デバフ婆ちゃんのお通りです

古里唯一

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わくわく素材作り

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「この≪創造合成クリエイティブ≫ってスキルは
どんなものがの?」

 創造合成クリエイティブのスキル説明が載ってるスキル本のページを開き、女神精霊王様に問えば、彼女は悪い顔をした。
 いや、悪い顔と言っても極悪人面をしたとかそういうのではなく、ニヤリと悪巧み顔をしていたに過ぎない。
 ただそれが私には、悪い顔に見えたのだ。まるでお目が高いお客様!と、煽てたのち饒舌な営業トークで畳みかけ商品を購入させる奴らみたいな。

「それに目をつけるとはさすがアキラさん!
そしてではなく
ご質問されるとは素晴らしいです
創造合成クリエイティブ≫のスキルは基本、生き物は作れません」

 すごく褒めちぎってくる女神精霊王様の話では、生きとし生けるものは作れない。
人間然り動物然り――生命を生み出すことは、神のみに許されたことであるそうだ。
 ぶっちゃけ人間や動物なんて作りたいと思わない。
私がこういう生き物であるから、生命なんてものは望まないのだ。

「作れないと判断された場合
合成不可と表示されますからご安心を
造花や人形は作れますよ」

「なるほど……ちなみにだけど
この世界の通貨を作ることは――」

「アキラさん?」

「通貨偽造罪になりますね、はい」

 異世界に来ようとも偽造は偽造か。
そういうところ多めに見たら異世界なんだから犯罪まがいなことしてもお咎めなし!なんて考えが浸透してしまうだろう。
ただでさえ現実とフィクションを混同させる連中が多いこの世の中だ。
どこの世界だろうと越えちゃダメな一線は守れということだろう。
 ただし自身の生命を脅かす状況下に陥った時は例外である。例外にしてくれ。頼むよ。

「あとそれから……ここに書いてある合成鍋って
誰かに盗まれたとか壊れたらどうすれば良いの?
自己責任とかスキル消失とかになるの?」

 そう――これは重要だ!
便利なアイテムほど異世界では盗まれたり壊されたりするものだ。
そこから便利アイテムの代替えを発明したり、異世界のもので代用させるという機転を効かせることができる主人公たちはさすが主人公!と、思うのだが――私にはラノベの主人公たちのような行動力はない。
そこまでして異世界の人たちに笑顔を!幸せを!なんて考えにはならんのだ。

 私は自分が生き残るために必要不可欠な代物を大切にしたいだけだ。


「合成鍋があればアキラの料理
レパートリーが増えるもんね!」

「それな!」

 創造合成クリエイティブのスキル説明を読んだ瞬間から、これは是が非でもほしいと思った。
注目すべき点はここ!

“作りたいものを頭の中で思い浮かべながら合成鍋に魔力を込める。
指定された素材を鍋に入れることで鍋の中で合成してくれる”

 つまりカレーが食べたいと思ったらカレー粉を頭の中で思い浮かべ、異世界の材料ぶち込めばカレー粉が完成するんだよ?
料理できない私にとって最高に役立つ!生き残るために必要不可欠なスキルなわけだよ!
人は食わねば生命維持が困難になる。食は大事だよ食は!

 え?これはお前が嫌いなチートスキルではないのかって?
食と嫌いなチートスキルを天秤に掛けたとしたら嫌いよりも食だよ。嫌いで腹が膨れるわけないだろ。
嫌いで膨らむのは憎悪とストレスくらいだ。
飯食え。腹減ってるから怒りっぽくなるんだぞ。

「合成鍋はスキルを授かったと同時に
授かった人にしか持つことはできません
なので盗まれることは絶対にないです
そして壊れてしまっても、授かった方が魔力を注げば
復元可能ですのでご安心ください」

 アフターケアも万全ということね。
ありがとう合成鍋。万能鍋よ――。

「じゃあとりあえず
一点狙いピンポイントCと創造合成クリエイティブのスキルを授けて下さい」

「はいはい!お任せを!」

 女神精霊王様は胸の前で両手を握り祈るポーズを取った。
アニメでよく見る光り輝く効果エフェクトが女神精霊王様を覆い、その光はいつの間にか私の体に纏わりついた。
 じわりと伝わる暖かさ。
フィルギャと契約をした時の感覚に少し似ていた。

「これでスキルが使えますよ
ステータスを確認してみて下さい」

 この世界に拉致召喚された時に偶然にも開けたステータスウィンドウ。
また開くことになるとは思わなかったが、ちゃんと授かってるかどうかの確認は必要だ。
何事も確認を怠らないことが大事。

「えーっと…スキル、一点狙いピンポイントC、創造合成クリエイティブ
守護妖精フィルギャ、守護精霊ドリュアス、加護精霊アフロディーテ……ん?」

 某有名眼鏡の小学生探偵の台詞を借りてきそうになるくらいおかしなものがステータスに反映されている。
これについては聞いておいた方が良いのか?それともスルーすべきなのか?
 疑問に思ったことは遠慮なく聞きなさいと後輩に言っておきながら、いざ自分が疑問に思ったものほど聞けなくなるこの気持ちはなんなのだろう。
羞恥?――否。単純に面倒くさいから触れたくないだけだ。

「これでスキル使って料理もできるぞー!」

 スルーしました。全力で。
女神精霊王様がちらちらこちらを見てる気がする――いや、見てる。確実に触れてほしい顔してる。
でも触れない触れたくない。だって面倒くさいことになるのは目に見えてるから!

「ありがとうございましためが…アフロディーテ様
近々魅了効果付けたネックレスをお供えに行きますね」

 魅了効果のネックレスで意識を逸らす作戦でお帰り願おう。
こちとら夕飯の準備とレジンアクセに必要な素材を早く合成したいからね!

「ぐすん…わかりました
お待ちしてますね」

「良かったですねアフロディーテ様!
泣くほどにネックレスがほしかったんですね」

「(絶対違うだろ……)」

 フィルギャ。そんな顔をしてこちらを見るでない。
というかどんだけドリュアスちゃんと喧嘩してたのさ。服ボロボロだぞ?



 間も無くして女神精霊王様とドリュアスちゃんは帰って行った。
部屋には再び私とフィルギャだけになった。
テーブルの上にはいつの間にか合成鍋っぽいものが置かれ、私はフィルギャと顔を見合わせ互いにニヤリと笑った。

「今日の夕飯はなに?」

「違うよ。夕飯の前にレジンアクセの素材準備だよ」

 アレも欲しいコレも欲しい!
たくさん素材用意して双子と依頼品完成させるぞ!

「よし。まず手始めに合成するのは……」


“シリコンモールド”

 シリコンで出来た型のことで、大きさは大中小様々!
立体的な花を作れる型やアルファベット型。蝶型や剣型、球体に三角形!なんでもござれだ。
種類豊富過ぎてどれを買おうなんて悩み出すと余裕で1日潰れるくらいにたくさんある。
 子供向けにアニマル系、女性向けに可愛いや綺麗系、男性向けにクール系時に可愛い系と色々用意したいが……今回の依頼人はユーリスたち冒険者向けなわけだから、見た目シンプルなのが良いか?
それともクールな感じにするか?大穴狙いでラブリーにしちゃうか?
デザインを考えるだけでもわくわくしてしまう。

「とりあえず誰のかわかるように
アルファベットのシリコンモールドを
手始めに作ってみるか」

 合成鍋の前に立ち、頭の中で見慣れたアルファベットのシリコンモールドを思い浮かべ魔力を込めれば、目の前にいきなりウィンドウ画面が出現して驚いた。
画面には必要素材がたしかに表示されていた。

「ふむ……アルファベット型の
シリコンモールドに必要な材料は
アルファベットの見本とケイ石または樹脂か」

 シリコンはケイ素のことって昔調べた時に書いてあったな。ケイ石っていうのをアレしてコレして作られるのがシリコーン。オイルになったりゴムになったり樹脂になるそうだ。
説明等は専門家に任せるとしよう。
私は趣味の範囲でレジンアクセ作りが好きなだけだからね。

「樹脂ならアキラ、指から出せるから良かったね!」

「それなー。木の加護のおかげだね
アルファベットの見本は…商業ギルドで買った
羊皮紙の片隅にちょろっと書いて千切るか」

 異世界召喚あるある。話せる書けるはテンプレ。
稀に書けない言語も通じない異世界召喚もあるけど……そっちの方じゃなくて良かったと今すごく思ってる。
 いや、むしろ呼ばれたことに対する怒りは冷めていない。
あの褐色皇子にSSランクの呪いを付与するまでが復讐DEATH!

「アルファベットの見本を合成鍋の中へ入れて
指先からちょろっと樹脂を流し込んで蓋をする」

 合成鍋の蓋を閉めるも外見に変化は見られない。
本日初の創造合成クリエイティブスキルの発動に、内心びくびくする私の横で、フィルギャはわくわくした面持ちで合成鍋を見つめている。
フィルギャが妖精ではなく子犬だったら、まず間違いなくブンブンと尻尾を振って見ていたに違いない。

「これ、本当に合成されてるのかな?
されてるとしてどれくらい待てば良いんだろ」

「うーん……スキルの説明には書いてなかったけど
きっとこの鍋についてる装飾から光が消えれば
完成なんじゃないかな?
アキラが魔力を込めた瞬間に光り出したし」

 フィルギャが言うには、私が魔力を込めた瞬間、合成鍋に装飾された無色透明の水晶が赤く光ったらしい。合成が終われば光が消えるという確証はないが、初めてのスキル使用なのだから手探りしながら学習していこう。

「あ、消えたね光」

「え、早くね?」

 感覚的には2分も経っていない。
そんな早くにできるって万能過ぎでないか合成鍋よ。
 しかし問題は頭の中で思い浮かべた通りのシリコンモールドが出来ているかどうかだ。
 例えばBLTサンドを想像したとしよう。BLTサンドはベーコン、レタス、トマトの頭文字を取ったサンドイッチのことだ。
 しかしその略称を知らない者がBLTサンドを想像して何の資料もなく作ってみたとしよう。
ブルーベリー、レモン、チーズを挟んだサンドイッチが出来てしまうというミラクル。解釈違いなことが起きないとも限らないのだ。
 果たして私の頭の中の想像力はきちんと反映されているのか……緊張の鍋蓋オープン。

「!」

 鍋の蓋を開け中を覗いた。
そこには想像通りのアルファベット型シリコンモールドが入っていた。
想像で素材ができるって素晴らしい!
これが絵で描けだったらまず間違いなくこのスキルを選んでいなかっただろう。

 私は良いスキルを選ばせてくれた女神精霊王に感謝の気持ちを込め、魅了効果付きのネックレスとブレスレットを送ることを約束しよう。

「よし!この調子で揃えられるもの揃えていくぞ!」

「おー!」
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