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おいしい話には裏がない時もある

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「ここがお婆ちゃんの部屋
家具とか自由に使ってね」

 案内された一室は四畳半の小さな部屋。
ベッドとクローゼット、テーブルと椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
婆さん一人で生活するには申し分のない広さの部屋で感謝はしている。
感謝はしているのだが…。

「厨房はこっちだよ」

 そう…料理だ――。

「お前今日から料理番ね。否定権ないから」と言われた感じだ。
こう言ってはあれだが、私は料理ができない。
こう言ってはあれだが、私は料理ができない。
大事なことなのでもう一度言うことにする。

 私は料理ができない!

 心の中で呟いているだけで泣きたくなってくる。
たしかにガールスカウトには一度参加したことはあるが、その時作ったのは焼き魚とカレーくらいだ。
しかも市販のカレールウからしか作ったことない私に、異世界で香辛料ブレンドして作れなんて無理。
そんなのは節約倹約考えて日々家事してる専業主婦か趣味でやってる人にしかできん!
 こんなことなら異世界お料理モノの漫画や小説も読んでおくんだった…。
 いや、少しくらいは読んでいた。
読んでいたけどレシピまでは覚えてない。
リンゴ切って瓶に水と入れて天然酵母くらいしか覚えてない。
 はい積みゲー。

「ここが厨房!
大皿はここで小皿はここ!」

「レシピ本はこの棚の中にあるから
好きに使ってよ」

 我が救世主レシピ本を手に入れた!!
これさえあれば後はフィルギャに聞きながら料理はできるはずだ!
救いはあったー!!

「お婆ちゃんレシピ本抱えて泣いてるね」

「そんなに珍しいのだっけ?」



「さて…」

「やっと2人っきりになれたねアキラ!」

「ちょっとその発言やめて気持ち悪い」

「酷いよ!」

 いや、普通に引かない?
やっと2人っきりになれたねなんて、どこかのストーカーものの定番セリフだと思ってたんだけど違うのか?
それにしたって気持ちが悪くなるセリフであることはたしかだ。
 見ろこの鳥肌を!半端ないわ!

「気を取り直して依頼品作りますかね」

 取り出しますのは捨てられていた折れたスプーンの先端。
綺麗に洗って乾かしておいたのを使います。
まずレジン液を少量出し先端の表面全体をコーティングするのだが…。

「樹脂ってどうやって出すねん」

 肝心の樹脂の出し方がわからん。
どこでも出せるってドリュアスちゃん言ってたけど…どこから出せと?

「無難に指先か…?」

「ドリュアスちゃんって
そういう説明忘れるから
信仰者増えないんだよね」

 フィルギャにまで哀れまれてるよドリュアスちゃん。
貴方もう少ししっかりした精霊になりなさいな。
 まあドリュアスちゃんのことはドリュアスちゃん自身がなんとかするでしょ。
他人の世話焼きなんてしてられんわ。

「指先から…ちょっとずつ出ろー…」

 恐る恐る呟けば人差し指の先端からトロッと液体が流れ出た。
うわ、気持ち悪い!と思ったがこれはこれで役に立ちそうだ。
 例えば敵の足止めをしたい時に掌から大量の樹脂を噴射。
太陽光によってちょっとずつ硬化させられるメリットがある。
 木の加護を授かった者たちはきっとこういう使い道をしているのだろう。
あくまで想像だがな。

「にしてもこの樹脂すごいね」

「なにが?」

「太陽光をあてて硬化させようとすると
かなり時間がかかるんだよ
でもこの樹脂…1分もかからず硬化しやがった」

 ドリュアスちゃんさ…木の加護すごくね?
これなら魔物?相手でも簡単に仕留められんじゃね?
なんでこういうとこプッシュしてかないのさ。
樹脂が出せる以外のアピールポイントここよ。

「よしよし。表面はコーティングできたね」

 摘んできた花とクローバーも樹脂でコーティング。
スプーンの上に綺麗に配置してそっと樹脂を流し込んで即効硬化!
あっという間にドリュアスちゃんへの最初の捧げ物完成!

「わあ…透明だからクローバーや花がよく見えるね!」

「色粉があれば着色してもっと綺麗にできるんだけどね
まあそれは今度探してみるとしよう
んで、スプーンの折れ目のところにフィルギャがくれた
ネックレスの金具をくっ付ければ…スプーンの先端ネックレスの完成!」

 拾ったものでここまでできれば上出来だろう。
そういえばこれに上昇能力バフの付与できるかやってみよ。

「…フィルギャ!能力付いてる?」

 魔核ジュエルと違って見た目に変化がないから自分の目じゃわからないってのが問題だね。
そのうち私の目にも効果とか見えるのだろうか…。
そんなことになったら最早人間捨てた感が出て嫌だなぁ。
そもそも魔核ジュエル以外に付与できたとして人の目に見えるものなのか?

「このネックレスには
魅力が少し上がる効果がついてるね」

魔核ジュエルだとこの効果がついてるって目に見えるけどさ
魔核ジュエル以外だとわかんないね…」

「冒険者ギルドや兵士団、騎士団に所属している人たちには
ちゃんと装備の効果が見える特殊な水晶玉が支給されてるんだけどね」

「は?なにそれ羨ましいんだけど」

 効果が見える水晶すごいほしいんだけど。
お婆ちゃんだけど冒険者ギルド所属させてくれませんかね?

「でもアキラには必要ないでしょ
だって僕がいるんだから!」

「……いや、必要だろ」

 考えてもみたまえよ。
商売を始めた時に冒険者じゃないお客が冒険者にプレゼントでほしいと言って来たとしよう。
望んでいる効果のついた商品と偽って売ったとしてもそのお客にはわからない。
つまり商品偽装ができてしまうイコール詐欺商売が横行する。ダメだろ。

 お客が望む商品を提供することがうちの会社のモットー。

「……」

 異世界に来ても会社のモットーが全面に出てしまうこの恨めしさ。
異世界なんだし悪に染まったって良いのにね…真面目過ぎるだろ私。

「なんとかして水晶をパクってこれないかな…」

「冒険者ギルドを抜けたら水晶は返す決まりだから…
誰かに譲り受けるは無理だろうね」

 ちくしょう…冒険者ギルドめ。
冒険者が持ってきた素材安く買い取って高値で取引してんだろ。
偏見だって?
いやいや。絶対奴らそれくらいのことしてるって。

「……商業ギルドの方には水晶ないのかな?」

「あるところにはあるだろうけど…
冒険者ギルドと違って商業ギルドは貸し出し料金が発生するよ?」

 冒険者ギルドが無料貸し出しで商業ギルドが有料貸し出し…。

「よし。冒険者登録するか」

「びた一文払いたくないんだね…
でも本当に冒険者ギルドに登録するの?
冒険者ギルドに所属するには
指定のアイテムを取ってくるっていう
ミッションがあるうえに
ある一定の期間依頼を受けないと
ギルド証剥奪っていう厳しいルールがあるけど」

 なるほど…そこが商業ギルドとの違いなわけか。
商業ギルドは受けた依頼を途中放棄し続けるとギルド証剥奪。
信用第一をモットーに活動すればなんの問題もない。
 だが冒険者ギルドは一定期間依頼を受けないとギルド証剥奪。
命掛けで依頼受けて頑張っても剥奪は一瞬だ。

「それ聞くと商業ギルドで水晶借りた方が良いね」

「それが一番良いと思うよ
水晶が借りれるまでは僕がちゃんと見てあげるから」

 なんて心強い妖精だろうか…。
まあ、信じられない人向けに保証書をつければ問題ないだろう。

「そういえば…こういう装備品って
所有者以外に譲渡できないとかあるの?」

「ないよ」

「じゃあ詐欺紛いなことはできないね」

「え、する気なの?」

「私がする前提みたいに言うなし」



「さて…」

 ドリュアスちゃん用のレジンアクセサリーを街外れの教会にお供えしてきたよ。
ついでにスキルを与えなかったことへの恨みつらみ諸々愚痴ってきた。
それはそれで一件落着だ。

「戦いはここからだぜ…」

 そう。私は今厨房に立っている。
右側にシオン。左側にリオンを侍らせて…。
 いや、侍らせた覚えはない。
何故かいつの間にか侍られていた。

「お婆ちゃん何作るの?」

「お腹すいたー!」

 何作れると思う?
レシピ見ながらほうほう頷いてるけど…。
この家に食材という食材なくね?

「普段から何食べてたの…?」

「摘んできた葉っぱ焼いて食べてた」

「お買い物は?」

「ブッカってのが上がっちゃったから
買い物できないんだ」

 この工房そんなに売上ないのか?
いい品いっぱいなのに何故金にならない?

「ねえ…お客さんって
毎日どれくらい来てるの?」

「「……」」

 わかった。聞いて悪かった。
私が大変悪かった。反応から察するにいないのね。

「前はね、お客さんたくさんきたんだよ」

「役人が変わってからだんだん減ってきてさ…」

「お父さんの作るものは全部
なまくらだってみんな言い出すし…」

 また役人か…。
この世界の役人はどんだけ権力持ってんのよ。
まあ威張り散らして融通のきかないゴリゴリなThe役人って感じの奴らでしょうけどね。

「…あれ、ちょっと待って
食材っていう食材がないのに料理番しろって無理じゃない?
それでどうして安定した仕事が見つかるまで泊めてくれるなんて…」

「「……」」

 あ……あんの親父ー!!料理番っていうのは口実だな!
どんだけお前らお人好しなんだよ!
馬鹿だろ?馬鹿だろ!?絶対騙されて泣いてきたタイプだろ!
腹立つ!マジで腹立つ!
そういう自己犠牲型が一番腹立つんだよ!

「ちょっと待ってなさいちびっ子たち!
魚釣って来るから!」

 一宿の恩は一飯で返す!
何日もお世話になるなら食は私がなんとかしてやるわ!
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