奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho

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第二十章

20-31.皆

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「みんな、どうして……」

 仁は思ってもみなかったリビングの状況に、呆然と呟いた。ココには退室してもらい、ミルとロゼッタ、イムに玲奈の現状について話をしようとしていたのだが、まさかこんなにも人が集まっているとは知らず、仁は部屋に一歩入ったところで動きを止めていた。

「ジンさん、ごめんなさいっ」

 皆の中心でリリーが、ガバッと頭を下げた。何を謝られているのか理解できない仁は、そのまま赤髪の少女を見つめることしかできない。そんな中、集団の中から一人が歩み出て、リリーの横に並ぶ。

「ジン。あなたが何を一人で抱え込んでいるか、おおよそ見当はついているわ」

 金髪の少女が「リリーさんに心配かけるんじゃないわよ」と小さく続け、仁はビクッと肩を揺らす。コーデリアはリリーから相談を受けた結果、リリーに信頼のおける人を集めるよう助言したのだという。

 仁は恐る恐る辺りを見回す。この場にいるのは、確かに仁が信頼を寄せる面々に違いなかった。もっとも、呼ばれなかった人の誰もが仁やリリーのお眼鏡に適わなかったわけではない。

 その後、コーデリアが仁に知らせずに人を集めたのはリリーのせいではないと告げたことで、仁はリリーの謝罪の理由を理解し、顔を上げるよう願い出た。確かに驚きはしたが、別に怒るようなことではない。

 とはいえ、魔王妃と玲奈の件を戦乙女の翼ヴァルキリーウイングのメンバーに伝えようとしていた仁は、皆に話していいものか頭を悩ませる。もちろん、必要とあれば協力を願い出るつもりではいたが、事実を知る人が多ければ多いほど、魔王妃に露見する恐れが増してしまうように思ってしまう。

 魔王妃が何をもって邪魔をされたと判断するか不明な以上、可能な限り少数で対処したいという思いもないわけではないが、コーデリアの先の発言を聞かれてしまっているのでは、変に隠すことも難しい。

「あなたは、あなたやレナさんを心の底から心配し、力になりたいと思って集まってくれた皆の想いをないがしろにするつもりかしら?」

 コーデリアは「そんなことはしないわよね?」と目で念を押す。皆の視線が仁に集まっていた。

「ジンさんっ。ジンさんが一番信頼しているのはミルちゃんやロゼさんたちなのはわかってます。わたしたちじゃ、大した力になれないことも……。でも……!」

 リリーが必死の形相で訴える。仁は「そんなことはない。いつも助けられている」と反論したかったが、仁が口を開くより早く、ガロンとヴィクターが一歩前に出た。

「兄ちゃん。例え兄ちゃんが否定しても、俺たちは仲間だって思ってるぜ。この場には来てないあいつらもな」

 ガロンの後ろで、ノクタが大きく頷いている。

「ジンくん。一度は君を裏切ってしまった僕だけど、もう二度とそんなことはしない。何があっても君やレナさんたちの味方だと誓うよ。そして、この場に来られなかったうら若き女性たちや子供らも、ジンくんやレナさんの力になりたいと願っていることを知ってほしい」

 ヴィクターが仁を見つめ、真摯に言葉を紡いだ。少し離れたところで、ココが、こくこくと何度も頭を上下させて同意を示す。ヴィクターの横に、ゲルトとトリシャが並んだ。

「兄貴。俺たち兄妹はご先祖様の想いを継ぐために生きてきた。けど、今はそれだけじゃない。俺は俺の意志で兄貴や姉貴を助けたい」
「私も兄さんにも大した力はない。だけど、何かできることがあるなら、私たちにもお手伝いをさせてほしいな」

 リガー村の兄妹の背後に、仁はかつての仲間、フランの姿を幻視する。仁の心の中のフランは柔らかく微笑んでいた。

「ジンさん」

 僅かな沈黙の間を、青髪の少女が、おずおずとした様子で切り裂く。

「私だって、一時いっときだけとはいえ、戦乙女の翼ヴァルキリーウイングの一員だったんです。どうか、共に戦わせてください! カティアだって同じ気持ちです」
「もちろん、ファレスやエリーネ、他の娘らもよ」

 両手を胸の前で組んで祈るように仁を見つめていたセシルが、続いた主の言葉にハッとして同意を示した。

「ジンお兄ちゃん」
「ジン殿」

 それまで沈黙を守っていた二人が、仁の元にゆっくりと歩み寄る。ミルの後ろでイムがパタパタと翼を羽ばたかせている。

「ジンお兄ちゃん。ミルはみんなとおんなじ気持ちなの」
「ジン殿。自分のジン殿やレナ様への想いが皆さまに負けているとは思いません。けれど、皆さまの想いが自分に劣っているとも思いません」
「ミル……ロゼ……」

 仁は高低差のあるミルとロゼッタの視線を交互に受け止め、二人の想いを、皆の気持ちを噛みしめる。かつても今も、自分は良い仲間たちに恵まれたと、仁は心の底からそう思った。

「グルッ!」
「あ、うん。イムも忘れてないよ」

 仁が慌てて付け加えると、イムは、ふんッと息を吐き出してそっぽを向いた。仁は僅かに苦笑いを浮かべるが、すぐに表情を引き締めて皆を見回した。改めて皆の視線を、想いを受け止める。

「ジン。決心はついたかしら? もしこれでも覚悟が決まらないようなら――」
「大丈夫。俺が話すよ」

 仁が言葉を遮ると、コーデリアは「そう」と一言だけ告げ、満足そうな笑みを浮かべた。コーデリアが隣で立ち竦んでいる少女の背中を、そっと押す。

「あ……」

 リリーがたたらを踏んだ。数歩だけ仁に近付いた少女が、恐る恐る仁を窺うように見上げる。

「リリー、ありがとう」
「ジンさん……!」

 感極まったようにリリーが駆け出した。仁は抱き付かんばかりの勢いのリリーを戸惑いながらも受け止めようと身構えるが、リリーはその直前で急停止する。

 中途半端に腕を広げる形になった仁に、何人かが小さく、または大きく噴き出し、その中央でコーデリアが肩を竦めて見せた。

「コーディー様は何かに気付いているみたいですけど、わたしはまだ聞いてません。でも、今ジンさんに抱き着くのはレナさんに悪い気がしたのでっ!」

 先ほどまで温かくも張り詰めていた空気が、良い意味で弛緩していた。仁は嬉しさと恥ずかしさで頬を掻く。

「だから、お話を聞かせてくださいっ」

 笑顔で、けれど真剣にそう願うリリーに、仁は頷きを返した。

 3人掛けのソファーの真ん中に仁が座り、その両隣にイムを抱いたミルとロゼッタが陣取る。そしてテーブルを挟んだ対面にはリリーとコーデリアが腰を下ろし、その背後を他の皆が囲った。

 仁が口を開きかけると、何人かがゴクリと喉を鳴らした。

「玲奈ちゃんが、玲奈ちゃんの体が魔王妃に奪われた」

 単刀直入に告げられた事実が、辺りに痛いくらいの静寂をもたらす。ほどなく、皆の理解が追いつくと、銘々が目を見開き、息を呑んだ。そんな中、コーデリアだけが「やはり」と呟き、顔を痛ましげに歪めたのだった。
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