
そのまま斜めに振り下ろされた大剣が亜種の脚を強かに打ち据え、亜種が嘴のない口先から怒りの咆哮を吐き出した。
仁は横やりを入れようとしていたもう1体の恐るべき鉤爪が氷の砲弾で牽制されるのを横目に、地団駄を踏む亜種と正面から相対する。先ほどの一撃では傷を付けることはできなかったが、それは想定内。亜種が元の刈り取り蜥蜴より弱いはずがないのだから、弱点を突けるかどうかが勝負だった。
「落雷!」
亜種の頭上から雷が落ちる。亜種は体表を流れる雷撃を気にも留めず、前かがみになって左右の手を振るう。毛先から雷魔法が散っていくのを確認しながら、仁は6本の死神の鎌を大剣で受け止め、受け流し、今度は黒落雷を放った。
漆黒の雷が先ほどと同じように亜種の頭に落ち、あっという間に灰色の羽毛を伝っていく。これもダメかと仁は顔を顰めるが、亜種の鎌さばきが一瞬鈍ったのを感じ取り、一転してほくそ笑む。
「闇槍!」
亜種の背後を、遠隔魔法で生まれた漆黒の魔法の槍が取り囲む。間髪入れず闇の槍が次々と灰色と白の背に突き刺さり、亜種が悲鳴を上げた。6本の鉤爪が狂ったように振り回される。
「くっ」
仁は暴風のような鉤爪の一撃を大剣の腹で受けるが、勢いに負けて弾き飛ばされた。
「仁くん!」
玲奈の悲鳴が聞こえ、仁は体勢を整えると同時に「大丈夫」と返す。仁に焦りはない。少なくとも闇属性が弱点だと判明した今、無理に接近戦を挑む必要はないのだ。
仁は迫り来る氷の礫を魔剣で防ぎつつ、亜種の周囲を覆いつくさんばかりの闇槍を並べる。魔法の槍が一斉に襲い掛かり、灰色を漆黒で埋め尽くす。
亜種が耳をつんざく叫びを上げ、空気が震えた。亜種が力強く大地を踏みしめ、所々ボロボロになった体で頭頂部を先頭に突進を開始する。
「石壁!」
踏み出した亜種の足の下の地面がせり上がる。着地のタイミングがズレてバランスを崩した亜種の側面に、仁が飛び出した。
「ハアッ!」
仁が黒雷を纏わせた大剣を思い切り横に薙ぎ、亜種の巨体を横倒しにする。
「石枷!」
地面から生じた石の柱が湾曲し、倒れた亜種の体を拘束する枷となる。首、胴、脚にぴったりと張り付いた幾重もの石の枷は、魔王妃の眷属たる魔物でも簡単には壊せない。
「闇槍!」
石枷を軋ませながらも身動ぎできない亜種に、漆黒の槍の雨が降り注ぐ。止めどなく降りしきる黒き雨が、魔物の体を楽器に変えて途切れえることのない悲鳴を奏でた。
亜種が力尽きるのも時間の問題。そう考えた仁は亜種に対する警戒はそのままに、仲間たちの様子を窺う。
「おお?」
ミルとイムのコンビに目を向けた仁が目を丸くした。恐るべき鉤爪の周囲を軽快に跳び回って両手の短剣を振るうミルを、イムが上空から援護していたのだが、その方法が炎の吐息でも足による踏みつけでも体当たりでもなく、風魔法だったのだ。
イムが背中の翼を羽ばたかせる度に翼の先から風の刃が飛び出し、ミルの短剣と同じように魔物に切り傷を作っていた。
仁はイムが森を焼き払ってしまわないか心配だったのだが、杞憂に終わりホッと胸を撫で下ろすと共に、イムも皆と一緒に成長しているのだと嬉しくなった。
毒霧を物ともせず、素早さ勝負で引けを取っていないミルとイムの様子に、仁は勝ちを確信してもう一体と戦う玲奈に視線を移すと、こちらはちょうど決着のつくところだった。
玲奈が光の矢を放つ。玲奈の足元から伸びる地を這う氷が恐るべき鉤爪の周囲でせり上がり、下半身を絡め取っていた。動きを止められた身軽な魔物に、一直線に飛来する魔法の矢を防ぐ手立てはない。
恐るべき鉤爪の首から先が吹き飛び、仁の口から感嘆の声が零れ落ちた。
仁は玲奈の左腕の小盾の中央に青い半球を見つけ、毒蛇王の毒で弱らせたのかもしれないと推測する。
仁は自分も負けていられないと刈り取り蜥蜴の亜種に視線を戻し、段々と弱々しくなっていく悲鳴が途切れる瞬間まで魔法の槍の豪雨を作り続けた。
漆黒の槍の雨が止むのと同時に、残りの一体の断末魔の叫びが聞こえた。
「玲奈ちゃん、ミル、イム。お疲れさま!」
仁が声をかけると、玲奈とミルが駆け寄ってくる。仁はイムを背後に従えたミルがいつものように抱き付いてくるのではないかと期待半分に身構え、イムの襲撃に備えて頭上を警戒するが、ミルは仁の正面で立ち止まった。
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