デバフ婆ちゃんのお通りです

古里唯一

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「婆さん!」

 鼻息荒くし走ってくる門番の青年。
その手には中くらいの革袋が握られており、どんだけ持って来たんだと呆れた。

「やあメルリン
すまないが話は後にしてくれ
私は今から魚を釣りに行かなきゃならないんだ」

「メルで良いから間違った名前で呼ぶのやめてくれよ…」

 私だって間違えたくて間違えてるわけじゃない。
純粋に名前に興味がないだけだ。
 名は体を表す?
名前負けしてる部分の方が強くて顔と名前が一致しないよ。
 メルクリウスっていうのは商人や旅人の守護神ってことで有名だ。
しかし目の前にいるメルクリウスを見たまえよ。

「?」

 守護神どころか門番だし。

「魚釣りに行くのは良いけど…
婆さん、通行料払えんの?」

「……《ディブル》に魚釣れる川はないの?」

「水路には上流の方に太めの鉄格子があるから
水は引き込めても魚は入って来れないぞ」

 はい、積みゲー。

「なんてこった…私は恩も返せないのか…」

「…婆さん」

 差し出された革袋。いっぱいに詰め込まれた何の効果もついてない魔核ジュエル
これだけの数全部に上昇能力バフ効果付けろっての?
老体にムチ打ち行為だぞこれ…。

「俺の分は3個あれば良いからさ
残りは好きに付与して商業ギルドに売るなり
露店で売ったり好きに使ってくれよ」

「……は?」

 馬鹿なの?馬鹿なの?馬鹿なの!?
この魔核ジュエルだってタダじゃないんでしょ!?
フィルギャも安値で売られてるって言ってたからタダなわけがない。
それをこんな革袋いっぱいに買ってきた挙句、3個以外はくれるだと!?

「アンタ馬鹿なの?」

「ば…馬鹿って酷くね?」

「いや、馬鹿だよ。正真正銘馬鹿だよ
門番ってそんなに給料良いの?安月給じゃないの?
自腹切ってこんな大量に仕入れて来たくせに
赤の他人にそっくりそのままあげちゃうってなんなの?
自分の生活苦しくないの?
自分犠牲にしてまでなんで他人助けたがるの?」

 ああ…吐き気がする。気持ちが悪い。
ベタベタした偽善の塊が見えて殴りたくなる。踏み潰したくなる。

「これは孤児と間違えたあいつらへのお詫びと
これから俺に力をくれる婆さんへの先行投資だよ!
あの双子から聞いたんだろ?
門番がどういう連中の集まりかって」

「兵士としてやっていけない連中の集まり…」

「ああ…でも俺は門番で終わるつもりはない
どんなに落ちこぼれだと言われようが
どんな小さな希望でも、あるなら迷わずそれを掴む
俺にとってのその小さな希望が婆さんだってだけのことだ!
それに今から婆さんに投資しておけば
後々俺に良い能力のついた魔核ジュエル提供してくれるだろ?」

 …なるほど。一理ある。
私が魔核ジュエルに付与する効果のランクが上がれば、魔核ジュエルを提供したこいつに恩ができる。
ここまで成長できたのは君のおかげだ。
お礼にこの最高ランクのものを提供しよう!と、言った流れになる計画というわけだな。
 それならこちらとしても好都合だ。
魔核ジュエルがタダで手に入るし付与魔法の練習もできるし売りにも出せる。
レア度の高いものが付与できたらこいつに提供し、今までの魔核ジュエル代分を返せば良い。
互いにwinwinな関係というわけか…。

「……わかった」

「よっしゃ!」

「私の付与魔法で必ずお前を
騎士団長に成り上がらせてやる!」

「き、騎士団長!?」

「これだけの魔核ジュエルをよこすってことはそういうことでしょ?
さっきの言葉が本物だってこと、ちゃんと証明してみせな」

「お、おう!」

 一日も早く騎士団長に成り上がらせてやるためにも、どんどん付与しまくってやる!
 しかし今の私が優先することは付与ではなく食べ物の調達だ!
お人好しの親子の腹を満たせるだけのものを調達できれば良い。

「よし。決めた」

「?」

「メルよ。今から1つ魔核ジュエルに能力付与するから
冒険者ギルドに売って、買えるだけパンと卵を買ってきてくれないかね
砂糖とか塩とか調味料もあればそれも!」

 魔核ジュエル1つでパンと卵をどれくらい買えるかわからないけど、売れるんでしょ?
ね、フィルギャ!

「(うん。低ランクでも剣コイン10枚くらいはいける!)」

 低ランク魔核ジュエルが約1万になるとかしゅげぇ…さすが異世界。
価値観がまったく違うんだね。

「え、俺の分は…」

 そんな目で見てくれるなよ…。
私だってあげるなら良いものをあげたいって気持ちはあるんだよ。滅多にないけど。
まあ良いものは追々あげれば良いんだし、今は適当なもの付与した魔核ジュエルでもあげときゃ良いか。
酷い女とか言ってくれるな。世の中の大半はこんなのばっかよ。

「(フィルギャ!どんな能力付与されてる?)」

 両手に2つずつ握り魔力を込めた魔核ジュエルは色被りすることなく分かれた。
1つは赤魔核レッドジュエル。白のX線が入ったもの。
1つは緑魔核グリーンジュエル。白の一本線が入ったもの。これはたしか体力強化付与の効果だ。
1つは橙魔核オレンジジュエル。白の?マークが入ったもの。これは忘れもしない…知力上昇効果だ。
最後は初めて見る青の魔核ジュエル。白の盾マークが入ったもの。

 初めて見るのが2つ…一体どんな効果がついているのやら…――。

「(緑魔核グリーンジュエル橙魔核オレンジジュエルの効果は覚えてるよね?
赤魔核レッドジュエル。白のX線が入ったものは攻撃力上昇効果があるよ
で、初めて出た青魔核ブルージュエル。白の盾マークが入ったものは防御力上昇効果があるよ
どれも騎士や剣士に必要不可欠な能力だね)」

 意図せず騎士や剣士に必要なステを上昇させる効果を付与してしまうなんて…私もいよいよ異世界人の仲間入りしてきてる感があるな…。
しかしこれはこれでメルの役に立つ魔核ジュエルで良かった。これで橙魔核オレンジジュエル
白の?マークが4つだったなら、頭を鍛えろと私が言われてる気がして魔核ジュエルを叩き割っていただろう…。

橙魔核オレンジジュエルは売りものに、他の3つはメルが持っておいき
ただし!仲間たちに見つからないようにするんだよ」

「わかってる!
俺だってあいつらに美味しい話を分けるつもりはないさ」

 よくわかってらっしゃる。
本当に美味しい話は他人とは共有しないものだ。
自分だけが得をすればそれで良いと思うのが人のさがだ。
他人にも美味しい思いを…なんて考える者はまず間違いなく詐欺と疑えというのが、祖父母からのありがたい教えだ。

「すぐ冒険者ギルドに行ってくる!
パンと卵、あと調味料!
買えるだけ買ってくるから
ポムニット鍛冶屋に戻ってろよ
婆さんだからって夜道は危険だぞ」

 支援者の婆さんの身を案じてくれるとは実に素晴らしい。
まあ、私の身になにかあれば魔核ジュエルが手に入らないし、騎士団長への成り上がりができなくなる。
心配するのは当然だな。私も骨折のリスクがあるから夜不用意に出歩くのは控えておこうかな。
買い物はメルに任せて、安全な場所で好きなレジンアクセを作って過ごすとしよう。

「じゃあ任せたよメル
おつりはお駄賃として取っておきなさいと言いたいけど
私はそんな甘いお婆ちゃんじゃないからちゃんと返しなさいね」

「ちゃんと返すって…疑り深いなぁ」

 メルを見送りながらふと、聡明な私は考えた。
この世界の卵って衛生的に大丈夫なのか…?
でもメルにパンと卵って言っても何も言わなかったところを見ると大丈夫なのだろうか?

「ねえフィルギャ。この世界の人たちって卵普通に食べてる?」

「うん。生で食べる人はいないけど
加熱調理して食べるのが一般的だね
昔の聖女様が卵は浄化魔法をかければ食べれる!
って言ったことから卵を食べる文化が広まってったって
前任者から聞いてるよ」

 昔の聖女様様だわ…。
ありがとう名も知らぬ聖女様!
貴方のおかげで唯一できる料理が作れます。
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