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おいしい話には裏がある

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「急所の件は水に流すから
上昇能力バフ効果付いた魔核ジュエルください!」

 私が頭を下げるならまだしも、何故青年お前が頭下げてるんだ。
そんなに上昇能力バフ効果付き魔核ジュエルが欲しいんか?

「あー…うん
水に流してくれるのは嬉しいけど
生憎魔核ジュエルが余ってないんだよ」

 私が今所持してる上昇能力バフ効果付き魔核ジュエルは、緑魔核グリーンジュエル。白の一本線と白の波線。
体力と敏捷性に作用する魔核ジュエル
赤魔核レッドジュエル。白の渦巻き線。
魔法攻撃力に作用する魔核ジュエル
そして橙魔核オレンジジュエル。白の?マーク。
知力に作用する魔核ジュエルの5個だ。

 フィルギャの見立てだとエリュ…エリュリオン?
……脳がお婆ちゃん化してきてないか私。
いくら名前が長いからってこれはまずいな…。
 とりあえずひ弱な兄…兄…。

「シオンと俺の分しかないってことだね」

「しーっ…ダメだよリオン
そんなこと言っちゃ」

 ナイス双子!
ひ弱な兄・シオンは魔法の才があるってことだから赤魔核レッドジュエルを。
強気な弟・リオンは万能型ってことだから臨機応変マルチに活躍できるように機動力を上げてもらうため敏捷性に作用する緑魔核グリーンジュエルを報酬にするつもりだったんだ。
 体力は私が使うし、老化のせいで記憶力が危ういから知力も使う。
必然的に余らないのよね、魔核ジュエル

魔核ジュエルがあれば
上昇能力バフ効果は付与できるけど
完全ランダムだから望むようなものが
出る保証はないよ?」

魔核ジュエルがあれば良いんだな!」

「お、おう」

 ちゃんと話聞いてたよな?
ランダムだよ?狙って付けられないよ?
文句言ったら急所にダイレクトアタックな。

「わかった!冒険者ギルドから買い取ってくる!」

 鼻息荒くさせやる気に満ち溢れている青年。
一体なにがあれば魔核ジュエルだけでこんなにやる気になるんだ?

「この兄ちゃんがそんなに魔核ジュエル欲しがるってことは
やっぱりあのうわさって本当なんだな」

「うん…」

「あのうわさ?」

 どんなうわさだいと尋ねれば。
シオンとリオンは青年の方を見てこそっと耳打ちをしてきた。

「あのね…門番さんって色々雑用させられて
他の兵士さんみたいに鍛練とかできないんだって」

「実力不足っていうのもあるらしくて
兵士としてやっていけないから、そこまで危険じゃない
門番って仕事につかされるんだってさ」

 なるほど…。
雑用ばかり押し付けられて鍛練もできなきゃ技術も学べない。
ずっと門のところで来る人来る人の対応してれば腕が上がるどころか下がる一方。
つまり落ちこぼれのレッテルを貼られてるってことか…。

「…ふっ」

「お婆ちゃん?」

「婆ちゃんすっげー怒ってる?」

 上等だ異世界の騎士並びに兵士たち。
お前らが落ちこぼれとレッテルを貼った人間を這い上がらせてやる!
お前らの地位を脅かす存在にしてやろうじゃないか!

 題して”落ちこぼれというレッテルを貼られた俺が騎士団長に成り上がる!”だ。
良いね良いね。成り上がり系も好きなジャンルだよ。

「ところで婆さん
どこの宿に滞在してるんだ?」

 切り返し早いな青年。
宿はいっぱいで多分取れないだろうから…。

「その辺で野宿だね」

「「「野宿!?」」」

 昨日もしたからね野宿。
フィルギャもいるし快適なものさ。
魚釣ってきてくれるし火熾してくれるし。
家政婦さんみたいですごい役立つ守護妖精だからね。

「ダメだよお婆ちゃん!」

「《ディブル》で野宿なんてしたら
盗人に身包み剥がされちゃうぞ!」

「そうだぞ!
いくら俺ら兵士団がいても
盗人やゴロツキの一斉排除はできないんだ!」

 そうなんだね。
相当治安悪いのね《ディブル》――。

 マジで来いよベネット!
お前の急所に弱体能力デバフ効果付与してやんよ!

「ちゃんと仕事しろよ兵士団…」

「「本当だよ…」」

「うぐっ!」

 魔核ジュエル欲しさと双子への負い目で何も言えんよな青年。
うんうん…しかしこのまま野宿決め込むと解放してくれなさそうだなこいつら…。

「お婆ちゃん…もしかして、泊まる場所ないの?」

「……ない」

「じゃあうちに来る?」

 …うちに来る?
うちに来る?じゃないだろうお前!
見ず知らずのお婆ちゃんをお家にご招待はないだろう!
少しは警戒心を持ちなさいよ!

「お前ら…少しは人を疑うってこと
した方が良いんじゃないか?」

 それな。本当にそれな。
もっと言ってやって門番。

「うちの父ちゃん強ぇから
婆ちゃん一人連れ帰っても大丈夫だぞ?」

 つまり父ちゃん強いから婆ちゃんの一人や二人暴れようが、簡単に制圧できるくらい強いってことね。
わかった。置物のように大人しく一晩だけお世話になろう。

「…じゃあ一晩だけ厄介になるね」



 道中危険に巻き込まれないようにと、一緒について来る青年。
お前さん仕事は良いのかと聞いたら今は休憩時間だから問題ないそうだ。
休憩時間使って孤児の保護とか…なんて働き者だろうね。
会社、というか兵士団にいい様に使われてる感半端ないけどな。
そこは本人の意思尊重だから口にせんけどね。

 歩きながら何故私が《ディブル》に来たのかを話しておいた。
何故って?
聞かれたもんは一応答えるさ。
シオンもリオンも青年も涙ぐんでいて、嘘ついて悪いと思ってないけど”すまん”と心の中で呟いておく。

「ここが俺らの家!」

「ポムニット鍛冶屋だよ」

 周りの家に比べれば小さめな赤煉瓦の家。
1階はお店兼工房となっており、2階が住居だそうだ。
 私たちを送ってきた青年は魔核ジュエルを買いに行くとのことでここでお別れとなった。
一生懸命なのは良いが、適度に休息取れよ青年。
 シオンとリオンに手を引かれいざ、お邪魔します。

「父ちゃん!」

「ただいまお父さん」

 裏口から工房へ入ると、さすが鍛冶屋。
中は蒸していて暑い。冬場は良いが夏場は地獄なのではなかろうか。
 しかしこの鍛冶工房、素人目でも腕が良いというのはなんとなくわかる。
飾られている刃にしても、まだ見慣れない老婆顔の自分が映るくらい表面ピカピカ。
切れ味もなんとなく良さそうな気がする。

「おかえり…そっちの婆さんは誰だ?客か?」

「実はねお父さん」

 シオンとリオンが説明をしている間でもお構いなく工房見学。
だって話に割り込む必要性ないし。
工房見学なんてしたことないからそっち見てた方が楽しいでしょう。
 それよりも、刃物以外にも作ってるものがあることに驚く。
兜に鎧に斧に裁縫針、小さいナイフに槍の先端、フライパンまでありやがった!
シオンとリオンの父親何者だ?

「お婆ちゃん!
お父さんが泊ってって良いって」

 どうやら説明が終わったようである。
首に布をかけた三十路くらいの男性。
髭はなく爽やかな好青年と言ったところか…。

「息子たちを助けていただいたそうで
本当にありがとうございました」

 信じられるか?これで二児の父親だぜ?
独身です。で、十分通用するぞこの父親。

「なんでも高価な魔核ジュエルまでいただいてしまったようで
重ね重ねお礼申し上げます
うちは男3人で暮らしておりますが、部屋は空いておりますので
一晩と言わず仕事が安定するまでお泊り下さい」

 だがしかし、警戒心が少々なさ過ぎではないか?
あげたのは低ランクの魔核ジュエルだよ?
それを高価と思われるのはアレなんだが…。

「(まあ低ランクでも
上昇能力バフ効果付きの魔核ジュエルは市場に滅多に下りない
持ってるのは兵士や騎士、冒険者くらいだもん
一晩以上の値打ちと考えるのが妥当だよね)」

「(低ランクの慰め程度の魔核ジュエルなのに!?)」

「(慰め程度でも、貴重は貴重なんだよ
付与魔法は誰でも使えるわけじゃないんだ
それこそ、10年に1度生まれるか生まれないかの問題だよ)」

 そんなとは思ってもみなかった。
ここの人に迷惑をかけてしまったな。

「逆になんかすみませんね
高価なものを引き合いにして部屋を提供してもらったみたいで」

「いえいえ
魔核ジュエルなんてなくても
困っている人を助けるのは当然のことです」

「……」

 困っている人を助けるのは当然のこと…か?
【情けは人のためにあらず】
人に対して情けを掛けておけば、巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという意味だ。

 でもそれっていつ返ってくるの?
どういう形で返ってくるの?
どれくらいの情けを掛ければ良い報いとなるの?

 どんなに人に対して情けを掛けたところで、恩知らずはたくさんいる。
金を借りておいて返さない奴も。
助けられたくせに形勢が逆転すると助けた恩も忘れて助けない奴らも。

 人に情けを掛けたって、掛けられた方は心の奥底でなんでこんな奴に施しを与えられなきゃなんねぇんだ。
今だけ良いように使ってやろう。そして用済みになったら捨てようとさえ思ってるかもしれないのに。
なんでそんな、得体の知れない奴らに情けを掛けようって思えるんだろう。

 不思議な行動過ぎて私には理解ができないよ。

「そうですか…なら、仕事が安定するまで
ご厄介になりますね」

 私に情けを掛けたところで、貴方には良い報いもなにも訪れないだろう。
申し訳ないが、居て良いと言うのであれば私は居座らせてもらうよ。
困ってる人を助けるのは、そちらにとって当然のことなんだろうから…。

「お婆ちゃんこっちこっち!
お部屋に案内するね!」

「婆ちゃんの担当は料理番だからね!」

 ……ん?料理番?

「料理!?」

「すみません
男3人なもので料理という料理ができないんです
なので貴方がずっと居て下さると大変嬉しいです」

 こいつ…それも計算の内で一晩と言わず仕事が安定するまでと言ったのか!
《ディブル》で安定した仕事がそう簡単に見つかるはずもない!
は、謀ったなこの親父ー!!
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